<第186回国会 2014年6月12日 農林水産委員会>


「民間企業が障壁なく農業に参入する」(ダボス会議)との発言は、安倍農政改革をわかりやすく説明したもの/安倍総理

○農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、せっかくの総理への質問ですので、是非総理御自身の言葉でお答えいただきたいと思います。
 TPP交渉についてお聞きします。
 政府は、日米協議の現状を一進一退としていますけれども、重大なのは農産物輸入の関税の大幅引下げを前提に具体的条件を詰める交渉になっているということです。四月の日米共同声明は、前進する道筋を特定したとして、甘利担当大臣は方程式は合意されたと述べました。しかし、今その方程式すら崩れかねない状況です。
 そこで、安倍総理御自身にお聞きしますけれども、四月二十三日の、オバマ米大統領と銀座、次郎ですし会談を行った際に、豚肉の関税、差額関税制度についてオバマ大統領が示した撤廃策を安倍総理が受け入れたと、それによって一律の従量税の税額を引き下げる検討がされることになった。つまり、最も安い豚肉の場合、一キロ最大四百八十二円の税率、これを十五年程度掛けて数十円に下げるというふうになっているという報道があるんですけれども、これは事実かどうか、お答えください。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 今委員が御指摘になったのは五月二十日付けの東京新聞の記事ではないかと、このように思うわけでございますが、この記事自体は、これは間違いでございます。そのような事実はないということは申し上げておきたいと、このように思います。
 いずれにいたしましても、国益を守るために、守るべきものは守り、そして攻めるべきものは攻める、国益の最大化を図るべく努力をしていきたいと思っております。

○紙智子君 事実ではないと。ただ、オバマ大統領といろいろやったことは事実だったんじゃないのかというのもありますけれども。
 もう一つ、併せて聞きます。
 四月の共同記者会見で、オバマ大統領が、日本経済は農産品と自動車分野で市場の開放度が制限されている、今こそこの問題を解決すべきだと日本に迫りました。米国ではその後も、米国の畜産業界などを始めとする団体は、日本が関税維持に固執するんだったら日本抜きに妥結すべきだという声明を出しています。牛肉や豚肉の関税率の更に引下げに応じるように要求をしてきているわけです。
 安倍総理は米側の譲歩に期待を掛けているかもしれませんけれども、米国の業界の圧力とともに、TPPに米議会の支持を取り付けなければならないオバマ政権は、協議の都度、したたかに日本に圧力を掛けてきていると思うんです。この先、米国、中間選挙もある中では日本に譲歩するなどはあり得ないんじゃないかと。にもかかわらず、安倍総理は、TPPは断固たる日本の進路だというふうにおっしゃって、TPPの早期妥結に向けて協力すると言われている。非常に急いでおられる。
 急いでいるのは総理だけではないかと思うわけですけれども、豚肉の関税引下げが事実であれば、これ、そういうやり取りがされたということであれば、公約にも国会決議にも反すると。重要五品目などの聖域の確保を最優先にして、確保できないと判断した場合は脱退も辞さないというこの国会決議の立場を堅持して、脱退すべきではありませんか。いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 再三答弁をさせていただいておりますように、農水委員会の決議を重く受け止め、国益をこれ最大化するために今一生懸命交渉を続けているわけでございます。
 繰り返しになりますが、TPPというのはアジア太平洋地域に大きな経済圏をつくるわけでありますが、これは市場アクセスのみならず、ルールの問題についてもしっかりと決めていくという、新しいこれは経済圏をつくっていくということになるわけでございますので、今その中におきまして、日本はまさに主導的な役割を担いながらこの取りまとめを進めているところでございます。
 我々といたしましても、そうした機運を失わないうちにしっかりと妥結を目指していきたいと、このように考えております。

○紙智子君 アジア全域にというお話をすぐされるんですけれども、しかし、事は、これ関税がなくなって安い豚肉が入ってきた場合に、日本の養豚農家は潰れてしまうんですよ。潰れるんですよね。
 総理、そのことを自覚しているかどうか分かりませんけれども、大体あなたは、聖域を守れるからといってTPPに参加したわけじゃないですか。これはもう今関係ないんでしょうか。聖域を守れるから入るんだというふうにおっしゃったわけですけれども、いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 我が党の公約は、聖域なき関税撤廃を前提条件とする以上交渉には参加しないということでありますが、農業におけるセンシティビティーについては米側も認めたわけでありまして、それは昨年の日米の首脳会談においてそうでございました。そこで、それも文章化した中において我々は交渉に参加をしたわけでございます。
 交渉を進めていく上におきましては、当委員会の決議もあることでありますから、それをしっかりと受け止めながら現在交渉を進め、今最終段階に至っているところでございます。

○紙智子君 今の御発言は、誰が聞いても納得できないですよ。そんな状況じゃないんですから。
その上で、次に、あなたが目指す日本の農業について伺います。
 総理のスイス・ダボスでの発言ですけれども、四十年以上続いてきた米の減反を廃止します、民間企業は障害なく農業に参入し、作りたい作物を需給の人為的コントロール抜きに作れる時代がやってきます、日本では不可能と言われていたことです、いかなる既得権も私のドリルから無傷ではいられないと演説されました。これに対する不信感は大変大きいものがあります。
 そこで伺いますけれども、法人経営ではなくてですね、あなたが世界に向けて発信した、民間企業が障害なく農業に参入し、作りたい作物をコントロール抜きに作れる、これ、どういう意味でしょうか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) ダボス会議におきまして、安倍内閣が昨年終盤に決定した改革について紹介をしたところでございますが、その一例として、民間企業が障壁なく農業に参入をし、作りたい作物を需給の人為的コントロール抜きに作れる時代がやってきますと、このように申し上げました。
 農業への企業参入については、平成二十一年の農地法改正によるリースの解禁で、株式会社のままでも自由に参入できることとなっております。昨年の臨時国会で関連法が成立をした農地集積バンクによる農地の集約によって、こうして参入した企業も含めて、さらに効率的な農業経営を展開をし、農業の生産性向上が図られるものとなっています。
 また、米の生産調整においては、これまで行政が配分する米の生産数量目標に従って農業者が作物を作っていたものを、農業者がマーケットを見ながら自らの経営判断で作物を作れるようにするとともに、需要のある米、大豆、飼料用米等の生産振興を図ることによって、言わば農地フル活用を図り、食料自給率と食料自給力の維持向上を図っていくこととしております。
 ダボス会議においてはこうした趣旨を分かりやすく述べたものであり、これらの施策を着実に進めることによって農業を成長産業としていきたいと考えています。

○紙智子君 全然分かりやすくないんですけれども、その今おっしゃったことが、果たして今、日本に求められていることなんだろうかと私は思います。
 これまで何度も取り上げてきたんですけれども、今年は国際家族農業年だと。家族農業の役割や意義を再評価して、これを重視していこうということが呼びかけられているわけですけれども、私は政府が真面目に取り組んでいるとは思えないわけですね。幾ら予算を付けたのかということに対しても、先日も本会議で質問をしましたけれども、総理からは答えがありませんでした。それは、安倍総理が家族農業を応援するのではなくて、企業参入を中心とした農政改革を進めていくからではありませんか。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 家族農業年のお話はここでも何度か議論させていただいておりますが、この広報に努める。また、先般来、フランスの農業大臣との間でも、フランスの決議に署名する等、発信に努めておるところでございます。
 車の両輪ということで、家族農業も含めた地域政策、多面的機能はまさにそのためにあるわけでございますし、それと成長産業にしていく産業政策と車の両輪でしっかりと取り組んでまいりたいと思っております。

○委員長(野村哲郎君) 紙智子さん、時間が来ておりますので、おまとめください。

○紙智子君 はい。
 最後も総理にお答えをしていただきたかったんですけれども、残念ながらお答えなかったと。
 多様な担い手を支援をしてやっぱり農業者の生産意欲を高めていくことや、食料自給率を本当に高めることを軸にして日本の農業を発展させるということが今最も必要だということを強く申し上げて、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。