<第179回国会 2011年12月2日 東日本大震災復興特別委員会>


漁場の管理・利用調整に混乱をまねく水産特区の削除を要求し、修正案を提案

○東日本大震災復興特別区域法案について

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 復興特区法案の、特に漁業法の特例の問題で質問いたします。
 漁業法についてですけれども、漁業管理制度の意味と必要性と、特定区画漁業権の優先順位の第一位が漁協に免許されている理由について最初に御説明を願います。
○国務大臣(鹿野道彦君) 通常、カキやワカメなどの養殖業を行うことを希望し実際にこれを行える漁業者というのはもう多数存在しているわけであります。このような漁業者間の調整が非常に重要でございます。そういう意味で、この養殖業を行うための特定区画漁業権については、地元漁業者の大多数が組員となっている漁協が優先的に免許を受けまして漁場を管理する仕組みとなっているところでございます。
○紙智子君 そこで、漁業権が設定されている海域というのは浜から何キロまでのところですか。御説明願います。
○政府参考人(佐藤正典君) 御説明をいたします。
 漁業権は、全国的に岸から二、三キロメートルあるいは五キロメートルの沖合までの海域に設定されていることが多くなっております。例えば、被災地の宮城県の牡鹿半島におきましては、サケ対象の定置網で岸から一キロメートルから二キロメートル、カキ、ホタテ対象の区画漁業権で二キロメートル、アワビ、ウニ対象の共同漁業権で二キロメートル程度の沖合まで設定しているところでございます。
 以上でございます。
○紙智子君 いろいろ凸凹はあるけれども、大体押しなべて三キロ程度のところの区域ということだと思います。そこを超えて、その先になると、これは許可漁業の海域になると思います。
 今回の被害では二万隻以上の船の被害が出たわけですけれども、言わば地先三キロエリアで二万隻もの船が操業していたということになるわけです。
 それで、地先漁業の管理と利用調整についてまたお聞きしたいんですけれども、明治時代ですね、明治時代に一時期、直接国が管理していたことがあるというふうに聞いているわけです。なぜ、国がこの地先漁業の漁場の管理と利用調整を直接行わずに漁協等に委ねているんでしょうか。
○政府参考人(佐藤正典君) 御説明をいたします。
 我が国の漁業は、古くから漁業慣行を尊重いたしまして漁業調整が行われてきた経緯がございます。
 御指摘の明治八年、我が国で海面を政府の所有といたしまして、漁業を行う場合には政府に海面を借りることを定めたということが行われました。このことによりまして旧来の漁業慣行が壊れまして、現場に混乱が生じ、紛争が起こりましたことから、これを一年で解消いたしまして、旧来の漁業慣行に戻したという経緯がございました。
 なお、明治十九年には省令を公布いたしまして、各漁村に現在の漁業協同組合の前身となります漁業組合を組織させまして漁業調整の役割を担わせまして、その後、明治三十四年に漁業法が制定されまして、漁業組合を中心とする漁業権制度が創設されたところでございます。
○紙智子君 実際の調整を図るということでいうと、そういう公的責任を、非常になかなか大変であるということだと思うんですが、コストや人手が掛かるということもありますよね。
○政府参考人(佐藤正典君) 実際には、先ほど大臣から話ございましたように、多くの方々の権利を調整するということになりますので、現場での労力といいますか、コストもいろいろ掛かることにはなろうと思っております。
○紙智子君 そうですね。人手が掛かり、それに関してのコストも含めて掛かるし、公的に見ても、やはり具体的にそういう詳しいことを含めてよく現場が分かっている漁協がやることがより合理的ということでそういうふうになったんだと思います。国が、そういう意味では、本来やればいいところをそういう形で漁協が担って公的役割を果たしてきたということでもあると思うので、そういう意味では、本当に、もっと支援をしていくということが必要なんだろうというふうに思います。
 ところが、今回の漁業法の特区でどうなるかということなんですが、特区法の対象地域では、これは漁業権は漁業法より特例の方が優先されると、優先をすることが可能になるということなわけですね。
 ちょっとお配りしました資料を見ていただきたいんですが、青い字の方の資料です。これ、現行法では漁業権の第一順位というのは地元漁協というふうになっています。第二の順位は地元漁民の七割以上を含む法人、第三位は地元漁民の七人以上で構成される法人、あと四位、五位というふうにあるんですけれども、これが特例になりますと、知事の免許の基準をクリアした法人がある場合には現行法の二位と三位のところが優先されて第一順位になると、地元漁協はその次になるということなわけです。
 漁協が行政に代わって公的役割を果たしてきたということでいうのであれば、この順位を変える必要はないんじゃないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(鹿野道彦君) このことは重ねて申し上げますけれども、今回、地元漁業者のみでは養殖業の再建が困難であるという区域でありまして、そういうところに特例措置の適用区域というものを設けるということでございまして、こうした区域ではなかなか従来の地元漁協の下での復興は困難だというふうなことに限って、限定した地域ということになるわけであります。
 すなわち、自主的にもう漁業を再開するという、そういう状況がなかなか機能しにくくなっているというふうなことに対して、その地域に対して一つの選択肢として特区を設けると、こういうふうなことでございまして、その区域の復興を円滑かつ迅速に推進するのにふさわしい第二順位、第三順位の法人に限り免許を付与するということになるわけでありますから、一般的にはこれらの法人を地元漁協より優遇するというものではないという考え方に立つわけでございます。
○紙智子君 一般的には優位するものじゃないというんですけれども、しかし枠としてはそういう可能性をつくるということになるわけですよね。
 私、今の説明を聞いていても理解できないんですけれども、現行法をもう一回見てほしいんです。現行法十八条がありますけれども、この現行法十八条では、漁協から申請がない場合には、漁業権は二位の順位に与えられるわけですよね。わざわざ特例を作る必要がないわけですよ。つまり、この表で見ても、一位の順位はこうなっているけれども、しかし、この一番目のところが手を挙げない場合は二位、三位が自動的に上に上がっていってというか順位が変わるという、それを止めないようになっているわけですね。今の現行の下でもできるというふうになっているわけですよ。
 そういうふうになっているのにわざわざ、やっぱり何のためにするのかというのは非常に疑問ですし、それから、ましてや深刻な被害でもって地元漁業者のみではできない困難さということを言われるんですけれども、その困難の中身ということでいうと、船が流されてしまったとか地盤が沈下しているとかいろいろあると思うんですね、資金が足りないとか。そういう自分だけではできない困難さがあるのであれば、やっぱり政府が万全の支援をすることがまず先じゃないのかというふうにも思うわけなんですよ。この点、どうですか。
○国務大臣(鹿野道彦君) 基本的には、被災地をどうやって漁業の在り方を一刻も早く復興していくかというふうなことの中で、復興構想会議におきましてもこれを迅速に進めるというふうな中で特区というふうな考え方を盛り込まれたわけでありまして、それを受けて、宮城県の知事からも自主的に八月の段階で特区の創設というふうなものを要望も公文書におきまして私どもにも出されているわけであります。
 そういう意味では、当然、なかなか今日のこの被災を受けて人的にもまた資金的にも困難だというふうなことの中で、やはり当然のことでございますけれども、地元漁業者との話合いの中で、よし、企業におきましても、俺が、自分たちが少しでも復興に協力していこうじゃないかというふうな法人も出てくるというふうなことも想定しながら、そういう民間業あるいは地元漁業者の間の中で、協力体制の中で一刻も早く復興ができるということならば、限定した形でやはりきちっとした復興というふうなものが行われるようにすることも一つの選択肢ではないかというふうなことから、私どもとしてはこのような特例措置を設けるということにいたしたところでございます。
○紙智子君 知事がそういうふうに強力に言っているというのはあるんですけれども、漁業者は求めていないということもあるわけですよね。そういうところは非常に、なかなか納得しかねるということであります。
 次に、漁業権を設定する流れ、手続についてなんですけれども、知事は、漁業法の十一条の一項の規定で、漁場を決めてその地元地区が属するところに免許を与えることになっています。つまり、漁場一つ一つの免許があって、その免許を受けるのが、今は漁協なんですけれども、特例が入るとどうなるかということで、漁業権漁場と書いた次の資料を見ていただきたいと思います。
 例えばこの区画漁業権、網掛けのところで、区画漁業権ということは養殖ですよね。それで、その上の方から順に行って、まず、その一つ目の漁場は適切な人がいるから法人にしようと、下の二番目のところは適切な人がいるから法人にしようと、三番目のところはいないから漁協にしようと、四番目は法人という形で免許が与えられるというふうな形でいくわけですよね。
 今、岩手と宮城だけでもこういう漁場が八百あるわけですよね、八百。狭いエリアの中に法人と漁協がこれ混在することになると。今の管理に従いたくないという人が、もしこの法人をつくって知事がこれを許可すれば、誰がこの地先漁業の管理と利用調整にリーダーシップを発揮するのか、これ混乱することになるんじゃないかと。ましてや、漁協の組合員だった人がこの法人をつくって免許を取るとなると、これまでまとまってやってきた漁協の中に亀裂が入っていくということになるんじゃないかと、こういう心配があるんですけど、いかがですか。
○国務大臣(鹿野道彦君) 今回のこの特例措置におきましては、いわゆる知事が直接免許を付与できる地元漁業者主体の法人の要件といたしまして、他の漁業者との協調に支障が生じない等の基準を設けております。そして、免許を付与される法人は、資源管理や漁場利用の点で協調した行動が取れるというふうに、私どもはそういう中で考えておるところでございまして、今回の特区計画におきましては、当然、県が策定するわけでありますけれども、地元漁業者の話合いの中できちっと漁場の管理等々についても適切なる措置が講ぜられると思っておるところでございます。
○紙智子君 浜が混乱しないように漁協の同意を得るということをやりますか。
○国務大臣(鹿野道彦君) 当然、いろんな形で漁業者の間において話合いが行われるというふうなことの中で、この免許権者である知事が判断されるものと思っております。
○紙智子君 漁協の確認も得るということでよろしいですか。
○国務大臣(鹿野道彦君) 当然、今日のこの特例の措置というものが行われる中で、協議会も求められれば当然それは設置されていろいろと話合いが行われるわけでありますし、また知事が免許を与える枠においては五つの要件がそこに設けられているわけでありますから、当然そこは地元漁業者の間においていろいろと話合いがなされるというふうなことになろうと思います。
○紙智子君 漁協も含めてというふうに思われているというふうに受け止めてよろしいですよね。
 それで、加えてなんですけれども、この漁業権を法人が取得した場合に、今まで漁業権を取得していた漁協がどうなるかということや、それから漁業権を得て漁をしていた漁業者が職を失うんじゃないかという心配の声も出ているわけです。これについて、どうですか。
○国務大臣(鹿野道彦君) 今先生が心配されているところの雇用の問題等々、こういうふうなことにつきましては、当然、知事が免許権を付与する要件の中にも、地元漁民の生業の維持、あるいは地元雇用の創出というふうなものを基準としてきちっと設けておるわけでありますので、地元漁業者主体の法人以外の漁業者の漁業の継続についても配慮をした上で免許が付与されるというふうなことになるものと思っておるところでございます。
○紙智子君 知事が最終的に決断を出せば、決まってしまうわけですよ、いろいろな意見を聞いたとしてもね。知事の判断でやるということになりますと、中には雇用できない、失業してしまうという人も生まれかねないという可能性は否定できないというふうに思うんですね。
 私は、最後になりますけれども、やはりこの特区法の中で、漁業以外にですね、この漁業法の特例というのは異質なものだというふうに思います。歴史的に培われてきた漁場の秩序を乱し、漁協の分断を図り……
○委員長(増子輝彦君) 紙さん、時間が過ぎております。結論をお急ぎください。
○紙智子君 離職者を生む可能性もあるということでは、私はこの条文は削除すべきだということを申し上げて、質問を終わります。

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○委員長(増子輝彦君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 本案の修正について紙さんから発言を求められておりますので、この際、これを許します。紙智子さん。
○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、東日本大震災復興特別区域法案に対する修正の動議を提出します。
 日本共産党は、復興は被災者が主役であり、暮らしとなりわいの再建こそその土台であると主張してきました。今回の大震災では、地震、津波、原子力災害という甚大かつ深刻な被害が広範囲に及んでおり、そうした被災地の状況を踏まえれば、既存制度の枠を超えた特例措置や財政支援が当然必要であり、被災自治体からはそのための特区制度が強く要望されてきました。
 国庫負担を大幅に増やし自治体負担を軽減させる措置は、被災地の早期復興に資するものであり、賛成するものです。ただし、県知事の判断で地元漁協の頭越しに民間企業に漁業権を与えることができるとしている漁業法の特例措置については、長年にわたって沿岸漁業海域での紛争回避と資源管理のために漁場を利用する漁業関係者がみんなで管理するという歴史的に作られてきたルールを突き崩すものです。民間企業等が養殖漁業を営もうとすれば現行の漁業法の下でも可能であり、また法案でも必要な提案を行うことができるとされているので、あえて特例措置を設ける必要はありません。よって、修正案は、漁業法の特例措置に関する規定を削除するものです。
 修正案の内容は、お手元に配付されております案文のとおり、法案から漁業法の特例を認めた第十四条を削除し、それに伴い、別表の修正を行うものです。
 以上、本修正案を提出する理由及びその内容です。
 委員各位の御賛同をお願いし、趣旨説明を終わります。
○委員長(増子輝彦君) これより原案及び修正案について討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに東日本大震災復興特別区域法案について採決に入ります。
 まず、紙さん提出の修正案の採決を行います。
 本修正案に賛成の方の起立を願います。
   〔賛成者起立〕
○委員長(増子輝彦君) 少数と認めます。よって、紙さん提出の修正案は否決されました。
 それでは、次に原案全部の採決を行います。
 本案に賛成の方の起立を願います。
   〔賛成者起立〕
○委員長(増子輝彦君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。