<第177回国会 2011年6月3日 予算委員会>


○TPP 復興つぶす 被災地を救えと追及

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 初めに、不信任決議をめぐって、昨日の国会のあのごたごたを被災地の多くの方々はあきれています。今、国会がやるべきことは、真っすぐに、スピード感を持って被災者の救援と原発事故の解決を図ることです。
 震災から間もなく三か月になろうとしています。先週、私は岩手県の三陸の大船渡市、そして陸前高田市に入りました。漁業者、農業者、業者の皆さんからお話を聞きました。そこで出されたのは、一次補正は当面の対策であって、抜本的な対策が急がれていると。二次補正でとにかく早くやってもらわないと困ると。とにかく、秋のサンマにしてもワカメの種付けにしても、一刻も早くやらないと一年間収入がなくなるんだと。漁が一部再開されたにもかかわらず、政府の補助金の交付が七月以降になるというのもある。そういう中で、自主的に改修、修繕したものも補助金が出ないというので冷蔵や加工業者も再建に踏み出していないと。事前着工も遡って認めてほしいという切実な声が出されています。
 二重ローンの解決ももちろん求められています。カキやホタテなどの養殖は海に入れてから二年、三年掛かると。その間の収入を確保しなきゃならない。今補正で付いている瓦れきの撤去などの予算も、すぐ底をついてしまいます。早く海に出たいという漁業者の願い、そして水揚げできる場所、冷蔵施設、加工、製造の施設、流通業者などの支援も含めて、一刻も早く二次補正で出していかないと、もう町にいなくなってしまうんじゃないかと、そういう不安の声が出されているわけです。
 鹿野農水大臣、これは一体どうされるのか、お話しいただきたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) まず、第一次補正におきましては、水産業の方々も含めて漁業者、そういう方々が一刻も早く船を出して操業する、そして具体的な形で取引ができるようにと、こういうことから応急措置、緊急措置というふうな形で予算を計上させていただきました。そういう意味で、今全力を挙げてその執行に取り組んでいるところでございます。
 いよいよ今度は本格的な復旧復興に向けてどういう漁業、水産業、漁村づくりをしていくか。今、復興構想会議におきましてもいろいろ議論をしていただいておるわけでありますが、私どもも積極的に市町村の意見をお聞きをしながら、そして県当局の考え方もお聞きしながら、一つ一つ具体的にこの考え方に対して対処すべく今取り組んでおるところでございます。

○紙智子君 それで、この復興への本当に対策が急がれているというときに、その一方で、TPPの交渉参加を早期にというようなとんでもない話が出ているわけです。現地は怒りに満ちていました。
 農水大臣、昨年、農水省が発表している国境措置撤廃による水産物生産等への影響試算というのがあります。TPPに参加した場合に関税撤廃でどれだけの影響があるのか。その減少額の総額でいいです。総額と、それから漁業と関連産業の就業機会の減少数ということでどうなっているのか、示していただきたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) いわゆる我が国の十三品目、主要な品目でございますけれども、水産物の、国境措置を撤廃した場合の国内漁業等への影響を試算いたしまして発表いたしました。
 水産物の生産額が四千二百億円程度減少するとの結果を出しておるところでございます。そしてまた、漁業及び関連産業の就業機会というふうなことでございますけれども、十万三千人程度減少するという試算でございます。この試算はあくまでも全ての国に対する国境措置を撤廃したということを想定して、これを前提として出した試算でございます。

○紙智子君 今お話しいただいた内訳がこういうことであります。(資料提示)

資料
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 それで、関税率が一〇%以上のもので国内生産額が十億円以上の十三品目と。国産ヒジキやワカメは、御覧のとおりほぼ全滅ということになります。それから、昆布、干しのりは七割減と。それから、ウナギ、サケ・マス、タラ、ホタテは六割減ですよ、約。それから、アジ、イワシ、イカ、これはもう半減ということです。
 それで、総理、この三陸沖では、五月からカツオ、マグロ、秋にはサンマ、養殖でいいますと、五月までが天然ワカメ、六月から八月までウニ、九月、十月が昆布、十一月と十二月がアワビと、このサイクルで成り立っているわけです。全国のワカメ生産の生産量の順位は岩手県が一位、宮城が二位、昆布は岩手が二位、宮城が三位と、サケ、マスでも岩手が二位、宮城が三位と、カツオ、マグロは宮城が二位ということです。日本の言わば水産物の多くをこの地域で担っているというわけです。
 ここにTPPが入ったら、地域全体も成り立ちませんし、大事な日本の水産業そのものを崩壊させることになるんじゃありませんか。鹿野農水大臣、こういうことで本当によろしいのでしょうか。いかがでしょう。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今、水産業の現状につきまして委員からお話がございましたけれども、TPP交渉に参加するかどうかということにつきましては、御承知のとおりに菅内閣といたしまして総合的に検討すると、こういうふうなことに至ったわけでございます。
 そういう意味で、私ども、今具体的な形での影響についていろいろ言及されたわけでございますけれども、頭の中に入れておかなきゃならないことだと思っております。

○紙智子君 鹿野農水大臣には、農水委員会の中でも度々この問題を質問させていただいています。やはり、明らかにこういう影響を受けるということになったら本当に大変な事態になるわけですよ。そこで農水大臣の役割が大事なんだということを私、何度も言ってまいりました。誰がその判断を間違えないようにするのかと。総理の判断を間違えないようにするには、閣僚の中で一番そういう現地の状況や日本の農林水産業に対して責任を持っている農水大臣が説得しなくて、一体誰がやるんですか。もう一言、大臣の思いも含めてはっきりおっしゃっていただきたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今回の大震災後におきまして、今お話し申し上げましたとおりに、TPPの交渉参加問題につきましては総合的な判断をすると、こういうことに至ったわけでありますけれども、このときにおきまして私自身も当然のことながら、大きな変化の中で今どれだけ漁業者なり農業者の方々が苦しんでおるか、そういう心情というものに対して大きな配慮をしなきゃならない、こういうふうなことも積極的に私自身発言をしたところでございます。
 そういう意味では、私自身は、今この被災に遭われた方々、その方々に対しての復旧復興というふうなものに全力を尽くす、そして原発事故において大変苦しんでおられる方々に対してあらゆる措置を講じていくと、ここに私どもは全力を挙げていくというふうなことが私に与えられた使命であると思っております。

○紙智子君 思いがにじんでいるとは思いますが、そこまで言うのであれば、もう一言、TPPはやめるべきだとおっしゃってください。

○国務大臣(鹿野道彦君) これは我が国として総合的に判断をしていくと、こういうことでありますから、私自身はとにかく、重ねて申し上げますけれども、今、復旧復興、そして原発事故に対する対応に全力を挙げると、こういうことでございます。

○紙智子君 なかなかおっしゃらないんですけれども、その思いを是非言葉にしていただきたいというふうに思います。
 それで、そもそもTPPによる影響や対応について、これは水産物や林産物については検討対象から外していたんじゃないかと思うわけです。
 総理、まともにその検討もしていないのに、このTPP、できるだけ早く交渉参加を判断したいと、こういうことをおっしゃるわけですか。今度は総理です。総理です。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今、委員からお触れいただいた件につきましては、食と農林漁業再生実現会議におきましても、具体的に漁業の在り方ということも検討をしていただいておるところでございます。

○紙智子君 総理に聞いているんです。
 それで、その検討会議で言っていると言うけれども、実際上はもう農業の問題でいっぱいでそこまでの余裕はないというようなことがされているわけですよね。ですから、本当にじゃ突っ込んでそういう検討がされているかというと、決してそうじゃないと思いますよ。鹿野大臣にはいいです。総理にお聞きしています。総理。

○内閣総理大臣(菅直人君) 今、鹿野農水大臣からも答弁をいただきましたけれども、この間、昨年の十一月に基本方針を閣議決定いたしましたけれども、その後震災が発生したことも踏まえて、改めて基本方針の基本的考え方を維持する旨の政策推進指針を五月に改めて閣議決定をいたしました。
 そういう中で、今のお話のように、特に漁業の盛んな東北地方の実情、あるいは農業の実情も含めて、いろいろなことの、そうした皆さんの思いももちろん大事にしていかなければなりません。
 もう一方で、日本と韓国、中国とのEPAの進展、あるいはEUとの準備会合なども今後スタートすることになっておりまして、そういういろいろな状況をまさに総合的に判断をしてまいりたいというのが基本的なスタンスであります。

○紙智子君 実態としては、水産物に対する影響等をどうやって食い止めるかという、その対応については十分やられていないですよ。
 それで、先ほど農水大臣も答えられていましたけれども、TPPで漁業関連産業を含めて就業機会が十万人を超えて失われるわけですよ。大変なことですよ。今国として、被災地、被災者の方々が復興に向けて希望が持てるような政治的なメッセージ、そして具体的な施策を急いで打ち出さなきゃいけないと言っているときに、結局この復興への懸命な努力を台なしにしてしまうような、そういうTPP交渉を早くやるなんというのは、これもう全く復興への意欲を踏み潰すものだと思うんです。

○委員長(前田武志君) 時間が参りました。おまとめください。

○紙智子君 これは、復興へのアクセルを踏みながら、同時にTPPでブレーキを踏むと、全く矛盾したことであって、これはもう絶対許されないということを最後に申し上げまして、私の質問を終わります。