<第180回国会 2012年8月6日 社会保障と税の一体改革に関する特別委員会>


中央公聴会/消費税増税は税の正義に反する等々、批判相次ぐ

○ 議題

* 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律案(内閣提出)
* 被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案(内閣提出)
* 社会保障制度改革推進法案(衆議院提出)
* 子ども・子育て支援法案(内閣提出)
* 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律案(衆議院提出)
* 子ども・子育て支援法及び総合こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出)
* 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出)
* 社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律案(内閣提出)

○ 公述人

日本経済団体連合会税制委員会企画部会長 中村 豊明君
駒澤大学准教授 飯田 泰之君
中央大学経済学部教授 長谷川聰哲君
スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役 植草 一秀君
東京大学名誉教授 醍醐 聰君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、公述人の皆様、貴重な御意見ありがとうございます。
 最初に、醍醐先生にお聞きしたいと思います。先ほど時間の関係で全て資料に触れられなかったので、その中で幾つかお聞きしたいと思います。
 まず、この資料の二十ページのところにあります不安定雇用を放置したままの増税というところなんですけれども、先ほど答弁の中でも少し触れられていたんですけれども、非正規雇用労働者が一九八五年に六百五十五万人、それが二〇一一年には一千七百三十三万人と二倍以上増えていて、女性の比率の問題も触れられていましたけれども、この状態で消費税を一〇%に引き上げるということになれば、ますます所得が圧迫をされて、消費支出あるいは税収には結び付くどころか逆行するのではないかと。本来、正規で働いて安定雇用が増えるということにならなきゃいけないんですけれども、逆にこういう状態が続いているということについてもう少し詳しくこの辺りのことを一つお聞きしたいということと、併せてもう一点なんですけれども、この資料の中の二十三ページにありますけれども、肩車型社会論というところがあります。
 それで、この問題については、社会保障の財源に消費税をということで政府がいつも持ち出す議論の中に肩車型社会論と。現在は騎馬戦型で、二・六人の現役世代が一人の高齢者を支える社会から、二〇六〇年には肩車型で一・二人の現役が一人の高齢者を支える社会になって、現役負担が二・二倍になると。
 こういう話をされますと、やっぱりあちこち聞いて歩きますと、消費税増税は困るんだけれども、しかし子供や孫に苦労させるということになるのであれば増税しても仕方がないのかなという人がいたり、あるいは中には、私たちはお荷物なのかということで、子や孫に負担を掛けるんだったらもう長生きなんかしたくないというふうにおっしゃる方もいらっしゃるわけですよね。
 ちょっとこの辺りについてのお考えをお聞きしたいと思います。
○公述人(醍醐聰君) いろいろ御質問、多くございますので、簡潔に。
 まず、こういう非正規の人たちの今の年収レベルで一〇%に消費税を上げたときにどうなるかという、これは私の計算、総務省の家計調査に基づいてやりましたが、二人以上の世帯で非常に多い二百万未満の方の場合、年額十一・九万円で年収の七・五%を占めます。単身世帯の方ですので半分、これは女性の方の場合はむしろ非常に多いわけですが、年収に占める割合が一一・六%。この二桁ということの意味は、私はこれは尋常ではないというふうに思っております。先ほど、低所得対策というのがございますけれども、いろいろ方法を言われて、究極的には、財源調達機能と所得再分配機能が消費税ではこれは両立し難いということを示しているのではないかというふうに私は考えております。
 肩車型社会の問題でございますけれども、今議員の方から御説明がございましたが、この政府の示した統計資料によりますと、これでいくと、現役の負担は現在から二〇六〇年にかけて二・二倍になるということを言っているわけですね。
 しかし、私は、これは二つの間違いがあると考えております。
 一つは、分子の問題です。分子は、養われる、支えられる側ですけれども、これ、老年人口だけなんですね、六十五歳以上。私は、ここで社会的扶養率ということを申し上げているわけです。そうしますと、例えば現役も、自分は何も食わずでお年寄りを支えているわけじゃないし、年少の子供も支えているわけですね、社会的には。ですから、支えられるといったら、自分も含めた全人口とするべきだと考えます。
 分母の方なんですけれども、これは要するところ、分母も分子も自然年齢で輪切りしているわけですね。生産年齢人口というのは二十歳から六十四歳。しかし、まさに先ほどの議論ですが、支える側一人といっても、正規なのか非正規なのかで全く違うわけですね。扶養力というのは、人数ではなくて究極的には所得ですね。その意味で、正規も非正規も全く同じにカウントするというのでは実態を何ら表していないということを申し上げたいわけです。
 そこで、まず一つとしては、分母の支える側、これは自然年齢の生産年齢人口ではなくて労働力率を加味するということが必要になってまいります。これは六十歳前後とか、四十歳から五十歳の女性の労働市場への進出が極めて伸びていくという見通しがあるということです。これでいきますと、まず分子を変えることによって、この変化率は二・二倍じゃなくて一・二六倍です。更に労働力率を加味しますと、一・〇九倍です。やはりこういうデータを使うべきではないかと考えております。
 つまり、先ほどの公述人の方にもございましたが、現役世代の負担を誇張し、誤った統計データを使って将来世代にツケを回さないという理由で消費税増税待ったなしを迫るのは、決してこれは丁寧な説明ではなく、まやかしの強迫的な説明であって、自助、共助、公助という社会保障改革法案にあるその精神の共助に政府自らが水を差すようなさもしい喧伝だと私は思っております。
○紙智子君 続けてお聞きしたいんですけれども、先ほどお話しになっておりました附則十八条の二項の解釈の問題ありました。三つのケース説明されていたんですけれども、この部分というのは衆議院ではほとんど議論がなく、民主党、自民党、公明党の三党で修正協議が行われて、それで加わって参議院に来たということであります。
 それで、国民には、この間、財政危機で待ったなしだと、だから増税をお願いするんだと言って、社会保障以外にはほとんど使いませんということを言いながら、五%税率を引き上げた場合はゆとりが生まれるので、これを成長戦略並びに事前防災及び減災などに資する分野に資金を重点的に配分するということで付け加えて成立させようと、これはどう考えても矛盾しているんじゃないかというふうに思うんですけれども、先ほど非常に厳しい指摘がされていて、とにかくそごがあると、どのケースを見てもいろいろ矛盾をしている、そういう中で十分な議論もないまま成立するということがやられるのかと、差し戻してもう一回やる必要があるんじゃないのかということでは、非常にお聞きしていて、我々一人一人の議員にその責任が問われているという気がしてお聞きしていたんですけれども、これをめぐって更に付け加えたいことがありましたら、お聞きしたいと思います。
○公述人(醍醐聰君) 私は、この附則以前に、十三・五兆円のうちの七兆円を次世代へのツケを回さないために使う、様々言われておりますが、例えば次世代の負担になる国債の償還に充てるとかいう解釈がされている場合ありますが、国債償還、一般論としては、私、先ほど申し上げましたように、必要は否定しませんが、この消費税増税の財源として言うのであれば、この七兆円がそもそも社会保障に全てを充てるという解釈から明らかに私ははみ出ていると考えております。そこへ更にこの附則が来ました。
 私は、減災、防災の投資が必要であるとかないとかということを、特に必要でないということを一律に申し上げる必要はございません。私が今日公述人として来ましたのは、閣法七二号法案の修正案について意見を述べる、法案の審議なんですね。この法案、一体、関係のないことを、もし、国債を増発してというんなら、関係のないことが附則に入った法案を、これを審議したとして、そもそも採決をするということが法案審議として瑕疵はないのでしょうかということを私は議員の皆さんに申し上げたいわけです。
○紙智子君 もう一つお聞きしたいんですけれども、今、消費税増税の前にやるべきことがあるというふうに言う主張もあります。これは、やるべきことをやった後は増税するということになるわけで、私ども日本共産党としては、これ、消費税増税に頼らないで社会保障も充実させるし財源も確保する、その別の道があるんだということで、経済の提言をさせていただきました。
 その中では、社会保障を良くしていくということと同時に、国民の所得を増やす経済改革を同時並行で進めていくと、やっぱり経済を温めていくということをやりながらですね。その財源については、能力に応じた負担ということを原則にしてやっていく必要があると。例えば、年収が一億円を超えるような富裕層や巨大な経済力を持つ大企業にもっと応分の負担を求めていくということでありまして、今はそこがそうなっていなくて優遇されているということがありますので、税制の在り方自体を抜本的に変える必要があるというふうに考えているわけですが、これに対しての御意見を伺いたいと思います。
○公述人(醍醐聰君) 私は、客観的に無駄があるのなら、増税のあるなしに関係なく是非ともやっていただきたいし、やる必要があると思っております。それが何か消費税増税の免罪符のようなと言ったら非常に言葉がきついですけれども、その何か交換条件のように言われているというのであれば、私は非常に違和感を感じております。増税あるなしに関係なく、無駄な経費は削除し、それを有効な財源として活用していただくということは、これは当然必要なことだと思っております。
 私は、消費税というのは、これは、先ほどから逆進性という言葉がございましたが、より深刻なのは、間接税という性格からくるこれは転嫁の問題です。このことがほとんど語られていないのを私は非常に残念に思うわけです。
 経済学の中では、間接税という言葉はもう使わないという方があるんですね、一般間接税は。これは間接税じゃなくて転嫁の問題で、いろんなところに転嫁していく。例えば、病院は損税だということがございます。しかし、それに対して厚生省は診療報酬でそれはケアしていると言います。しかし、じゃ、診療報酬で仮にケアをして、まあなってないとおっしゃっているんですけどね、病院の方々は。仮に幾分かをケアしたとしても、その診療報酬は結局、保険料とか患者負担とかそういうところに転嫁していくわけですね、帰着といって。
 したがいまして、間接税というのは結局、その転嫁の問題が予定したとおりにいかないというこの問題を避けることができないというところが一番深刻ですね。ですから、私は、消費税の増税ということは、これは決して好ましいものではない、かつ、私は資料の最後の方にちょっと書かせていただきましたが、今現在、消費税に代わる財源というものはこういう形で積極的に提言していくべきだし、私なりの案は示させていただいたと考えております。
○紙智子君 それじゃ、植草氏とそれから中村公述人とにお聞きいたします。
 先ほど来お話をしてきたんですけれども、財源の確保について能力に応じて負担をしていただくということで、もちろん全体をみんなが負担しなきゃいけないということは明らかなんですけれども、まずはやっぱり富裕層からふさわしく税金を納めてもらうべきだというふうに考えているわけです。
 海外でもそうした主張が出てきていて、世界でも非常に有名な投資家と言われていますアメリカのウォーレン・バフェット氏ですね、ニューヨーク・タイムズに金持ちを保護する政策はもうやめようということで寄稿したり、あるいはイタリア、ドイツ、フランスなどの各国の富豪家たちが、増税するのであれば富裕層からすべきだというふうに主張されている、そんな流れも出てきているわけですけれども、これについてどのように思われるのかということで、それが一つ。
 それからもう一つは、各地歩きますと、やっぱり消費税増税が景気に悪影響を与えるんじゃないかということで懸念が強く出されています。一九九七年のときに、橋本内閣のときに三%から五%に上がって景気がもう非常に悪くなったということもあり、これが五%上がったら、もう店はやっていけないという声が多々出されているわけですけれども、これについての御意見をお聞きしたいと思います。
○委員長(高橋千秋君) 植草公述人。時間が迫っておりますので簡潔にお願いします。
○公述人(植草一秀君) 前者の問題ですけれども、これはやはり税制をめぐる基本的な考え方についてどう判断するかが重要で、いわゆる応能課税という考え方を取るのか、これは小泉政権以来のいわゆる新自由主義と呼ばれるような弱肉強食化と、どちらの立場を取るかと。私は共生という立場で、そういう意味では能力に応じた負担ということで、それを軸に据えるべきで、課税についても総合課税、所得課税については総合課税化ということが重要だと思います。
 それから、景気につきましては、九七年度ですね、やはり消費税の増税によりまして大きな影響が出ました。今回、税率五%引上げということですので、それ以上の大きな影響が出るというふうに思います。
○委員長(高橋千秋君) 中村公述人。時間が過ぎておりますので簡潔にお願いします。
○公述人(中村豊明君) 今お話のございました能力応分につきましては、ワールドワイドで見まして、どこも個人の所得に対して五〇%というのが最高税率になっておりますので、これに対して更に増やすというのはどうかということと、消費税は世の中で一番低いということでありますので、これに対して能力応分ということよりもグローバルなスタンダードでやるべきであろうというふうに思います。
 景気の浮揚に対して悪いという点は、確かにデフレ化がどんどん進んでいくというときにはそういうことだと思いますが、これをいかに対策するかということを考えることが先決であろうというふうに思います。
○紙智子君 どうもありがとうございました。終わります。