<第180回国会 2012年7月24日 参議院予算委員会>


TPP問題

○委員長(柳田稔君) 次に、紙智子君の質疑を行います。紙智子君。
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 TPP問題について質問いたします。
 TPPの原則は二つです。一つは貿易の際の関税をゼロにすることと、もう一つは関税以外の規制や制約などを緩和する非関税障壁の撤廃です。
 今まで次々と輸入自由化を進めてきたわけですけれども、米などどうしても必要な場合は、これは税金を掛けて国内生産を守ってきました。これがなくなりますと、日本農業はひとたまりもありません。安い輸入米に置き換わって、生産者は離農に追い込まれます。(資料提示)
 それが、ここに出しました農水省が試算をした、これまでも何回も出ましたけれども、最初の上のところは生産減少ですね、生産額の減少四兆五千億円、関税撤廃した場合ですね、自給率は一三%まで下がると。それから、ずっと下の方に行きますと、就業機会の減少数三百五十万人ということで示されているわけです。当然、地域経済にとっても大変な痛手だということで、地方自治体、議会でもこの間、決議がたくさん上がってきました。我が党は、やっぱりこういうTPPに参加すべきでないという立場です。
 以下、質問いたします。
 四月の十日に青森県が主催してTPP協定に関する説明会が行われました。政府からも参加をしていまして、会場から出された米だけを例外扱いにできるのかという質問に対して、次のように回答しています。TPPは全品目関税撤廃というのが基本的な考え方で、TPPの参加国の考え方は、基本的には関税撤廃期間を長く取ることで配慮できるという考え方だと。つまり、米のような重要品目について配慮するというのは、除外ではなくて、関税ゼロにすることをすぐやるか時間を掛けてやるかということ、こういう説明なわけですよ。
 野田総理にお聞きしますけれども、総理もそういう御認識でしょうか。
○国務大臣(玄葉光一郎君) 本来は、大臣でいえば国家戦略担当大臣だと思うんですけど、今のお話でありますが、いわゆる米などについての扱いということでございますけれども、除外は一切認められないのかどうかという問いだというふうに思います。
 この点については、もう結論から申し上げれば、交渉の中で、交渉のプロセスの中で決まっていくということが物品については確認をされています。それは具体的に私とカーク通商代表が、四月だったと思いますけれども、会談をした際にそのような発言がございました。
○紙智子君 そういうふうに言われるんですけれども、現場において説明はこう説明されているわけですよ。それ以外はないという認識なわけですよ。違うんですか。
○国務大臣(玄葉光一郎君) 今、紙委員がおっしゃったのは、これはあれですか、三月一日付けの政府公表文書のことでしょうか。そうではないんですか、青森県で配った……(発言する者あり)
 多分これは国家戦略室だと思うんですけれども、基本的に九〇%から九五%を即時撤廃し、残る関税について七年以内に段階的に撤廃をすべし、そういう考えを支持している国が多数あるというのは事実でございます。
 他方、全品目をテーブルにのせることと全品目の関税撤廃は同義ではございません。更に言えば、センシティブ品目の扱いは合意をしておらず、先ほど申し上げましたけれども、最終的には交渉次第であるということでございます。
○紙智子君 この間、ずっと交渉次第であるということを言うんですけれども、でも、外務省の三月一日のこの発表文書を見ても、例外なき関税撤廃を実現し、種々のセンシティビティーへの対応として七年から十年の段階的撤廃により対応することが基本的な原則として全ての交渉参加国で合意されていると、そして包括的自由化がTPPの原則であり、全品目の関税撤廃を目指して交渉を行っていると書いているじゃありませんか。外務省の文書ですよ。
○国務大臣(玄葉光一郎君) 今のお話が三月一日付けの外務省の文書ということですね。であれば、先ほど申し上げたとおり、この資料に、おっしゃったとおり、各国の発言ぶりを記載していて、今おっしゃったような、つまり、ちょっとやや繰り返しになって申し訳ないんですが、九〇から九五即時撤廃、残る関税は七年以内に段階的に撤廃すべしとの考えを支持している国が多数あるというふうに記述していることは、これは事実であります。
 他方、同じ資料に、先ほど申し上げたように、これは全品目をテーブルにのせることと全品目の関税撤廃は同義ではない、そしてセンシティブ品目の扱いは合意しておらず、最終的には交渉次第である、そういう発言も同じ資料に記載されているというふうに承知しています。
○紙智子君 そう言うんですけど、そういういろいろな意見も出ているって書いているけれども、でも主は前に書いてある今の文章ですよ。これが政府の姿勢なんじゃないんですか。これは私、やっぱりごまかしちゃいけないと思うんですよ。
 これまで、関税撤廃の対象から外すという意味で例外措置もあり得るかのように今のような説明を繰り返してきたわけですけれども、これは違うと、はっきりとそういうふうに言われたらいいと思うんですよ。これもう実施されたら深刻な打撃を受けざるを得ないわけです。
 それで、私は郡司農水大臣にここでお聞きしたいんですけれども、郡司農水大臣は、原則関税撤廃する方向だとすれば、それは日本の農林水産業にとって厳しい状況だという認識でこれからも対処していくということで、六月の農水委員会で私の質問に答えられましたけれども、このお立場は今も変わりませんね。
○国務大臣(郡司彰君) いろいろな交渉がある中で、TPPの場合には原則撤廃をしようというようなことが先行したグループのところで話し合われているふうに理解をしております。そういう状態のままで交渉が進みというようなことになりますれば、我が国の農林水産業を大変懸念をするという声が強く寄せられております。
 ただ、先ほど紙委員が示されましたこの資料につきましては、もちろん御存じのことだと思いますけれども、これはTPPだけではなくて全ての国に対して関税がゼロという前提の資料だということも説明をさせていただきたいと思います。
○紙智子君 今の郡司大臣の認識は、撤廃された場合は非常に深刻だという認識だというふうに思うんですよ。だとすると、もし仮にTPPに参加するというふうになった場合は、大臣は反対をされるということですよね。
○国務大臣(郡司彰君) 先ほど来から申し上げておりますように、私の管轄をする分野のところにつきましては大変に多くの懸念の声が寄せられておる、そのことを発信をするというのが私の役目だろうというふうに思っております。
○紙智子君 反対という意思だというふうに思います。やはりですね……(発言する者あり)違うか。だとすれば、これは関税撤廃ということがはっきりしている中で、日本の農業がどうなるかということが懸かっている問題ですから、私は、見守るという立場ではなくて、もうこの今の時点ではっきりと農水大臣という日本の農業を守る立場で反対を表明すべきだというふうに思いますよ。
 この農水省自身がつくったパネルの問題も、農水省自身がこの試算のものについても、以前、関税がゼロになった場合はどんな国内対策をしてもこれ自給率の低下は免れないというふうに書いているわけですよ。しかも、お隣の韓国はアメリカと二国間の協定を結びましたけれども、この三月からは米以外については関税撤廃となりました。その結果どういうことが起こっているかというと、韓国の畜産関係者は、地域は豚や牛の畜産農家が多いわけですけれども、このままでは廃業に追い込まれると、市全体がこれは潰れてしまうと、そういう深刻な危機感を訴えている状況があるわけですよ。そういうことを考えるならば、今ここはしっかりと歯止めを掛けるという立場に立っていただきたいと思います。
 それからもう一つ、非関税障壁の問題についてですけれども、これ、野田総理、今、米国からは交渉参加の条件として日本に三つのことが突き付けられています。牛肉の月齢制限の緩和、それからかんぽ生命保険や共済の優遇措置をなくすこと、そして自動車です。
 この軽自動車については、税金が優遇されていて競争が阻害されると、だから軽自動車の規格を廃止すべきだと要求されているわけです。軽自動車の税金というのは今、年間七千二百円ですけれども、一般の車と同じ扱いになりますと、二万九千五百円になるわけですよ。これ、また庶民の重い負担になるわけですよ。
 こういう理不尽な要求を野田総理は受け入れるつもりなんでしょうか。野田総理。
○国務大臣(玄葉光一郎君) 今、自動車、保険、そして牛肉というお話がございました。
 牛肉の話は、これはTPPと別の話で……(発言する者あり)はい、分かりました。それでは、自動車の話だけにいたしますけれども、自動車の話については先ほど山田委員から御指摘がございました。六つの点についての関心が示されているのは事実でございます。
 その上で、今、軽の話が出ていましたけれども、それは恐らく、先ほど六つの点について申し上げた最後の税のところでそういった意見表明、関心というものが一定程度なされていると。それについて、先ほども申し上げましたけれども、詳細なやり取りを現時点で日米間で行っていると、そういう状況ではございません。
○紙智子君 内閣官房の文書の中に今言われたこと書いてあるわけですよね。で、関心事項について話し合っているというんだけれども、水面下ではもっと話しているんじゃないですか。大体新聞で、この間、新聞紙上でも繰り返し取りざたされているわけですよ。
 それで、これ、自動車と軽自動車の税金のことだと思いますよね。オバマ大統領自らも日本に対しては要求しているわけですよ。アメリカは、自動車を日本に売るために、まだ正式交渉に入っているわけでもないわけですけれども、事前交渉の段階でこういう要求を、条件に乗らないとTPPには入れてやらないという、言わば入場料を要求しているわけで、米国のこんな理不尽な入場料払ってまで入ろうというんでしょうか。野田総理、どうですか。
○国務大臣(玄葉光一郎君) これも先ほど山田委員に申し上げましたけど、結局、信頼醸成の材料というものを米国側が希望していることは事実なんです。それは、新規参加国として交渉に参加したメキシコそしてカナダなども、例えば、少なくとも報道によればということで申し上げますけれども、知的財産権であるとかあるいは著作権であるとか農産物の一部であるとか、そういったことについて事前に協議を行った上で交渉に参加したということは事実ですよ。そういう中で、今、日本に対して関心事項が示されているということでございます。
○紙智子君 カナダやメキシコは特例が認められているわけじゃないじゃないですか。特別に例外が認められているわけじゃないじゃないですか。結局は、関税撤廃という点では何も変わっていないはずですよ。そういう中で、向こうも入っているからという形でやっぱりごまかしちゃいけないと思うんですね。
 更に聞きたいんですけれども、今度は野田総理にお聞きします。野田総理が議長を務めている国家戦略会議が十一日に提出をした日本再生戦略ですね。これ、経済連携協定でカバー率、つまり貿易額全体に占める締結国の割合を二〇二〇年度までに八〇%に高めるということを盛り込んでいるわけです。これは、総理、TPPに入らなくても達成できるんですか、八〇%。
○内閣総理大臣(野田佳彦君) 今御指摘のあった日本再生戦略というのはまだ策定中の段階です。政府としての一定の考え方はまとめさせていただきましたけれども、今そのこと、案について党内で今御議論をいただいているという、そういう最中でございますので、現時点で内容が固まったものではございません。
 政府としては、世界の成長センターであるアジア太平洋地域の力強い成長を促し、膨大なインフラ需要や巨大な新中間層の購買力を取り込んでいくことは、我が国日本に豊かさをもたらすものであると考えております。そのような観点から、我が国が二〇二〇年にアジア太平洋自由貿易圏、FTAAPを構築することを目標としてまいりましたけれども、これが実現をするとするならば我が国のEPAのカバー率が八〇%になると、そういう想定が成り立つということであります。
○紙智子君 私が聞いたことはそのことじゃなくて、TPPに入らなくても八〇%達成できるんですかということを聞いたんです。
○内閣総理大臣(野田佳彦君) FTAAPの実現でありますから、今のAPECに加盟をしている二十一のエコノミーが参加をする自由貿易圏ができたならば八〇%のカバー率になるということであります。
○紙智子君 ということは、TPPに参加するということが前提ですよね、ということだと思います。今、一八・六%から八〇%まで増やすとなると、アメリカですとかオーストラリアですとか、こういう経済の大きい主要国が参加しなければこれはいかないということだというふうに思いますよ。
 さらに、日本再生戦略の工程表、ここに示しましたけれども、これは政府が作成している工程表の一部分のところを取り出して拡大をしたところです。二〇一二年度実施すべき事項というのがあって、ここで関税削減・撤廃と書いてあります。さらに、非関税措置等への積極的取組と、基準認証制度の国際調和化と、ここまでずっと明記しているわけですね。
 野田総理は、これまで何度も繰り返し国民への情報提供を行って十分な国民的議論を経て結論を得るというふうに言ってきたわけです。ところが、そう言いながら、議論の最中で既にこの工程表を作って、これでもう書き込んで進めるということは、これは選択肢としてTPP参加の選択肢しかないということじゃないですか。
 国民には情報を隠しておいて、こうやって事実上参加決めて、実は参加の時期を狙っているということなんじゃありませんか。
○内閣総理大臣(野田佳彦君) これ、この表現をTPPだけで見込んでお話しされているというふうに思いますけれども、我々は高いレベルの経済連携をほかの国とか地域ともやろうとしているわけです。例えば、日・EUのEPAについても、今、EU委員会においては各国のマンデートを取るための今努力、取組をされています。
 そういうこともにらんで関税とか非関税措置等々の表現をしているわけであって、TPPだけのこれは話ではありません。こういう経済連携をやっていく中で項目として挙がってきているということであります。
○紙智子君 FTAAPという話すぐされるんですけれども、さっきも議論になっていましたけれども、元々はアメリカが提案していることじゃないですか。クリントン政権の時代、そしてブッシュ政権の時代、そういう構想の中で、日本もオバマ大統領が日本にやってきたときに乗っかって進めてきている話じゃないですか。
 そうじゃなくて、先ほども議論ありましたけれども、やっぱり広くアジア全体も含めて、日本の立ち位置のすごく大事なところにあると思うんですよ。アメリカの方だけ見てやっていくというやり方は、これはもう本当に感心しないというふうに思います。
 それで、やっぱり二〇一二年度中にやるということについては今おっしゃらなかったですよね、否定しなかったですよね。だからこそ、みんなはこれ、八月中にも言うんじゃないかということで心配しているわけですよ。国民の中ではほとんどこれ説明されたと思ってないと、納得もしてないと。そういう中で、前のめりになって総理が参加していくんじゃないかということで懸念をするわけですよ。
 デフレで大変だというふうに言われている中で、しかも今、被災で苦しんで何とか復興しようということで頑張っている中で、消費税増税とダブルでこの経済を駄目にしていくTPP参加は絶対に許さないということを申し上げまして、質問を終わります。
○委員長(柳田稔君) 以上で紙智子君の質疑は終了いたしました。(拍手)