<第189回国会 2015年12月9日 農林水産委員会>


森山大臣の政治とお金/畜産物価格、算定ルールは見直しを/TPP大筋合意、国会決議違反はあきらか

○環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に関する件
○畜産物等の価格安定等に関する件

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 森山大臣は、いわゆるTPP大筋合意直後に就任をされました。非常に重い責任を負う大臣となると思います。環太平洋経済連携協定、TPP協定が言われ始めた頃は自民党党内でTPP参加の即時撤回を求める会の会長をされておりまして、私も度々テーブルを同じくして話し合ったということもありました。今やTPPを推進する要職に就かれているわけです。今後は、ですから大臣には厳しいことを言うことになると思います。農政や国政問題などについて国会でしっかりと議論をしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 それで、早速ですけれども、大臣の資質に関わる問題なので、政治とお金について幾つかお聞きしたいと思います。
 十月七日に第三次安倍改造内閣が発足しまして、何人かの閣僚の方の政治とお金の問題がクローズアップされました。政治とお金に関わることで疑念を持たれれば、政治家は説明責任を果たす必要があるわけです。
 そこで伺いますけれども、公正取引委員会は、二〇一〇年十一月、鹿児島県が発注した港湾しゅんせつ工事などの入札で談合などにより受注業者や落札予定価格を決めたとして、鹿児島県、熊本県両県の計三十一社に独占禁止法違反で排除措置命令を出しました。鹿児島県の三十一社を指名停止にしました。
 大臣は自民党鹿児島県の第五選挙区支部の支部長を務めておられますけれども、第五支部は、この談合業者から、指名停止直後の二〇一一年以降、三年間にわたって約七百万円の献金を受け取ったと報道されています。また、昨年、二〇一四年の政治資金収支報告書によると、二百十五万円の献金を受け取っていたことも明らかになりました。これは事実でしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 紙委員がおっしゃるとおりでございます。そのとおりでございます。

○紙智子君 事実はそうだということを認められましたけれども、大臣は十月十四日の記者会見で、政治資金規正法は問題ないと思っているが、政治家として倫理上しっかり受け止めなければならないというふうに述べたと報道されています。
 当時、指名停止措置を受けた業者であることを知っていてこれ献金を受けたんでしょうか。また、もしこれ返金されたということであれば、いつ返金されたのか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 私が支部長を務めております第五支部が指名停止処分を受けた会社から寄附を受けていたことはそのとおりであります。
 この寄附につきましては、政治資金規正上の問題はありませんけれども、農林水産大臣という職にあることを踏まえまして、地域経済への影響を考慮して鹿児島県が同企業への違約金を減額したということの事情に鑑みまして、平成二十二年十一月十日の指名停止以降今年の十月までにいただいた寄附金につきましては、十社からが合計千百十二万でございますけれども、私の支部の役員の皆さんの御理解もいただき、御寄附をいただいた企業の皆さんの御理解もいただきまして、十月十九日までに全額返還を完了したところでございます。

○紙智子君 なぜ今になって返金されたんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 一つは、鹿児島県が同企業への違約金を減額したことが、地域経済への影響があるというふうに判断をしたということが分かりましたので、私は大臣として、地域経済に影響を与えるような企業から献金をいただくというのはおかしいと思いましたので、返却をいたしました。

○紙智子君 過去の新聞報道を調べてみたんですけれども、二〇一三年の三月に読売新聞の取材に対して、当時、献金は国政での活動に影響することはなく、返金する考えはないと答えています。大臣ではなくて国会議員だったら指名停止業者から献金を受けてもいいということなんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) その献金を受けていた、今御指摘になりましたときはそうコメントをしたと思いますけれども、私は農林水産大臣としての立場になりましたので、その立場として、地域経済への影響を考慮して減額された企業からいただくということは好ましくないと考えましたので、返金をさせていただいたということであります。

○紙智子君 ちょっと理解し難いですよね。大臣になったからというのは、ちょっとどうかなと。独占禁止法に違反している企業でも問題はないと思っていたけれども、もらうものは拒まないと思った、これは税金の使い方がそもそもゆがめられたということになるわけで、これは国民の理解を得ることはできないと思うんです。
 この談合事件で、鹿児島県は二〇一三年、談合による契約違反の違約金として業者側に計約三十六億円を請求したと。業者側は負担が大きいといって減額を求めて鹿児島県の簡易裁判所に調停を申し立てて、二〇一四年に違約金が半額になっているわけです。ですから、業者側が減額の調停を申し立てているさなかに言わばこの献金を受け取っておられるわけで、こういう報道があるのに、献金を受けていいのかどうかということをなぜ調べなかったんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) なぜ調べなかったかということは今はよく思い出しませんが、改めて今回の御指摘をいただきましたので調停の結果を詳しく認識ができましたので、返金をさせていただいたということでございます。

○紙智子君 地元では話題になっていたし新聞報道もあったわけで、知らなかったということではこれはなかなか済まされないことではないのかなと思います。業者側は違約金をまけてほしいと言っているのに大臣側は献金を返還もしていないと、これは本当によくないというふうに思います。
 加えてお聞きしたいんですが、大臣が代表を務める資金管理団体に森山会というのがありますけれども、二〇一二年の政治資金収支報告書によりますと、二〇一二年の十一月二十二日付けで、高知県の四万十町の建設業者の当時の社長から百万円の献金を受けています。それで、この会社は国土交通省の四国地方整備局発注の土木工事で談合していたということで、二〇一二年の十月十七日に公正取引委員会が排除措置命令や課徴金の納付命令を出しているわけですね。高知県は二〇一二年の十月二十六日から二〇一三年の七月十七日までこの会社を指名停止処分にしたわけです。
 つまり、この件も処分のさなかに献金を受けていたことになるわけで、これは事実でしょうか。そして、献金は返金されたんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 個人から献金をいただいたことはそのとおりでありますが、会社から献金をいただいているわけではありません。

○紙智子君 個人というふうにおっしゃったわけですけれども、企業から、企業の社長さんなり個人ということになるわけで、これは本当にそういうところかどうかということを調べないで受け取るということ自体、本当に無頓着なんじゃないのかというふうに思います。
 独占禁止法に違反している企業でも、大臣でなければ献金を受けてもいいけれども、大臣になったら返金すればいいと、こういう理屈は国民の皆さんは納得しないというふうに思います。大臣はその点では道義的な責任を感じておられるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 紙委員、個人と株式会社とは、私は人格体が違うと思います。私は個人から献金を受けているわけでありますから、そこは御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 これまでも何度もこの委員会の中でも、歴代の農水大臣との関わりでもやりましたけれども、そこのところがやっぱり大きな問題になるところでありまして、道義的責任をお感じにならないということ、おっしゃらなかったわけですけれども、私は、問題が発覚しなければそのままにして、発覚すると返金するというような、こういうことがやっぱりまかり通ってはいけないというふうに思うんですよ。
 企業・団体献金を、これを認めているからこそこれまでこういうことが繰り返し行われてきているわけで、企業・団体献金というのはやっぱり政治腐敗の温床になるということが何度となく議論されてきたわけですから、やっぱりそういう疑念が持たれないようにするためにはこの企業・団体献金そのものをきっぱり廃止するべきだということを求めておきたいと思います。
 この問題というのは、またこの後も取り上げなきゃいけないときも出てくるかもしれませんけれども、ここで一旦終わっておきます。
 次に、TPPと畜産、酪農価格についてお聞きをします。
 今年の畜産、酪農価格の決定については、いわゆるTPPが大筋合意という従来にない情勢の下で行われているわけです。既に酪農、畜産業は生産基盤の崩壊が危惧されています。ここにTPPが入ったらどうなるのかと、これは生産者の中では不安が渦巻いています。
 そこで、まず生産基盤の崩壊が叫ばれている中で緊急の課題として酪農、畜産物の価格についてお聞きをしたいと思います。
 実は昨日、私たち日本共産党の議員団として畜産、酪農問題で申入れを行って、伊東副大臣に受けていただきました。ありがとうございました。七項目、畜産、酪農をめぐって申し入れたんですが、そのうちの加工原料乳の生産者補給金の問題で質問したいと思います。
 アベノミクスによって、円安の誘導政策の中で輸入飼料の価格が高止まりをしている、そして資材価格が上がっているわけです。乳価が上がったとはいえ、このコストが上昇していて経営は引き続き改善していないという状況です。再生産可能な所得が確保できない状況で、これ、例えば機械の更新のときだとか、それから年金生活に入るというのを機にして離農する農家が後を絶ちません。経営を引き継ぐ担い手がいても、このTPPを始めとして、将来不安があって投資を諦めるという状況にもあります。
 現在の算定ルールというのは、飼料などの値段が急激に上がっても結局三年間で平準化されてしまうために、実態に合っていないということなんですね。今必要なことは、やはり再生産可能な所得を確保する仕組みをつくることだと。十年以上も続いている今の加工原料乳の生産補給金制度のこの算定ルール、ずっと変わらず来ているんですけれども、これを今こそ見直すべきではないかと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

○副大臣(農林水産副大臣 伊東良孝君) 昨日、共産党議員団の皆さんからお申入れをいただいたところであります。
 現行の加工原料乳生産者補給金単価でありますが、今、紙議員がお話しのとおり、これは一定のルールに基づいて算定をされているものであります。恐らくそれぞれの皆さんが試算をされているところでありますけれども、これは前年度の補給金単価に生産コストの変動率を乗じて当年度の補給金単価を決めるということになっておりまして、この算定方式につきましても、平成十一年度から生産者、乳業者、学識経験者による検討を経て、当時の畜産振興審議会の了承を得てスタートしているものであります。生産コストの上昇を的確に単価に反映する方式であると、こう思っておりまして、毎年度、審議会の意見を聴きまして補給金単価を適切に決定してきており、直ちにこれが不都合だと、見直すということにはなかなかならないと思っております。
   〔委員長退席、理事野村哲郎君着席〕
 ただ、昨日もお話ししましたように、政策大綱の中で生クリーム等の液状乳製品を補給金の交付対象に今後追加していく、また用途ごとの補給金単価を一本化する、このような方針が今考えられているところでありまして、この生乳の再生産を確保することを旨としてこの制度を検討し、できるだけ早くこの仕組みを整えたいと、このように考えているところであります。

○紙智子君 この問題というのは、もうずっと何年も前から度々議論になっていて、二〇〇九年のときでしたか、私、石破農水大臣のときにも、やっぱり十年間変わらないという状況の中で、もう見直さなきゃいけないじゃないかと言ったときに、検証しなきゃいけないということは言われていたんですけれども、またそこから時間がたっているわけで、いよいよ本当に見直しをしなきゃいけないと。
 生産者の方は、生産コストと販売価格の差を補填する仕組み、これがやっぱり必要だということを繰り返し言われているわけですよね。生産費を補償する仕組みというのが、やっぱり今そうなっていないということですから、そこのところをちゃんとつくっていただけるように、そのことを強く求めておきたいと思います。
 それからまた、北海道以外の都府県の問題も非常に大きい問題があるんですけれども、農家戸数、飼養頭数、それから生乳の生産量の減少率というのは、実は北海道以上に深刻だというふうに思うんですね。都府県の農家数でいうと、十年前から見ますともう五八・五%まで減っているわけです。半分近く減っているわけですね。それから飼養頭数でいうと、十年前の七二・三%まで縮小してきていると。生産量も減っているということです。
 都府県は飲用が中心なわけですよね。だから、加工原料乳とまた違ってその価格は違うわけですけれども、酪農をなりわいにするためにはやっぱり乳価が低過ぎると。飼料代などコスト高で施設の改修とか整備をする余力がないからやっぱり離農するというふうに言われているわけで、飲用乳も含めて、酪農家の所得を確保する仕組みというのが必要なんじゃないかと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 酪農家の皆さんが再生産に意欲を持っていただく乳価の決定の在り方というのは、先生おっしゃるとおり、極めて大事なことだと思っております。
 ただ、そこでモラルハザードが起きては意味がありませんので、乳価というのが、原価をしっかり考えて決められるような仕組みというのをどう政策としてやっていくのかということについては引き続き研究をさせていただきたいと思っておりますし、平成十一年度、今の制度ができたことももう一遍よく検証をしながら、どういうことが再生産に意欲を持っていただけるのかという視点で考えてみたいと思います。
 以上であります。

○紙智子君 生産者のやっぱり生産費を補償する仕組みというところで是非必要になっていますので、よろしくお願いしたいと思います。
 それから、TPPの問題に移りたいと思います。
 私たち日本共産党は、TPPの大筋合意を受けて全国調査を行っております。私も各地で一次産業、従事する方々や、あるいは消費者、農協を始めとする団体、自治体などをずっとこの間訪問しております。実情をお聞きしているわけですが。
 安倍総理は、自民党には強い外交力がある、聖域は守れるんだ、国会決議は守るというふうに言ってTPP交渉に参加したわけですけれども、このTPPの大筋合意と言われる内容は、分かっているだけでも日本の畜産や酪農の現在と将来に壊滅的な打撃を与える可能性があるということで、大変強い怒りや不安が渦巻いています。
 どこに行っても、どなたと懇談しても、国会決議を守ったというふうに言われる方は一人もいないんですね。私からも改めてまた、何度も今質問出てきていますけれども、お聞きしたいと思うんですけれども、国会決議を守ったというふうに言えるのでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 国会決議が守れたか守れなかったかということでございますけれども、TPPにつきましては、国会決議を後ろ盾にして交渉が進められてきたことはそのとおりでありますし、また、農林水産物の総タリフライン数におきましても、二千三百二十八ラインのうち四百四十三ライン、一九%を関税撤廃の例外といたしましたし、重要五品目を中心に、関税割当てやセーフガードの創設、長期の関税削減期間を確保するなど、交渉結果として最善のものとなったと考えております。
 一方で、保秘義務が掛かった交渉であったことから、現場にはなお不安の声があることもよく承知をしております。現場の声に寄り添って、政府全体で責任を持って万全の国内対策を講じていくということが大事なことであると思います。
 最終的に国会で御審議をいただくことになりますけれども、政府としては、国会決議の趣旨に沿っているものと評価をしていただけると考えております。

○紙智子君 農林水産全体でも八割を超えて関税撤廃ということになった、それから重要五品目含めて三〇%も撤廃になっているということだけ見たって、到底これは守ったなんて言えるものじゃないというふうに思います。
 それで、昨年、日豪EPAが合意された際に、大臣は自民党の農林水産貿易対策委員長をされていたと思います。そのときに大臣は、当時、日豪EPAに関する決議は守れなかったというふうにマスコミに率直に述べておられるわけですね。
 TPPについても、これ、国会決議を守れなかったというふうに率直に言われるべきじゃないでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 国会決議を守れたか守れなかったかは政府の立場で申し上げる立場にありませんので、国会で御審議をいただくことであると思いますので、御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 今政府の立場かもしれませんけれども、同じ人物でありますから。
 当時、決議が守れなかった理由として、日豪EPA国会決議に掲げている関税削減の対象から除外又は再協議、これができなかったんだというふうにおっしゃられているんですよ。
 TPPの国会決議も、これ、重要品目についても除外又は再協議というふうに表現されているわけで、これ、繰り返しますけれども、しつこいようですけれども、国会決議守れなかったということなんじゃありませんか。
   〔理事野村哲郎君退席、委員長着席〕

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) ちょっと私が記憶にありませんが、紙委員、大変恐縮ですが、それ、いつのどの新聞のコメントでございましょうか。私のコメントでしょうか。

○紙智子君 農業協同組合新聞で、二〇一四年、去年ですね、四月十一日付けにそういうふうに述べておられるということが報道されております。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 私は、日豪のEPAにつきましては、シンガポールであったと思いますが、先方のロブ大臣ともお目にかかって協議をさせていただきましたので、決議が守れていないという発言を申し上げた記憶はありません。

○紙智子君 新聞報道では、森山大臣が、まだ当時大臣じゃありませんけれども、そう言われたという報道があったということであります。
 ちょっと角度を変えますけれども、牛肉についてお聞きします。
 日豪EPA合意では、冷蔵肉の関税率は三八・五%、これが十五年後に二三・五%に削減と。それから、冷凍肉は三八・五%を十八年後に一九・五%に削減すると。これ、日豪EPAですよね。
 一方、TPPの大筋合意というのは、現行の関税率三八・五%を十六年目に最終税率を九%に削減すると。TPPの大筋合意というのは、これ、日豪のEPAよりも関税率を削減するというものになるわけですよね。それはそういうことですよね。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) おっしゃるとおりだと思います。

○紙智子君 それで、日豪EPA合意を受けてTPP交渉にどう臨むのか、これを議論したときに、自民党のTPP交渉における国益を守り抜く会の決議では、TPP交渉に臨むに当たっては、さきの日豪EPA交渉の大筋合意がぎりぎりの越えられない一線、レッドラインだというふうにおっしゃっているわけですよ。レッドラインだと、これ以上はもう下げないんだと、そういうことを約束をされていたと思うんですね。
 日豪EPAの関税率がレッドラインだというふうに言ったのに、いとも簡単にTPPの大筋合意ではレッドラインを破ったんじゃありませんか。これ、いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 日豪EPAでは、豪州が対日輸出面において交渉相手国に先んじて貿易の利益を得るために早期に交渉をまとめようというスタンスで臨んでこられたことから、セーフガードの創設など比較的有利な内容で妥結をすることができたということだったのではないかと思います。
 一方、TPPでは、アメリカなどの他の交渉参加国が我が国に対して強みのある自国産品の関税撤廃を強硬に主張する中、重要五品目を中心に関税撤廃は回避をできたというふうに思っておりますし、このように、日豪EPA、TPP共に、それぞれの交渉の置かれた状況の中で、それぞれの国会決議との関係は交渉結果として最善のものとなっているのではないかというふうに考えております。
 レッドラインを超えたか超えなかったかという御判断は、それぞれがなさっていただけることであろうと思います。

○紙智子君 国民の皆さん、生産者の皆さんにとってみたら、これ何だということですよ。今の説明では全然納得できないと思いますよ。これ実際には、もうこれがぎりぎりのラインでこれ以上下げませんと言っていたものが九%まで下げるというのは、これはもう国民に対する裏切りだと思われませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 国民に対しての裏切りではないと思っております。政策大綱に示されております方向でしっかりとした対策をさせていただくことによって農家の皆さんの不安は解消できると思っています。

○紙智子君 TPPでの九%というのは、レッドラインでも何でもないですよ。もうこんなに下がってしまったら、本当に見通しが持てないという、そういう瓦解していくという不安をもう本当に与えている中身であって、しかも、セーフガードがあるんだと。入るときにはセーフガードがあるから大丈夫大丈夫というふうにずっと説明されてきたわけですけれども、セーフガードも、蓋を開けてみたら十六年目以降は四年間発効がなかったら廃止だと。初めて廃止というのがそこで出てくるわけですよね。
 TPP交渉における国益を守り抜く会、自民党の中での会ですけれども、日豪EPAがレッドラインという認識の上に立って、国会におけるTPP決議を毅然として貫くべきなんだということを求めていたではありませんか。自民党の皆さんそうだったと思うんですけれども、求めていたんだと思うんですよ。それがこういう事態になったというのは、これはもうどう言ったって国会決議に違反しているのは明らかだというふうに言わざるを得ないんですね。
 それで、先日私、北海道で酪農、畜産関係者や自治体から話を聞いたわけですけれども、十勝地方に行ったときに、あそこは食料自給率一一〇〇%なんですね。非常にそういう意味では、自分たちが食べるだけじゃなく国民に提供するということでたくさん生産しているわけですけれども、国民に安心、安全な食料を供給する上で重要な役割を果たしているわけです。
 いろいろ懇談する中で、約八百頭を肥育している肉牛の肥育農家の方にお会いしました。ホルスタインの雌から生まれる雄、これを引き受けているわけです。肉質でいえば輸入肉には負けない自信と誇りを持って生産しているんだというふうに言っています。しかしながら、関税が下がってホルの雄の肉と競合する輸入牛肉が増えれば、価格は下がると。経営が成り立たなくなると。酪農との共同がこれ困難になるというふうに言われたんですね。酪農家の方は、乳雄を肥育農家に販売をするわけですね。そして、畑作農家に堆肥を提供しつつ麦わらを受け取っていると。つまり、肉牛の生産者と酪農家と畑作農家が連携、共同しながら生産を続けているわけです。
 TPPで関税が下がって肉牛農家の生産が成り立たなくなるということになれば、肉牛、酪農、畑作との共同、この循環型の地域経済が壊れていくんじゃないかというふうに思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 今、紙委員がおっしゃいますとおり、循環型の農業というのが十勝では行われているということを私も現場を見させていただいてしっかりと認識をいたしました。
 ですから、この循環型の農業、畜産というものがしっかりとやっていただけるように対策もさせていただきますし、特に、十勝におきましては、畑作農業が随分進んだ地域でございますから、更にパワーアップしてもらうために補正予算等でパワーアップ事業というものもつくらせていただいて、間違いなき対応をさせていただきたいと考えております。

○紙智子君 長い間掛けて循環型ということを目指して、今こうやって、今お話ししたような形でやりくりをしてきたわけですけれども、今回出されているもので対応できるとおっしゃいますけど、現場は決してそういうふうな安閑とはできない思いに駆られているわけですよね。
 やっぱり、本当に肉牛をやっている方、この方たちは、今高くなっているから買うときに大変な思いをしているわけです。そして、育てるための飼料だって高いですから、非常に大変な思いをしているわけですね。一方、酪農家の皆さんにとっても、やっぱり受け取ってもらえなくなったら、これはもうそれでやっていけないということになってきますし、畑作の方も、本当お互いにやり取りしながら回ってきたものが一角崩れると、これは本当に回らないんじゃないかと。それをどれだけ、じゃ、安心できるというようなことを示しているのかどうか、これ、もう一度お願いします。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 私が、もう随分前になりますが、自民党の畜策小委員長を務めておりますときに乳用種の牛肉の資質向上というところに着目いたしまして、予算を組んで、たしか若牛という命名をいただいて、乳用種の肉質の向上に皆さんが取り組んでいただいたことを今思い出しておりますけれども。
 私は、一番大事なことは、乳用種の牛肉であっても輸入の肉よりも消費者から評価をされるということが大事なことだと思っておりますので、乳用種の肉質の向上については更に努力をさせていただきたいと思っておりますし、今、乳用牛の熟成肉を輸出をするという試みも今始めているところでございまして、輸入肉と乳用種の牛肉は差別化されるという時代をつくっていかなければならないというふうに思いますし、その乳用種の肉のところ、牛肉のところが解決をしないと、紙委員がおっしゃるとおり、循環型になっていかないわけでございますから、そこが一番大事なことであるということは重々承知をしておりますので、更に乳用種の牛肉についての資質向上というものについても努力をしてまいりたいと考えております。

○紙智子君 もう一つお聞きしたいんですけれども、十勝地方には乳業の工場だけで見ても、大手で六工場、それから中小で四十六工場もあるんですね。それから、大学や高校、学校にも四工場あるんです。それで、関連工場、運送、雇用を始め、農業は地域を支えるまさに基幹産業になっていると。農業を軸にして地域が成り立っているわけです。
 そこで、小麦なんですけれども、小麦は酪農と連携しているというふうに言いましたけれども、十勝の畑作というのは、これ、麦類、豆類、バレイショ、てん菜の畑作四品目を軸にして、輪作体系が確立されています。十勝の畑作の収穫量というのは、小麦、バレイショ、小豆、てん菜、インゲン、これ北海道で第一位です。
 四作物を四年ローテーションして作付けをしていく輪作体系、これ連作障害や病害虫を防いで品質を向上して収量を確保する技術で、農家自身が長年悪戦苦闘しながら生み出してきたものです。畑作農家は、収益性が低い小麦を作付けするのはなぜかというと、輪作体系に欠かせないからなんだと。大して収入にならないけど、しかし、これを作付けしないと回っていかないんだと。TPPで外国産の麦の輸入枠を作って、輸入差益、マークアップを半減することになれば、これ、麦の生産が困難になる、輪作体系が崩れたらほかの作物も駄目になるんだというふうに語っているんですね。
 今年の輸入小麦の政府の売渡価格というのは一トン平均五万六千四百六十円、マークアップは一トン約一万七千円。TPPで四五%削減されれば四万八千円程度になります。一方、十勝の主力品目のきたほなみという麦でありますけれども、この価格というのは、新聞報道によると、一トン五万円程度です。北海道新聞では、マークアップが減れば価格は逆転するというふうに書いています。
 また、マークアップの収入というのは生産者への交付金にも充てられるので、交付金の原資が減れば、再生産が保証されずに離農が加速する可能性もあるというふうに言っているんですね。
 それから、麦を入れることでバレイショの品質を上げて、皆さんよく御存じのポテトチップス、これ、油で揚げて、普通の食用の芋だったら黒く焦げちゃうんですよ、糖が強かったりすると焦げちゃうんですけれども、でん粉をそのままずっと保持する加工用の芋があるわけで、この加工用のバレイショの品質もずっと維持してやることができるようになっているのはこの輪作体系のおかげなんですね。そういうことをやっぱり可能にしたということもあるわけです。
 十勝に国内最大規模のジャガイモコンビナートやでん粉工場があって、大臣も行かれたというふうに思うんですけれども、地域経済を支えていると。ある町長さんは、こうした畑作の努力があってこそ人口は減少せず、過疎地域も脱却してきたんだというふうに言われました。
 長年掛けて築いたこの畑作の輪作体系が今度のTPPで崩れてしまうんじゃないかと。これ、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 十勝地方の小麦、豆類、てん菜、バレイショを始めとする畑作の先進地帯であることは強く認識をしておりますし、これらの作物が国民の皆さん、消費者の皆さんから高い評価を得ていることも認識をしております。
 これ、今、紙委員が御指摘になりましたとおり、四年のローテーションで輪作体系をしっかり守って、地力を守って作物を作ってこられたという成果であろうというふうに思っておりますので、この輪作体系が壊れるようなことのない対策というのはしっかりやらせていただきたいと思っております。
 また、小麦のマークアップのことと財源でございますが、ここは政策大綱の中にも政府全体で責任を持って対応するということになっておりますので、分かりやすく申し上げますと、マークアップでへこんだ分はしっかりと予算措置をしていって、小麦を作っておられる農家の皆さんに御迷惑を掛けない政策を引き続きやっていくということを申し上げていることに等しいと思いますので、御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 今大臣言われて、元々TPPがあってもなくても強い農業をつくらなきゃいけないんだという話をされてきたんだと思うんです。
 今回、政策大綱を出しているんですけれども、その大綱でTPPに反対する世論を少しでもやっぱり抑えたいということも働いているのかなというふうに率直に思いますけれども、現場ではどういう声が出ているかというと、やっぱりスローガンの羅列じゃないかと、具体的な中身が伝わってこないし見えてこないという声がずっと出ているんですね。
 それで、大綱を出さざるを得ないというのは、要するに予想される被害が大きいからじゃないかというふうに思うわけですよ、被害が大きいからこういうふうにやるんだと。日本の農業を強くするというのであれば、私は、生産者の意欲を高める対策が必要であって、その一番の対策は何かといったら、やっぱりTPPから撤退することだというふうに思いますよ。そのことを強く申し上げたいんですね。
 それから、現場では、TPP、この大筋合意については、国会決議を守ったものだというのは誰も言いません。むしろ、初めに出てくるのは、一番今言いたいことは何ですか、政府に言いたいこと何ですかというと、TPPはやめてほしいと、これがまず出てくるわけですよ。
 TPPというのは、やっぱり日本が批准しなければ発効しないものだ、この前、予算委員会でやり取りしましたけれども、日本が批准しなければ発効しないんだと。だから、やっぱりこれ、農業を守って地域経済を支える、消費者に安全、安心できる国産品を提供するということになれば、これはやっぱりTPPからの撤退が何よりも今一番必要なことではないかということを強く申し上げて、私の質問を、あっ、最後にもし一言あれば、終わりたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 政策の羅列にならないように、補正予算も編成をしておりますし、来年度予算も編成の作業中でありますから、なるほど、こういう対策を、財源をしっかり持ってやってくれるんだなと御安心をいただける予算を作ってまいりたいと考えておりますので、御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 終わります。