<第186回国会 2014年2月7日 予算委員会>


TPP問題について

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 TPP問題について質問いたします。
 今、消費者の皆さんの大きな関心事、それは食の安全が守られるかどうかということです。特に、遺伝子組換え表示が守られるかどうかということ。遺伝子組換えは生態系への影響や毒性、アレルギー性などの面で心配されているわけです。昨年も、米国のオレゴン州で安全性の確認をされていない未承認の遺伝子組換えの小麦が作付け地帯で自生していたということで大問題になって、日本もアメリカ産の小麦の入札や売渡しをストップしました。それだけに、日本の消費者は、遺伝子組換え表示がTPP交渉によってなくされて、自分で表示を見て選択できなくなるのではないかと不安に思っているわけです。
 しかし、政府はこれまで、TPP交渉でも、それから日米二国間でも遺伝子組換え表示の撤廃問題は議題になっていないと説明してきたわけですけれども、総理、どうなんでしょうか。総理に聞いています。

○国務大臣(林芳正君) 事実関係でございますので答弁させていただきますが、交渉の具体的内容、これは今までもそうでしたが、お答えは控えさせていただいております。
 遺伝子組換え食品の表示、ラベリングも含めて、食の安全、安心について今お尋ねございました。
 これは、紙委員も御所属されております参議院の農林水産委員会、また衆議院の農林水産委員会で、食の安全、安心を損なわないことなどが決議をされております。「残留農薬・食品添加物の基準、遺伝子組換え食品の表示義務、遺伝子組換え種子の規制、輸入原材料の原産地表示、BSEに係る牛肉の輸入措置等において、食の安全・安心及び食料の安定生産を損なわないこと。」と、こういうふうに決議をされておられまして、このことを踏まえて、政府全体として国益を守り抜くように全力を尽くす考えでございます。

○紙智子君 総理、今アメリカでTPA、大統領貿易促進権限法というのが議会に提出をされて問題になっています。現物を私、今日ここに持ってきております。これが現物です。
 それで、米国では、貿易交渉権というのは、これは議会が権限を持っていて、政府が交渉しても議会が内容の修正や拒否をすることができるということになっている。それを防いで、大統領に貿易交渉権を与えるためにこの法案が出されていて、詳細に貿易交渉の目的を記載をし、それを大統領に実行させることを求めているんです。TPP交渉は秘密交渉だからということで内容については明らかにされてこなかったんですけれども、この法案を見れば、米政府がこのTPPで何を実現させようとしているかということが分かるわけです。
 それで、内容は広範囲にわたっていて、物品の貿易、サービス貿易、農産物の貿易、外国投資、知的財産、国有企業及び国家管理企業、労働及び環境、通貨などです。この中に遺伝子組換え表示も出てくるんですね。
 それで、ちょっとパネルを見ていただきたいんです。(資料提示)赤線のところを見てください。合衆国を不利にするような諸手法を撤廃させるというふうに書いてあります。そして、バイオテクノロジーを含む新科学技術に影響を与えるような表示といった不当な貿易諸制限ないし商業上の諸義務、これを撤廃するということが明記をされているんですね。
 要するに、バイオテクノロジー、すなわち遺伝子組換え技術に影響を与えるような表示や制限義務を撤廃するとしているわけです。となれば、米政府がこのTPP交渉において遺伝子組換え表示の撤廃を議題にするというのは明らかではないでしょうか。これ、議題にしないという政府の今までの説明とは全く違うんじゃないか、いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) これは、米国議会においてTPA法案が提出をされました。これは貿易促進権限法案でありますが、これはそもそも政府側が求めていたものでありますが、議案を出すのは、日本と違いまして、これは政府が出すのではなくて、言わば向こうの場合は上院議員、下院議員が、議員が出すものでありますし、政府は出せないわけでありまして、議員が出すということでございまして、ですから、これは政府とイコールではもちろんないと言ってもいいんだろうと思います。一応、これはテレビを見ておられる皆さんが誤解しないように申し上げているわけでありますが。
 この米国議会に提出されているTPA法案では、交渉目標につき、より開放された、公平で相互に利益のある市場アクセスを獲得することなど十三項目の全般的な通商交渉目標を掲げるとともに、十八項目の主要な通商交渉目標及び三項目の能力構築及び他の優先事項ごとに目標が記載されているというふうに承知をしているわけでございます。
 基本的には、今この中身そのものではなくて、TPAについて国会議員からこの法案が提出をされた、もちろんこれは政府がそれぞれの議会に働きかけを行いまして、こうした法案を提出をしていただくように進めているわけでありますが、その観点から見れば、米国政府がしっかりとこのTPP交渉について権限を持って進めていきたいという意欲の表れではないかと、このように考えております。

○紙智子君 この中身をめぐって、その中身を見れば、今言われたことだけじゃないんですよ。こういうことも明記されている。
 もう一つのパネルを見てください。ブルーのライン、見てください。主要な生産諸国において相当に高い関税、あるいは補助金体制の下に置かれている農産物の市場開放に優先順位を置く、交渉相手国の関税を合衆国の当該産品と同じか、それより低い水準まで削減すると明記されているわけです。
そこで、農水大臣にお聞きしますけれども、日本の重要五品目、米、小麦、牛肉、脱脂粉乳、砂糖の日米の関税率というのはどうなっているでしょうか。

○国務大臣(林芳正君) お答えを申し上げます。
 我が国及び米国における主な農産物の関税率についてでございますが、これはWTOデータベースにも出ておりますが、米の精米については、一キログラム当たり我が国は三百四十一円、米国は一・四セントでございます。それから、小麦については、一キロ当たり我が国は五十五円、米国は〇・三五セントということでございます。それから、牛肉については、我が国は三八・五%、アメリカは二六・四%でございます。これは従価税ということでございます。脱脂粉乳については、我が国は二一・三%と、それから一キログラム当たりの三百九十六円の合計、それから、米国は一キログラム当たり八十六・五セントでございます。それから、砂糖の粗糖については、一キログラム当たり我が国は七十一・八円、米国は三十三・八七セントと、こういうふうになっております。

○紙智子君 今御答弁していただいたのがこのパネルに示されている中身なわけですね。
 それで、これ農水省から出していただいたわけですけれども、重要五品目のこの米国関税を適用した場合の関税率ということですから、これ米の日本の関税率、今見たように、一キログラム当たりで三百四十一円、アメリカでいうと一・四セントということは、日本円にすると約一円ですよね。次の小麦で見ると、五十五円に対しては一円にも達しないということなわけで、米国の同じかそれより低い水準まで削減するということになると、これ、五品目、到底守れないんじゃないですか。
 いかがですか、総理。

○国務大臣(林芳正君) 先ほど総理からも御答弁がありましたように、一月九日に米国上下両院にこの法案が提出をされておりますが、今委員がお話があったように、米国の関税と同等又はそれ以下の水準まで関税を引き下げることと規定をされているのは今御指摘があったとおりであります。
 なお、二〇〇二年にTPA法というのがあって、これが延長されてたしか二〇〇七年まであったわけですが、今はこれは失効しているわけですが、その二〇〇二年のTPA法にも全く同じような規定がございます。ちなみに、バイオテクノロジーについても同種の規定も入っていたと、こういうことでございます。
 先ほど総理から御答弁もありましたように、これ、米国の国内法案でございまして、御案内のように議員が法案を出して議会で審議をすると、こういうことでございますので、これについて一々コメントは差し控えますが、米国の動向はきちっと注視をしてまいりたいと、こういうふうに思っております。
 いずれにしても、我々としては、決議をいただいております五品目などの聖域の確保について、この決議を踏まえて国益を守り抜くように全力を尽くしたいと思っております。

○紙智子君 そうはいっても、TPA法案、これは米国政府が議会と約束するという中身なわけですよね。だから、これ、日本がいろいろ政府と交渉したとしても、結局、まとめようと、日本が、まとめる気ないんだったら別ですよ、まとめようと思うと、今この議論されていることというのは受け入れざるを得なくなっちゃうわけですよ。そういう問題ですよね。
 今、アメリカ大統領に交渉権を与えるためのこのTPA法案というのは、米国議会でも今大変な問題になっているわけですよ。昨年の十一月には、上院下院両院議員の約四割に相当する百九十一名が、これオバマ大統領にTPA、大統領貿易促進権限に反対する書簡を送っているということですね。米国の一月末の共同世論調査を見ても、六二%の国民がこの法案に反対しているわけです。
それで、米国国内では、結局労働者や消費者団体などがTPPは雇用を増やすどころか逆に海外に流出するんじゃないかと、オバマさんは増やすと言っているけど、逆に流出するんじゃないかということで反対の声が広がっているわけです。だから、議員の多くは、これ今年の秋に中間選挙があるんだけれども、これ、下手をすれば国民の審判を受けることになるということで動揺しているわけですよ。
 さらに、オバマ大統領の一般教書演説の翌日、一月二十九日には、与党である民主党のリード院内総務がこのTPA法案に反対の意向を示したと。これは、日本でいえば自民党の幹事長が反対を表明するというようなことになるわけです。
 法案が否決されるのか、可決されるのか、修正されるのか、これは分からないけれども、すごく揺れているというのが今アメリカの議会なんですけど、結局、TPP、このTPPが多国籍企業の利益優先で各国の産業や雇用にも弊害をもたらすと。だから、ほかの国もそうですよ、マレーシアとかベトナムなんかでも問題になっているけれども、アメリカの国内でさえもこうやって揺れているんじゃないかと。安倍総理、これについてどう思われますか。こういうときに日本だけ急いでやるというのはいかがなものかと思いますけれども、いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 基本的に、日本だけ急いでやろうと思ってもこれはできないわけでございまして、各国が同意をしないとこれは進んでいかないということであります。もちろん、各国それぞれ事情を抱えております。日本におきましても衆参の農林水産委員会で決議がなされました。
 我々、しっかりとそうしたものを踏まえて、国益を守るために、守るべきものは守り、そして攻めるべきものは攻める、この姿勢で交渉に臨んでいきたいと、こう考えているところでございます。

○紙智子君 今もう一つ総理にお聞きしました。結局そういう揺れている状況をどういうふうに認識されているか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 確かにそれは、民主党の院内総務が反対するというのは甘利大臣も驚いたということでございますが、しかし、米国は日本のように党議拘束を掛けずに、それぞれ議員が個人の責任において投票するというクロスボートを行うわけでございます。
 我々といたしましては、いずれにいたしましても、米国の動きをしっかりと注視をしながら、同時に、交渉において公約を守り、そしてこのTPPについてはアジア太平洋地域においてこの大きな経済体をつくって地域の活性化につなげていきたいと、このように思っているところでございます。

○紙智子君 総理は肝腎なことを答えていないんですよ。なぜ揺れているかと、そこにはTPPの本質的な問題があるからじゃないですか。総理はもうこの間ずっと繰り返し、攻めるものは攻めるし守るものは守ると、国益にかなう道をというふうに言ってきたわけですけど、既に国益は損なわれていると思いますよ。
 前にもお話ししましたけれども、北海道を中心に中堅酪農家が将来の経営展望が持てなくなっていると、離農が相次いでいるわけです。この離農数でいうと、北海道だけでも一年間に二百戸ですよ。そういう中で生産基盤が弱体化しつつあるということで、今JA北海道も実態調査に乗り出してきているわけですよ。生乳の生産が減産となっている、乳製品の需要が逼迫する事態になっている、地域経済と雇用にも重大な影響が出ていると。まさにこれ、国益が損なわれているということじゃないですか。ですから、直ちにこれTPP交渉から撤退することが日本の国益を守る第一の道だというふうに思いますけれども、いかがですか。

○国務大臣(林芳正君) 今御指摘のありましたことは、農水委員会でも紙委員からも御議論いただいて、総合的な対策をいろいろやっているという議論もさせていただいているところでございます。
 したがって、その乳製品等々をやっていらっしゃる、酪農をやっていらっしゃる方についてのいろんな対策というのは総合的に考えていく必要があると、こういうふうに考えております。

○委員長(山崎力君) 紙智子君、時間ですのでおまとめください。

○紙智子君 はい。
 結局、国民の国益は損なわれているというふうに思いますし、はっきりしたことは、米国のTPA法案を見れば、TPPで米国が何を実現させようとしているかというのは明らかだと。やっぱりこんなひどいTPPは撤退以外ないということを重ねて申し上げまして、質問を終わります。