<第189回国会 2015年8月6日 農林水産委員会>


農協改革で農家の所得が上がるとは思っていません/富山県の地方公聴会

○農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)
☆富山県・地方公聴会の公述人
 全国農業協同組合連合会富山県本部運営委員会会長、みな穂農業協同組合代表理事組合長 細田勝二君
 富山県農業会議会長 鍋嶋太郎君
 宇川農産 宇川 純矢君
 富山県農業協同組合中央会会長 穴田甚朗君

○紙智子君 今日は、公述人の皆さん、ありがとうございます。貴重な御意見を伺わせていただきました。
 それで、私は、衆議院でこの法案が議論されて、衆議院から参議院に今送られて、まだ決まっていない、審議の真っ最中なんですけど、もう最初から、新聞報道で見ると何かもう決まったかのような形で報道されてきたというのがあって、これは本当に良くないなというふうに思っていまして。
 やっぱり改めて思うんですけれども、衆議院の議論を通じても、地方公聴会二か所でやりました。山梨、それから石川でもやりました。そこでもそうだし、参考人質疑の中でもやっぱり疑問が解決されないし、相変わらず解決できない問題というのは入っているままの状態で来ていると思うんですね。
 それで、安倍総理がこの間、世界で一番日本が企業が活躍しやすい国にするんだと、そして四十年以上続いてきた米の減反を廃止します、そして民間企業が活躍しやすい、農業に参入できる時代がやってくるんだという話をされてきて、今回出されてきているこの農協法や農業委員会法等の改正案というのは、そういう意味では、そういう意向に沿って出されているものなのかなというふうに思うんです。
 やっぱり最初の段階で私が質問したときに、例えば中央会の廃止だとか農業会議所をなくすというそういうことというのは、政府が説明して歩いたときに、全国で説明したときに、どこからか一か所でもそういう要求が具体的に関係者から出たんですかと聞いたんですよ。そのときに、規制改革会議の、そこに参加をしていた後藤田副大臣ですかね、答弁したのは、いえ、出ていませんと。実際には関係者から一つも要望は上がっていないのに、どうしてこういうことをやろうとするのかという話をしたら、規制改革会議の議論を踏まえてと、委員の皆さんから出されている意見を踏まえてということだったわけで、やっぱりそこのところがもう最初からどうも違うなということを感じながら来ているんです。
 ですから、本当にこれまで御苦労されて、国民の食料生産と安全、安心の食料を確保するということで現場で努力されてきた皆さんの希望に沿うような中身なのかというと、決してそうではないというふうに私自身は感じております。
 それで、幾つかお聞きしたいんですけれども、まず農協法と農業委員会法についてお聞きします。
 穴田会長と鍋嶋会長にお聞きしたいんですけれども、安倍総理が今回、施政方針演説の中でも、戦後以来の最大の大改革なんだということの中に今回の法律を出して改革をするというふうに言っているわけですけれども、その目的に言っているのは、一つは強い農業をつくるための改革だということと、もう一つは農家の所得を増やすための改革だと言われたわけです。
 ところが、この間の審議を通じても、なぜこの改革で所得が増えるのかということについては、幾ら説明されても納得しないというのがこの間の議論なんですよね。実は、今日、お二人にそのことを聞こうと思ったんですけど、既にこの回答としては、そういう所得増やすと言った以上は増やす方向について国がちゃんと示しなさいよというふうに逆に言われた形になっています。
 それで、私は、今、米価が去年も大暴落をした中で、やっぱり非常に深刻な打撃を受けた中で農産物の価格が低迷していて、そういうときに農協の改革で例えば監査だとかいろんなことを変えることがどうやって所得に関係するのかということですとか、この改革がどうつながるのかと、目的に、というところについては、私もこの間国会で議論してきたんだけれども、結局これだけではできないというふうに変わってきたんです、答弁が。この改革だけではなくて、もっと総合的なんだと、つまり六次産業化だとか輸出だとかということでやらなきゃいけないという話に変わってきたんですけど、皆さんから見て、じゃ、その所得を増やすということでいうと、どういうふうにしたらいいかというふうに逆に思われるのかということをお聞きしたいと思います。お二人にお聞きしたいと思います。

○公述人(穴田甚朗君) 先ほど私は、もう農業所得、農業者の所得を増やすということをよしんばこの法律が通ったら国が示すべきだと言ったのは、大変失礼な言い方しますが、できるわけないだろうと、そういう逆説的に言ったわけなんですよ。
 というのは、結果的にそういう具体的なものが見えないままでこの農協法改正が独り歩きしておることが、やっぱり今先生がおっしゃったようなことと私は同じ思いなんです。でも、そういうことばかり言っておっても、これはやっぱり法治国家ですから、じゃどうするかということで、そこで、そういうものを踏まえた上で、私は、JAグループとしてやっぱり農業者の所得を上げなきゃならぬということは第一義に出しているわけですよ。
 じゃ具体的にどうするのと、こういうことなんですが、一つはやっぱり、地産地消とか、それから多様な品目、いわゆる自給率辺りで富山県のように米単作の割合が高いところ辺りは、米はやっぱりもう需給の関係であれだから、じゃほかの園芸品目とかあるいはそういう花卉とか、そういうところへ特化しましょうよと。でも、そういうことをやるのは農協が各組合員なり農業者に言えばいいので、それが株式会社が来てやったって駄目ですよと、そういうことを我々は言っているわけですよ。
 じゃ、我々はそのためにどうするのかということで、具体的には、先ほど言いましたが、富山県でも、十五JAで二十三品目、一億円の産地づくりにしようと。例えばタマネギなんかは、今から五年ほど前にうちの方、あるJAで取り組んだんですが、今年はもう三億円を超えているわけですね。やっぱりそういうものを積み上げることによって農業者の所得が増える、そういうことは我々JAがやりますよ、本当にあなた方がそう言うならやってくださいと。
 それで、そういうことをきちっとやっぱりやるのは、各JAの主体性もありますけれども、全国の情勢、富山県の全体の情勢、そしてまた産地リレーということで、気候によって順番に産地でも作ればより付加価値が高いものが売れると。そういうことはやっぱり系統の力があるからこそできるんじゃないですかと。それをばらばらにしようとしているわけですから私どもは納得できないと、そういうことを言っているわけであります。
 じゃ、最後に言いますが、所得は、今ほどちょっと言いましたが、そういうことで、絶対にJAは農業者の所得に本気で取り組みますよ。そういうことをやっぱりして、こういう今の農協法の中でも農業者の所得には真剣に取り組める、またそうしなきゃならぬと、そういうような決意であることは申し上げておきたいと思います。

○公述人(鍋嶋太郎君) 私からは、立場上、農業会議の会長としてではなく、一農業法人の役員として発言させていただきます。
 今ほど穴田会長からございました、農協が全力を出して農業者の所得を上げる、これは大変期待するところであります。ただ、私らとして、先ほども少し述べましたけれども、米一辺倒、それもコシヒカリ一辺倒ではこれからはやっていけないというのは、これは当然見えております。
 そこで、私らは、先ほどの輸出の関係もございますし、それからチューリップの切り花もやっています。一番極端に思ったのは、私はもう二十何年前からチューリップやっていたんですけれども、当初、市場で一本チューリップが百円だったんですよね。それが今、市場で三十円になればいいところです。そういう方、そういう方法を取っている切り花農家は当然、言葉は悪いですけど、淘汰されていました。現在、数字的には分かりませんけど、相当数のチューリップの切り花生産者は減っております。恐らく私らが始めたときから見ると四〇%以上は減っていると思います。
 じゃ、減った中で、どんなふうにして残った人がやっているかというと、私らは契約栽培の方に向けましたし、あとの方についてはいまだ市場経由でやっていますけれども、ただ、相対だとかそれから予対だとか、いわゆる前もって契約をして市場に提出するという形を取っています。これがこれからの農業に一番必要じゃないかなと私は思っています。ですから、米についてもそういう形になると思います。
 穴田会長が言われました、多様な農家があって当たり前です。多様の中のいわゆる、私から言うとちょっと申し訳ないんですけど、面積の少ない方がやっておられるところについては、農協さんがしっかりフォローされるのはこれは当然だと思うんですけれども、私らにすれば、なかなかそれだけでは対応し切れていないところがありますので、自己開発で自分で売り先を探して、それから売り方も変えてやっているわけなので、先ほど言われました、所得を向上するには農協と私らの知恵とが一番これからはやっていかなきゃならない、個人でもやっていかなきゃならない部分だと思いますので、農協改革で完全に農業所得が上がるとは思っていません。
 以上です。

○紙智子君 もしおっしゃりたいことが追加であるのであれば。

○公述人(穴田甚朗君) 今、鍋嶋公述人がおっしゃった規模の小さい多様な農業者は、規模の小さいのは農協がフォローすると、こういうことでいろいろアドバイスをいただいたわけですが、私どもは、農業者の所得の自己改革の中で、やっぱり規模の大きい人も一体となって、その規模の大きい人には規模の大きい人のニーズがあるでしょう、いろいろ戦略があるでしょう、そういう戦略についてもアドバイスすると。そういうことで、例えば担い手サポートセンター辺りを各県なりにきちっとつくって、そしてもう多様な農業者を全部やっぱり所得を上げるようなことをやろうということを今の自己改革の中で決めておるわけでありますから、そのことを一言申し上げておきたいと思います。

○紙智子君 自己改革というお話もされたんですけれども、これ、先ほど徳永さんがお聞きしたことともちょっと重なることで、私もずっと新聞報道で注目をしていました。
 それで、穴田会長は、その自己改革でいうと、座長を務められて、十一月に改革案をまとめて出されたということだったわけです。
 ところが、その直後に、規制改革会議の農業ワーキンググループの会議が農協の見直しに関する意見書というのをその後に出して、それで、その全中の監査の義務付けの廃止ということや、准組合員利用の規制を早期に導入するということを求めるというふうになったと。
 それで、総選挙も前後したと思うんですけれども、政府の与党の中でもずっと議論をされていたんだと思うんです。最終的に、准組合員利用の規制だとか中央会の扱いが焦点になってきたということが報道されていたわけです。
 それで、ちょっと言いづらいのかもしれないと思うんですけれども、そのときに、二月の八日のときのその記録で、全中が最終的に折れたという報道があったんですね。それで、それを見て、ああ、というふうに思っていたわけですけれども、どういうやり取りがあったのかなというのは新聞紙上ではちょっとよく分からなかったんですけど、ちょっと言いづらいかもしれませんけれども、率直にあえてお聞きしたいんですけれども、いかがでしょうか。

○公述人(穴田甚朗君) 大変言いづらいということは、先生もおっしゃったそのとおりなんですよ。
 ただ、例えば折れたとか負けたとか、これは私は一部マスコミの報道だと思うんですよ。やっぱり、今おっしゃったとおりなんですが、長い間、与党の先生方と我々組織で、どうすれば地域に根差した協同組合がやれるのか、そういうもののせめぎ合いをやっていたわけですよね。
 それで、やっぱり話の中で、仄聞するところにいけば、准組合員制度を取るのか、中央会の一般社団にするのか、どっちなんだと。こういうことだったということで、これも私は当事者ではありませんから定かではありません。でも、一応はそういうふうな形で決められた以上は、やっぱりそれを今から覆すことはできぬわけですから、その中でもっとやっぱりこちらが懸念していることを最大限、法律なり、あるいはその案の附則なり、何か附帯決議なり、省令なりできちっと整理してほしいと、そういう思いで私は今日のこの公述に立っておるわけであります。

○紙智子君 ありがとうございました。
 続いて、鍋嶋公述人にもう一度お聞きしたいんですけれども、農業委員会、農業会議でもあるということなのでお聞きしたいんですけれども、今回、政府としては、公選制を市町村長の任命に変えるという理由の中で、農業委員会の活動が余り評価されていないんだということが一つと、もう一つは、無投票当選が多いからだと。先ほど鍋嶋公述人も言われていたんですけれども。
 それで、私も、国会の質問のときにいろいろ調べたんです。それで驚いたことがあって、それは、一九五〇年代のとき、今から六十年前ですけれども、農業委員会の改革案が議論されていて、それで当時も無投票当選というのが実は七割もあったんですね。だから、当時から無投票当選というのが多かったんだと。
 ところが、そのときの議論の中で、与党の方から出した提案で、無投票が多いのにわざわざ選挙をやってお金も掛かる、だからもうこの際、全部任命制というか選任制にしたらいいんじゃないのかという提案が出されたんだけど、三年間にわたって延々と議論していて、最終的にその結論というのは、いや、しかしそうはいっても、地域の信頼関係だとかということも含めた、任命されるという形もあるんだけれども、やっぱり公選制という形を取ることが、農民の声を代表するという場を続けていく、そういう声を反映するということではやっぱり大事なんだというような結論が出て、当時、それで引き続きやるというふうになったという経緯を発見をして、ああ、そういうことだったのかと。
 つまり、そのぐらい非常に公選制ということの意味するものというのが、いろんな考え方の人が地域にいると思うんですけど、やっぱり反対であっても賛成であってもいろんなことを議論できる場というのかな、そして、やっぱりそういう中で自分が選ばれてなるということが持っている、何というか、公的な立場で自分が対応するということの意識というのを確保していくということからもやっぱり大事だから、今まで続いてきたんじゃないのかなということを改めて思ったわけなんですよね。
 当時、三年間にわたって議論して決まって、今回は法案出されてからまだ四か月なんですけれども、やっぱり余り十分に吸い上げないまま決めていくということでいいのかなということも思いますし、私も徳永さんと同じ北海道なんですけど、北海道の農業会議の皆さんは、これはもう公選制の旗は絶対下ろせないという話をしているんですよ。
 それで、それがあって本当に、農地をどうするかということは財産を扱うことでもあるわけで、やっぱり信頼関係がなかったらうまくいかないというか、話合いが、そういう側面もあったりするので、やっぱりそういう意識を高く持ちながらやっていくということがこれまでもいろんな問題を解決する上では重要だったんだと。ぽっとどこかから来て分からない人がいて、簡単にちゃちゃっとやってしまうとやっぱり問題を起こすし、ハレーションも起こすということでは、そういう長い間培われたものを維持していくということの大事さということを改めて思ったんですけど、こういうことについてはどうなのかなというのもちょっとお聞きしたいなというふうに思います。

○公述人(鍋嶋太郎君) 今ほど先生から五十年前の話を聞いて、私も知らなかったわけなんですけど、確かに、選挙で選ばれたその責任において、それから農業に関する思いにおいてしっかり農業委員としてやっていかれるには、それは公選制がいいのかなと。特に、北海道の経緯があります。北海道、東北については大変今でも公選制について強い意見をお持ちの方は多いと思うんですけれども。
 私、個人的に考えても、確かに五十年前はそうだったかもしれない、ただし、時代の流れの中で、集落、いわゆる地域の中で今任命されるわけなんですけど、任命に持っていくまでの推薦する人選をするときに、それは地域でするわけですから、そのときにしっかりとしたその地域の意見をくみ上げる人、それから農業に関する思いのある方が推薦されるのであれば、私は公選制にこだわることはないなと。
 ただ、その地域の中で一人選ぶのに、実は二人いたと。そういうときには、当然、選挙という話になるかどうかは分かりませんけど、そこでいわゆる二人のうちの一人出すわけですから、そこでのせめぎ合いはあるんでしょうけれども、ただ、お金を使うから云々ではなくて、地域で選ぶ人を推薦するという形であれば当然その代表性を担保できるんじゃないかなと思いますので、これは私の意見でありますけど、今の公選制から推薦制に対しては異議ない意見であります。よろしいですか。

○紙智子君 はい。ありがとうございます。
 それで、時間になったので、あとちょっと宇川公述人、細田公述人にお聞きしたいと思っていたんですけど、端的にお聞きしたいのは、今回、独占禁止法の適用除外がなくなることによる問題の有無を精査して、問題がない場合には株式会社化を前向きに検討するよう促すということになっているんですけれども、今回の改正で全農が選択で株式会社に組織変更できるというふうに規定されているんだけれども、もし株式会社になった場合、影響というか、どんなふうにお考えかなというのを、一言ずつで結構です。

○団長(山田俊男君) それでは、どちらから行きますかね。宇川公述人、そして細田公述人。
 時間があれなものですから、端的にいただきます。

○公述人(宇川純矢君) 財務状況によって相手にしていただけないような状況があるんじゃないかなというふうに思います。
 以上です。

○公述人(細田勝二君) 一番懸念されるのは、私どももその独禁法の除外の問題であります。やはりこれには、どういった組織になろうと、全組合員のものをその産地から売る場合には共計というものも当然必要でありますし、みんなで固まってやろうとしたものが全て壊れるということでありますから、それは農協の理念から外れているんじゃなかろうかなと。ですから、この独禁法の除外だけは、どんなことがあっても、どういう組織になろうとやっぱり確保を考えてもらいたいと、そのように思います。

○紙智子君 ありがとうございました。