<第190回国会 2016年5月24日 内閣委員会、農林水産委員会連合審査会>


○国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 国家戦略特区は岩盤規制を突破するためにつくられた制度です。農地法において岩盤とは何をいうのか、何を突破するということなんでしょうか、石破大臣に伺います。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(地方創生) 石破茂君) 岩盤というのは、別に法律上の定義があるわけではございません。やはり農地の所有形態ということだと思っております。
 株式会社が農地を保有できるかどうか、これはもうずっとある議論でございまして、そういうことはしてはならぬのだ、そこにおいて耕作者主義というものがあり、そして、そこにおいて法人たる株式会社なるものは、その形態の特性に鑑みまして農地の所有をするべきではないというお話でございました。
 ですから、そこにおいて岩盤というのは、自作農主義あるいは耕作者主義というものが一つの岩盤といえば岩盤、言葉はもう適当かどうか知りませんが、なかなかそれが今まで認められなかったものだというふうに私自身は理解をしておるところでございます。

○紙智子君 安倍内閣の方針である日本再興戦略で、国家戦略特区は国の経済成長に大きなインパクトを与えるものとされています。国家戦略特区法の目的は、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図ることにあると、改正案の説明もそういうふうになっています。
 第十八条、ここに農地法等の特例を設けて企業の農地取得を認めるものとなっていますけれども、この特定地方公共団体、兵庫県の養父市が想定されているわけですけれども、特定地方公共団体は産業の国際競争力強化並びに国際的な経済活動の拠点になることを目的に企業の農地取得を認めるということになるのでしょうか。

○政府参考人(内閣府地方創生推進事務局長 佐々木基君) お答え申し上げます。
 今回の特例の対象でございます養父市というところは、高齢化が進展しておりまして、担い手不足や耕作放棄地の増加といった深刻な問題を抱えている中山間地域でございまして、農業の多様な経営主体の参入を促すモデルを構築することが急務と考えられているところでございます。
 その際、農地を所有いたしまして大規模経営でございますとかあるいは六次産業化等に取り組む企業の参入が促進されるということになりますと、農業の高付加価値化や競争力の強化が図られまして、農業の国際競争力の強化につながるものと考えているところでございます。現に、本特例を提案しております養父市につきましても、国際的な経営展開を図ろうとして農地を取得したいという企業があるものと承知しているところでございます。
 六次産業化を図りまして攻めの農業を展開していくというモデルはほかの中山間地域においても有用でございまして、今回の養父市の特例はあくまでも地域を限った一つの実験でございますけれども、養父市の特例が成功いたしますと、中山間地域における農業の国際競争力の強化につながっていく可能性もあるというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 今説明がありましたけれども、国家戦略特区というものは岩盤規制を打破するものだと。それで、中山間地域の振興の話もされているんだけれども、地方創生ということは入っていないですよね。
 そこで、第十八条の二なんですけれども、特定地方公共団体の要件を定めています。一つは、農業の担い手が著しく不足している、二つ目のところで、耕作放棄地が著しく増加するおそれがある、この二つの要件を満たす必要があるということですけれども、国際的に競争力を強化する、あるいは国際的な経済活動の拠点にすることが自治体の要件になっていないというのは、これはなぜなんでしょうか。

○政府参考人(内閣府地方創生推進事務局長 佐々木基君) 私ども、この特例を検討するに当たりまして、国家戦略特区法の改正でございますので、もちろん大きな意味合いは、おっしゃいますように産業競争力の強化ということでございまして、それに最終的に養父市の特例が資するかどうかということでございますけれども、具体的な制度の設計に当たりましては、もろもろの懸念がございますので、その懸念を払拭するような制度設計をさせていただいたというところでございます。

○紙智子君 実際に、目的のところに、十八条のところにその満たす要件のところで書いていない、これはなぜなのかと聞いたんですけれども。

○政府参考人(内閣府地方創生推進事務局長 佐々木基君) お答えいたします。
 これは、国家戦略特区法の目的自体が産業の競争力の強化でございますとか国際的な経済の競争力の拠点をつくるというような趣旨でございますので、戦略特区法の中ではいろんな法律の改正が盛り込まれておりますが、それぞれの法律の改正によって対処しようとするものでございますけれども、それはいずれも国家戦略特区法の改正ということでございますので、目的はあくまでも国家戦略特区の実現ということでございます。
 以上でございます。

○紙智子君 そうしますと、国家戦略特区は国際競争力強化と経済活動の拠点づくりが目的だと、耕作放棄地の解消が目的ではないわけですね。目的と特定地方公共団体の指定要件のずれというか、整合性がないんじゃないかというふうに思うわけですよ。
 なぜ国家戦略特区という形で企業による農地所有を認めたのか。それは、国際競争力の強化だと言われたわけですけれども、法律の目的にあるように、産業の国際競争力の強化並びに国際的な経済活動の拠点づくりに踏み出す必要があったからなんだと思います。
 石破大臣は、麻生内閣のときに農林水産大臣をしておられました。当時、リース方式で企業の農地使用を認める農地法の改正が行われたと。当時の議論を私も振り返ってみたんですけれども、利用されない農地をどうするのか、農家に担い手がいないからリースという形で企業を入れるんだというふうに言われたわけですね、覚えていらっしゃるかなと思いますけれども。今回、担い手不足とか耕作放棄地の増加で地方が困っているから企業という担い手を入れて地方を助けるんだという言い方を前面に出されているわけですよ。
 しかし、これ、二〇〇九年、リース方式で企業参入を認めたのは、当時、経済財政諮問会議グローバル化改革専門調査会第一次報告がきっかけだったと思います。そこでは、EPA交渉を進めるには農業の構造改革、国境措置に依存しない、グローバル化を恐れない農業が必要なんだ、新しい理念に基づく新しい農地制度の確立が不可欠だというふうにおっしゃっているわけですよ。今回は、総理の言葉で言いますと、国家戦略特区ではいかなる既得権益も私のドリルでは無傷でいられないと、よく使われている言葉ですけれども。
 つまり、今回の改正が何か困っている地域に要望に応えるかのような形を取りつつも本質は違うと、要するに国際対応、今でいえばTPPに対応した農地制度に変えるきっかけにしたいということなんじゃないのかと。だから、企業に農地所有を認めない農地法という岩盤を壊すことが目的にあるんじゃありませんか。いかがですか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(地方創生) 石破茂君) 麻生内閣で農林水産大臣をしておりました当時に紙委員と議論したことを今思い出しておるところであります。
 ロジカルに詰めますと、そういう部分が私はないとは申しません。ただ、私は思うんですが、今回、実際、耕作放棄地が非常に多くて、そして、農業の担い手がいないところに国際競争力を強化する余地はないかというと、私はそうだとは思っていないのです。
これは農林水産大臣当時にもお答えをいたしましたが、一番おいしいお米というのは、実は中山間地で取れるものではないのかと。高低差があり、そしてまた水がきれいで、ましてや、そこで天日干しを行うような米の食味というのは非常に高いものであって、平野部というか平たいところでできるものではございません。そしてまた、中山間地においてコストの低減は不可能かというと、それは決してそうではないのではないだろうか。
 中山間地でございますから高低差がございますので、田植にいたしましても稲刈りにいたしましても一週間から二週間ぐらいの差があることがございます。そういたしますと、農業のいろいろな装備というものをみんなが持つのではなくて、集約することによって低減というものも可能なのではないか。
 これから先、IT化が進むことによりまして、例えば、田んぼにそれぞれセンサーを置くことによってその田んぼの水の状況というものを管理をしながら高品質のものをより求めていく、たくみの技みたいなものをコンピューターに入れることによりまして水の管理というものにより的確性を見出して、そういう地域において本当にすばらしい米を安く作ることも、中山間地において私は不可能なことだと思っておりません。
 ですから、耕作放棄地が増えて困ったねと、そしてまた担い手がいなくて困ったねという地域において、企業が参入することによってそのような可能性というものを追求することは私は可能だと思っておりまして、したがいまして、これが矛盾するような考え方だとは理解をしておらないところでございます。

○紙智子君 別に企業が入ったからそれが解決されるということでもないと思いますよ。今現に頑張っている人たちが随分大変な努力をされているわけで、何か企業が入ったらバラ色になるかのようなそういう言い方というのも、私は、なかなかこれは納得できないものなわけですよ。
 なぜ企業に農地所有を認めるようになったのか、なぜそこまで規制緩和をせざるを得なくなったのかと。それは、やっぱり二〇〇九年のときの農地法の、大改悪だと私は思いましたけれども、行って、農地を所有して経営をするという農地法の原則を、これ農地の所有権と利用権を分離したというふうに思うんですね。分離することで企業の農業経営が、参加が可能になった、つまり、今の農地法は、利用という形があればこれは企業の参入を拒めない、だから、所有についても、これは懸念材料が解決されたら企業の参入を拒めなくなるんじゃないのかと。
 これは農水大臣にお聞きしますけれども、そういうことなんじゃないんですかね。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) お答えいたします。
 委員御指摘のとおり、企業の農業参入につきましては、平成二十一年の農地法改正によりリース方式での参入は全面解禁をされており、農地中間管理機構との組合せにより更に参入しやすくなっていると考えております。
 一方、企業の農地所有につきましては、法人が農業から撤退をしたり、あるいは産廃置場等になるのではないかという農業、農村の懸念があることから、当該法人が農業を継続的に真剣に取り組んでいくことを担保するために議決権要件を設けているところでありますが、この議決権の要件につきましては、昨年の農地法改正によりまして、既存の法人の六次産業化などの経営発展を推進していく観点から、農業者以外の議決権比率を四分の一以下から二分の一未満まで拡大をしてきたところであり、この四月から施行されたところであります。したがいまして、全国レベルの制度として企業の農業参入について更なる要件緩和を検討する段階ではないと私は考えております。
 しかしながら、地域を限定をして試験的に実施することとは、それとはまた別の問題でありますので、やり方によっては農業、農村の現場に不安を生じず、また、その実施状況が今後の検討の参考になることもあり得るのではないかというふうに考えております。
 こうした観点からどのようなやり方が考えられるか検討した結果、今回の国家戦略特区法案において、企業が農地として利用しなくなった場合の確実な原状回復措置を講じた上で、国家戦略特区を更に限定した試験的な事業を実施するとしたところでございます。

○紙智子君 私が質問したのは、要するに、懸念があるからいろいろな歯止めをするというんだけれども、そういう懸念材料がなくなった場合には企業参入を拒めなくなるんじゃないのかというふうに聞いたわけですよ。
 日本再興戦略の改訂二〇一四年で、農地を所有できる法人の見直しを行うことになっています。そこで、農地の所有方式による企業の農業参入の自由化を検討する場合には、リース方式の契約を解除して原状回復をするという確実な担保があるということを踏まえて、これに匹敵する確実な原状回復の手法の確立を図ることを前提に検討するというふうに書いてあるわけですよね。
 ですから、懸念を払拭して原状が回復できれば企業の農地所有を全国的に認める方向に踏み出すんじゃないかと。この点、石破大臣、森山大臣、いかがですか。

○国務大臣(石破茂君) ですから、その懸念が払拭できるかどうかということで特区でやってみるわけでございます。
 世の中何が起こるか分からないのであって、実際にそのような形でやってみまして、企業が所有した農地が転用されることへの懸念がまず払拭された上で、じゃ、転用しなきゃそれでいいかというとそういう話ではなくて、これは、元々この法律の趣旨に鑑みて、本当に農業の参入者が増えましたか、収益が上がりましたか、農地が有効に利用されていますかというような、まさしく国家戦略特区にふさわしいような効果が上がっているかというような状況の検証、評価というのは当然必要でございます。その上で、何も転用されなきゃそれでいいという話じゃありませんから、この法律の趣旨に従って、きちんとその実効が上がっているかどうかというのを検証した上で次の段階に行くということでございます。
 ですから、それが全国展開されるかどうかというのは、そのような懸念と同時に効果が上がったかどうか等々多面的な検証が必要であって、今の時点から断言をすることではございません。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 仮にこの法案が成立したといたしましても、五年間の期間が経過した後はこの特例もなくなりますので、その後の取扱いについては現時点で何も決まっているわけではありません。
 いずれにいたしましても、何らかの措置を講ずる場合には法改正が必要となりますので、国会で御審議をいただくことになると考えております。

○紙智子君 今回の改正案は、問題が発生すれば結局自治体が責任を持つ、自治体に責任を負わせるというものですね。
 今回、特区の対象になるのが養父市だというふうに言われていて、安倍総理は、養父市は企業からの積立金を徴収し、仮に農地を農地として維持できなければそれを没収する条例を作ったんだ、企業の負担で原状回復する仕組みを設けたと言われたわけですけれども、そんな仕組みになっているのかと思うんですね。養父市の積立金は十アール当たり十五万円と。しかし、内閣府に確認したら、積立金は保全の必要性が生じた場合の原資であって、産廃や土壌汚染を原状回復する観点は含まれていない、市の予算で原状回復することになるんだということを説明を受けたわけです。家を借りるときの敷金にもならないわけで、これ、市民の税金で原状回復することになるわけですね。総理の説明とは違うわけですよ、ですから。企業の後始末を税金で見る仕組み、何でこんな仕組みを作る必要があるのか全く分かりません。
 衆議院の議論を見ますと、企業が農業経営を放棄しても農地の所有権は自治体に戻るんだから大丈夫だという理屈なんですけれども、そんな理屈で農業なんかできませんよ。持続的な農業を行うのは、土作りを継続的にやっているわけですよ。農家の人は、毎日、毎年試行錯誤しながら土作りのところからやっているわけですよ。今回の法律というのは、所有権が残ればいいというもので、持続的な農業経営の維持を視野に入れていないんじゃないかというふうに思うわけですね。
 ちょっと時間がないので続けていきますけれども、二〇〇九年に農地法を改正したときに、政府参考人は、農地は農業の用に供されて初めてその効果が発揮できる資産なんだ、農業をきちんと継続することが可能かどうかということが鍵なんだと言っているわけです。所有権が残ればいいということではないわけですね。
 石破大臣は二〇〇九年に農地法を改正したときの農林水産大臣で、昨年は農地の転用許可の権限を地方に移譲しました。今年は企業の農地所有を認める方向に踏み出していると。石破大臣は安倍総理と一緒になってこの農地制度の規制緩和に突き進んでいるわけですね。
 家族経営の発展をそぐような統制、例えば家族経営で頑張っている農家は、法人じゃないとなかなか補助金は受けられないんだという話をよく聞きます。こういう統制をなくすことには力を入れないのに、とにかく農地がどうなるか分からないような規制緩和を試験だからと称して旗振り役をやるということはもうやめるべきではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(地方創生) 石破茂君) 先ほどお答えしたとおりであります。
 ですから、所有権さえ残ればいいなぞということを私は申し上げているのではありません。そして、最終的に自治体の負担において管理をするのであって企業の負担というものはなくていいなぞということを申し上げたこともございません。所有権さえ維持できればそれでいいということではなくて、まさしくそこに参入者が増え、農業というものの所得が上がりということでなければ、これは全く意味がないものでございます。
 ですから、結託してとか、さっきからそういうようなけんのんな言葉が出ておりますが、そのようなことを考えているものではない。いかにして農業の所得を上げ、参入者を増やすかということを目的に置いてやるものでございます。

○紙智子君 もう時間になりましたけれども、農地法の目的というのは、農地は限られた資源だと、地域における貴重な資源だと。その限られた資源を守り維持するのが国の責務であって、試験だと称して、一時的であったってこういう、株の運用でもあるまいし、こんな危険にさらすことは絶対許されないと。
 この法案については廃案にすべきということを申し上げて、質問を終わります。