<第192回国会 2016年11月17日 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会>


◇多国間の巨大な自由貿易協定に待ったをかける流れが主流になっている/慎重な審議を/意見が相次ぐ/帯広地方公聴会

○環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件(第百九十回国会内閣提出、第百九十二回国会衆議院送付)
○環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(第百九十回国会内閣提出、第百九十二回国会衆議院送付)

☆公述人
  株式会社十勝家畜人工授精所代表取締役・畜産農家 吉川広司君
  株式会社アミノアップ化学代表取締役会長 小砂憲一君
  全十勝地区農民連盟委員長 西原正行君
  北海道大学大学院農学研究院准教授 東山寛君

○紙智子君 四人の公述人の皆さん、本当に貴重な御意見、ありがとうございます。
 日本共産党の紙智子でございます。
 それで、私も十勝には度々お邪魔をいたしまして、そのたびにいろいろ学ばされることがたくさんあります。先月は、徳永さんとも一緒に、災害特別委員会で台風被害の調査に参りました。
 それで、私は、北海道が食料基地という位置付けで、そしてその中でもやっぱり十勝の農業というのは本当に全体を支えているという役割を果たしてきているというふうに思うんですね。非常に、一次産業を土台にしながら、関連する製造業や各分野にわたってやっぱり経済を支えていく形というのがバランスよくつくられている地域なんじゃないかなということをかねがね思っていました。
 そういう中で、先ほど西原公述人からもお話がありましたけど、こういう十勝の農業が普通に当たり前にというか、前からあるわけじゃなくて、やっぱりこういう農業をできる土地にしてくるまでにどれだけの苦労や努力があったかという話も随分聞かされてきました。開墾から入って、やっぱり土地の質を本当に生産できるように切り替えていくという努力や、それから、私、本当に感心したのは、連作障害というのが物って作り続けると出ますけど、連作障害が出ないように輪作体系というのも生産者皆さんの知恵や工夫の中で生み出してきたと。これがあちこちに広がるということでもあったわけですけれども、そういうやっぱり本当に貴重な成果を生み出しながら支えてきているということに対して本当に敬意を感じているわけです。
 それで、その上に立って今日はTPPのことでお話をしたいんですけれども、まずは少し目線を世界に向けながら感想をお聞きしたいんですけれども、参議院のTPPの特別委員会は、十五日、今週から実は審議に入って、ちょうど三日間、この間審議してきました。それで、先週はアメリカで大統領選挙の結果が出たということで、トランプさんが大統領になって就任した初日にTPPから離脱するという発言もされたと。それから、敗北をしたクリントンさんの方も実はTPPに反対をしていて、アメリカ全体がそういう意味では世論がTPPから離脱の方向ということが言われているわけです。
 こういう動きはアメリカだけではなくて、EUの関係でも、アメリカとの自由貿易、これが欧米版と言われていますけれども、環大西洋貿易投資連携協定、これは、多国籍企業の利益のために農業が破壊されたり食の安全や環境や雇用が脅かされる、そういう懸念があるということで、そういう反対の動きも出てきていると。それから、今回のTPPの中にISDS条項、投資家が国家を相手取って裁判に訴えることができる中身も入っているわけですけれども、そういったことに対する批判も含めて広がってきていると。
 それで、国会の議論の中でも、自由貿易というのは、自由というんだけど、それをめぐってもいろいろ議論がありました。誰のための自由なのかみたいなこともありましたけれども、そういうやっぱりTPPに対するいろんな動き、アメリカにも象徴されるような、そういう国際的な動きに対してはどんなふうに御覧になっているのかなと。東山公述人は先ほど最後のところでそんなことも含めてお話しされましたけれども、これについて四人の方からそれぞれお聞きをしたいと思います。

○公述人(吉川広司君) 僕も何回も言うようですけれども、余りTPPとかいろんな形じゃなくに国際競争をしていくこと、やっぱり日本のそういった製品をどうやって売るかと。だから僕は、一つ一つの問題、先ほどちょっと言葉が足りなかったかもしれぬけれども、防疫問題、それからまた肉の言わば成長ホルモンとかいろんな形の中で、遺伝子の組換えやいろんなことがある。それは海外では今研究者がいっぱいやっている状況です。
 だけども、それを本当にどういうふうにしてこれをチェックしていくのか。そして、そういう形で入れない。そしてまた、逆に我々は攻めていかなければならない。だから、そういった形で、やはり貿易というのは僕は自由でいいと思います。だから、僕はそこは賛成なんですよ。だけども、そのためには、このTPPをやるためには、もう少し各分野にいろんなことがあるのにそれを議論されていない、我々国民が見えていないと。
 ただ、議論しているんだと思います。でも、専門委員会だとか、また非常に上のレベルの中で、やはり生産者なり消費者が入った中でもう少し委員会的にきちっと議論されて、そして方向性が出てくれば僕はかなり信憑性が出てくると思うんですけれども、今の段階では非常にそういう面では、不安というよりも、どう解決するんだべな、ここ、今TPPやるからってあしたからやるわけではあるまいし、これから年数掛かって、五年、十年掛かって解決していくんだろうけれども、でも、その間にどう政府は動いてくるのか、やるのかということが僕は一番大事じゃないかなと。だから、そこのところを僕はお願いしていきたいなというだけで、答えになっていないかもしれぬけれども、そういうことです。

○公述人(小砂憲一君) 今回、アメリカのように保護主義的な政策を取っていこうといった声明を出しておりますけど、まあそれはそれでもういいんじゃないですか。どんどんどんどん、これは別な形でもって、我々日本でこれだけの論議を重ねてきておりまして、各国でいろんな論議を重ねてきて、ニュージーランド政府もペルー政府もやっていこうといった意思表示もされてきているわけです。これだけ国会でも日本でも論議をされてきたわけですから、その論議が無駄にならないように何らかの形でこういった自由貿易制度といったものを構築されていくべきじゃないかなというふうに思っております。
 よろしいでしょうか。以上です。

○公述人(西原正行君) なかなかちょっと難しい質問ではありますけれども、アメリカの前に、似たような形でイギリスがEUから離脱という話も出ました。その中で、アメリカも同じような、まあ違いますけれども、同じような何か動きで、今世界ってどっちの方向に向いているんだろうって正直思っちゃうんですよ。
 今、総理なんかはもうグローバル化の方を推進して、今世界がグローバル化なんだからそっちの方に日本も先陣を切っていかなくちゃいけない。ところが、イギリスにしてもアメリカにしても何か逆の方向に行っている。その中で、そういう声で当選した方がTPP離脱と言うのは当然といえば当然なのかなというふうに感じざるを得ないんです。
 もう一つ突っ込んで話をすると、TPPがもし駄目になった場合、これ例えばTPP再交渉しませんよと言っていたけれども、アメリカとしないと言ったのかどうか分からないですけれども、アメリカが言ったからしないと言ったのかもしれないですけれども、どうなるか分からないけれども、TPP参加国がもう一度みんなで再協議やりませんかとなったとき、そういう話も、みんなが統一するんだったら日本どうするんですかねというちょっと疑問もありますし、アメリカがTPPやめました、じゃ今度二国間でというのを何か言っているじゃないですか。じゃ、そういう場合、日本の対応はどうなっていくんだろうか。すごくそういうことが最近は気になっておりまして、TPPに関しても多分野にわたっているので、本来であれば、その一つ一つについてある程度時間を取って専門的に、まとめてじゃなく分けてやるともっと分かりやすく一般国民に理解されたんじゃないかなというふうにちょっと思いますけれども、そういう感じでよろしいでございましょうか。

○公述人(東山寛君) TPPのような協定をメガFTAと言っているわけですね。日本とアメリカとEUとという三角形があったとすれば、日本とアメリカの間は今はTPPです。日本とEUとの交渉も並行してこれまで進められてきました。それから、アメリカとEUとの間がTTIPというもので、この三角形でもし同じようなルールを作ったとしたら、それは物品だけではなくて、サービスとか投資とか政府調達とか知的財産などで同じようなルールを作ったとしたら、それが国際基準になったかもしれない、国際ルールになったかもしれないと思うわけであります。
 一つはそのようなことを意図していたと思われるのですが、TPPについても、これはもうアメリカ大統領選挙をきっかけとして、アメリカの国民的な反対運動の盛り上がりというのがベースになっていると思いますし、TTIPについてもEUの中から今待ったが掛かっているという状況で、今の世界の流れを見ますと、メガFTAにはやっぱり待ったを掛けるという流れが主流になっているというふうに見た方がよいのではないかというふうに思います。

○紙智子君 私も、だからちゃんとよく見極める必要があると。そんな先を急ぐ必要はない、逃げていくわけじゃないわけですからね。ちゃんと見極めるということを落ち着いてやらないといけないんじゃないのかというふうに思います。
 それで、今ちょっとお話の中にも出てきたんですけれども、TPP協定の交渉過程というのは秘密にされていたわけです。だからみんなはよく分からないというのが随所にあると。それで、でき上がってきた協定を見ますと、書いてあることは、関税については漸進的に撤廃するということが決まっていると。オーストラリア、カナダ、チリ、ニュージーランド又はアメリカ合衆国が要請をすれば更にそのアクセスというか増やしていくという視点になっていて、再協議をするということにもなっているわけです。
 それから、TPP委員会って、これおととい私質問したんですけど、要するに、TPP協定の中でTPP委員会というのをつくることになっているんですね、これ十二か国ですけど。それで、まだどこに本部つくるかも話決まっていないし、どういう体制でやるのかも決まっていないんですけれども、そのTPP委員会の下に二十二の小委員会とか作業部会がざっと並ぶんです。関税に関わる、農業の関係というのは二つあるんですけれども、あとは全部非関税障壁と言われている分野で、中小企業だとか開発だとか環境小委員会だとか労働評議会だとか政府調達だとか電気通信小委員会だとか、ばあっとあるんですね。
 それで、全体を網羅していく委員会の中に規制整合性小委員会というのもつくられることになっていて、ここには、やっぱり書いてあることは、三年以内、その後少なくとも五年ごとに貿易及び投資を一層拡大するために見直すということになっているわけですね。それで、しかも、このTPP委員会でいろいろもめたりなんかして決まらなかったとしても、業を煮やしてというか待ち切れないという大手の投資家なんかはISDSを使ってやるということもあり得ると。
 そうやって見ていくと、TPPというのは、結局のところ生きた協定と言われていて、どんどん動き続けるという形になるんですけど、問題は、そのときにいろんな国際社会の中の投資家なんかが、利害関係者がそこに出席して、日本に対してもっとこれを要求したいということを言える場がつくられるんですけれども、そういったあらゆる分野に関わる問題を国会との関係でどうなるのかということも質問したんですけれども、国会がどれだけ関われるのかと。条約を変えたりするときは、もちろんそれは国会通さないわけにいかないんですけれども、国会にかけないで決まっていく中身も実はあるんじゃないのかということを見ますと、先ほど食の安全、安心の問題とか、やっぱりいろいろ輸出したり輸入したりするときにもちゃんとチェックしなきゃいけないという話があるんだけれども、それさえもどうなるのかということがなかなか明確になっていないという問題があるわけなんです。
 それで、私は、ちょっと最初の話に戻るんですけれども、北海道というのは農林漁業を基幹産業に位置付けて、やっぱり日本の食料基地ということで農業を軸にして地域経済をつくってきたということがあるわけですけれども、このTPPが動き出したら北海道十勝のこの地域経済がどういうふうに影響を受けるんだろうかと、その辺りのところがちょっと心配でもあるんですね。そういうちょっと、これまでどうも秘密ということを言われてきたTPPに対しての皆さんの感想や、それから地域経済で不安に思うというところで出されていることなんかも含めてお話をいただけたらと。四人の方からお聞きしたいと思います。

○団長(林芳正君) 全員にお尋ねですか。ちょっと時間が。

○紙智子君 済みません、じゃ、東山先生と西原先生に。

○公述人(東山寛君) 農業というのは実は非常に裾野の広い産業でありまして、特に畑作物についていえば原料農産物ですから、それを工場に運ぶ運輸業者さんもいますし、工場そのものがその地域においては基幹的な製造業になっている場合もあります。そういう意味で、やはり農業を基軸にして農村地域においては裾野の広い産業の連関をつくり出しているわけでありまして、やはりTPPによる農業の影響は、農業そのものに対する影響だけには決してとどまらないということだろうと思います。

○公述人(西原正行君) 影響という意味では、その分野によってもう様々変わってくると思います。
 私たちの中で一番影響が出ると言っているのは、やっぱり肉関係であろうというふうに言われているんですね。それも、海外から輸入するのとバッティングする品質の肉が、そこがかなりのボリュームがありますので、じゃ、そこをどうするんだと。まだ説明では十何年後ですからそれまでにとは言われるんですけれども、そのものを、例えばホルの肥育の人たちを、じゃもっと上位のやつに転換していくにしたって、そう簡単にできることじゃないんですよね。私、ちょっといとこが肉関係をやっているので聞いたら、一言、おまえ、そんな簡単に転換できないぞ、牛自体の丈夫さも全く違うから、同じ頭数を肥育しようと思ったら同じやり方じゃできないんだと、もうはっきり言われました。
 だから、やっぱりそういう意味ではそういうところがすごく影響が出てしまう。その人たちがどういう選択するかに関わりますけれども、そういう人たちが方向転換をせざるを得ない状況になっていくと思います。その中でやめていく人も出てきますし、違う方に移る人も出てくると思いますけれども、そういった意味では、一つ一つ取り上げれば時間がなくなりますけれども、例えば肉の例としてはそういうことが言えると思います。

○紙智子君 時間ですね。ありがとうございました。
 二人の方にちょっと時間なくて聞けなくて、申し訳ありませんでした。