第177回国会 2011年5月1日 予算委員会


○原発事故の風評被害も賠償対象に」と追及
 首相「次の指針に盛るべきだ」

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず初めに、この度の震災で亡くなられた皆さんの御冥福をお祈りすると同時に、被災をされた全ての皆さんにお見舞いを申し上げたいと思います。
 その上で、総理、計画的避難区域の問題についてお聞きいたします。
 この公表を受けて、住民の皆さんにとってはこの先どうなるのか、戻ることができるのか、大変複雑な気持ちでおります。牛も豚も残したまま自分だけでは行けないと、誰が餌をやるのか。あるいは、家畜も一緒に移動するとしても、百頭だ二百頭だ、そう簡単に、移動するのも大変だと。収入が断たれて、この後どうやって生活していくのか。これは製造業や業者の皆さんもそうだと思いますが、こういう様々な思いがある中で、この方々にこの先の道筋を、具体的にどういう段取りでやるのかということを責任を持って示すべきではないでしょうか。

○内閣総理大臣(菅直人君) 本日もいろいろ議論がありましたように、今回の原子力事故の問題に関して、一つは炉自身がまだまだ完全に安定していないという問題と、もう一つは、いわゆる積算線量とでもいいますか、つまりはどの地域に濃度が相対的に高い線量が蓄積しているかという、そういう二つの要素のある中で計画的避難区域を設定して避難をお願いをいたしているところであります。
 今後のことについて、おっしゃることは、私もその皆さんとお会いをいたしまして、いつになったらどういう形で戻れるんだという御心配、本当に身を切られるようなお話をたくさん聞かせていただきました。
 このめどを立てるには、やはり現在、東電が私の指示でまとめました工程表でステップツーの状態で放射線量が大幅に抑えられて、そして炉も冷温停止状態として安定をする。もちろんそれまでの間でも除染作業等やるべきことはやっていくわけですけれども、そういう状態になった段階で、モニタリングをしっかりした中で、こういう状況ならばこの範囲についてはこの時期からこういう形で戻っていただく、そういうことが具体的に申し上げられるのは、このステップツーが予定どおり完了した時点であれば申し上げられる状況になり得ると、こう思っております。

○紙智子君 農水大臣にお聞きいたします。
 飯舘村を始め、川俣町、それから葛尾村、浪江町、南相馬市などの計画的避難区域の設定に伴う、これ農業関係でいいますと、農家数でいいますと八千六百四十八戸、水田は七千六百二十六ヘクタール、肉用牛で一万四千百六十頭、乳用牛で二千七百十頭、豚は三万八千百頭に及ぶわけです。
 これらの農家に対する補償の問題と、今言いました、全部足しますと五万五千頭に及ぶ家畜、これらの扱いを含めてどうするのかということを質問させていただいてきたんですが、今の時点で何がどこまで進んでおられるんでしょうか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今先生からの御指摘の家畜に係る補償、賠償の件でございますけれども、五万五千頭の家畜につきましては、一次指針、いわゆる損害賠償の紛争審査会におきます一次指針につきまして、いわゆる家畜の計画的避難区域への移動経費、それから家畜の飼養場所の移転費用、そして家畜の保管費用などの追加的費用についても必要かつ合理的な範囲内で損害と認定すると、このような指針が打ち出されているところでございます。それに沿って私どもも対処をしていかなければならないと思っております。

○紙智子君 総理にもう一度お聞きします。
 四月十八日の予算委員会で質問に答えられて、福島原発に関して、三か月後の更に三か月から六か月たった段階で多くの人ができるだけ戻れるようにいろいろな形で努力するのが私の考えですというふうに答えられているんですが、これは確認しますけれども、今もそういうことでございましょうか。

○内閣総理大臣(菅直人君) その日程が先ほど申し上げた東電が出した工程表のステップワンそしてステップツーの工程の日程でありまして、そのステップツーが完了する、いい形で完了する段階でできるだけ多くの人がどの時期かにきちっと帰れるように、例えば除染の作業とか、例えばそれに伴ういろいろな手だてを同時並行的に尽くしていく、その結果、より多くの人が帰れるようにしていくことが私の責任だと、その考えは今も全く変わっておりません。

○紙智子君 抽象的な話では困るわけですよね。
 今回の計画避難区域の設定問題というのは深刻な事態があるわけです。今回、文部科学省が発表している土壌の放射線物質のモニタリングの数値ですけれども、一時的とはいえ、チェルノブイリの原発事故の数値の何倍も超えるような、こういう数値が示されているわけです。そういう中で、放射性物質の土壌汚染を取り除いて、どうやって農業を再開して安心して暮らしていけるようになるのか。当面、今現在進行中の事態に対して収束させると、これ最優先ですけれども、しかし、早く戻せるようにしたいというのであれば、こういうことを含めてどうするのかということが問われているわけです。
 これ、どのようにしようとお考えなんでしょうか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今先生から申されたことは非常に重要なことでございまして、農林水産省といたしましても、まず営農を早く行うことができるようにするにはどうするかというようなことから、放射性物質の浄化に向けた取組を実施していくことが非常に重要だというようなことで、一つは、この放射性物質をいかにして低減させることができる、そういう手法があるのかどうか、あるいはまた作物への放射性物質の吸収というふうなものを抑制することができるような、そういう資材があるのだろうか、あるいはまた吸収する植物というふうなものの研究というふうなものを、既にその研究に取りかかっておるところでございます。
 また、喫緊の課題となっておるところの土壌改良の技術というような、対策技術というふうなことも含めて、チェルノブイリに調査チームを派遣いたしまして関連情報を収集する、あるいはまた職員を直接福島県に出張させまして、被災自治体とも連携を取りながら、この技術というふうなものを、対策技術というものが早急に確立することができるようにもう既に検討を行っているところでございます。

○紙智子君 今研究中という話なんですけれども、やはり放射性物質が減少させられるのかどうか、それから環境を回復させることができるのか、また住めるようになることができるのか、こうしたことを含めて、じゃ、どういうことができるのかというのは、もう本当に世界中の知恵を集めながら総力を挙げて対策を追求するということをやらなければいけないと思いますし、何よりも、今移転させられて、そしてこの後どうするかという人たちに対して、本当に希望とか展望とか、そういうものを与えられるように、本当に総力を挙げて示していく必要があると思うんです。
 それで、もう一つの質問なんですけれども、損害賠償に対する基本的な立場について、今度は東京電力の清水社長、お見えになっていると思いますが、と菅総理にお聞きしたいと思います。
 今回の原発事故は、農産物、水産物、工業、商業、観光業と、住民の方々に甚大な被害を及ぼしているわけですけれども、あらゆる被害と損害について東電と政府が全面的な賠償を行うのは当然だと思うんです。そのときに、原発事故がなかったらこれだけの収入があったんだと、それからこれだけ真っ当な生活ができていたんだと、それと今とのこの差ですね、ここをやっぱり全て賠償させる、これが全面補償、賠償ということだと思いますが、これに対して二方から御返事いただきたいと思います。

○参考人(清水正孝君) 補償の問題についてのお話だと思いますが、大変これから広範囲に、多くの方々への補償という問題になってくると思いますが、今後は原子力損害賠償制度の下で、先ほどもお話ございました紛争審査会の指針に基づきまして、公正に迅速に対処していくというのが私どもの基本的な考え方でございます。
 よろしくお願いいたします。

○国務大臣(海江田万里君) これはいつも申し上げていることでありますけれども、まず第一義的に東京電力がしっかりとその損害賠償に向き合っていただきたいということ、これが第一でございます。それと同時に、やはり東京電力は一都八県に対して電力を供給する義務がございますから、これもしっかり果たせるようにしなければいけない。
 そして、私ども政府も、本当にこの被災者の方々、経済的な損害を受けた方々が十分満足のいく補償が得られるように全面的に支援をしていくということでございます。

○委員長(前田武志君) 高木文部大臣、答えますか。

○紙智子君 総理にも聞いています。本当は二人に聞いたんですよ。

○委員長(前田武志君) 高木文部大臣。

○国務大臣(高木義明君) 事故が起こっていなければ生じなかったであろう損害についてどうなのかということでございますが、第一次指針においては、社会通念上当該事故から生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のものであれば原子力損害に含まれるとされておりまして、今回の事故により生ずる損害についても、直接、間接を問わずこの考え方によって適切に判断されるものだと、このように考えております。

○紙智子君 全面賠償ということについて聞いているんですよ、総理。

○内閣総理大臣(菅直人君) 今、各担当大臣からお話がありましたように、相当因果関係という言葉で表されているようでありますが、今言われたようなことも含めてその相当因果関係に含まれる部分はあろうかと思っております。その考え方にのっとって、相当因果関係が認められるものは原子力損害賠償法に基づいて適切に賠償が行われると、こういうことであると認識しております。

○紙智子君 答えていないんですよ。だから、実際に事故に遭わなかったらちゃんと収入得られた分が減ったと、この分を全部丸々補償するんですねということを聞いたんですよ。どうですか、再度、総理と東京電力社長、ちゃんと答えてください。

○内閣総理大臣(菅直人君) この原子力損害賠償紛争審査会というものがまず指針を出して、その範囲にどこまで含まれるかということの中でまずは補償の議論がなされるものと思っております。
 いわゆる政治的に更なる支援等々ということが別な意味であるかもしれませんけれども、まずは補償の問題ということでいえば、そういうルールが決まっておりますので、まずルールにのっとって第一義的には東電が補償すると。補償の内容については、今の第一次指針に……

○紙智子君 それは全部出すんですか。

○内閣総理大臣(菅直人君) 指針を含めて、今後の指針でその範囲が議論され、決まっていくものと考えております。

○紙智子君 全然みんなが思っている関心に答えていないですよ。減った分、差額を全部やるのかということを聞いているわけですよ。社長、もう一回お願いします。具体的にもう少し踏み込んでください。

○参考人(清水正孝君) 繰り返しになりますが、やはり私どもは紛争審査会の指針に沿って公正、迅速にやるということを考えていきたいと思っております。

○紙智子君 原子力損害賠償紛争審査会のこの一次指針、これ文部大臣にお聞きしますけれども、この指針の中に今回、農業、漁業を含めた風評被害が入っていないわけですけれども、これなぜなんですか。
 汚染されていないのに、福島というだけで野菜も牛乳も受取拒否だと。売れないんだったら、いっそ捨てるかと、作らない方がいいのかと。しかし、それをやれば収入が入らないと。ですから、生活が成り立たないわけですよ。どうしたらいいのかという本当に痛切な思いが訴えられているわけです。
 今回の指針に入っていれば、すぐに交渉始まって、そして今早く進められると。今言ったように指針待ちになって、全然進まないわけですよ。どうして入っていないんですか。

○国務大臣(高木義明君) とにかく被害者を可能な限り救済するということから、相当因果関係が明らかなものについて、できるものから順次策定をしていくことになっております。したがって、四月二十八日に出された第一次指針においては、これは政府の指示によって避難を余儀なくされたり、あるいは農産物の出荷停止などにより生じた損害について賠償の考え方を明らかにいたしております。
 第一次指針の対象外のいわゆる御指摘の風評被害については、今回の災害、まさに広範囲の産業分野にわたりましてあるいは様々な問題が出ておりますので、これは本事故との相当因果関係のあるものについては、さらに被害の状況あるいは今後の事故との関連性の程度に更に詳細な調査が要るものでありますから検討する必要があると、このように検討課題とされたわけでございます。
 今後、いずれにいたしましても、風評被害に係る損害についてもできるだけ早く検討を進めていただきたく、私たちとしてはその結果の取りまとめをしたいと思います。

○紙智子君 一体どれだけ時間たっていると思うんですか。風評被害というんですけれども、出荷停止と同じだけの損害を受けているわけですよ。しかも、一般的じゃないんですよ。やっぱり、農業や漁業については少なくとも雲をつかむような話じゃないんですよ。はっきりしているんですから、現れているんですから、そのことについてはすぐにやっぱり入れるべきだと思うんですよ。
 それで、農水大臣にお聞きしますけれども、精魂込めて作った野菜を出荷できないと、それから毎日搾乳して毎日捨てなきゃいけないと、それに加えていろんな支払をしなきゃいけないと、こういうことで追い詰められている中で、実際に大臣自身もお聞きになっていると思いますが、もう待てないというのが現場の声だと思うんです。もうずっと延ばされているんですから、もう先送りしないでほしいと。そういう被害に対して、この賠償の指針にこれ入れさせるべきじゃありませんか、風評被害。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今先生からの御指摘の件につきましては、出荷制限、出荷自粛と同じように、風評被害、相当な因果関係にあって大変困っておる被害者の方々に対しても同じような扱いをしてほしいということを強く求めてきたところでございますけれども、残念ながら一次の指針には盛り込まれませんでしたけれども、検討課題であるというふうなことであるということも承知をいたしておりますので、次の審査会におきまして何としても指針に盛り込まれるように私どもも強く働きかけていきたいと、こんなふうに思っております。

○紙智子君 最後に、総理にお聞きします。
 今、農水大臣も次の指針に入るようにということです。

○委員長(前田武志君) 時間が超過しておりますので、おまとめください。

○紙智子君 七月じゃ遅過ぎますから、何としても五月の次の段階で入れてほしいということを、最後に一言、決断お願いします。

○内閣総理大臣(菅直人君) 私もできるだけ早い次の段階で入れるべきだと、こう考えております。

○紙智子君 終わります。