<第186回国会 2014年6月12日 農林水産委員会>


農政改革二法は、環太平洋連携協定(TPP)を前提に、農業の「構造改革」を推進し、農業、農村に選別を持ち込むもの

○農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律案に対して反対の立場で討論いたします。
 反対の第一の理由は、この法案がTPP対応の安倍農政改革実施法案であるということ。
 安倍内閣は、二〇一三年六月に日本再興戦略を閣議決定し、その中で、国際展開戦略としてTPP協定交渉に積極的に取り組むことにより、アジア太平洋地域の新たなルールをつくり上げていくとTPP推進を明記しました。そして、総論で、農業については、農業、農村全体の所得の倍増を達成するためには農業生産性を飛躍的に拡大する必要がある、そのためには、企業参入の加速化等による企業経営ノウハウの徹底した活用、大胆な構造改革に踏み込んでいく必要があると企業参入の加速化と構造改革に踏み込むことを打ち出すとともに、今後十年間で全農地面積の八割が担い手によって利用され、産業界の努力も反映して担い手の米の生産コストを現状全国平均比四割削減し、法人経営体数を五万法人とすることを決めました。この方針の下で策定されたのが本法案です。
 安倍農政改革により企業参入が促進され、家族経営と地域農業が一層困難になっていくことは明らかであり、日本の農業は一層弱体化していくことになるでしょう。本法案はその方向を推し進めるものであり、認めることはできません。
 反対の第二の理由は、交付金の交付対象を全ての販売農家から認定農業者、集落営農、認定就農者だけに絞り込む点です。
 本法案では、自民党型経営所得安定対策として、経営所得安定対策に大胆な構造改革を持ち込みました。それは、畑作物の直接支払交付金の交付対象者を、これまで販売農家に全て交付していたものを、二〇一五年産から認定農業者、集落営農、認定就農者だけに交付対象を絞り込むとともに、米、畑作物の収入減少影響緩和策についても同様の措置を導入することにしたものです。これにより、交付対象農家数は八万三千八百四十八戸から三万八千五十三戸へと半減以下となります。このような選別を進める法改正は食料自給率にも逆行するもので、認めることはできません。
 それに加え、交付基準の変更で、生産条件不利補正交付金について、数量払いを基本として面積払いをその内金とする方式に変更しました。これによって、これまで生産を継続してきた産地で中山間地のような必ずしも適切でない地域では、十分な生産数量を確保できないため、数量払いではこれまでより交付額が削減されることになり、所得の補填機能が弱まり、中山間地域農業に打撃を与え、賛成することはできません。
 さらに、多面的機能促進法案についてです。
 これに反対する第一の理由は、本法案が担い手への農地の集積、規模拡大を図り、担い手経営安定対策法案と一体に農業の構造改革を促進するものだからです。
 多面的機能支払は、担い手が経営規模を拡大すれば、生産コスト、流通コストの削減に手が取られ、水路や農道等の管理が大きな負担になることから、担い手の負担を軽減する地域住民の共同活動を支援するものですが、質疑を通じて、政府は、担い手以外の農業者に役割分担を求め、農業の構造改革を推進するものであることを認めました。
 今、農業者が求めているのは、農業を支えてきた集落の社会的つながり、コミュニティーを維持することです。本法案は、農地、集落を維持するために苦労している農業者の期待に応えるものではありません。
 第二に反対する理由は、生産活動と切り離した支援では多面的機能が発揮できないからです。
 農業の生産活動が縮小すれば、耕作放棄地や鳥獣被害、廃棄物が増え、災害が発生し、影響が下流域に及ぶこともある。過疎化が進み、集落が限界集落化すると、農業の多面的機能を発揮することも困難になります。
 参考人質疑では、国土保全対策など農業政策以外の部分は上乗せすべきであって、産業政策と地域政策を分離する議論はやめるべきだ、この法律では中山間地域の農業は支え切れないという指摘がありました。
 本法案による多面的機能支払は、農地を担い手に売却あるいは貸し出した元農業者が水路や農道等を管理する共同活動を支援するものですが、事実上、離農後の失業対策事業になりかねず、元農業者の活動意欲が低下すれば逆に担い手の負担が増え、生産活動に支障が出ることが予想され、世代交代が進めば地域の共同活動が成り立たなくなる可能性があります。
 最後に、日本が飢餓、貧困問題に直面する国際社会に貢献するために食料自給率を上げることは喫緊の課題であり、そのためには多様な家族農業を担い手と位置付け、それを支える生産者組織、農協が重要な役割を果たしていることを指摘し、反対討論といたします。