<第192回国会 2016年11月11日 本会議>


◇参院本会議/アメリカが離脱の方向に、審議の前提が崩れている/多国籍企業優遇のTPP批准やめよ!

○本日の会議に付した案件
 環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(趣旨説明)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 日本共産党を代表し、環太平洋パートナーシップ協定及び関連法案について、安倍総理に質問いたします。
 TPP協定と関連法案は、衆院の特別委員会において強行採決が行われました。国会審議を損なわせた最大の要因は、言うまでもなく山本農水大臣による二度にわたる暴言でしたが、政府・与党はその打開策を示さないまま、昨日、衆院の強行突破に走りました。その暴挙に対し、怒りを込めて抗議するものです。
 しかも、その採決は、アメリカ大統領選挙においてトランプ氏の当選が決まった下で行われました。トランプ氏はTPPについて、最悪の協定だ、大統領の就任初日に離脱すると表明してきました。共和党の議会指導部はTPPについて、年内の議会には提出しないと表明しました。アメリカ抜きにTPPは発効しません。他の参加国もTPPの国内承認手続を見合わせる動きになっています。
 安倍内閣は、アメリカの批准を後押しするためとか、日本がTPPをリードするためなどと言い、国会審議を急いできましたが、今や当のアメリカが離脱の方向に動いているのですから、審議を進める前提が崩れているのではありませんか。
 私たちはTPP承認案、関連法案を廃案にすべきという立場ですが、少なくとも、政府・与党としてもトランプ政権のTPPに対する方針を見極めることを最優先すべきではありませんか。
 TPP反対はトランプ氏の個人的見解ではなく、クリントン候補も反対を表明していたように、アメリカ国民の多数の声です。その背景には、一九九四年に発効したアメリカ、カナダ、メキシコの三か国間の自由貿易協定である北米自由貿易協定、NAFTAによる苦い経験があるのです。
 ニューヨーク市長のビル・デブラシオさんは、TPPに反対する理由を、NAFTAがどれだけひどいものだったか見てきているからだ、アメリカの百万単位で雇用が失われ、ここニューヨークでも何万という職が海外に持っていかれた、同じ過ちを繰り返してはならないと言っています。
 EU、欧州連合とアメリカの自由貿易協定で、欧米版のTPPと言われる環大西洋貿易投資連携協定、TTIPも、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギーなどの国民の反対によって交渉が暗礁に乗り上げています。多国籍企業の利益のために農業が破壊され、食の安全、環境、雇用が脅かされるという懸念が増大しました。ISDSによる各国の経済主権の侵害も心配されています。
 総理や官房長官は、各国の自由貿易反対の動きに対し保護主義だとレッテルを貼ってきました。ところが、今の自由貿易は、九〇年代までの自由貿易とは違い、グローバル化が進展する下で多国籍企業のもうけを最大化するための自由貿易となっています。各国で格差と貧困を広げ、国民の利害を損なっています。自由貿易を取るのか保護主義を取るのかという単純な話ではなく、多国籍企業の横暴から各国の国民の命と暮らしを守る重大な闘いになっているのです。だから、アメリカでもヨーロッパでも日本でも大きな国民の反対運動が起きているのではないですか。総理の認識を伺います。
 各国でも日本でも国民の反発が広がっている自由貿易協定、TPPを成長戦略の要として掲げること自体おかしいのではありませんか。
 その内容は、国民の暮らしと健康、地域経済に深刻な影響を与えるものであることが明らかです。
 まず、農業分野です。農産物の重要五項目について関税撤廃の対象から除外する規定がありません。重要五項目のうち三割で関税が撤廃され、残り七割も無傷なものはないことを政府は認めました。日本は農産物輸出大国との間で、アクセス数量を増やすために再協議をすること、漸進的に関税を撤廃することを受け入れました。これでは、重要農産物の聖域確保を優先し、それができない場合は撤退も辞さないという衆参農林水産委員会の決議に反しているのは明らかではありませんか。
 農林漁業への影響試算の根拠は破綻しました。それを象徴する問題がSBS輸入米の不正取引です。輸入業者が卸業者に調整金を払うことで国産米よりも大幅に安く売られていた疑惑です。農水省が国産米に影響はないと都合よく結論付けた調査は、ずさん極まりないものでした。総理、あなたは、SBS輸入米は国家貿易だから国産米の価格に影響を与えることはないと説明してきました。しかし、その前提が崩れました。政府の影響試算はやり直すべきではありませんか。
 食の安全、安心に対する不安は募るばかりです。総理は、食の安全について制度の変更は求められていないと言います。しかし、問わなければならないのは、まともな説明もなく一貫して規制緩和を続けてきたことです。BSEへの懸念があるのに、輸入できる月齢を二十か月齢から三十か月齢に緩めました。日本でポストハーベスト農薬は禁止されているのに、食品添加物に名前を変えて容認しています。こういう姿勢を取ってきた政府に食の安全を守る毅然たる態度は望めません。見解を求めます。
 医療、医薬品分野での影響は深刻です。薬価を決める審議過程に、透明性、公平性の名で外国企業が口出しできる仕組みがつくられました。米国製薬企業の言い値で高い薬価が押し付けられるのではありませんか。また、日米二国間の交換文書で、将来の保険医療制度について協議することを受け入れました。国民皆保険制度が壊され、空洞化する危険がないと言い切れますか。
 しかも、外国企業に政府を訴える権利まで与えています。ISDS条項は、国の主権が脅かされる重大な条項です。仲裁人は多国籍企業で働く弁護士が多く、判決は強制力を伴います。国民の命より外国企業の投資が守られる結果になるのではありませんか。
 加えて重大なことは、TPP委員会と各種委員会が設置され、貿易や投資を拡大する仕組みとなっています。協定の三年以内の見直し、その後、遅くとも五年ごとに見直すとしています。歯止めなき協定です。政府は、国内の制度は変更を迫られないなどと言っていますが、TPPの原則は関税と非関税障壁の撤廃であり、政府の言い分は何の保証にもならないのではありませんか。
 このように、TPP協定には、経済主権と国民主権を侵害する内容が幾重にも盛り込まれています。それゆえ、諸国民の反対の声が高まっているのです。各国の経済主権を尊重しながら、民主的で秩序ある経済の発展を目指す、平等、互恵の貿易と投資のルール作りこそ、今世界で求められている流れです。TPPをやめさせることが、その新しい地平を開くものです。
 日本共産党は、そのために全力を挙げることを表明し、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 紙智子議員にお答えをいたします。
 米国大統領選挙後の状況とTPP協定への取組についてお尋ねがありました。
 米国のトランプ次期政権の方針について、現時点で予断を持ってコメントすることは差し控えたいと思います。
 大企業のみならず中小企業、ひいては労働者や消費者にとって適切な経済的機会をつくり出していくためにこそ、適正なルールにのっとった自由貿易体制を維持発展させていくことが重要です。我が国がTPP協定を承認し、自由で公正な貿易・投資ルールを牽引する意思を示せば、保護主義の蔓延を食い止める力になります。これは、自由貿易の下で経済成長を遂げた我が国の使命だと考えています。
 TPPに対しては、多国籍企業のみを利するとの誤解があります。しかし、TPPの新しいルールによって大きな恩恵を受けるのは、これまで様々なリスクを懸念して海外展開に踏み切れなかった地方の中堅・中小企業や農業者であります。
 TPPのメリットは直接輸出する企業にしか及ばないのではなく、輸出企業と取引のある企業、そこで働く人々にも広く及んでいきます。安倍政権は、輸出拡大を通じて得た大企業の収益が全国の津々浦々の下請の中小企業の収益として波及するよう国内の取引慣行の適正化に取り組んでおり、引き続き進めていきます。各企業における賃上げも引き続き働きかけてまいります。
 安倍政権は、TPPを成長戦略の要として推進してきました。国会で協定が承認され、整備法案が成立することで、自由貿易を推進し、TPP協定の早期発効を目指すべきとの立法府も含めた我が国の意思が明確になります。それは、日EU経済連携協定、RCEPなど、米国が参加していない枠組みの交渉も刺激し、加速します。これに残されまいとする機運を米国の中に高めることができます。
 今後、あらゆる機会を捉えて米国及び他の署名国に国内手続の早期完了を働きかけるとともに、他の経済連携協定の交渉を精力的に進めます。日本は、受け身で他国の動きを待つのではなく、国益に合致する道を自ら進んでまいります。
 農産物の重要品目と国会決議についてお尋ねがありました。
 TPP交渉では、他の交渉参加国から関税を撤廃すべしとの強硬な主張が延々と繰り返される中、全ての物品を交渉のテーブルにのせた上で、国会決議を背景に粘り強く交渉を行い、重要品目について、関税撤廃の例外をしっかり確保するとともに、国家貿易制度の堅持やセーフガード等の有効な措置を獲得しました。
 それでもなお残る農業者の方々の不安を受け止め、昨年十一月、総合的なTPP関連政策大綱を決定し、必要な対策を講じてきています。重要品目が確実に再生産可能となるよう、交渉で獲得した措置と併せて、引き続き万全の措置を講じていきます。
 無傷なものはないとの指摘については、一つの品目に関税割当ての枠内と枠外の複数のタリフラインが設定されている場合、双方共に変更を加えなかった品目がないため、守り切れた品目は一つもないとの御主張と理解しています。しかしながら、政府としては、そのような機械的な基準でその品目を守ったかどうかを判断することは適当でないと考えています。例えば、枠外の高関税率を維持するために枠内の輸入枠を増やすなど、国内生産に影響を与える重要なタリフラインに影響が出ないよう措置しており、品目全体として影響が出ないようにしています。
 将来の市場アクセス増大のための再協議の条項があることは、経済連携協定においては一般的なことです。附属書の再協議規定は、関税率表を一方的に変えさせるような特別の義務を日本に負わせるものではなく、むしろ七年目まで再協議に応じる必要はないことを意味します。仮に再協議を求められても、あくまで我が国の判断として、日本に不利な合意をする必要は全くないと考えます。
 漸進的に関税を撤廃するとの規定については、関税を撤廃すると合意した品目についての関税率表の根拠を定めたものであります。この協定に別段の定めがある場合を除くとされており、交渉の結果、関税撤廃の例外を獲得した重要品目については例外として扱われます。
 交渉結果が国会決議にかなったものかどうかは最終的に国会で御審議いただくことになりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけると考えています。
 TPPの影響試算についてお尋ねがありました。
 TPP交渉においては、米が我が国最大のセンシティブ品目であることを踏まえ、国会決議を後ろ盾にぎりぎりの交渉を行ったところです。その結果、国家貿易制度の維持など多くの例外措置を獲得することができたことから、輸入の大幅な増大は見込み難いと考えています。
 また、新たに設定される米国、豪州向けのSBSの国別枠において輸入される米については、輸入量に相当する国産米を備蓄米として買い入れることにしています。これにより、国内で流通する米の総量管理をしっかりと行い、国内の需給及び価格に与える影響を遮断することとしています。TPP影響試算はこのことを前提としたものであり、ここに影響がない以上、やり直す必要はないものと考えています。
 なお、今回のSBS米に関する農林水産省の調査では、廃業者や連絡が付かない者を除く全ての事業者からヒアリングを行うとともに、関連データの分析では、SBS入札の時期の前後において国産米の価格はほとんど変動していないことが確認されており、SBS米が国産米の価格に影響を与えていることを示す事実は確認されておりません。
 食の安全についてのお尋ねがありました。
 TPP協定により、食の安全、安心を守る我が国の動植物検疫措置や食品表示などの制度に変更が生じることはありません。BSE対策の見直しや収穫後に使用される防カビ剤についての食品添加物としての指定は、いずれも国際基準や食品安全委員会による科学的評価等の手続を経て安全を確保するという我が国の制度に基づき対応しているものであり、食の安全は確保されています。
 消費者の健康を守るため、国産品であれ輸入品であれ、安全性が確保されたものでなければ流通は許されません。これは、食品行政上の大原則であり、今後もこの原則を堅持してまいります。
 薬価や国民皆保険への影響についてお尋ねがありました。
 TPP協定においては、我が国の公的医療保険制度の在り方そのものについて変更を求める内容は含まれていません。TPP協定の医薬品等に関する附属書においては、申請者に意見提出の機会を与えることが規定されていますが、これは我が国の薬価の決定手続と同様、手続の公正な実施を確保するためであり、意見の反映を確約するものではありません。したがって、TPP協定によって米国製薬企業の言い値で高い薬価が押し付けられるという御懸念は当たりません。
 御指摘の交換文書においては、医薬品等に関する附属書に関するあらゆる事項について協議する用意がある旨を確認しています。これは、米国政府の意見を受け入れることを約束するものではありません。
 我が国は、これまでも医薬品等について米国を始め各国との協議に誠実に対応してきており、実質的に新たな義務を負うものではありません。TPP協定により国民皆保険が壊され空洞化する危険はありません。今後とも、日本が誇る国民皆保険制度を堅持し、しっかりと次世代に引き渡していきたいと思います。
 ISDS条項についてお尋ねがありました。
 ISDS手続は、我が国の海外進出企業を守ってきたこれまでの経済連携協定や投資協定のISDS制度と同様、投資受入れ国政府に外国投資家の利益を不当に侵害させないという抑止効果を持つと理解しております。
 TPP協定の投資章では、投資受入れ国が公共の福祉に係る正当な目的のために必要かつ合理的な措置を講ずることが妨げられないこととされており、我が国が敗訴することは想定されません。我が国の主権が脅かされるとの指摘も当たりません。(発言する者あり)

○議長(伊達忠一君) 静粛に願います。

○内閣総理大臣(安倍晋三君)(続) TPP協定における仲裁廷は、申立人である投資家と被申立人である国がそれぞれ任命する各一人の仲裁人と、これら紛争当事者の合意により任命されて仲裁廷の長となる第三の仲裁人から成る三人の仲裁人により構成されることになっています。そのため、企業寄りの弁護士だけが選定されて国側に一方的に不利な判断が下されるとの懸念は当たりません。
 TPP委員会などによる協定の見直しについてのお尋ねがありました。
 TPP委員会を含め各章が定める小委員会等の全ての決定は、いずれの国からも反対がないことが条件となるので、日本が反対するような内容が決定されることはありません。協定発効後の一般的な見直しについては、TPPに限らず、我が国が締結した多くの経済連携協定にも含まれております。(拍手)