<第186回国会 2014年5月15日 農林水産委員会>


安倍内閣が進める「農政改革」は、日本の農業・農村を崩壊に導きかねないと批判

○農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。お疲れだと思いますけれども、最後になりますので、頑張っていきたいと思います。
 農政改革二法案と安倍農政改革について質問いたします。
 安倍農政改革は、昨年六月の日本再興戦略に基づいて、昨年の農地中間管理機構法に引き続いて、今回の農政改革二法案が提出されているわけです。日本再興戦略は、これは言うまでもなくTPP対応の農政改革を打ち出したもので、日本の農業、農村に対して様々な深刻な影響を与えるということが必至ですし、もう既に全国各地で不安や混乱が渦巻いているということです。
 それらについて一つ一つ質問していきたいと思うんですが、やはり食料自給率の問題は非常に大事な問題だと思っていまして、ちょっと今の山田先生とは逆方向からの議論になると思いますけれども、質問をしていきます。
 日本再興戦略でこの食料自給率については一言も触れていないと。それで、これについて昨日の本会議において私、指摘したわけですけど、それに対して安倍総理の答弁は、経済成長を確実に実現するための規制改革、予算、税制などをパッケージで打ち出したものなんだということで、自給率を書き込まなかったということについてはおっしゃらなかったんですね。
 一方、食料・農業・農村基本法が成立して以降、日本農政として、食料・農業・農村基本計画に基づいて食料自給率目標を定めて、その目標達成のために様々な政策を動員してきたわけです。現在の基本計画でも、二〇二〇年までに食料自給率五〇%にするということを定めていると。
 そこでお聞きするんですけれども、この農政改革二法案は食料自給率五〇%目標を達成するために策定されたのかどうか、これについていかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 平成二十二年に策定をされました現行の食料・農業・農村基本計画、これは、今お話がありましたように、自給率目標として平成三十二年度でカロリーベース五〇、生産額ベース七〇、この目標を定めたところでございます。
 先ほども御議論があったように、この目標は関係者の最大限の努力を前提とした目標でございまして、生産面では、需要のある飼料用米、麦、大豆等の自給率の低い農産物の生産振興を図る、それから消費面では、国産農産物の消費拡大、地産地消の取組等、生産と消費の両面にわたって取組を推進すると、こういうふうにされております。
 今回の農政改革二法案のうち、担い手経営安定法改正案、これにつきましては、諸外国との生産条件の格差からコスト割れが生じている麦、大豆等の生産を担う担い手の経営安定を図ることによって、まさにその生産維持拡大を通じて食料自給率の向上に資するものと、こういうふうに考えております。
 また、多面的機能発揮促進法案についても、地域における共同活動を通じて農地、水路等の機能の維持保全、これを図るものでありまして、国産農産物の生産拡大の前提になる生産基盤の維持向上に資するものと、こういうふうに考えております。
 したがいまして、食料自給率の向上、これは生産、消費に係る多くの施策を通じて図られるものでありますけれども、今回の農政改革二法案もこれに寄与するものと、こういうふうに考えております。

○紙智子君 今いろいろお答えの中で、食料自給率の問題でいうと、それに資するものだというふうには言われたんですけれども、実際にはそうなっていないんじゃないかというふうに思うわけですね。基本計画では目標を五〇%と決めていたけれども、この二法案の中身についていうと、そうなっていないんじゃないかと。
   〔委員長退席、理事山田俊男君着席〕
 例えば、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律案では、自給率向上のために不可欠な大豆、小麦、畑作物の直接支払交付金について、これまで予算措置で販売農家全てに交付してきたものを、この法の改正によって予算措置による上乗せ措置をやめて、交付対象農家を販売農家から絞り込むわけですよね。今度は認定農業者、集落営農、認定就農者ということに絞り込むということになりますから、結局それら以外の販売農家は切り捨てられることになるわけです。
 これによって対象農家数は、これは二〇一三年産で、今まで支給されてきた販売農家というのは八万三千八百四十八戸だったわけですけれども、これが絞り込まれて三万八千五十三戸にということですから、半分以下になると、認定就農者はこれからなんですけれども、以下になると。こうなっちゃいますと、食料自給率の拡大のために必要な大豆や小麦や、生産拡大に逆行することになるんじゃないかと。
 ちょっと資料をお配りしているんですけれども、資料の一番最初のページを見てほしいんですけれども、これ農水省が出されているものですけれども、そこにあるように、国産農産物の利用拡大の矢印が付いている図がありますけれども、このように小麦八十八万トンを百八十万トンにしようと、大豆は二十六万トンを六十万トンにしようという、現在の基本計画に基づいてこの生産拡大をしようということになっているんだけれども、これできなくなるんじゃないかと、減っていくわけですから。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) これは、この法律によって担い手に対してやっていこうと、そして、この担い手について先ほど来議論がありますように集落営農そして新規の就農者こういうものも含めてやっていくということでありますので、そういう方がしっかりと需要のあるものを農業を主業としてやっていただく中で自給率の向上に資するものと、こういうふうに考えておるところでございます。

○紙智子君 考え方はそれでもってしっかりやってもらおうというんですけれども、実際上はもう大きく減るわけですよね、担う人たちが、絞り込むわけですから。そうしたら、実際上はできないんじゃないかと。
 先ほどの議論を聞いていて、私、おかしい議論だなと思っていたんですが、目標を決めて、この食料自給率が今、日本というのは四割にも満たないぐらいになっていると。異常に低いと思うんですよ。こんなに低くていいのかと。国際社会で今それこそ飢餓で苦しむ人たちがたくさんいる中で、自分の国で生産できる国は自給率を上げていくように努力しようと、せめて国産というか、自分の国の国民が食べる食料ぐらいは自給できるようにしようと、そういう方向で努力するのは当たり前なわけで、それが、目標が高くてなかなか達成できないからもっと下げた方がいいんじゃないかという議論はおかしな議論だなと思うわけですよね。
 そこのところで、私は、林大臣に、大臣の認識としては、食料自給率はやっぱり上げていくし、これまで決めてきた五〇%というのはあるんだけれども、せめてまず当面そこは超えなきゃいけないというふうにお考えなのかどうなのかということをちょっと確認したいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 先ほど申し上げましたように、今の決められている五〇%の目標というのは最大限の努力を生産面でも消費面でもやっていくということで、確かに高い目標を作って頑張るということは大変大事なことだと思っております。
 一方で、先ほど山田委員からの御指摘もあったように、足下、じゃ、どうなっているかというと、目指す方向になかなかなっていないと。その検証を今まさにやっていただいているわけですが、検証においても、目標の設定に過大なところがあったと、こういうところが指摘を既にされておるところでございますので、その辺りをしっかりと、志は高く持たなければなりませんが、やはり現実的に達成可能な目標ということにしないと、逆に、あれはもう目標だけれども達成しなくてもいいんだと、こういうことになってもいけませんので、そこをしっかりと詰めて今回の目標をきちっと作っていきたいと、こういうふうに思っておるところでございます。

○紙智子君 私聞いたことは、要するに、現実的じゃないから、じゃ、下げていいのかと、林大臣自身はやっぱり食料自給率は向上させていくべきだというふうに考えているのかどうかと。達成していないことの解明ってやっぱりされていないから、なかなか変えられていないんだと思うんですけれども、その基本的なスタンスですよ。現実的には厳しいから下げるという方にくみするのか、そうじゃなくて、いや、やっぱりちゃんとまず当面の目標は達成するし、更に上に向かっていくように努力しなきゃならないと、そのために総力を挙げて頑張らなきゃいけないという立場なのか、その基本的スタンスとしてどうなのかということをお伺いしたんですよ、大臣自身に。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) ほかの国と比べまして、決して四〇%がもうこれで十分だというふうに思っているわけではございません。したがって、一般論で申し上げれば、カロリーベースにおいても、また生産額ベースにおいても自給ができるというのは食料安全保障という意味で望ましいということは、もう当然のことであります。
 したがって、そういう観点と、それから国内の現実の今検証をやっていただいておりますけれども、この実現可能性というものをしっかりと踏まえて専門家に今御議論していただいておりますので、その検討の結果を見てしっかりと目標を定めてまいりたいというふうに思っております。

○紙智子君 私は、その基本的なスタンスをはっきりさせなきゃいけないと思うんですよ。農水委員会において、食料自給率がこんなに低い、異常な低さなのに、それでも目標達成できないからもっと下げていいんだなんて、こんな議論をされるなんて本当におかしいなというふうに思うわけですよ。
 それで、どれだけお金をつぎ込んで食料自給率を上げようとしたのにもかかわらず上がっていないから問題なんだというんだけど、はっきりしていますよね。この間、予算委員会で私質問しましたけれども、もうこの十年来、二十年来振り返ってみても、農林水産省の予算というのはずっと下がり続けてきていますよ。三兆数千億円だったやつが、どんどんどんどん下がってきて二兆円台ですよ、今。だから、一貫して農林水産の予算というのは下がってきている中で、やっぱりお金使い過ぎているなんというのもちょっと当たらないんじゃないかというふうに思うんですけれどもね。もちろん無駄遣いは変えなきゃいけないけれども、そういうことも含めて、やっぱり自給率を拡大していくというために全力を挙げるということが大事だというふうに思っているんです。
 それで、食料自給率拡大のために基本計画に基づいて農水省の食料自給率向上のための生産面からのアプローチと、これ資料で二枚目をちょっと開けて見てほしいんですけれども、これが今の現時点での農水省が出しているものですけれども、このアプローチの中では、まず大豆については、単収の向上ということを書いてあります。それに加えて、不作付け地、作付けできていないところですね、不作付け地での作付け拡大が明記されています。それから、調整水田等についても、不作付けの解消として、そこの横に乾田地帯と書いてあります、乾いているところですね、乾田地帯の大豆等というふうに書いてあります。要するに、耕作放棄地での作付け拡大で大豆の生産拡大をしようということですよね。これが食料自給率向上にとって不可欠なんだという考え方ですよ。耕作放棄地での作付け拡大、これをやらないといけないということに書いてあるわけですよね。これが食料自給率にとって不可欠だと。要するに、耕作放棄地対策が食料自給率向上のネックになっていたと。
   〔理事山田俊男君退席、委員長着席〕
 ところが、農地中間管理機構では、耕作放棄地の解消をその目的から今回外したわけですよね。そうなっちゃうと、この大豆生産の作付けできていない不作付け地の作付け拡大ができなくなるんじゃないかと。これ、できるんでしょうか。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) これは本会議でも総理から御答弁をさせていただいたと思いますけれども、農地中間管理機構は担い手への農地集積だけではなくて耕作放棄地の発生防止と早期解消にも活用することにしております。
 昨年の臨時国会でこの関連法を出すときに、耕作放棄地対策については従来より農地法に規定をされておりましたので、農地法の改正の方で手当てをいたしまして、その中で耕作放棄地対策に農地中間管理機構を活用すると、こういうふうに明記をさせていただいているところでございます。

○紙智子君 そういう答弁あったんですけど、この間、産業競争力会議の中では、やっぱりこの耕作放棄地は、そこに滞留するといけないから、それは受け取らないということで議論されているんじゃないかというふうに認識しているんですよね。この耕作放棄地対策を農地中間管理機構の目的から外すということ自体が、食料自給率向上対策に対して背を向けることになると思うんです。
 麦についても同じことが言えるんですけれども、先ほどの農林水産省のこの二枚目のちょっと資料をもう一回見てほしいんですけれども、この黄色で四角に囲んである中の書いてある文字の黒ポツの三つ目のところですね。水田をターゲットに、麦、大豆、米粉用・飼料用米と、この作付けを拡大を図ることが自給率向上の鍵としているわけです。麦については、その左の方の表の緑のところを見てほしいんですけれども、単収の向上だけではなく、二毛作、水田裏作の飛躍的拡大として裏作小麦を約十一万ヘクタールと書いてありますよね。
 ところが、先ほども指摘したように、農業の担い手に対する経営安定のための交付金の改正法案で、麦のゲタ対策対象者、これは絞り込むことにしていると。それから、水田裏作、二毛作で麦を作付けしている認定農業者でなくて集落営農にも入っていない人たち、こういう農業者は交付金の対象からは外されるということになると、当然、この農業者は裏作小麦の生産からは撤退することにならざるを得ないと。そうすると減ってしまうわけで、これ、明らかに食料自給率向上に逆行するんじゃないかと思うんですけれども、この点、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) これも先ほどの答弁と重複をいたしますが、対象ということで、この担い手を、規模要件を外しまして、意欲と能力のある方であればしていただけるということにいたして、そして、まだ就農されたばっかりの認定新規就農者の方も対象に加えるということにしておりまして、そういうことにすることによって主業としてやっていらっしゃる方が中心としてこの担い手の対象になっていただいて、そこでしっかりとやっていただくことによってこの自給率の向上に資すると、こういうふうに考えておるところでございます。

○紙智子君 私、この認定農業者や集落営農に農地を集約するからそこの人たちが頑張ってやるんだよという話があるんだけれども、やっぱり現実、どれだけ皆さんが歩かれて把握されているのかなというふうに疑問に思うわけですよね。
 今、認定農業者と言われる担い手の方は、もうぎりぎりまで農地を引き受けている状態になっているわけです。それも分散錯圃ということで、農地が別々というか分かれて分散している、そういう農地を抱えて、経営的にも非常に厳しい状況に追い込まれているわけですね。
 それに加えて、今年度からは米の直接支払交付金が一万五千円から七千五百円に半減されるということになるわけで、この米の直接支払交付金は、米のコスト割れ部分について全国一律の交付金で、固定収入として農家経営の見通しも立って、米の専業農家に対して規模拡大の投資を促すものだったわけですよね。ですから、規模が大きく生産コストの低い大規模経営、つまりそういう認定農家ほどこれは交付金のメリットを受け取っているということなわけです。ですから、逆に言いますと、認定農業者や集落営農ほど打撃が大きいということですね。規模が大きいところというか、昨日も本会議でやりましたけれども、二十ヘクタール以上の大規模なところがこの補助というか、受けている割合というのは五六%ですから、六割近くをそういう意味では依存しているという状況ですから、そこにすごく大きな影響が行くわけです。
 私が直接話を聞いた認定農業者も、もうぎりぎりの今経営になっていて、今回のこの米の交付金の半減で経営をもうやめたいぐらいなんだということを言っているわけですね。それから、集落営農があるから問題ないということについても、やっぱり現実はもうそうじゃないと。
 日本には、集落営農を県が誘導しようとしても、地域の話合いもままならないというところがたくさんあるわけですよね。滋賀県とか富山だとか岩手の花巻とか、ずっと長い間時間掛けてやってきて定着しているところも確かにあるけれども、そうじゃないところもあるわけですよ。話し合ったらけんかになっちゃうというか、できないというふうに言っているところもあるわけですよね。担い手への農地集約も困難で、逆に米の直接支払交付金が半減されるということで担い手の離農を招きかねないと。
 こういうことをやっていて本当に食料自給率を上げることできるのかと、逆に下がるんじゃないのかということなんですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) いろんなお話がありましたけれども、まず米のお話がありました。四割、六割のお話があってさっきから議論になっておりますが、自給率との関係でいえば、米はもう九五%の自給率でございますので、先ほどの食料自給率向上のための生産面からのアプローチという意味では、米のところは需給調整の推進と書いてあるわけでございまして、そういった意味では、先ほど予算が減ってきたというお話もありましたけれども、財源をどこに有効的に使うかという意味で、一万五千円のものを、振替拡充という言い方を自民党でもしておられましたけれども、より構造改革に資するものに、また多面的機能にというような形で今回やっていただいたと、こういうことではないかと思っておりまして。
 そういう意味では、まず米の場合は、需要に合ったものを作っていただく、すなわち麦、大豆、それから餌米、加工用米、これにやはり転換していただくということが需要に合っておりますし、まさに麦、大豆というのは、今委員がまさに御指摘いただいたように、食料自給率の向上に資すると。そのための転作奨励金、餌米の場合は数量払いも導入してやっていこうと、こういうことになっているわけでございます。
 また、人と農地プラン、民主党政権で始めていただきまして、かなり進んでいるところもあるわけでございまして、実は、今まさに紙委員がおっしゃっていただいたように、話し合ったらできなくなったというよりも、話し合ってもできなかったと、こういうことであろうと思いまして、よく言われるのは、隣に蔵が建つと自分は腹が立つと、こういうようなことが言われているように、なかなか、長い間ずっとお隣にいると、最近のアジア外交のような話かもしれませんけれども、いろんなことが代々あると、そういうこともあってなかなかうまくいかないんだと。
 そういう中から、実は、第三者が間に入ってもらうともう少し話が進むんではないかと、こういうのが人と農地プランの中からもあったということも踏まえて、実は農地中間管理機構というものを、県の指定するものということで公的な機関ということでつくることによって、そこの今までできなかったところにもやっていただくようにしていこうと、こういうことにしたところでございます。

○紙智子君 私は、食料自給率を上げようと思ったときに今やろうとしていることが逆に行くんじゃないかという話を一生懸命しているわけで、それでその話の中で、今、米を、米がと言ったんですけれども、米自身も、言ってみればこれからは米余り過ぎにならないように、じゃ麦とか大豆も本作だと位置付けてやるんだよというふうに切り替えようというんだけれども、結局、元々のあるアプローチから見ると、水田でやっていた麦や大豆については結局絞り込むわけですよ、対象を。そうすると、そこから漏れた人というのは作れなくなるし、離れていくということになるから、だからやっぱり量としてもやる人が少なくなるということが問題になるんじゃないのかと。全体として減る中で自給率を上げようなんといったって、そうならないでしょうということを私は指摘しているわけですよ。
 それだけじゃなくて、加えて、この間もう何度も質問してきていますけれども、日豪EPAで、結局これ協定発足後二年間で冷凍牛肉の関税率は一〇%下げられると。そして冷蔵牛肉、こっちの関税も七%最初の二年間で引き下げられると。乳製品も、プロセスチーズもナチュラルチーズの関税割当ても、これ二十年間で四千トンから二万トンですか、下ろし・粉チーズも二百トンから十年掛けて千トンですか、アイスクリームも百八十トンから二千トンということで関税割当てを導入することになると。
 これらは直接日本の酪農経営にマイナスの影響を与えるということは明らかで、やっぱり二十年掛けて、結局は日本で今まで生産しているチーズだとか乳製品が全てオーストラリア産に置き換えられていくことになると。そうすると、やっぱり食料自給率そのものに影響を与えることになるんじゃないかということも言えるわけです。
 ちょっと時間がだんだん迫ってきたので続けて言うんですけれども、その農林水産省の文書で、もう一つこの資料に付けてある三枚目のところを開いてみてほしいんですけれども、現状の検証、将来の農業生産の見通しということが書いてあります。この上の文章のところですね、丸印のところですけれども、平成三十二年度の農業生産力について、これまでの傾向と同じ推移を前提として試算した結果、生産力は離農農家の増加等により現状より二五%低下すると見込まれるとしているわけですね。だから、これ何もしなくても、離農する農家の増加などによって、現状よりも二五%農業生産力が低下するとしているわけです。
 結局、何もしないどころか、今回日豪EPAで酪農や畜産は深刻な打撃を受けると。酪農家や畜産農家は長期的な展望を失って離農を加速させることになるんじゃないかと。そういう状況の中で自給率引き上げるということができるのかということなんですね。これについて、一言、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) まず、日豪EPAでございますが、この交渉に当たっては、決議を踏まえて、農林水産業、農山漁村の多面的機能、それから食料安全保障の確保、それから今まさに御議論いただいております構造改革、この努力に悪影響を与えないように十分留意をして、粘り強く交渉をしてきたところでございます。
 牛肉についても、かねがね申し上げてきているところでございますが、長い年月を掛けて、それからセーフガード、冷凍と冷蔵と分けて、それぞれについて設けております。
 また、乳製品についても、関税割当ての中で国産品といわゆる抱き合わせということで、例えばシュレッド用チーズでございますと、国産品と輸入品の割合を一対三・五、無糖ココア調製品ですと、国産品、輸入品、一対三と、こういうことでやってきておるわけでございますし、それからチーズの国内消費はかなり伸びておりますので、伸びる消費の中で酪農に影響を与えない範囲での内容だと、こういうふうに考えておりますが、どういう影響かということについては、かねがね申し上げてございますように、食料消費の状況、それから景気、特に為替、こういうものの要因によって貿易の状況は動きますので、EPAの締結によって食料自給率に具体的にどういう影響が出るかという推計をすることは大変難しいということでございます。
 それからもう一つは、先ほど御指摘のあった将来の農業生産の見通しということで、現行の食料・農業・農村基本計画、これの検討のために、平成二十二年の一月に、食料・農業・農村政策審議会の企画部会に我が省から提出した資料でございます。平成十二年から十七年にかけて、農家数及び作付面積の減少傾向が今後とも続くことを前提として試算をしますと、三十二年度、あと六年後ですが、農業生産力が十七年度と比較して二五%低下すると見込んだところでございます。
 一方、二十二年三月に設定しました今の食料自給率目標は、平成二十年以降の穀物価格の大幅な上昇等を背景に、我が国の持てる資源を全て投入したときに初めて可能となる高い目標ということで、カロリーベースをその前の四五から五〇に、それから生産額ベースは七六から七〇に設定をしたものでございます。
 したがって、先ほど来御議論させていただいておりますように、今まさに、同じ企画部会で現行の食料自給率目標等の検証作業を行っているところでありまして、その一部のお話は先ほど山田委員にさせていただいたところでございますが、次の食料自給率目標、この検証結果を踏まえて、先ほど来申し上げておりますように、農業者や消費者の取組による実現可能性、生産面、消費面の課題、これに対応する政策等も含めてしっかりと検討してまいりたいと思います。

○紙智子君 食料自給率という、本当に日本の農政をめぐって非常に柱になるべき重要な問題で、これは目標を引き下げるかなんという話は本当にもう重大なことだなというふうに思っています。やっぱり下げるような政策をやっちゃいけないと。今、るる述べてきたように、上げようと言いながら下げる政策をやっているんじゃないかということを一つは指摘しておきたいと思うんですね。
 それから、もう一つの角度なんですけれども、それは日本再興戦略の農業、農村所得倍増計画について聞きたいんです。
 日本再興戦略では、今後十年間で農業、農村全体の所得を倍増させるとしているんですけれども、これ農業所得はどうなるのかと。農業所得はどうなるのかということについてお話しいただきたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 今般の農政改革では、米の直接支払交付金、一万五千円から七千五百円に減額をするわけですが、先ほど申し上げたように、餌米それから米粉用米等の新規需要米に転換して単収を上げる努力をする、不作付け地を解消して水田をフル活用する等、こういうことをやっていただいた場合は現行より所得が上がる、こういう仕組みにもしてあるところでございます。
 昨年末に取りまとめました農林水産業・地域の活力創造プランにおいては、これらのほか、担い手への農地利用の集積、集約化、輸出の拡大、それから六次産業化の促進、こういうものを着実に行うこととしておりまして、こうした政策を総動員することによって農業を成長産業にし、若者に魅力ある産業に成長させ、農業、農村の所得倍増目標の実現につなげていきたいと、こういうふうに思っております。
 まさに今御議論いただいている食料・農業・農村基本計画、これが農政の中長期的ビジョンを示すわけでございまして、この中で、今後、農業、農村の所得倍増目標に向けた道筋、それから具体的な経営発展の姿などについて、より具体的なイメージを描くことができるように検討を深めていきたいと考えております。

○紙智子君 私は、この問題も非常に何か幻想を与えるような、ちょっとひどい話だなというふうに思っていて、この間何度か聞いているんですけど、農業が現在の三兆円が十年後には四兆円になるんだよと、六次産業化をやって現在の〇・二兆円から二兆円に増えるんだよというようなことを言われているんだけれども、そうやってみても、農業所得は倍増するどころか、資料の四枚目見てほしいんですけれども、これ各国のやつ出ていますけれども、日本のところを見ますと、それでやったとしても、一九九五年の農業所得の四兆六千二百五十五億円にも及ばないわけですよ。何かあたかも農業者の所得が倍増するかのような幻想を与えて安倍農政改革を推進するというのは、これ問題だというふうに思うんですね。実際に農業所得が本当に三兆円から四兆円になるのかという問題もあるわけです。
 もう先ほど指摘しましたけれども、米の直接支払交付金を一万五千円から七千五百円に半減させて、二〇一八年度からはこれ全廃するわけですよね。それで、農業所得が減る一方なんじゃないのかと、こういうことからいったら、とても倍増するなんということはこれはもう全然甚だしい話じゃないかと思いますけれども、いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 午前中に堀井委員からも御質問があって、そのときにも御指摘いただいたんですが、この一万五千円が七千五百円になるということだけが見出しに躍ると、まさに今委員がおっしゃっているような御不安というのが出るのかなと、こういうことでございますが、実際には、先ほど申し上げましたように、転作ですとか、多面的機能支払、また先ほど申し上げた輸出の拡大、六次化と、こういうものを併せて、しっかりと農業、農村の所得を十年間で倍増させていこうと、こういうことでございます。
 農業、農村の所得倍増目標は、その名のとおり、農業、農村でございますので、農家個人の所得に注目してその倍増を目指すというものではなくて、農地集積等によって生産性の向上、それから流通の合理化等による農業所得の増大、これは主に産業政策の部分で、先ほど山田委員からも少し厳しさというのも必要ではないかと御指摘ありましたが、やはり産業政策としてもうかる農業をやっていくという中でここをきちっとやっていくということと、六次産業化ということで加工、直売などを通じた所得の増大、それから観光、医療等他産業との連携によってまだまだ六次産業化の市場規模は増大するものというふうに思っておりまして、そういうところを通じて、雇用賃金等の農村の関連所得、こういうものも増大をさせていかなければいけないと、こういうふうに思っておりまして、そういう中でやはり経営マインドを持ったやる気のある担い手が創意工夫を凝らしてやはり所得倍増を達成する事例が出てくると、これは当然想定されるところでございます。

○紙智子君 結局、今のお話聞いていても、多面的機能、所得にはならないことを、農家の所得にはならないわけですし、それからやっぱり農家の増えるという話じゃないというのが今語られたと思うんですね。
 日本再興戦略で、農業、農村全体の所得の倍増を達成するためには農業生産性を飛躍的に拡大する必要があると、そのためには、企業参入の加速化等による企業経営ノウハウの徹底した活用、農商工連携等による六次産業化、輸出拡大を通じた付加価値の向上、若者も参入しやすいように土日、給料のある農業の実現というふうにしていると。
 要するに、企業の参入を大幅に増やして、参入した企業の所得を増やして、六次化による流通や加工を手掛ける企業の所得を増やすということであって、現在農業に取り組んでいる多くの農業者の所得が増えるわけではないということですよね。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 農業、農村というものと農家というものの見方の違いかなと、こういうふうに思っているんですが、私は、いろんな方が入ってきていただいて法人化するなり、企業と農業を分けるという考え方も余り好きではないんですが、今経済界と農業界の連携という言い方しておりますけれども、いろんな方がきちっと可能性をそこに求めて来ていただくということと、誰も見向きもしないと、耕作放棄地になるということと、一体どちらが本当に望ましい姿かということを考えれば、やはり答えは明らかではないかと。こういうふうに思うわけでございまして、今いる人だけで、もうほかの方は全く受け付けずにやっていくということでうまく回っていっているというところであればそれはどんどんそれでやっていけばいいし、それでなかなかうまくいっていないところがあって今の数字申し上げたようなところになっていて、改革は待ったなしと、こういうことになっているわけでございますので、しっかりとこの改革を進めていきたいと、こういうふうに思っております。

○紙智子君 私も企業が入っちゃいけないなんて思っていないです。やっぱり地域と本当に連携して一緒になって守り立てていくような、真面目な、やっぱりちゃんと農業を発展させていこう、地域を維持していこうという考えに立っている人もいますから、そういうのは別に構わないと思うんだけれども、結局、国が政策で今やろうとしている中身というのは農家がちゃんと所得が増えるような仕組みになっていないじゃないかということを指摘しているわけです。
 更に言えば、昨年八月ですけれども、第四回農林水産業・地域の活力創造本部の中で安倍総理が発言しているんですけれども、いろいろ重大な発言しているわけですよね。農業、農村全体の所得を今後十年間で倍増させることを目指しと。農林水産業者が経営マインドを持って生産コストを削減し収益の向上に取り組む環境をつくり上げると。チャレンジする人を後押しするよう規制や補助金などの現行の施策を総点検し、農業の自立を促進するものへと政策を抜本的に再構築するんだと。
 これ、さっきもちょっと議論になっていましたけれども、農業自立ということをもう殊更、この間、ずっと言ってきているんですよ。これ何の政策的な保護もなくて自立発展できるのかと。こればらまきで保護は駄目だという議論ももう一方ではあるんですけれども、日本の農業、そういう支援も何もなくて自立できるのかということなんですよね。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 私もいろんな方とお会いをしておりますけれども、しっかりと自立してそういう補助金等に頼らずにやっていらっしゃる方というのはたくさんいらっしゃると、こういうふうに思います。そういう方とゲタなりナラシなりの中でしっかりとやっていく方と共存をやっぱりしていくということが大事でありまして、やはり産業政策と地域政策というのが車の両輪になってやっていくというのは、一つの類型を見てこれだけじゃなくちゃいけないということではなくて、やはり足し算でいろんな方が入ってきていただいて、トータルとして農業、農村が活性化すると、やっぱりこれが非常に望ましい姿ではないかというふうに思っておりまして、その点、紙委員も今企業の中でもしっかりと溶け込んでやっていくところもあるんだというふうに御指摘をいただいたので、その言葉をいただいてしっかりと頑張っていきたいと、こういうふうに思っております。

○紙智子君 私は、やっぱり本当に農家の人たちがちゃんと自立できるようにするということで、政策的な何も支えが要らないというんだったら、農水省自身要らなくなっちゃうというか、役割がなくなるじゃないかというふうに思うんですね。実際にはコスト削減という話もあるんだけれども、農業資材のコストも非常に高いわけですし、トラクターをそろえたり、農薬を使ったり、肥料を使ったり、重油使ったり、これすごい高いわけですよ。それで、そういうトラクターなんかも物すごく高いからもっと販売価格下げろだとかという話も要求あるわけで、こういうことも含めて、コスト削減と言うんだったら、そういうことに対してもきちっと支援しなければ到底やっていけないし、やっていけると言うんだったら、ちょっと自分でやってもらったらいいんじゃないかというふうに思うぐらい余りにも軽く考えているんじゃないかなというふうに思います。
 ちょっとまだまだ本当はあるんですけれども、時間になりましたので、続きはまたこの次ということでやらせていただいて、終わりたいと思います。