<第180回国会 2013年5月8日 予算委員会質問>


安倍首相にTPP交渉参加撤退迫る。


○委員長(石井一君) 次に、紙智子さんの質疑を行います。紙智子さん。
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 TPP問題で総理に質問いたします。
 TPPへの参加表明に対して、北海道では、オーストラリアや米国から安い農産物が入れば、小麦やてん菜、ビートですね、など多くの農産品の生産が成り立たなくなる、長年培った輪作体系も、これ一度壊れたら簡単に元に戻せないとの声が上がっています。沖縄のサトウキビ農家は、例外を設けなければ死ねということに等しいと悲痛な声が上がっています。
 四月十二日の日米事前協議に関する日本政府の発表文書では、日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国共に二国間貿易上の重要品目が存在することを両国が認識したとありますけれども、この米国通商代表部、USTRですね、この公表文書にはそのことは全く触れていません。
 総理は、これまでも何度も守るべきものは守るというふうにおっしゃってきましたけれども、日本の農産品の重要品目について何か一つでも守れる約束を取れたんでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 先般の日米首脳会談においては、聖域なき関税撤廃ではないということを確認をしたわけでございます。そして、その中において、今委員が紹介をされたような甘味資源等も含めて我々としては何とか守っていきたいと、こう考えているわけでございまして、それはまさに交渉の中で実現すべく努力をしていきたいと、こう思っているところでございます。
○紙智子君 何もまだ取れていないと、約束取れていないということですか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) まだ日本は正式にこの交渉に参加をしていないわけでございますので、現在これは絶対大丈夫だということは申し上げることは残念ながらできませんが、まさにこれから始まる交渉の中において、強力な交渉体制の下、守るべきものを守るべく努力をしていきたいと、このように思っております。
○紙智子君 これからという話をされるんですけど、私はおかしいなと思うんですよ。今回の合意内容で、米国通商代表部、USTRのこの公表文書によりますと、日本は高い基準での協定受入れを表明とあるわけです。資料をお配りしていると思います、英文のものとそれから日本訳のものですけれども。
 ここにも書かれていますけれども、米国政府は、日本がTPP交渉に参加したいなら、現在の参加国である十一か国によって既に交渉された高い基準での協定の受入れを保証せよと強く強調してきた。随分高圧的な態度ですよね。それに対し、日本政府は、全ての産品を交渉テーブルにのせ、その上で二〇一一年十一月十二日にTPP参加国によって表明されたTPP協約に明記された包括的で高い基準の協定を達成するために、交渉に参加することを明言したと書いているわけです。
 つまり、これ、二〇一一年にTPP参加九か国が確認している関税並びに物品・サービスの障害の撤廃のことなわけですけれども、関税ゼロの受入れを日本が言明したと言っていることと同じだと思うんですよ。
 そこでお聞きしますけれども、安倍総理が米国で行ったあの二月二十二日の日米共同声明ですね。三つのパラグラフがありましたけれども、その三番目のところで、TPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め、作業が残されているというふうに書いているんですよ、残されていると。その時点からもう二か月たっているわけですね。二か月間の間にどのような作業をやって、その結果として今回のこういう表現になっているのか、これについてお答え願います。
○国務大臣(甘利明君) TPPは、委員御案内のとおり、既加盟国、全加盟国との新規参入国は了解を取る必要があります。その過程の中で、一番大きい経済国でありますアメリカ、当然発言力も大きいと思います、そことの交渉を丁寧にやったと。ほかとも交渉は、事前交渉は全部やったわけであります。
 その中で米国は、それまでの二国間交渉、いわゆる経済対話の中で関心を示してきた事項に関して取り上げたわけでございます。日米両国に一定のセンシティビティーはあるんだということが確認をされまして、そして、かねてから関心の高かった自動車の項目に関して、日米でこれいわゆる並行協議の中で結論を出していったということであります。
 日本としては、これから入るわけであります。総理もお話をされていますけれども、もう既に加盟国の中で合意がなされたものが、後から入っていって、それは俺は知らない、なぜなら今入ったんだからといって全部机をひっくり返すようなことは、普通いかなる交渉でもそういうことはないんではないですかということを申し上げている次第でございまして、我々は、正式に会員、メンバーになりましたら直ちにあらゆる交渉力を駆使して、強い交渉を行っていきたいというふうに考えております。
○紙智子君 私、日米の二国間の中でそういう話やっていないのかということを聞いているわけですよ。
 二月の共同声明のときには、自民党の重要五品目の除外という決定はなかったんですね。三月になってそれが決められて、その後、安倍総理のTPP参加表明というふうになったわけですよ。当然、日米間でこの重要五品目の協議がなされたはずだと思うんですよ。そこで除外が約束されていないのか、持ち出していないのかと、そもそも。いかがですか。
○国務大臣(甘利明君) 日米協議でまず総理が確認したのは、聖域なき関税撤廃を前提とする交渉ではなかったということ、それからそれぞれの国にはセンシティビティーがあるんだということを日米間で確認ができたわけであります。そして、J―ファイル、自民党のJ―ファイルに載っております残りの五項目、工業製品には数値目標を設けないとか、あるいは国民皆保険はしっかり守るとか、食の安心安全基準を譲ることはないということをやってきたわけでありまして、二国間では基本的にアメリカの経済対話の中での関心事項の結果は出されましたけど、あとはこれから協議をしていこうということであります。
 TPPの中では、もちろん我々は日本の主張を全力でしていきたいということは変わらないわけでございます。
○紙智子君 本当にちょっと考えにくいなと。これだけ国内でみんなが声を上げて農業を守れるのかという話しているときに、一切それを持ち出さないわけですか、今まで。ちょっと考えにくいわけです。まあそれはいいですよ。
 それで、結局今の話聞いていますと、日本の農産品の重要五品目は守れる保証は全くまだ取れていないわけですよ。これが取れないまま、アメリカからは多くの条件をのまされていると思うんですね。
 米国は、これまで日本に掛けてきた自動車の関税を撤廃するというふうに、そこを約束したんだって言うけれども、それはもう最長期間よりも更にもっと遅い期間に思いっ切り後ろ倒しにやるという話じゃないですか。大体にして、期日だっていつになるのかも決まっていないわけですよ。不明確なわけですよ。結局は、米韓のFTAよりも米国の自動車業界を有利にすることになったと。
 今まで政府や財界は何と言っていたかというと、自動車でのこの米国と韓国の関税問題を挙げて、早くTPPに日本が参加しないとこれはもう韓国との競争に不利になるんだと大宣伝してきたわけですよ。ところが、今回の協議では、韓国と競争条件を同じにするどころか、韓国よりも米国にとっては有利になるような、そういうことを結局約束をさせられていると。そうなると、あなた方がTPPの参加のメリットとしてきたことが既に崩れているんじゃありませんか。いかがですか。
○国務大臣(甘利明君) 自動車に関して韓国と日本が有利、有利でなかったという議論はありますけれども、先ほど来経産大臣も答弁していますとおり、日本は日本としてのカードを切っていないんです、自動車のカード。なぜならば、ゼロですから。韓国は八%の自腹を切っているわけなんです。そして、アメリカの交渉等をしたわけであります。
 しかも、アメリカは、対韓、対日を比較しますと、日本からの輸出量が韓国の三倍です、自動車でいえば。ですから、アメリカにとってはより脅威になるわけであります。そうした中で、こちらは自分のカードを切ることなく、アメリカは結局、最終的には関税をなくするというカードを切ってきたわけであります。しかも、日本はアメリカの安全基準をそのままのむということはありません。日本の安全基準で輸入をいたします。韓国の場合は、アメリカの安全基準をそのまま丸のみにして、たしか二万五千台ですか、輸入するということを、そのカードも切ったわけであります。
 そういうことを比較すると、そう日本とアメリカとの事前交渉が米韓のFTAに自動車部門で劣後しているとは言い切れないんじゃないかと思っております。
○紙智子君 そういうことをおっしゃるんですけど、でも実際には、例えば自動車工業会の豊田社長なんかは、この方、推進の立場だと思いますけれども、言っていますよね、関税撤廃について、期限については残念だとおっしゃっているじゃないですか。いや、それにしたって撤廃するというふうにアメリカは言ったというけれども、まだ当面はずっと維持されるわけでしょう。少なくとも十年は維持されるんじゃないですか。その状態が続くということですよ。
 しかも、USTRの書いている文書によりますと、これは大変喜んで書いているわけですよ。これらの措置は、米韓FTAで韓国に認められた関税撤廃の措置よりもはるかに遅れることも日本政府は合意したんだと喜んで書いているわけですよ。こういうところから見ても、国内にはそうやっておっしゃるけれども、実際には違うんじゃないのかと思うんです。
 しかも、米国の通商代表部のこの公表文書を見ますと、簡易で時間の掛からない認証方法で輸入台数を二倍以上にすると、これについて日本が一方的に決定して通告してきたと書いているんですね。だから、米国に言われていないのに日本の方から一方的に通告したのかと。どうなんですか、これは。
○国務大臣(甘利明君) これは別にアメリカにだけ言ったわけじゃなく、世界に対して言ったんですね。これはヨーロッパに対してもそうですよ。全ての、別にその日米協議の席上でアメリカに対してこうですよと言ったわけじゃなくて、世界の自動車輸入に対して言ったわけであります。
 アメリカから来ている輸入量よりもEUから来ている方がはるかに多いはずです。これは世界に向けてこうしていきます、開いていきますと。これは安全基準を変えたわけじゃない、手続を迅速にやっていくという枠で輸入するということで申し上げたわけであります。
○紙智子君 二国間の協議の中でアメリカが国内向けに表現というか、報告している中身について、日本との協議をこう言っているわけですよ、アメリカが。しかも、これ米国はこれでもまだ足りないという話をしているんじゃないですか。日本の自動車販売網が閉鎖的だとか、軽自動車の税金を安くしているのは駄目だとか、それから環境対応車、ハイブリッドの優遇は是正すべきだとか、更なる条件をこれ求めているんじゃないですか。言いたい放題じゃないですか。これは、日本国民にとってはむしろこれは大変な損失になるわけですよ。
 それから、保険、これも米国の圧力に屈していると思うんですね。米国通商代表のこの文書についてまた見ますと、さらに日本政府は、四月十二日に日本郵政の保険に関して、民間の保険会社に日本郵政と平等な競争条件を確保することや、新規又は修正されたがん保険、医療保険は許可しないと一方的に通告してきたと、これまた一方的に通告してきたというふうにあるわけですよ。これ、日本郵政のかんぽ生命ががん保険などの新商品の提供をすることを凍結したと。
 これは、がん保険などを手掛けるあのアフラックですね、よくコマーシャルに出てきますけれども、アフラック、アメリカンファミリーですね、こういうアメリカの保険会社の要求にこたえたものなんじゃないですか。なぜこんなことを日本から一方的に通告なんかするんですか。
○国務大臣(甘利明君) これはたしか財務大臣が記者から質問を受けて、それでこういうことではないですかとたしか答弁をされたのであって、アメリカからこれを言われて、それに対してこうしたということではないというふうに理解しておりますけれども。
○国務大臣(麻生太郎君) 全然予定、質問通告されているわけではありませんけれども、勘違いとかいろんな話が、情報が重なるたびに御迷惑を掛けますので。
 少なくとも非関税障壁等々の部分でこのかんぽ生命の保険という話が出るんですが、これはTPPの交渉とはそもそも関係ない話なのであって、かんぽ生命の新規業務につきましては、郵政の民営化法とか保険業法の枠組みの中で他の保険会社と適正な競争関係が確立されていますかと言われれば、傍ら政府資本が入っているわけですから、そういったものはほかの民間の会社とも競争条件としては正確な競争、公平さを欠いている状況になっていますので、したがって他の保険会社との適正な競争関係が確立されるということになっておりませんので、業務の適切な遂行態勢が確保されない限りはということを申し上げたのであって、これはアメリカの話とは関係ありません。
○紙智子君 TPPと関係ないと言われるんですけど、でも、このアメリカのUSTRの文書の中で何て書いているかというと、アメリカ政府はアメリカの保険会社が日本郵政の保険との関係において、日本の保険市場で平等な基準で取り扱われていないことを強調してきたんだと言っているわけですよ。それにこたえて今回こうなったということを報告しているわけですから、やっぱり関係あるんですね。(発言する者あり)もういいですよ。いやいや、いいですよ。いや、関係ない関係ないと言うけれども、実際には関係あるじゃないですか。(発言する者あり)いや、いいですよ。
 それで、このUSTRは、これは言うまでもないことかもしれませんけれども、米国の通商政策全般を担当する大統領の直属の機関で、これ通商代表部には閣僚の資格が与えられているわけですよね。だから、米国の貿易をつかさどる正式な政府機関が日本政府との間で確認したことをホームページに発表しているわけですよ。だから、日本が確認しないことを勝手に言うわけはないわけで、ここで言っていることはやっぱりそのとおりなんだろうと思いますよ。
 最後になりますけれども、これは、牛肉にしても自動車にしても保険にしても、この三条件を入場料として日本は払ってきたわけですよね、既に。TPPに入って、更に新たな枠組みで米国の要求に次々と譲歩を迫られていくと。肝心の日本の守るべき重要品目などは何一つ担保されていないわけですよ、これ。何もされていないですよ、今の段階で。守るべきは守るというふうに今まで何度も言っているけれども、事前協議ですらこれだけの譲歩をされる一方なのに、何でこれから交渉力を発揮することなんかできるのかと、本当にできるのかと。これはもう、ちょっと信用できないですよね。
 北海道内九か所で自民党の説明会の様子が新聞報道されていましたけれども、もうたくさんの厳しい声が出ていますよ。選挙で勝った途端に手のひらを返すように交渉参加を表明したのは許し難い暴挙だと、こういう声。それから、重要五品目が守れないんだったら脱退できるのかと、約束してくれと、こういう声も上がっていますよ。当然だと思いますよ。
 四月の日米協議で、このTPP交渉参加と日米協議という二つのラインを作ったわけですよ。TPPともう一つ並行して、事前協議でどんどんやっていくと。これは、言わば中身を見れば、これ二国間の、日米のFTAに匹敵するような中身ですよ。こういう重大な中身を国会の承認も得ない形でやれるように進めていくというのはとんでもない話だと思います。
 ですから、このような主権を放棄して国の形を変える日米交渉は直ちにやめるべきだと、撤退するべきだ、そのことが日本の国益を守る道だということを強く要求いたしまして、質問を終わります。
○委員長(石井一君) 以上で紙智子さんの質疑は終了いたしました。(拍手)