<第189回国会 2015年11月11日 予算委員会>


TPP大筋合意、アメリカ言いなり、国会決議違反/日本が批准しなければ発効せず/闘いはこれから。撤退迫る

○予算の執行状況に関する調査(TPPを始め現下の政治課題に関する件)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 アメリカ・アトランタで開かれたTPP閣僚会合は、十月五日、大筋合意に達したと発表しました。日本の進路、国の在り方を変える重要な課題であって、本来、TPP問題を含めて課題が山積している中で、やはり臨時国会を開いて審議すべきだということを初めに申し上げておきたいと思います。
 安倍総理にお聞きします。
 TPPの大筋合意を受けて、もう最終合意になったかのような報道がされています。まだ最終合意はしていないのに、詳しい内容は分からないけれども、何かこの関税撤廃で物が安くなるかのような宣伝がされています。総理も会見で、より品質の良いものをより安く手に入れることができると言われています。果たしてそうなんでしょうか。
 食の安全、安心が保障されるのかという心配の声が上がっています。TPPは元々、関税と非関税の障壁の撤廃を原則にしています。また、TPP交渉の日米協議が行われていますが、日米合意では、ポストハーベスト農薬や日本で認められていない食品添加物の承認に日本が取り組むことが明記されました。また、遺伝子組換え食品の表示、日本が義務付けていることに対して米国の巨大農産物の企業は規制緩和を要求していますが、TPP協議において、各国の作業部会を設けて情報交換を行うとしています。
 日本で指定していない食品添加物を認めたり、情報交換のこの場を通じて米国から自国の大企業の意向に沿った圧力を掛けられることはありませんか、安倍総理。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) TPP協定の締結によって、我が国から締約国へ対する食品の輸出促進が期待されますが、一方、我が国の食品の安全、安心が守られることは重要なことであると思います。
 TPP協定では、締約国が自国の食品の安全を確保するために必要な措置をとる権利を認めています。我が国は、従来から科学的根拠に基づいて衛生植物検疫措置をとっており、我が国の制度の変更は求められていません。また、日米並行交渉でも、国際基準や科学的知見を踏まえて行ったものでありまして、今後とも我が国の食品の安全確保を第一に考え、食品の検査等を着実に実施してまいります。
○紙智子君 安心、安全なんだということを言われたんですけれども、本当にそうなんだろうかと。
 日米の協議の交換書がありますよね。その中には、両国政府は、収穫前及び収穫後に使用される防カビ剤、食品添加物並びにゼラチン及びコラーゲンに関する取組につき認識の一致を見たと書いてあります。また、未指定の添加物もおおむね一年以内に食品添加物として認めると書いてあるわけですね。
 まだ、出されている文書というのは概要なんですよね。二百ページ程度ですよ。だけど、実際に附属書なんかも含めますと全体で三千ページというふうに言われている中で、是非、これ全部出していただきたいと。幾ら安全だと言われても、やっぱり全部出していただいた上で検討しないと安心できないということがありますので、そのことは申し述べておきます。
 それで次に、先日、私、横浜の輸入食品の検疫所に行って驚いたんですね。それで、パネルをちょっと見ていただきたいんですね。(資料提示)このパネルを見て分かるように、今、この輸入食品届出件数と食品の検査割合と書いてありますけれども、二〇一四年で八・八%までこれ検査率が下がっているわけです。つまり、九一・二%の食品が検査なしで入ってきているということです。これは、輸入食品が急増しているのに対して食品衛生監視員の増員がされていないと、まあ七人ぐらいは増えていると思うんですけどね。検査室も検査機器も限界なわけですね、九割も未検査で入ってきているわけですから。
 かつて中国の毒入りギョーザが実際に流通してしまって消費者の口に入るということもあったわけですけれども、実際にそういうTPPによるこの後輸入食品が急増することになれば、これ一層検査率が下がって食の安全が脅かされると、こういうことになるんじゃありませんか、甘利大臣。



○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) 検査というのは、それは全量検査が一番いいんですけれども、入ってくるのを一つ残らずということは物理的に難しいです。ですから、サンプル検査といいますか、十個入っていたらその中から一つ取るということをやるわけですね。その中でおかしいのがあったら全部やれという、全量検査という方式を取るわけなんです。
 サンプル検査の数は減っているわけじゃないです。その結果、黒とかグレーになっている比率が減っているわけです。だから、全量検査を事業者に指示する件数が減っているからトータルとして減っているということであって、別に手抜きをやっているわけではないわけですね。対象が黒になる比率が減ってきているということだと理解していただければと思います。(発言する者あり)
○紙智子君 そうですよ。監視員増やさなきゃいけないと言いましたけれども、やっぱり下がっているという中で、今TPPで入ってくると更に増えるということが明らかな中で、下がったままでいいとはならないんじゃないですか。そこはどうですか。
○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) 日本の検疫体制がきっちり厳しくやっているということで、要するに、輸出入業者はより注意を払っておかしなものが混ざらないようにしている証左だと思います。
 ただ、輸入量が増えていくことに比例して、もちろん体制も整備をしていくということはそのとおりだと思います。
○紙智子君 それは当然のことなわけですよね、未検査の輸入食品が増えれば安全だなんて言い切れないですから。そのことはちょっと言っておきたいと思います。
 次に、総理にお聞きしたいと思います。
 総理は十月六日の会見で、TPPは攻めるべきは攻め、守るべきは守る立場で臨んできたと言われました。我が党は、攻めるとか守るとかではなくて、貿易の在り方としては、各国の経済主権を尊重して、対等、平等、互恵ということで、互いの国と国民にとってプラスになるようにやらなければいけないという立場ですけれども、この間のあなたの交渉はアメリカ言いなりになったんじゃありませんか。
 米国が日本車に掛けている関税というのは二・五%ですけれども、これ関税の引下げが始まるのは十五年目、二十五年目にようやっと撤廃されると。トラックの関税二五%は三十年目に撤廃されます。TPPの日本協議で、アメリカは関税撤廃の先送りだけでなく、対抗措置も準備していると。その一つが特別セーフガードですけれども、セーフガードは、輸入が急増したときに関税を引き上げて輸入量を制限するという制度なわけですね。
 一般的には関税を撤廃するまでの制度ですけれども、アメリカに対しては関税撤廃の十年後まで発動できると。しかも、通常、発動回数というのは一回なんですけれども、複数回もう発動を認めているわけです。また、この協定に違反した場合は二十五年目に関税を撤廃しなくてもいいということになっているわけですよ。これ、アメリカ言いなりじゃないですか、総理。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 全くアメリカ言いなりではありません。
 日本には一定の農産品、そして米国には一定の工業製品といったセンシティビティーがありますねというのが日米の共同認識であります。そこから交渉をスタートさせているわけでありますが、米国の自動車関税はTPP交渉における最長の関税撤廃期間を経て撤廃すること、関税を下げ始める時期を最大限後ろ倒しにすることを確認した上でTPP交渉に参加をしました。
 これは、言わば十一か国から認められなければ我々は参加できないという立場から、我が党が政権を取った段階ではもうそういう立場になっていましたから、その中で米国と交渉し、この中で我々交渉をスタートしたわけであります。
 しかし、そういう立場から交渉をスタートしたわけでありますが、しかし、粘り強い交渉の結果、乗用車の関税は撤廃まで現行水準で据え置かれることなく、十五年目から引下げが開始をされ、二十年目で半減、そして二十二年目で〇・五%まで削減をされ、TPP交渉における最長の関税撤廃期間である三十年目より短い二十五年目で完全に撤廃されることで決着をしたわけであります。
 また、自動車産業の実態を見ますと、我が国自動車メーカーの北米での現地生産は実は大きく進展をしておりまして、米国で販売する完成乗用車の七割強が現地生産となっているわけでありまして、こうした産業実態を踏まえて交渉した結果、自動車部品については総輸出額の八割以上の関税の即時撤廃、つまり、我々にとっては自動車部品が極めて重要であったわけでありまして、日本企業にとって大きな成果を得たところであって、しっかりと攻めるところは攻めたというところであります。
 実際は、TPPに入らなければ自動車部品は今のまま続いていくわけでありまして、日本は不利な立場がこのまま続いていくということになるわけでありますが、TPPをやった結果、自動車部品においては即時撤廃、八割以上の関税の即時撤廃という結果をしっかりと得ることができたと、このように考えております。
○紙智子君 今長々とお答えになっていただきましたけれども、いろいろ言われるんですけど、日本自動車工業会のホンダの池会長は、二・五%の関税をなくすのに二十五年掛けて撤廃してもほとんど影響ないというふうにおっしゃっているわけですよ。それから、部品のことも何かバラ色のように描くんですけど、メーカーから値下げ圧力に苦しめられてきたベアリングメーカーは、新たな値下げの要求の理由にされかねないという不安の声も上がっているわけですよね。こういうこともちゃんと踏まえなきゃいけないでしょうと。
 なぜ、私言いたいのは、日本がアメリカに譲歩するのかと。それは、既に日本がTPP交渉に参加する前に、もう既に前の二〇一三年ですよね、四月に、自動車に係る米国の関税がTPPにおける最も長い段階的な引下げ期間によって撤廃され、かつ最大限に後ろ倒しされるんだと、こういう約束を果たしてきているじゃありませんか。これ、佐々江駐米大使ですかね、の書簡の中にもあるわけですけれども、結局、これアメリカ言いなりとしか言いようがないわけですよね、いろいろ言われますけど。いいです、聞いていないです。
 それで、安倍総理に引き続き伺いますけれども、安倍総理は、農業分野というのは守るべきだということで、守るべき分野としてきたわけですけれども、結局、実際には譲る一方だったんじゃないかというふうに思うわけですね。
 農業関係者の中では不安や怒りが噴出しているわけです。安倍総理は、国益にかなう最善の結果を得ることができたと、このように評価をしているんですけれども、現場の受け止めとは非常に大きな乖離があるんですね。日本農業新聞が行った十月末の意識調査の結果というのは、国会決議違反だというのが六九%ですよ。遵守しているというふうに言ったのは僅か七%ですよ。七%ですよ。いかに農業関係者に衝撃を与えているかということの表れだと思うんです。
 与党の皆さんは今ずっと説明会に全国回っていますけれども、その場でもいろいろ出されていますよね。政府は精いっぱい守ったと言うけれども、農業者から見ればそうは思えない、これは高知の声ですよ。TPPによる先行き不透明感で投資を足踏みする農家が多いと、これは北海道ですね。このほかにも、酪農の二十代の女性、牛の命を預かり牛乳で人の命を育む酪農に誇りを持っている、だが、そうした思いさえTPPで奪われると、栃木の女性ですよ。機械の更新の時期を機にもうやめると言っている農家もいるんですね。
 挙げれば切りがないぐらい多くの方の訴えが上がっているんです。これらの声を総理はどのように受け止めておられますか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 我々、交渉参加の原則として、例外なき関税撤廃である以上、聖域なき関税撤廃である以上、我々は交渉には参加をしないということであったわけでありますが、しかし、交渉の結果、お米や牛肉などの重要品目について関税撤廃の例外をしっかりとこれは確保することができたわけであります。
 米については現行の国家貿易制度を維持することができました。新たな輸入枠を設定することとなりますが、これにより市場に流通する米の総量を増やさないよう、備蓄運営の見直しによって必要な措置を講ずることとしております。また、牛肉については、関税撤廃を回避した上で、長期の関税削減期間及びセーフガードを、セーフガード措置をこれは認めさせたわけであります。これも厳しい交渉の成果、セーフガード措置を勝ち得たわけでございます。日本が交渉を積極的にリードしていくことによって、厳しい交渉の中において国益にかなう最善の結果を得ることができたと、こう考えております。
 そして、国会決議との関係についてでございますが、国会決議があったからこそ私たちは厳しい交渉ができたと、こう思っておりますが、私たちはこの国会決議にかなうものであると、こう認識をしておりますが、もちろん国会決議でございますから、国会において御判断、それぞれの皆様が御判断いただくことだと思います。
○紙智子君 今の答弁を聞いていたら、テレビで御覧の皆さんは本当にがっかりすると思いますよ。
 私がお聞きしたのは、様々な衝撃を受けた農家の皆さんの声を紹介したわけです。どう受け止めておられるのかということを聞いたのに、お答えになっていないですよね。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 農家の方々のそうした環境が変わることに対する御不安ということについては十分理解できるわけでございますので、我々、実態についてよくこれからも御説明をしていきたい。
 今、実際はどうだったのかということについて、例えばセーフガードもちゃんと我々は確保したんだということも今説明をさせていただいたわけでございますが、実際にこのように様々な我々勝ち取ったものもございますし、また今後、そうした不安を持っておられる農家の方々の気持ちに寄り添いながら、しっかりとこれから頑張っていく意欲ある生産者の皆さんにとって再生産が可能なように我々も対応措置をとっていきたいと、こう考えております。
○紙智子君 理解できるとおっしゃったけど、本当に理解できるんだったらこんなことできないはずなんですよ。いろいろな対応策取っていくと言うんだけれども、まず、どういう影響出るのかということだって、ずっと今まで秘密協議ですから、出さないで来たんですよ。今、初めて形で一部出てきてみんな衝撃受けているという中で、どんな影響出るのかということをまず明らかにするのが本当じゃないですか。
 それで、安倍総理は記者会見で、守るべき聖域は守れたと考えるかというふうに聞かれたら、重要五品目を中心に関税撤廃の例外を数多く確保できたというふうにおっしゃったわけです。
 国会決議は重要五品目は除外すると。除外するですよ。ちょっとパネルを見てください。ここに五品目、いろいろ含めて書いてありますけれども、農林水産の全品目に対して八一%が関税撤廃ですよ。うち重要五品目、これ五百八十六あります。そのうち百七十四を撤廃するわけですよ。約三割ですよ。三〇%のものを撤廃すると言っているわけですから、これはもう明らかに国会決議に違反するんじゃありませんか。いかがですか。



○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) 先刻御承知のとおり、日本がTPPに参加するに当たっては十二か国と交渉しました。十二か国の了解が取れないと入れません。アメリカとの交渉の中で、それぞれがセンシティビティーは持っていると、しかし、それは一旦交渉のテーブルに上げて、そして交渉力で勝ち取るものであるということを確認されたわけです。それは公表されています。最初からこれは交渉の対象外ですと言うことはできませんよと、だけれども、関税をゼロにしない、するしないは交渉力で勝ち取るものだということは、これは公表されているわけです。だからやったわけです。それに基づいて当然決議がなされているはずです、先にそっちが公表されていますから。ですから、我々は、重要五品目の中核部分については、大変な交渉の結果、ああいう成果を得たわけであります。
 数字が示していると思うんですね。農産品に限って言っても、日本以外の国の自由化率って九八・五%です。ほぼ全部です。日本の場合は八一%です。突出しています。これは決議を踏まえて懸命に交渉した結果、その数字が残ったということだと御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 私たちは、安倍総理は、交渉力があるんだと、聖域は確保できるんだと、そう言って入ったわけですよ。だけれども、実際には難しいだろうと、だから参加すべきでないというのを私たちはずっと訴えてきたわけですよ。ところが、今この時点になって、守る守ると言ってきたけれども、実際上は交渉上譲ってしまっていると。
 それで、やっぱりすり替えの議論されたら困るんですよね。除外するということは手を付けないということですよ。聖域を守るというのは手を付けないから聖域なんですよ。それで、影響の少ないものを関税撤廃しているという話は、こんなこと最初から言っていなかったですよ。後付けじゃないですか。全くこれはもう話にならないというふうに思います。
 それで、引き続き安倍総理にお米の問題で聞きたいんですけれども、米は毎年八万トン余る状況なんですね、今。その中で需給調整ができずに米価暴落を招いてきたわけです。別枠を設けて今、米を入れるということがいかに重大な影響を与えるかということを分かった上でこれやっておられるのかと。
 もう一度パネルを見てほしいんですけれども、これ米のところを見てください。今、既存の輸入米、ミニマムアクセス米七十七万トン入っていますけれども、そのうちアメリカからは三十六万トン入っているんですよ。それで、アメリカの別枠を設けると。一番上を見ると、七万トン、十三年目以降になっていますけれども、入れると。それから、その下のミニマムアクセスのところに新たに加工用に六万トン輸入なんですよ。これだけ足しただけでもアメリカから五十万トン米入れるということなんですよね。五十万トンものお米というのは、一体生産できるのは日本の中ではどこかって御存じでしょうか。北海道と新潟と秋田ですよ、五十万トン以上というのは。それだけの米を入れると。
 安倍総理は、これまで米は主食であり重要なんだと言ってきました。そう言いながら、どうして今アメリカから五十万トンもの米を輸入する必要があるんでしょうか。輸入米は市場から隔離するから大丈夫だと言うかもしれませんけれども、在庫に掛かる費用というのは国民の税金で賄うわけですよね。米が過剰なのに何でアメリカから必要のない米を入れる必要があるんですか、総理。



○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) ちょっと誤解がありますけれども、WTO枠は、それまで長粒種という枠組みの中で取り組んでいたものを中粒種限定をすると。ですから、それが入れ替わるということであって、その分がそっくりアメリカに何十万トン別枠で与えたということではありませんから。別枠は、TPP枠として、初年度五万トンプラス五万トンの一二%がオーストラリア、これでスタートして三年間据置きです。十三年後に七万トンプラスこの一二%ですから、全部合わせると七万八千四百トンですか、ここでストップであります。
 ですから、純粋に増える枠は七万八千四百トンです。そして、これは流通に回った場合には流通量が増えるわけでありますから価格に影響いたします。ですから、備蓄米の枠組みサイクルに入れ込んで市場に出ないようにする。そうすれば、そのことによって、TPPによって流通量が増えるわけではないということで対処しているわけでありまして。
○紙智子君 総枠として五十万トンアメリカから入れるということを約束しているじゃないですか。何で必要のない米を入れなきゃならない。総枠変わらないと言うけれども、結局アメリカから入れるというのはちゃんと確保しているわけですよね。
 今の生産コストって六十キロ当たり一万六千円ですよ。今年の概算金は、いわゆる農家の手元に約一万円なわけですよね。赤字なわけですよ。生産費で一万六千円ですよ。手に来るのは一万だから、赤字なわけですよ。
 輸入拡大による影響分析でも、これ政府の分析ですけれども、国産米全体の価格水準が下がる懸念があると言っているじゃないですか。農家は、米価が暴落しているから政府が買い取るなどして米を市場から隔離してほしい。これ、農家の皆さん再三要求してきたんですよ、隔離してほしいと。それを絶対に聞かないで、全く対応しないできたのに、今アメリカから言われて輸入するとなったら、買い取ると。余りにもこれ、アメリカ言いなりじゃないですか。
○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) アメリカ言いなりって、アメリカの要求ははるかに高い数字だったわけですよ。その中で、日本は相当厳しい交渉をしたわけであります。(発言する者あり)
○委員長(岸宏一君) ちょっと静粛にお願いします。
○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) その厳しい交渉の末に、アメリカ側の要求とは相当少ない総枠に抑えた。しかも、それが市場に出回っていくということに対して農家は不安を持っていたわけであります。市場に出回っているものに対して、プラスアルファでそれが出ることはそれが影響をするかと。ということで、それが市場に出ないような工夫をしているわけであります。最大限の対応はしているというふうに思います。
○紙智子君 いろいろ言われますけど、やっぱりアメリカ言いなりとしか言いようがないんですね。
 さらに、牛肉についても聞くんですけれども、もう一度ちょっとパネル見てください。
 牛肉は、現行税率が三八・五%を十六年目以降九%に削減と。結局、これも酪農家にとっては、北海道は基幹産業なわけですよね。それで、ホルスタインの乳牛から生まれる雄牛は肉牛に回ると。輸入牛と肉質が競合するわけです。北海道の肉牛の肥育頭数が二十五万六千頭ですけれども、このうちホルスタインの雄は九万二千頭と三六%を占めるんです。
 TPPの大筋合意について、全国の畜産、酪農団体でつくる日本の畜産ネットワーク、非常に深刻な影響を受けると言っています。全国肉牛の事業組合は現場に報告する言葉が出ないと言ったんですよ。十勝地方でホルスタインを育成している農家は、牛を育てるには病気とか天候のことを気にしなきゃいけない、だけどTPPという人的な原因で仕事ができなくなるというのは情けないと嘆いているわけです。
 輸入が急増したらセーフガードがあると言うかもしれませんけれども、十六年目以降は四年間発動しなきゃ廃止ですよね。これも国会決議で除外する、十年を超える期間を掛けた段階的な関税撤廃は認めないとなっていたんじゃないですか。これに対しても違反じゃありませんか。
○国務大臣(甘内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) ですから、関税撤廃はしないわけであります。そして、セーフガードについてもきちんとダブルで効くようにしています。
 それから、新しい視点を、日本の誇る農産物は攻勢を掛けて外に打って出るんだという発想を持たなきゃいけないと思うんです。守るだけでは現状維持以下です。ガット・ウルグアイ・ラウンドでかなりお金を掛けて守った、まあ余計な金も使ったという話もありましたけれども、そういうばらまきはしませんけれども、しかし、農業対策として守った結果、十兆円が生産額八兆円に落ちていったわけです。我々は増やしたいんですよね、八兆円を十兆とか十五兆に増やしていきたい。だから農産物の輸出作戦もやっています。これは功を奏して、五割、六割もう既に増えているわけであります。
 日本の和牛だってもっと自信を持っていいと思うんですね。アメリカへの輸出、たしか二百トンの枠がありますけれども、今、百六十何トン使って、もういっぱいいっぱいになります。それ以上増やせません。ですから、アメリカはいきなり無税、アメリカ側の輸入枠というのを二千トンから四千トン、三千トンから六千トンだったでしたか、いきなり二十倍から四十倍にすると、そして最終的には和牛の関税を撤廃すると。これは攻める姿勢であります。
 あるいは、国内で不安をお持ちの方、ホルスタインの雄牛が輸入牛肉と脂質でバッティングすると。そこは技術開発で和牛の受精卵をホルスタインに着床させると、そしてホルスタインから和牛を産ませると。そういう技術開発も日本の力を使ってやっているわけです。
 守る方とそれから攻める方と、あらゆる努力を通じて取り組んでいきたいと思いますし、我々は日本の農業をブランドにしたいと思っております。
○紙智子君 輸出について否定するつもりはありません。ただ、現状を見てほしいんですよ。実際上は、もう続けられないかって瀬戸際に立たされているわけですよ。
 それで、北海道の酪農の話ししましたけれども、飼養頭数は減少を続けているんですから、もう生産基盤が減ってきていて、ぎりぎりのところで頑張っているんですよ。それなのに更に打撃を受けることになると。
 北海道が最近行った影響調査を見ても、輸入牛肉の価格が低下することによって、肉質面で競合する乳用種や交雑種の価格低下が懸念されると書いているわけですよ。酪農家にとっては、乳製品で打撃を受け、更にこの副収入で支えてきた肥育の雄牛まで駄目になったら、これはもう崩壊ですよ。そういうことを分かっていらっしゃらないんじゃないかと言いたいんですね。
 総理にまた聞きますけれども、畑作も大きな影響が出るわけです。
 小麦は五百七十四万トンのWTO枠に加えて二十五・三万トンのTPP枠が新設されると。砂糖の原料になるてん菜は、調整制度は維持されるけれども、新たにまた枠が新設されると。でん粉用のバレイショもそうです。
 北海道の十勝やオホーツクでは、てん菜やジャガイモや小麦などは連作障害を避けるために輪作体系というのを組んでいるんですよ、小麦とか豆とかね。順々にやって障害出ないようにして、長年それでやってきたんですよ。これ、一つでも作れなくなったらその体系が崩れるんですね。
 十勝地方のある町長さんは、我々の先人はこの厳寒な地域で百二十年から百三十年掛けて今の十勝をつくってきたんだ、冬になれば零下三十度以下になる、それでも冬が終わると必ず春が来る、春が来るから頑張れると、しかし、TPPでその希望がそがれる、この地域は崩壊する、子供の未来がなくなるというふうに言われているんですよ。こういう地域経済と子供の未来を奪うことになるんじゃないかというふうにも思います。
 それから、重要五品目以外の品目も追加で公表されましたよね。これ、小豆とかコンニャクの畑作物、リンゴ、サクランボ、ブドウなどの果実、それから鳥肉などの畜産品、それから建築用木工品などの林産物、それから水産物、もう多岐にわたりますよ。八割ですよね。ほとんどの品目がこれ関税撤廃だと、削減じゃありませんか。ですから、全国の農家でこれ衝撃が走って、ある方は青天のへきれきだというふうに言っていましたよ。これで約束を守ったなんてどうして言えるのかというふうに思うんですね。
 安倍総理は、自民党には強い外交力があるんだと、聖域を守れるからTPPに参加するんだというふうに言われましたけれども、そもそも、与党自民党の選挙公約というのは六つあったんですよね。これ、全て今破綻してしまっているんじゃないかと思うんですよ。自動車の目標数値は受け入れると。それから、全国の郵便局の窓口で、アフラックですか、保険の販売をやると。BSEの検査、食品の安全基準も緩和していくと。ISDSは賛成すると。国民に守ると言って約束したことは全面的にこれ破綻しているじゃありませんか。それなのに、それなのにこのTPPの署名後の国会で批准なんという、簡単に言ってもらったら困るなというふうに思うんです。
 アメリカは、国内手続で署名の九十日前までは議会に通知することになっています。オバマ大統領は十一月五日に議会に通知したので、大統領の署名は二月上旬になるわけですよね。既に来年の大統領選挙に突入をすると。選挙戦の争点にもなってくるわけです。議会での審議は簡単ではありません。オバマ政権下で国内手続を完了するのは困難になるというふうに言われています。
 総理はこの大筋合意が大きな成果と言われていますけれども、これ最終合意ではないし、日本でもほかの国でも国内の批判というのは出ているわけですよ。今まで秘密だったわけですから、明らかにされて出てくるわけです。
 米国では、米国最大の労働組合が声明を出したと。多国籍企業が政府を相手に賠償請求の訴訟を起こせるルールなどを挙げて、雇用、民主主義、手頃な値段の薬、消費者の安全、環境といった利益よりも脅威の方が大きい、TPP打倒のためほかの組織と連携するとしています。それから、市民団体のパブリック・シチズンも、国民を犠牲にして企業の利益を代表する者の要求を盛り込んでいると批判しています。それから、全国看護師組合ってあるんですね、アメリカの。そこは、大手製薬会社が求めてきた医薬品の特許の保護期間の長期化に、世界中で安価な薬を必要としている無数の患者への死刑宣告だと、物すごく厳しい批判をしていますよ。
 こうした米国国内の反対の世論と運動もあるということですけれども、これに対してどういう御認識でしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 一番最後の言わば医薬品についてですが、これは保護期間だと思いますが、この保護期間については、米国が十二年という長い期間を主張していたわけでございます、日本は八年なんですが。そこで、日本と米国は新しい薬を作る、新薬を、画期的な新薬も含めて作る能力を持っておりますが、ほかの国々は違いますから、これはなるべく短い方がいいという主張をしておりました。そしてそれが、十二年が八年になったわけでありまして、日本は、これは変わりがないわけでありますが、しかし、このTPPやらなければアメリカはもう十二年のままなんですから、ですから、それがせめて十二年は八年になったということで、私は改善されたんではないかなと、そういう観点からいえばですよ、と思います。
 そしてまた、これは様々なこの変化に対して不安を持っている方々については、我々、しっかりとこのTPPが今後どのような影響を及ぼすかということについて精査をしていきたいと。特に農林水産業の方々にとっても大変な御心配があるんだろうと、このように思いますので、十一月下旬を目途に政府全体で国内対策を取りまとめて、交渉で獲得した措置と併せて万全な措置を講じてまいりますし、そして、TPP協定によって何が変わり、それが品目ごとにどのような影響をもたらすかを踏まえて、どのような支援策を活用できるかなどについて農家の方々が十分に理解し、活用していただけるように丁寧に説明をしていきたいと考えております。
○紙智子君 最後、もう一つだけ聞きたいんですけれども、発効の要件についてです。
 TPPは、二年間に批准が間に合わない国があったとしても、六か国で、GDP八五%を超える国で批准すればできるとしていますけれども、GDP八五%ですから、日本とアメリカ、どちらかが批准しなければ発効しないと。日本が批准しなければ発効できないということですよね。
 これ、一言でお願いします。
○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利明君) 日米で七十何パーで、日本は一七パーぐらいですから……(発言する者あり)ええ、日本が入っていないとできません、一五パーを超えますから。
○紙智子君 じゃ、時間ですのでまとめますけれども、日本が批准しない場合発効しないと。
 私は、今アメリカの例も出しましたけれども、日本の国内もたくさんの意見があるわけです。知れば知るほど、これは日本で批准するというのは難しくなると思いますし、その点での日本の国会の議員の役割というのは本当に大事だというふうに思います。
 断固としてこの撤廃を求めて頑張るということを決意を申し上げまして、質問を終わります。