<第189回国会 2015年6月17日 地方・消費者問題に関する特別委員会>


農地の転用権限をすべて地方自治体に移譲することは、国の責任後退になる

○地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○地域再生法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 第五次地方分権一括法のうち、農地法並びに農振法についてお聞きいたします。
 今回の改正は国が持つ転用許可権限を全て都道府県に移譲するものです。そこで、今まで国が農地の転用許可権限を持ち続けてきた理由、現在であれば四ヘクタール超は国ですけれども、国が農地の転用許可権限を持っていた理由についてお聞かせください。

○国務大臣(地方創生担当大臣 石破茂君) これは本年の六月三日に参議院の本会議におきまして林大臣が答弁をしておるところでございますが、第一に、四ヘクタール超の場合には農地がまとまって失われるということがございます。もう一つは、それだけの農地が失われるということになりますれば周辺農地における効率的な農業経営の展開に支障が生ずる、そのようなおそれなしとしないと、この二つの理由によりまして国が転用許可権限を行使してきたというふうに承知をいたしております。

○紙智子君 今お答えいただいたんですけれども、大規模な農地転用には国の農業公共投資が実施された優良農地が含まれる可能性が高いということや、食料安定供給の基盤であるということから、地域の実情だけではなくて、開発行為と距離を置いて、全国的な視野に立って判断する必要があるということだったと思います。
 そこで、農地転用許可権限の移譲についてですけれども、転用許可権限の移譲は、転用規制の実効性という点で、市町村の担当部局は議員や住民の圧力を受けやすいことから、地元の利害関係者からは切断された方がより客観的に判断できるというふうに言われてきたものです。農林水産省が地方六団体に示した考え方でも、現場と距離を置いた判断ができる者が行うのが適切だと言ってきました。なぜこうした今までの見解を変えて、権限を移譲するのか。
 地方団体からは、ショッピングセンター新設のための農振除外あるいは農地転用許可は時間が掛かり開店が大幅に遅れたなどと指摘をしています。開発を進めるために農地を転用するケースが各地で生まれているわけです。それで、報道では、ショッピングモールの敷地が四ヘクタール以上に満たないのは一二%にすぎないと指摘をしています。
 今回の改正で優良農地がこうした開発を優先する運用から防げるのかどうか、これについて、大臣、お答えください。

○国務大臣(地方創生担当大臣 石破茂君) 今回は、権限を移譲するものではございますが、規制を緩和をするというものではいささかもございません。それは何度も申し上げておるところでございます。加えまして、食料の安定供給等に必要な農地の総量確保への影響が大きいということを勘案をいたしまして、四ヘクタール超の農地転用許可につきましては、農林水産大臣の協議、すなわち国の一定の関与というものは残しておるものでございます。
 その前提に立って申し上げれば、今回のは規制の緩和ではございません。確かに、権限が移譲されることによってそのような利害関係者との距離が近くなるという事実はございましょう。さればこそ、事例集というものを徹底し、法令の趣旨というものを各団体、移譲を受けた団体に徹底をすることによってそのような懸念を払拭し、今回の利点でありますがところの時間の長大化というものを短縮するということの効果を発現することを主眼としたいと考えております。

○紙智子君 緩和はしないのだということですけれども、農地というのは食料生産のこれは基盤であると。生物多様性や多面的機能の観点からも重要なわけです。ですから、農地の転用というのは慎重であるべきだと。従来の見解を変える必要はないんじゃないかなと、そうするとですね、というふうに思うわけです。
 農地はどんどん減少していると。二〇一一年だけで見ても、転用面積は一万一千ヘクタールにも及びます。一万一千ヘクタールというと、大体東京ドームにすると二千、三千個分ぐらいだということなんですけれども、これだけ減っているわけですね。農地は一旦失われるともうこれ元に戻すのは困難なわけですから、やっぱり入口の規制を緩めるべきではないというふうに思うわけです。
 現在、二ヘクタール以下の転用というのは都道府県の自治事務ですね。農林水産省はこの実態を調査しているわけですけれども、二〇一二年度でいえば、事案数は二千百七十七件です。要改善事案数でいうと三百四十三と。つまり、一五・八%、一割を超えているわけです。自治事務なのになぜこうした調査を農水省がする必要があるのでしょうか。簡潔にお願いします。

○副大臣(農林水産副大臣 あべ俊子君) 委員にお答えいたします。
 平成二十一年の農地法改正におきまして、農業の生産基盤である農地の確保を図るため農地転用の規制を厳格化したところでございまして、この農地転用規制の厳格化の一環といたしまして、都道府県知事が行っている二ヘクタール以下の農地転用事務許可について是正の要求の制度を設けるとともに、前提として、毎年農林水産省におきまして都道府県知事が行う農地転用許可事務の処理状況を把握するため実態調査を行っているところでございます。
 また、この実態調査に関しましては、地方自治法の第二百四十五条の四の規定に基づく資料の提出の要求として行っているものでございまして、自治事務に対する国の関与として地方自治法上認められているものでございます。

○紙智子君 今回の改正で四ヘクタール以下が自治事務になるということです。要改善事案が増える可能性があると。自治事務というのであればやっぱり自治体に任せるべきで、地方自治に介入すべきではないと思うんですけれども、一方、こうした調査をせざるを得ないということであれば、地方自治体に移譲したことがそもそもよかったのかということが問われることにもなると。
 ですから、大臣、これ自治事務にしてよかったんでしょうか。

○国務大臣(地方創生担当大臣 石破茂君) 繰り返して申し上げますが、規制を緩和するものではございませんが、それを自治体に下ろしていくわけでございますから、転用許可を基準に従って適正に運用すると認められ、事務処理体制が整っており、何よりも優良農地を確保する目標を定めるという三つの要件を課すものでございます。
 そういうものを課した場合には、これを自治体が行っても、それは農地転用というものが、野方図にという言い方をしていいかどうか分かりませんが、そういうように基準というものを超えて行われるということは想像し難いものでございます。
 したがいまして、これを、今回のように権限を移譲するということは、それは適切なものであると私は考えております。

○紙智子君 地方の裁量で行う自治事務に介入するのであれば、これは国が関与する仕組みに戻すべきだと思うんですね。
 農地転用許可の権限というのは、これは都道府県に移譲されるだけではありませんね、今回、指定市町村にも移譲されるわけです。指定市町村というのはどういう市町村をいうのか、指定基準について教えていただければと思います。

○国務大臣(地方創生担当大臣 石破茂君) 繰り返しになりまして恐縮でございます。
 指定市町村につきましては、農地を守る意欲と執行体制を備えた市町村について農林水産大臣が指定するということになっております。意欲と執行体制とは何かと申し上げれば、先ほどの御質問にお答えをしたとおりでございます。

○紙智子君 適正な運用だとか農地を守るという点で意欲を持ってということは当たり前のことだと思うんですけれども、新たな制度をつくるのに、これ政令で決めると、政令で決めることになっているわけですね。有識者会議に一任するということになっているんですけれども、これから新しいのをつくるのに、そういう形で一任するということではちょっと納得できないなと思うんです。
 これ、指定基準についてはどうなっているのか示してください。

○国務大臣(地方創生担当大臣 石破茂君) 基準につきましては、これから先、技術的な詳細の要件等につきまして、学識経験者、地方公共団体関係メンバーもメンバーに加えました検討会を農林水産省が立ち上げ、検討を行い、秋頃には結論を得るというふうに承知をいたしております。

○紙智子君 今も言いましたけど、新しいのをつくるのに結局基準も示さないということでは納得いかないんですね。これはもう国会軽視であり、国の責任放棄じゃないのかというふうに言うしかないわけです。
 次に、事務の迅速化についてもお聞きします。農地転用許可の権限を自治体に移譲するのは事務の迅速化を図るためと言われています。現在、標準的な事務処理時間というのは三週間、三週間で六週間と言われています。この事務処理期間は短縮できるんでしょうか。

○副大臣(農林水産副大臣 あべ俊子君) 現行の農地転用許可事務の標準的な事務処理期間、委員がおっしゃるように六週間、これは許可を行う者が農林水産大臣であるか都道府県知事であるかにかかわらず六週間以内となっているところでございます。今回の地方分権改革によりまして、標準的な事務処理期間を変更することは考えておりません。
 一方、許可申請に先立って事前調整が行われることが多いわけでございますが、この都道府県へ移譲されることに伴いまして、事前調整を都道府県が行うことが基本となることでございますから、これらを含めた許可手続に関する期間全体の短縮が図られるものというふうに私ども考えておりまして、農林水産省といたしまして、今回の農地転用許可権限の移譲後も農地転用許可の審査が適切に行われるように、また農地転用許可基準の明確化を行いながら、担当者向けの研修の充実、事例集の作成を行いまして、許可権限の移譲に係る運用状況、これを重点的に把握をし、必要に応じて是正措置をとるよう求めていくことにより、農地転用許可制度の適切な運用を図ってまいります。

○紙智子君 今のお答えでいいますと、これまでやってきたような事務処理期間は変わらないということですよね。ですから、迅速化を図るためにこれ審査の質を落とすことがあってはいけないと思うんですよ。やっぱり現地に行ってちゃんと確認をしてやるということについて、短くすることでこれをもう軽く扱うことはやっぱりあってはいけないというふうに思います。
 今回の改正は地方六団体の要望だということが強調されているんです。しかし、地方の要望だけなのかなというふうに思うわけですね。つまり、財務省の財政制度分科会に主計局が出している論点には、水田の供給力の過剰や将来の人口動態、地域のニーズを勘案すれば、農地転用規制を含めて農地総量確保の在り方を見直す余地があると、つまり、農地を減らしてもいいかと受け止められかねない論点も示しているわけですね。
 それから、農林水産省について言えば、食料自給率目標、この間、五〇%から四五%に下げるということがあるわけです。元々、農業基本法の考え方というのは、これ国内の農業生産の増大を図ることを基本とするということですよね。それなのに、農地を減らしていいとか、食料自給率の目標を下げてもいいということではないと思うんですよ。地方六団体の要望を前面に出しているんだけど、私は、これは財務省や農林水産省の消極的な姿勢にそもそも問題があるんじゃないかと、そのことが本改正案で一番実は問われていることだというふうに思うんですけれども、この点についての大臣の見解を伺います。

○国務大臣(地方創生担当大臣 石破茂君) 私は、これが財政の論理によってこういうことになってきたとは思っておりません。農地の転用ということを除きましても、耕作放棄地というのはどんどん増大をいたしておるわけでございます。それは、今回、農地の転用というものについてるる申し上げておりますように規制を緩和するものでもございません。それぞれの自治体において農地をどれだけ確保するかということについて明確な目標がないものは、その対象自治体たり得ないものでございます。
 そういたしますと、どんどん農地を減らして財政に寄与するとか、あるいは食料自給率の低下というものを許容すると、そういうことだと私は考えておりません。我が国において食料自給率、私は自給力という概念の方が大事で、自給率というのは消費者の動向によって幾らでも変わり得る数字でございますから、むしろそれは政策目標たり得ても、そのこと自体が自己目的だと私は全く考えておりませんが、自給力というものを維持するという考え方はいささかも変更がないというふうに考えております。
 財政の論理でもなければ農政当局の論理でもございません。それはあくまでも地域におけるより有効な土地の活用というものを考えておるものであり、農地の確保というものは当然のことでございます。

○紙智子君 この問題は私は農水でもやっていきたいと思いますけれども、今回の改正は、国が持つ農地の転用許可権限を全て地方自治体に委ねるものです。しかも、農業委員会の公選制、一方では、片方の農水委員会では、この公選制を廃止をして自治体の首長の任命制に変えようということであります。
 農地は食料生産の基盤だと、食料自給率を高めていくためにも、多面的機能という観点からも、やっぱり国が責任を持たなきゃいけないというふうに思うんですね。今回の改正案は、そういう点でいうと、国が果たすべき責務、役割を後退させるものではないかというふうに言わざるを得ません。そのことを申し述べて、質問を終わります。