<第187回国会 2014年11月6日 外交防衛委員会>


日豪EPAは、「自動車関税撤廃と引き換えに、食料主権をないがしろにして国内農業を窮地に陥れる」と抗議

○経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定の締結について承認を求めるの件
 (内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 日豪EPA協定について、外務大臣にお聞きします。
 日豪EPAは、協定案を見れば見るほど、これ日本の国益に反する重大な協定ではないかというふうに思います。そこで、冷凍牛肉の関税率ですけれども、締結後二年間で一〇%も引き下げられると。冷蔵牛肉の関税率も締結後二年間で七%引き下げられるわけですけれども、なぜ、これ均等の引下げでやるのではなくて、この最初の二年間に急速に関税率を引き下げることになったのか、その理由について明らかにしていただきたいと思います。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君 ) 日豪EPA交渉においては、この牛肉について豪州側から当初よりこの関税撤廃を強く求められていた中、我が国としては、衆参農林水産委員会の決議をしっかり受け止め、畜産業の構造改革の努力に悪影響を与えないよう十分留意しつつ、粘り強く交渉したところでありました。
 その結果として、この最終関税率に関して、国産牛肉への影響の差を考慮して冷蔵と冷凍の間に四%の税率の差を設けるとともに、冷蔵牛肉は十五年、冷凍牛肉は十八年と長期間にわたる、長期間掛ける段階的削減とする、こうしたことを確保した次第でした。また、冷蔵、冷凍牛肉それぞれについて、一定量以上の輸入量となったときに関税率を現行の三八・五%に戻す効果的な特別セーフガード措置を確保した次第です。
 関税率の下げ幅につきましては、交渉の結果決定されたものでありますが、今申し上げましたように様々な努力をし、そして特別セーフガード措置もあり、関税削減に伴い豪州からの牛肉の輸入が近年の実績を超えて急増する事態は回避できるものと考えております。日豪EPAの交渉結果、これは国内畜産業の健全な発展と両立し得るものであり、我が国として受け入れられるものであると考えております。

○紙智子君 今私がお聞きしました、締結後二年間で急速に下げる、均等じゃなく、一〇%、七%下げた理由についてはおっしゃらなかったんですけれども。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君 ) 御指摘の点も含めて、先ほど申し上げましたような様々な相手方との交渉、やり取りがございました。そして、その中において、我が国としてはこの冷凍、冷蔵の間の税率の差、あるいは長期間の確保、あるいは特別セーフガード措置等を確保いたしました。そして、今御指摘の点につきましては、この交渉の結果でありますが、それも含めて我が国としまして国内畜産業の健全な発展と両立し得る、こういった結果を確保できたと認識をしているところです。

○紙智子君 十五年、十年掛けて少しずつ下げていくのでその間にいろんな対策をするから余り影響はないんだ、大丈夫なんだという宣伝をされているんですけれども、一遍に下げられるわけですよ。それで、今おっしゃらなかったんだけど、結局、オーストラリア側の要望であるということは、これは明らかなんだと思います。
 豪州の食肉家畜生産者事業団は次のように述べていますね。豪州産冷凍及び冷蔵牛肉への関税削減は前倒し的に実施されます。つまり、大幅な引下げが協定後の最初の数年間で導入されることになります。また、重要なことは、豪州産冷凍牛肉に係る関税は、協定一年目に八%、冷蔵牛肉においては同じく一年目に六%引き下げられます。これは、日豪貿易協定発効の最初の年に貿易環境に大幅な変化がもたらされることを意味しておりというふうに極めて端的に述べているんですけれども、いかがですか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君 ) 関税の引下げという点については、御指摘のように、様々な評価、見方はあると思います。しかし、この日豪EPAの影響については、それ以外の様々な要素、これを総合的に判断した上で影響を考えていくべきだと考えています。先ほど申し上げましたこの冷凍と冷蔵との間の税率の差ですとか、長期間のこの期間の確保ですとか、特別セーフガード措置など、これらと併せて関税の問題も考え、そして全体としてその意味を考えるべきだと考えます。その全体として、我が国として国益を守るべく最大限交渉に努めたということでございます。

○紙智子君 そこでお聞きしたいんですけれども、仮に協定が一月に発効するとしますと、来年の三月三十一日までが一年目ということですよね。来年の四月一日が二年目に入るわけですね。来年の四月一日から、豪州産冷凍牛肉が関税率一〇%下がる、冷蔵肉は関税率七%下がることになるというふうに思いますけれども、いかがでしょうか。ちょっとこれ確認したいと思います。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) この協定、日豪EPAにつきましては、国会で今御審議をいただいておりますので、政府の側から協定の発効の具体的な時期について言及することは差し控えさせていただきます。
 その上で、今委員御指摘のとおり、協定の規定に照らして申し上げます。仮に協定が今年度中に発効した場合、一回目の関税引下げは協定の発効日、二回目の引下げは来年四月一日となります。その場合には、これも委員御指摘のとおり、二回目の引下げの際に、冷凍牛肉は現行より一〇%、冷蔵牛肉は現行より七%関税が引き下がることになります。

○紙智子君 要するに、来年の四月一日から、日本の乳雄の牛肉と競合する豪州産冷凍牛肉の価格が一〇%下がると。冷蔵肉は七%下がるわけですね。当然これ、国内牛肉の価格が引きずられて同様に下がることになるというふうに思います。
 今年の四月三日の日豪EPA全国要請集会で、自民党の農水戦略調査会長の中谷元衆議院議員がこう言っています。牛肉関税を引き下げれば、最も影響が大きいのはホルスタインの雄だが、我が国は有畜複合農業であると、基盤が失われれば地域への打撃は大きいというふうに述べたことが報道されましたけれども、私もまさにそのとおりだというふうに思うんです。
 それで、外務大臣はそのことについてはどう受け止められますか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君 ) 豪州産の牛肉については、冷凍牛肉は国産牛肉がほとんど用いられていないファストフードや加工等に主に仕向けられており、また冷蔵牛肉は、国産のホルスタイン牛肉とも若干競合しますが、主として米国産牛肉と強く競合していると聞いております。
 豪州産牛肉の価格の低下が国産牛肉の価格及び生産者の収入に与える具体的な影響については、関税だけではなくして、他の外国産牛肉の輸入状況ですとか、景気動向ですとか、為替動向ですとか、様々な要因が影響を及ぼすので、予測すること、大変難しいところですが、いずれにしましても、この日豪EPAは、先ほど申し上げましたような長い期間ですとか、特別セーフガード措置ですとか、一定の柔軟性を得ることができた結果、我が国の畜産、酪農の存立及び健全な発展が図っていけるような内容になったと考えております。

○紙智子君 アメリカの方が競合するという話があるんですけれども、私の出身北海道ですが、ここは酪農をやっている農家は、要するに乳雄ですね、これを子供のときに肥育して、そして肉牛にしていくわけですよ。例えば、全部乳牛としてもう乳を搾った雌牛などもやっぱり肉牛に回していくわけですね。そういうところとオーストラリアから入ってくる肉とがちょうどバッティングするという形になるわけですよ。そうすると、価格が暴落して、今までは副収入として得ていた酪農家の収入が得られなくなってしまうという可能性が大なわけですね。だから、みんな深刻に思っているし、もしこれが進むことになれば本当に続けられないと、そういう声を上げているわけですよ。ですから、緩和されるんだという話を盛んにされるんだけれども、決してそうじゃないんだということを是非知っていただきたいというふうに思うんですね。
 来年四月から牛肉関税の大幅引下げ、これになぜオーストラリア政府がこだわったのかと。そこに私はTPP交渉とのリンクが見えてくるわけですね。早いうちにこの牛肉の関税を大幅に下げさせておいて、あとはTPPで更に大幅な引下げないし関税撤廃をさせればいいわけですよ。
 そこでお聞きしますけれども、この協定の第一・十一条の他の協定との関係というのがありますけれども、この中で、この協定とその他の協定とが抵触する場合には、両締約国は、相互に満足すべき解決を得るために直ちに相互に協議すると書いていますけれども、その他の協定という中には、当然これはTPPも含まれますよね。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) ただいま委員が言及をなさいました日豪EPA第一の十一条には、日豪EPAと世界貿易機関設立協定又は両締約国が締結しているその他の協定とが抵触する場合には、両締約国は、相互に満足すべき解決を得るために直ちに相互に協議すると規定しております。ここで言うその他の協定とは、両締約国が締結している日豪EPA以外の協定であります。したがいまして、TPPが日豪双方について発効すれば、理論的にはTPPはここに言うその他の協定に該当することになります。

○紙智子君 つまり、このTPPが結ばれるということになると、それに基づいてこの条項が使われるということですよね。
そうすると、TPPで日本とオーストラリア以外の国との間で更に例えば関税の引下げだとか、そういったことが議論になったときには、それについて合わせるための見直しなり、そういうことがやられるということですよね。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) TPP、現在交渉中でございますので、交渉の結果を予断することは差し控えさせていただきますが、その上で申し上げますと、一般論として、日豪EPAとTPPは異なる協定でありまして、両者の間に法的な優劣関係はありません。また、一方での合意内容が他方の協定に自動的に反映されるものではありません。
 特に、委員御指摘の関税率ということで申し上げますと、仮にTPPにおいて日豪EPAと異なる関税率が定められたといたしましても、TPPと日豪EPAは法的に両立可能であります。したがいまして、第一の十一条2に言う抵触が生じてはおりません。したがって、この規定に基づく協議の対象にはならないと考えております。

○紙智子君 もう一つお聞きしますけれども、第二の二十条の市場アクセス及び競争力の保護に関する見直し規定、ここでも、日本が第三国との国際協定に基づいて当該第三国に対して与えた特恵的な市場アクセスの結果として、1に規定する原産品の日本国の市場における競争力に重大な変化がある場合には、オーストラリアの当該原産品に対して同等の待遇を与える観点から見直しを行うというふうにしていますけれども、この問題でも論理的にはこの国際協定にTPPも対象になりますよね。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) 委員御指摘のとおり、日豪EPA第二の二十条に言う国際協定にはTPP協定も含まれ得ると考えております。
 しかしながら、一点補足をさせていただきます。仮にTPP交渉が妥結しTPPが発効したとしても、TPPにより第三国に与えた特恵的な市場アクセスの結果として豪州産品の日本市場における競争力に重大な変化がない限り、この第二の二十条に言う見直しの協議の対象とはなりません。また、仮に見直しの協議が実際に行われることとなったとしましても、当然のことでありますが、その協議の結果は何ら予断されているものではございません。

○紙智子君 しかし、協議の結果、可能性としてはどうにでもなるということはあるわけですよね。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) まさに協議の結果は予断をされておりませんので、それはいかなることもあり得ると。しかしながら、先ほど来外務大臣が御答弁申し上げているとおり、政府といたしましては、国内産業への影響等をしっかりと見ながら適切に交渉に臨んでまいりたいと考えております。
 また、さらに、見直しの結果というものは、当然でございますけれども、国会にお諮りをすることになるわけでございます。

○紙智子君 さらに、第十四・十九条の投資の見直し、ここでも、この協定の効力発生の後にオーストラリアが他の二国間又は多数国間の国際協定であって、オーストラリアと他の当該国際協定の当事国の投資家との投資紛争解決のための仕組みを規定するものを締結した場合にも、この協定の下に同等の仕組みを設立するため1に規定する見直しを行うとありますけれども、この多数国間の国際協定というのは、TPPは対象になりますよね。

○政府参考人(外務省経済局長 齋木尚子君) 委員御指摘のとおり、理論的には、この協定第十四・十九条に言う多数国間の国際協定にはTPP協定も含まれ得ると考えております。

○紙智子君 今、それぞれ聞いてきましたけれども、仮定ではあるけれども、しかし肯定をされているということだと思います。
 それで、日豪EPAの投資の規定ではISDが導入されていないわけですけれども、そのため、ISDの導入を検討しているTPPが成立したならば、それに合わせるという規定だと思います。ここでも、今回の日豪EPAがTPPとリンクすることを想定していることが明らかだというふうに思うんですね。
 それから、今回の日豪EPAは、日本市場における豪州産の牛肉と市場を争っている米国産牛肉の競争条件の悪化を招くもので、米国政府のTPP交渉での譲歩を日本政府は狙って豪州とのやり取りをしたという報道もありましたけれども、米国政府は全くそれについては意に介さず、日本に対して強硬に農産物の関税撤廃の姿勢を崩していない現状にあると思います。その点では、日本政府の思惑というのは外れたんじゃないかなというふうに思っています。
 結局、日本自動車工業会会長の豊田章男氏が、今回のことについて、大筋合意したことを歓迎するというふうにおっしゃっています。自動車業界としても、本協定を生かしてお客様のニーズに合った商品、サービスをより幅広く提供するという談話を発表しました。一方、北海道の農業団体が、これにより、道産牛肉の価格の低下など、本道の肉牛生産や酪農などに大きな影響が及ぶことが懸念されるという見解を発表しているわけです。
 このように、これまで農産物の輸入自由化の歴史というのは、自動車などの工業製品の輸出のために日本農業が犠牲になるという歴史が再び繰り返されようとしているんじゃないか、それが今回の日豪EPAであり、それを更にTPPにつないでいこうとする協定ではないかというふうに思うんですけれども、外務大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君 ) まず、今回の日豪EPAの交渉につきましては、我が国は、畜産、酪農の存立及び健全な発展が図っていけるような内容になるよう努力をし、そのような内容を実現したと考えておりますが、政府としましては、日豪EPAの締結の結果、影響に留意しつつ、生産者の皆様が引き続き意欲を持って経営を続けられるよう、畜産、酪農について構造改革や生産性の向上による競争力強化を推進していく方針であります。
 そして、TPPにつきましては、今、交渉が引き続き続けられています。この内容につきましては今の段階で具体的なものを申し上げることは控えなければいけませんが、国益を確保するために全力で交渉に取り組んでいかなければならないと考えています。

○紙智子君 総合的に見れば日本の経済に、その発展に寄与するという発言を繰り返し大臣されているんですけれども、先ほど紹介した中谷さんのお話からいっても、やはり地域経済などを支えている一次産業にとっては大変大きなこれダメージを受けることになるわけですね。
 本当にこの経済の成長ということでいえば、やはりこうした一次産業にダメージを与える、まあ与えないようにいろいろなことが取られているとは言うんですけれども、実際にはそれは何ら担保されるものではない、証明されていないわけですね。そういう中で、こうした形で、それが実際の影響としてもどういう影響が出るのかということについても発表されていないという中で判断をしてこれに入っていくということ自体、私、本当にこれは許されないことだというふうに思うわけです。
 それで、これまでの歴史で見ても、WTOのときもそうですけれども、農産物についてはやはり輸入自由化でもって大きな価格下落ということの中で非常に後退していく、地方が疲弊するということにつながっていったわけで、またそのことを繰り返すことになるんじゃないのかと、そういうことがあってはならないというふうに思うんですけれども、これについて大臣のお考えをお聞きしたいと思います。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君 ) まず、こうした経済連携交渉におきましては、我が国国内の一次産業を始めとする様々な産業の存立ですとか健全な発展、こういったものをしっかり念頭に置きながら交渉に臨んでいかなければなりません。そして、その結果をしっかりと出さなければならないと考えています。そして、その上で、引き続き国内の様々な産業の状況については注視をし、そして必要であるならば、国内において構造改革あるいは生産性の向上に向けて様々な施策を政府として打ち出していく、こうした責任があると考えます。
 是非、こうした外交交渉の努力、そしてその後の国内における様々な政策、こういったものを併せることによりまして、しっかりと国益を確保するべく努力をしていかなければならないと考えます。

○紙智子君 私は、安倍内閣が、今度の臨時国会でも、地方創生の、そういう国会にするんだという話がありましたけれども、やられていることは全く逆だというふうに思うんですね。
 実際に地方創生、活発にする、元気にするということのためには、今行われている一次産業の各分野で、本当にこの価格下落の中で大変な苦境に置かれているわけで、そこに対しての対策や何かを取らずに、より一層それを悪化させるような、農産物でいえば関税を引き下げていくと。
 それから、実はEPAもリンクするTPPということにもつながっていくわけですけれども、これによってその先行きについては全く先が見えないというふうに、現に全国各地でそういう不安を持っているし、それから、これまでも何度かにわたって地方議会で決議を上げる、あるいは意見書を上げてきているわけで、そういうことがちゃんと解明されて大丈夫だということにならない中で、影響調査も示されない中で今回こういう形でEPAに入っていくということには強く抗議を申し上げて、今日の質問を終わりたいと思います。