<第186回国会 2014年5月14日 本会議>


農政改革二法/農家の多数を切り捨てると告発/本会議

○本日の会議に付した案件
 農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の一部を改正する法律案及び農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律案

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、政府提出の農政改革二法案について質問いたします。
 まず、TPPについて伺います。
 四月二十四日、オバマ大統領と安倍首相の首脳会談が行われ、一日遅れて発表された共同声明では、両国はTPPに関する二国間の重要な課題について前進する道筋を特定したと述べました。米国では、ルー財務長官が下院公聴会で、日本市場開放の道筋が付いたと証言しました。甘利大臣は、方程式は合意したと発言しています。この道筋、方程式とは何なのか、明快にお答えください。
 結局、重要五品目の市場開放の道筋を認めたのではありませんか。
 また、澁谷内閣審議官は記者会見で、TPPの着地点について、関税率だけでなくセーフガード、輸入枠などの組合せが重要な要素になると言っています。
 日豪EPAでは、牛肉については関税率三八・五%から一九・二五%へ半減させ、輸入急増に対するセーフガードを組み合わせました。チーズの関税割当て数量も五倍に増えます。日米交渉では、牛肉の関税を九%台に引き下げ、豚肉関税は十五年掛けて一キロ四百八十二円から五十円に引き下げるなど、日豪EPAをはるかに上回る譲歩案を示したとの報道もあります。つまり、関税率を引き下げてもセーフガードなどを組み合わせればいいということなんですか。
 安い輸入品が増えれば価格の下落は避けられません。これでは、重要農産物を除外又は再協議の対象とすることを求めた衆参の国会決議を守ったことにはなりません。日本農業と国民生活を壊し、国民への裏切り以外の何物でもありません。総理にそういう認識はあるのですか。
 安倍総理は、聖域なき関税撤廃が前提でないことが確認されたからTPP交渉に参加すると言い、交渉力を持っているといって交渉を続けてきました。本気になって農業を立て直すつもりなら、重要五品目など聖域の確保を最優先し、確保できないと判断した場合は脱退も辞さないという国会決議の立場を堅持し、それができないなら脱退しかないではありませんか。答弁を求めます。
 次に、農政改革について質問します。
 総理、あなたは、日本再興戦略で、今後十年間で全農地面積の八割が担い手によって利用され、生産コストを現状の全国平均比で四割削減、法人経営体数を五万法人にすると言いました。これでどういう農業を目指すのでしょうか。
 それを端的に表したのが、安倍総理、あなたのスイス・ダボス会議での発言です。
 四十年以上続いてきた米の減反を廃止します。民間企業が障壁なく農業に参入し、作りたい作物を需給の人為的コントロール抜きに作れる時代がやってきます。日本では不可能だと言われていたことですと言い、いかなる既得権益も私のドリルから無傷でいられないと言いました。ここに日本再興戦略が目指す農政の姿が示されています。
 総理には、農政があっても、農民の姿、食料は国産でという国民の願いが見えないのではありませんか。農業の成長産業化を口実に大企業のビジネスチャンスにするものではありませんか。
 食料自給率は、食料・農業・農村基本計画で、二〇二〇年にカロリーベースで五〇%、生産額ベースで七〇%に、飼料自給率で三八%に引き上げるとしています。日本が食料自給率を向上させることは、国民生活にとって死活的に重要であるだけでなく、飢餓で苦しむ途上国の国民への貢献でもあります。しかし、安倍政権が成長戦略に位置付け閣議決定した日本再興戦略には、食料自給率引上げについては一言も触れていません。なぜ明記しなかったのですか。総理の見解を求めます。
 米については五年後に生産調整が廃止されます。今後、米の需要と供給、価格の安定に誰が責任を持つのですか。今でさえ下落を続けている生産者米価の更なる大暴落を招くのではありませんか。総理並びに農水大臣に見解を求めます。
 経営安定政策についてお聞きします。
 米の直接支払交付金、十アール当たり一万五千円は、今年度から七千五百円に半減され、二〇一八年産で打ち切られます。この交付金の打切りで販売農家の手取りが減少しますが、とりわけ大規模経営ほど深刻です。農水省の調査で、二十ヘクタール以上を経営している農家の総所得に占める所得補償の割合は五六%と、依存度が高いことが明らかです。
   〔副議長退席、議長着席〕
 八十ヘクタールを経営している方は、交付金の半減で五百七十五万円の減収になると言われました。この現実を総理並びに農水大臣はどう思いますか。最悪の所得削減策、農家潰しではありませんか。
 麦、大豆など諸外国との生産条件の格差を是正するために支払われていた生産条件不利補正交付金、いわゆるゲタ対策、米、麦、大豆などを対象に豊作時や凶作時の変動などによる収入減少を緩和する収入減少影響緩和交付金、いわゆるナラシ対策は、これまで全ての販売農家に支払われていました。本法律の改正で、認定農業者、集落営農、認定新規就農者に絞り込むことにしています。これによって、対象農家数は八万三千八百四十八戸から三万八千五十三戸と半減します。多くの販売農家を切り捨てるつもりですか。総理、農水大臣の答弁を求めます。
 次に、農地中間管理機構についてお聞きします。
 自民党の参議院選挙公約、そして政府の攻めの農林水産業では、担い手への農地集積、耕作放棄地の発生防止・解消するために中間的な受皿を設置するとしました。ところが、設置した農地中間管理機構は、その目的から耕作放棄地の解消を消しました。なぜ消したのですか。総理の明確な回答を求めます。
 機構法案を議論した政府の産業競争力会議で、財界の代表は、農地は集落のものという考え方を乗り越え、企業が入れる制度にすべきだと主張し、法律が成立したら、次にステップは何といっても企業の参入をいかに促進するかだと述べました。企業の参入を促進するため、借り手は公募を原則とし、地域外の農外企業も公平に扱うということにしたのではありませんか。
 全国どこを回っても、自分の農地がどうなるのか、集落営農で管理している農地がどうなるのか、不安でいっぱいです。
 農地を荒らさないために懸命に努力している現場の期待に応えるなら、借り手は地域で頑張っている農業者を最優先すべきであり、耕作放棄地や借り手のない農地を機構で受け入れて農地として活用すべきです。
 今求められているのは、家族農業を支援することです。
 安倍総理はしばしば、息をのむほど美しい棚田の風景を守ると言いますが、景観の美しさには触れても、そこに住む人の営みがあることが伝わってきません。日本の農村の景観が美しいのは、何世代にもわたって農業を引き継ぎ守ってきた家族農業があったからこそです。今年は国連家族農業年です。世界の大勢は家族経営で支えられています。全農家に占める家族経営の割合は、アメリカで八割、イギリスもドイツも九割、フランス七割、日本九割です。総理は、家族農業重視は自民党の政策だと答弁されました。そう言われるなら、なぜ予算を付けないのですか。総理、家族経営を支援する予算を具体的に示してください。
 日本共産党は、日本農業を基幹産業として位置付け振興を図ること、食料自給率向上への目標を明確にし、家族農業、地域農業を守り充実すること、価格・所得補償こそが求められていると考えています。
 本来、どこの国でも農業保護の考え方は当たり前のことです。TPPを前提に、農業の自立に名を借りて、一層の市場原理に追い込み、日本農業を崩壊に導く安倍政権の農政改革に断固反対することを表明し、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 紙智子議員にお答えをいたします。
 TPP交渉についてのお尋ねがありました。
 先般の日米首脳会談及び閣僚協議を通じて、日米間の重要な課題について前進する道筋を特定することができました。個々の報道内容の信憑性について政府としてコメントすることは差し控えますが、我が国としては、引き続き、衆参の農林水産委員会の決議をしっかりと受け止め、国益にかなう最善の道を追求していきます。
 我が国は、先般の日米交渉によって生まれたモメンタムを捉え、米国とともにTPP交渉全体の妥結に向け、他の参加国にも働きかけを行っているところです。そのような状況の中で、TPP交渉からの脱退に言及することは適当でないと考えます。
 農政改革についてのお尋ねがありました。
 我が国の農林水産業の活性化は待ったなしの課題であり、強い農林水産業とともに美しく活力ある農山漁村を実現していくため、農政改革を進め、農業を若者に魅力ある産業に成長させていかなければなりません。
 このため、昨年末、農林水産業・地域の活力創造プランを取りまとめ、輸出促進や六次産業化の推進による付加価値の向上、多様な担い手の育成確保、農地集積による生産性の向上、美しいふるさとを守る日本型直接支払の創設などに精力的に取り組んだ上で、さらに、四十年以上続いてきた米の生産調整の見直しを行うこととしております。
 今後、これらの改革を着実に進めることによって、経営マインドを持ったやる気のある担い手が安心と希望を持って活躍できる環境を整え、国民に対する食料の安定供給の確保と、農業、農村全体の所得倍増の実現につなげてまいりたいと考えております。
 食料自給率についてお尋ねがありました。
 食料の安定供給を将来にわたって確保していくことは、国民に対する国家の最も基本的な責務であり、国内農業生産の増大を図り、食料自給率を向上させることは重要であると考えております。
 なお、御指摘の日本再興戦略は、経済成長を確実に実現していく観点の目標とその実現のための規制改革、予算、税制などの施策をパッケージとして打ち出したものであります。
 米の生産調整の見直しについてお尋ねがありました。
 今回の米の生産調整の見直しでは、これまで行政が配分する米の生産数量目標に従って農業者が作物を作っていたものを、五年後を目途に、農業者がマーケットを見ながら自らの経営判断で作物を作れるようにするとともに、需要のある麦、大豆、飼料用米等の生産振興を図ることによって、言わば農地のフル活用を図り、食料自給率、食料自給力の維持向上を図っていくこととしています。
 米の価格については、需給動向等に応じて民間取引の中で決定されますが、こうした取組を通じて、消費者への米の安定供給の確保と生産者の所得の増大を図っていくこととしております。
 経営所得安定対策の見直しについてお尋ねがありました。
 旧戸別所得補償制度による米の直接支払交付金については、全ての販売農家に交付されるため、農地の流動化のペースを遅らせる面があるなど政策的な課題があったことから、平成二十六年産米から単価を削減した上で、平成二十九年産までの時限措置とすることとしたところであります。
 こうした見直しと併せて、飼料用米等への助成の充実、日本型直接支払の創設、農地集積バンクによる担い手への農地集積等を併せて行うこととしており、意欲ある担い手の経営改善に向けた取組を支援し、農業、農村全体の所得倍増の実現につなげていきたいと考えております。
 一方、今回の担い手経営安定法の改正においては、現行の認定農業者、集落営農に加えて、認定新規就農者も対象とすることとし、また、いずれも規模要件を課さないこととしております。したがって、将来に向けて農業で生計を立てていく意欲と能力のある農業者を幅広く対象としていくものとなっています。
 農地中間管理機構についてお尋ねがありました。
 農地集積バンクは、担い手への農地集積だけでなく、耕作放棄地の発生防止と早期解消にも活用することとしています。耕作放棄地対策に同バンクを活用することについては、従来から耕作放棄地対策を規定している農地法を改正し、明記したところです。
 また、農地集積バンクが行う農地の貸付けについては、公平かつ適正に行うため、受け手を公募した上で、地域農業の発展に資する観点から公正に貸付先を決定することになりますが、特に担い手が不足している地域においては企業の参入を積極的に促進していく必要があると考えています。
 なお、利用できない農地が農地集積バンクに滞留することは適切ではないことから、既に森林の様相を呈している耕作放棄地など、借り手の見込まれない農地を借り受けることは困難と考えます。
 家族経営に対する支援についてのお尋ねがありました。
 我が国農業の安定的な発展を図るためには、担い手が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立することが重要ですが、この担い手としては、家族経営と法人経営の双方が含まれると考えています。農業者の経営発展のために講じている諸般の施策においても、家族経営と法人経営を同等に取り扱っており、しっかり支援してまいります。
 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕

○国務大臣(林芳正君) 紙議員の御質問にお答えいたします。
 米の生産調整の見直しについてのお尋ねがありました。
 今回の米政策の見直しでは、水田活用の直接支払交付金を充実し、数量払いの導入など飼料用米等のインセンティブを高めるとともに、産地交付金も充実し、地域の創意工夫を生かした産地づくりを進めるほか、国によるきめ細かい需給・価格情報、販売進捗・在庫情報等の提供等を行うことにより、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、農業者自らの経営判断により需要に応じた生産を行える環境を更に整えていくこととしております。米の価格は基本的には民間取引の中で決定されますが、こうした取組を通じて、引き続き米の需給と価格の安定を図ってまいります。
 次に、米の直接支払交付金の廃止による大規模経営への影響についてのお尋ねがありました。
 米の直接支払交付金については、米は、麦、大豆等と違い十分な国境措置があるため、諸外国との生産条件の格差から生じる不利はないこと、全ての販売農家に交付することは農地の流動化のペースを遅らせる面があること等の政策的な問題があったため廃止することとしたところであります。
 しかしながら、この交付金を前提に機械、施設の投資を行ってきた農業者も少なくないため、経過措置として、本年産から単価を削減し、平成二十九年産までの時限措置として実施することとしております。
 米の直接支払交付金を削減する一方、多面的機能支払を創設し、規模拡大に取り組む担い手の負担を軽減すること、非主食用米等への支援の充実など水田の有効活用対策を拡充し、農業者自らの経営判断で需要がある作物を選択しやすくすること、生産コストの低減に向け、農地の担い手への集積を加速化すること等を行うこととしたところでありまして、大規模農家を始め、意欲ある担い手が経営改善に取り組めるものと考えております。
 次に、経営所得安定対策の対象者についてのお尋ねがありました。
 我が国農業を安定的に発展させ、国民に対する食料の安定供給を確保していくためには、効率的かつ安定的な農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立することが重要です。このような観点から、経営所得安定対策についても、全ての販売農家を一律に対象とする施策体系ではなく、経営意欲と能力のある担い手を対象としていくことが必要と考えております。
 一方、今回の制度改正においては、生産条件不利補正交付金、収入減少影響緩和交付金の対象者要件について、現行の認定農業者、集落営農に加え、認定新規就農者も対象とすることとし、また、いずれも規模要件を課さないことといたします。これにより、将来に向けて農業で生計を立てていく意欲と能力のある農業者等であれば、経営規模や年齢等にかかわらず、幅広に本対策に加入できるようになると考えております。
 以上でございます。(拍手)
   〔国務大臣甘利明君登壇、拍手〕

○国務大臣(甘利明君) TPP交渉に関連し、先月の日米協議の結果についてのお尋ねがありました。
 先般の日米首脳会談及び閣僚協議を通じまして、日米の重要な課題、すなわち農産品と自動車の取扱いについて、二国間の市場アクセスを改善するための様々なファクター、それぞれの関係、そしてトレードオフ、全体のパッケージのイメージ、解決のための道筋を特定をいたしました。
 これまでは日米双方が原則論を述べ合っておりましたが、このように解決に向けた方式が共有されたことを捉え、アメリカ側はパラメーターと表現をし、日本側は方程式合意という言葉を使ったものであります。(拍手)