<第185回国会 2013年12月18日 農林水産委員会>


酪農畜産価格問題で経営が守れる価格保障と政府に要求

◯紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 二〇一四年度の畜産、酪農価格問題について質問いたします。
 先日、北海道の皆さんが来られて、深刻な訴えがされました。三十歳代、四十歳代の中堅の酪農家の離農が加速していると。その原因は必ずしも経営難というだけではなくて、今年三月の安倍内閣によるTPP交渉参加決定で畜産、酪農家が長期的な経営展望を持てなくなっているというのです。北海道の酪農は、大きなところは装置産業と言われるぐらい機械化が進んで、何億円という単位でこれは設備投資をしなければなりません。当然、この投資資金を回収しなければなりませんけれども、それも長期的な経営展望がなければできないと。
 TPP加入で酪農、畜産部門の農産品の関税撤廃が求められている中で、一体どうしたらそういう長期展望を持つことができるのかということになっているわけです。北海道では、年間二百人を超えて離農がある、離農率が二%から三%に上昇していて収まる気配がないと。これによって生乳の生産量の確保も困難になるという事態です。大臣、これ、どのように受け止められるでしょうか。
◯国務大臣(林芳正君) この酪農の飼養動向を見ますと、乳用牛の飼養戸数、北海道は、二十五年度がマイナス一・九、二十四年度がマイナス三・一、二十三年度がマイナス二・二、二十二年度がマイナス二・八という数字でございまして、毎年減少する傾向で推移をしておるわけでございます。
 今委員がおっしゃられましたように、午前中衆議院でもそういう御指摘があったところでございますが、TPP交渉への参加による先行き不安も離農の要因であるという声を現場からは聞いているということもこれは事実でございますが、収益性を始め経営体ごとに多様な理由があると、こういうふうに思っておりますが、やはり周年拘束される労働である、それから労働条件が非常に過重であると。先ほどヘルパーのところの御質疑でもいただいたようなところが大きいんではないかと、こういうふうに思っております。
 したがって、経営基盤維持強化のためには、規模の拡大のみならず、家族経営も含めた多様な意欲ある経営を育成確保していくことが必要であると、こういうふうに考えております。
◯紙智子君 TPPの問題がすごく心配で先行きが大変だということを私は指摘したわけですけれども、余りそれには触れられなかったわけですね。
 今も議論になってきたわけですけれども、重要五品目を守るといっても、既にこれ、皆さん方は重要五品目の加工品や調製品の関税撤廃を米国政府に対して示して、米国政府からは拒否されたという経緯があるということが報道をされていると。
 全てのTPP交渉参加国からも関税撤廃を求められているというふうに言われている中で、このTPP交渉に参加している以上、今のままでは済むはずがないとみんな思っているわけですよ。
 TPPの交渉からの撤退を決断できるのかどうかと、それができるんであれば、この畜産農家の皆さんの経営展望も持ち直すことができると思うんですけれども、いかがですか。
◯国務大臣(林芳正君)先ほど数字をお示しいたしましたように、安倍内閣としてTPP交渉参加は今年でございますが、それ以前にも数%の傾向でずっと戸数が減少してきでいるというのが数字の現実でございますので、やはり私は、先ほど申し上げましたように、TPPに対する懸念以外のところの要因というものもしっかりと見ていかなければ、抜本的な経営体質の強化、また経営基盤の維持強化にはつながらないと、こういうふうに認識しております。
◯紙智子君 そんなことないですよ。それ以外なんて言うけど、実際には小さな規模でもちゃんと経営が成り立っているところは担い手が戻ってきているところもあるんですから。やっぱり今、本当に目の前にある、これを何とかしなきゃいけないという思いでいっぱいなわけですよ。はっきりした政府からのメッセージ出さなければ、この雪崩現象に歯止めを掛けることはできないという不安の声が広がっているわけです。このことは、引き続いて、重大な問題なので、次の通常国会でもやらせていただきたいと思います。
 さらに、現在、畜産、酪農経営の現状は、アベノミクスの円安誘導とトウモロコシ価格の高騰による配合飼料の価格の高騰で、今年の四月以降、生産者の実質負担額はトン当たりで六千二百五十円も増額しているわけです。灯油や軽油価格の高止まりなどの影響もあると。非常に厳しいわけですけれども、特にトウモロコシの価格が高止まりをして、アベノミクスの円安誘導という話もさっきありましたけれども、価格高騰になっているというのはこれは人災とも言えるものなわけです。
 その点では政府の責任というのは本当に重大だと思うんですけれども、いかがでしょうか。
◯国務大臣(林芳正君) この配合飼料でございますが、その原料の大宗を輸入穀物に依存をしております。米国の半世紀ぶりの大干ばつを背景に、トウモロコシ及び大豆油かすの国際相場、これが史上最高値を更新した等によりまして、昨年十月以降、価格が高騰していたところでございます。そのような中にあっても畜産農家の経営安定が図られなければなりません。
 したがって、この配合飼料価格安定制度につきましては、二十四年度の予備費でまず百四十八億円、それから二十五年度の補正予算において百億円、これをそれぞれ異常補填基金に積み増したわけでございますが、二十五年度の第二・四半期には通常補填の不足分に対して八十一億円の特別対策を実施をするということでございます。
 日本政策金融公庫に対しましては、平成二十四年度予備費において百三十四億円、それから二十五年度補正予算案においては十億円をそれぞれ出資することによって、低利、無担保、無保証の資金融通を円滑化すると。
 必要な対応は行ってまいりましたので、適切にこれらの対応を更に行ってまいりたいと思っております。
◯紙智子君 ちょっとこれから聞こうと思うところまで答えられちゃって困っちゃうんですけど。
 今これから聞こうと思ったのは、つまり、政府の責任で配合飼料価格が高騰しているんだから、政府の責任で加工原料乳の生産者補給金を大幅に引き上げるべきだし、酪農経営を安定させるというのは当然のことだと思うんですよ。これについて答弁いただきたい。そして、先ほどもありました要望の強いチーズ向けですね、この生乳供給安定対策事業の助成単価を引き上げるということについても、二つお答えください。
◯国務大臣(林芳正君) これは、先ほど来、今日のメーンテーマでございますのでそれぞれお答えをしてきたところでございますが、加工原料乳生産者補給金単価、これにつきましては、算定ルールにのっとりまして配合飼料価格等の生産コストの変化を適切に反映をさせて算定をいたしまして、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴いて適切に決定してまいりたいと思います。
 また、チーズ助成金単価でございますが、現在、予算措置として十五・一円、キログラム当たりの助成金を交付しておりますところでございますが、酪農家の皆さんからはより安定した支援を求める声も寄せられているところでございます。こうした状況を踏まえまして、チーズ向け生乳を加工原料乳生産者補給金制度の対象とするということについて、財政当局も含めて関係方面と早急に調整を進めたいと考えておりまして、単価についてもその調整の中で適切に決定してまいりたいと考えております。
◯紙智子君 それで、配合飼料価格のこれからの動向も予断を許さないんですけれども、異常補填金の基金の残高が約二十五億円、通常補填基金の残高が約百三億円、合わせると百二十八億円しかないと。これに対して借入残高が九百八十五億円で、約一千億に上るわけですね。これでは安定的な価格安定制度とは言えないということで、今ちょっと途中までお話しされたんですけど、政府としての抜本的な対策を取るべきだと思うんですね。
 これについて、ちょっと長くならないように一言でお願いします。
◯国務大臣(林芳正君) なるべく長くならないようにいたしますが、二十五年度の補正予算で、先ほど申し上げましたように、異常補填基金に百億の積み増しを計上いたしまして基金財源の確保を図ることとしております。
 それから、農家及び配合飼料メーカーの拠出による通常補填基金の負担を軽減するために、国及び配合飼料メーカーの拠出による異常補填について発動しやすくなるような機能強化、それから借入金返済の柔軟化等による返済計画の本格的リスケジュールを骨子とする見直しを行うこととしております。
 今後とも、畜産経営の安定が図られるように、今回の見直しにとどまることなく制度の安定運用に努めるとともに、更なる制度の見直しについて検討してまいりたいと、こういうふうに思っております。
◯紙智子君 それと、肉用牛の経営安定対策については、肉用子牛の補填基準価格を直近の生産コストの実態を反映した算出方法で再生産可能な水準に引き上げてほしいということが出ていますし、子牛価格の上昇や配合飼料価格の高騰で苦境に追い込まれている肉用牛の肥育経営を支援するための新マル緊事業、この継続、拡充などについても要望が寄せられていますけれども、これについてということが一つと、ちょっと併せて言いますね、時間なくて。
 もう一つは、原発事故から二年九か月たって、滞留している放射性物質の汚染稲わら、牧草などの処分方法、これ明確にして、国の責任で早急に実施する必要があると。それから、牧草地の除染についても国の責任で実施すべきだと思います。
 これ、東電による賠償が早期にかつ確実になされるように万全の対策を取る必要があると思いますけれども、併せていかがでしょうか。
◯国務大臣(林芳正君) 新マル緊事業におきましては、これまで平成二十三年の七月から特例的に補填金の支払を毎月行っております。原則は四半期ごとでございますが、特例的に毎月ということでございます。
 それから、二十五年の四月から、地域の実態をより反映するために都道府県ごとの補填金単価を算定する仕組みを入れました。二十五年七月からは屠畜経費を生産コストに算入するなど、肉用牛の肥育経営の視点に立って必要な見直しを随時行ってきたところでございまして、今後とも所要の予算の確保とそれから事業の的確な実施に努めてまいりたいと思っております。
 それから、この肉用子牛生産者補給金制度における基準価格でございますが、生産費の動向や需給事情その他経済事情を考慮しながらルールにのっとって算定し、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴いて適切に決定をしてまいりたいと思っております。
 それから、あわせまして、汚染稲わらについてのお尋ねがございました。
 放射性物質に汚染された稲わらや牧草等については、放射性物質汚染対策特措法、これに基づきまして、八千ベクレル超は指定廃棄物として国、環境省でございますが、が処理をする、八千ベクレル以下は一般廃棄物等として市町村等が処理をすることとされております。
 農水省としても、中間処理、最終処分を進めるために、環境省と共同で現地に参りまして関係市町村への説明などを行っているところでございますが、住民理解を得ることがなかなか難しい中で、中間処理、最終処分を行う体制が整うまでの問、営農上の支障が生じないように、また風評被害の原因とならないよう、隔離や一時保管を推進しておるところでございます。
 牧草地の除染でございますが、空間放射線量が高い地域、〇.二三マイクロシーベルト以上ということですが、ここは環境省による除染事業、その他の地域では東京電力による損害賠償での対応、これを基本としながら、先行的に実施する場合は農林水産省が実施している東日本大震災農業生産対策交付金、これを使うことによりまして農家負担のない形で実施をさせていただいているところでございます。
 今後とも、汚染稲わら等の処理及び牧草地の除染等の円滑な推進に加えまして、東京電力による賠償が円滑に行われるように、環境省や県、市町村等と連携しながらしっかりと取り組んでまいりたいと思っております。
◯紙智子君 やっぱり現場に行きますと、ずっともう、二年九か月もずっと積んであるわけですよね。そういう状況を早く何とかしなきゃいけないわけで、随時つかんで、絶えずやっぱり状況はどうなっているかということを調べながら改善していくと、どんどん解決していくというようにしていただきたいと思います。
 それから、これ皆さんも質問されていて、私もやっぱり質問したい中身ですけれども、酪農ヘルパーの事業の問題で、これ去年も私質問しました。それで、やっぱり誰も否定しないですね、もちろん大事なんだ大事なんだというふうにみんな思っているわけだけれども、実際には二二年度で廃止ということになると。これからの仕組みとして自立的なという話も前回やったときにされたんですけれども、自分たちで一定の基金を積んでというような話もありますよね。だけれども、実際には、やっぱり非常に懐が寂しい中でどうやってそれを回していく仕組みにするのかということは非常に苦慮しているわけで、本当に実質的にそれが役に立つという中身でいえば、やっぱりこれまでもやってきた中身をむしろ拡充していくような中身で考える必要、があると思うんですけれども、いかがでしょうか。
◯国務大臣(林芳正君) それぞれ先生方から御質疑をいただいたところでございますが、まさに休日の確保、傷病時の経営継続ということで大変大事であるとともに、酪農後継者、新規就農者の育成という役割も非常に重要であると思っておりまして、今委員から御指摘がありましたように、十年間で利用組合が自立することを前提に取り崩して使用してきたということで今年度で終了ということでございますが、酪農ヘルパーの支援自体は大変重要でございますので、酪農経営安定化支援ヘルパー事業に新たな事業メニューを加えまして、ヘルパー要員の確保、育成、定着などの課題に対応できますように事業を充実させたいと、こういうふうに思っておるところでございます。
◯紙智子君 それでは、次の問題について質問しますけれども、諌早湾の干拓潮受け堤防の開門についてお聞きします。
 福岡高裁判決が義務付けた開門期限十二月二十日まではあと二日です。一方、長崎地裁が十一月十二日に開門差止めの仮処分決定を出しました。
 まず、法務省に一般論についてお聞きしますけれども、確定判決の既判力は消滅させる手段はあるのかどうか、また仮処分決定は争う余地はあるのか、法務省の見解を求めたいと思います。
◯政府参考人(都築政則君) 確定判決につきましては、御指摘のとおり既判力がございます。この既判力を消滅させるためには、再審の訴えによる必要があります。他方、仮処分決定には既判力は認められておらず、保全異議などの不服申立て手続が認められております。
◯紙智子君 今の御答弁でいいますと、確定判決は再審と、そして仮処分決定は異議申立ての方法があるということですよね。
 私、同じ一次産業である農業も漁業も両立をしなきゃいけないというふうに思うんです。やっぱり宝の海、かつて豊かだった宝の海を復活させたいというふうに思うわけです。
 農林水産省は二つの司法の判断を受けて、昨日、大臣は長崎と佐賀の両知事と相次いで話し合われました。そこで長崎県の知事は、国が開門方針をやめない限りは話合いに応じない、司法判断に委ねる、つまり裁判で争いたいというふうにおっしゃっているわけです。こうなると、あと二日でまとまるめどはないんじゃないかと思うわけです。
 そこで改めて見直してみると、なぜ長崎地裁が仮処分決定を出したのかということです。決定が開門を差し止めた理由。一つは、国の海水淡水化の案の工事の契約は十二月二十日までに間に合うように契約していない、来年までの工期になっているわけです。二つ目は、民有地の賃貸を地権者が協力を拒否しているのに、農水省は具体的にどこに変更するかを明らかにせず、予定している期日までに設置工事を完成させるめどが立っていないと。三つ目は、海水淡水化施設の高圧電力が必要であるのに、高圧電力を導引する見通しを立てていないと。つまり、農業用水を確保するためのこの対策工事、契約を怠ったということが仮処分決定になったわけです。ですから、福岡確定判決を履行するための農林水産省の姿勢が鋭く問われたわけです。
 農水省が福岡確定判決を真撃に履行する意思があるのであれば、やっぱり長崎地裁に対して開門のための具体策を一不すべきだと、その意思を示して具体化するためにはこの仮処分決定に対して異議申立てを行うべきだと思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。見解を求めたいと思います。
◯国務大臣(林芳正君) この長崎地裁によります開門差止めの仮処分決定に対しましては、佐賀側原告団が既に十二月十六日月曜日、長崎地裁に異議申立てを行われたと、こういうふうに承知をしております。
 長崎側、佐賀側両県と国との話合い、今委員から触れていただきましたように、昨日お会いをさせていただいたわけですが、長崎側からは、国は仮処分決定の内容に従って異議申立てする権利を放棄するべきであると、こういうふうに求められております。佐賀側からは、国は仮処分決定の法的効力を失わせるための異議申立てをすべきであると、こういうふうに求められている状況でございます。
 したがって、二十日に向けましてぎりぎり話合いをいたそうと、努力を続けていこうと、こういうところでございますので、仮処分決定に対する異議申立ての取扱いにつきましては引き続き政府部内で慎重に検討してまいりたいと、こういうふうに考えております。
◯紙智子君 福岡高裁判決は、三年間準備期間を設けて開門するように求めてきたわけですよ。農業用水の対策をせずに開門したら農業被害が出るというのは当たり前なんですけれども、だから長崎地裁は開門のための準備を怠った農水省の姿勢を厳しく指摘したわけですね。
 開門のための具体策を示して裁判所と争わないということなのかと、まともに対応しない農林水産省というのは一体どういうつもりなのかというふうに私は思いますよ。福岡高裁判決が求めたこの開門期日まではあと二日と。ですから、確定判決が履行されないということになったら、これは憲政史上初めてのことが起こるわけです。こういう事態になったら、安倍政権の政治責任が鋭く問われることになるわけですよ。
 そういう自覚を持って対応することを私は農水省に強く求めて、質問を終わりたいと思います。