第176回国会 2010年11月25日 農林水産委員会


◎TPP(環太平洋連携協定)は自給率の引上げと両立しない

○農林水産に関する調査

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 TPP問題について引き続いてお聞きしたいと思います。
 この間の菅総理や仙谷官房長官のTPP問題の発言で、農業者が高齢化して、このままでは日本農業は座して死を待つことになるという趣旨の発言が繰り返されました。これ、乱暴な議論だというふうに思うんです。
 大臣、民主党政権は今年の三月に、二〇二〇年に食料自給率を五〇%に引き上げると、この食料・農業・農村基本計画を作成しているわけです。そうすると、この基本計画を実施しても日本農業は座して死を待つのかというふうに思うわけですけれども、これについて大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 私どもとしては、今先生申されたとおりに、これからの食料安全保障ということを考えたときに、食料自給率の向上というふうなものは、これは不可欠であると、こういう認識を持っているところでございます。

○紙智子君 この座して死を待つという発言に対してはどういうふうにお考えですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 仙谷官房長官が座して死を待つよりはというようなことの発言等々のことを先生は言われたと思うんですけれども、どういう趣旨なのか。いわゆる私の推測する上におきましては、非常に第一次産業というふうなものは大変な状況にあるというようなことをこういう言葉で表現したのかなと思っているわけでございまして、私どもといたしましては、今日のこの地域におけるところの第一次産業の実態、実情というものを踏まえて、やはり新たな気持ちを持って取り組んでいかなきゃならない、こういうふうな気持ちでおることだけは間違いございません。

○紙智子君 大臣はすごく善意の受け止めをされているなと思うんですけれども、この基本計画そのものがTPP問題が起こる前に策定されたものですよね。その実現に全力を挙げて食料自給率を五〇%に引き上げるというのが民主党政権の役割なわけです。その計画を持ちながら、一方でこの日本の農業は座して死を待つということ自体が、これ自己否定につながる発言だというふうに思うんですよ。だから、私は、その分野を責任を持っている農水大臣から見るとちょっと我慢できない発言じゃないかというふうに思うわけですけれども、いかがですか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 今申し上げましたとおりに、農業農村の振興と食料自給率の向上というものを、これは目指していかなきゃなりません。
 しかし一方、我が国といたしまして、これからどういうような生き方をしていくかと、国民生活をしっかりと守っていくというようなことを考えますと、ある面では国内市場と同時に海外に向けての市場を広げていくというふうなことも一つの考え方としてこれから推進をしていかなきゃならない。
 そういう中で、じゃ、どういう方法でやっていくのかというようなことがいろいろ議論されるところでありまして、TPPに関しましては、重ねて申し上げますけれども、今回の包括的経済連携に関する基本方針におきましては、いわゆる情報収集というふうなものを含めて協議に入るというようなことでございまして、まだどうするかということを決めたわけではございませんということを申し上げたいと思います。

○紙智子君 この間の議論の中で、さらにTPPと日本農業の再生という問題、自給率向上五〇%引上げが両立し得るというような発言も平然と流されているんですが、その根拠についてどこにあるのかということを明らかにしていただきたいと思うんですが。

○国務大臣(鹿野道彦君) 私は、いろいろこの問題につきまして今質疑がなされたわけでありまして、そういう中で、このTPPとの両立ということですか、先生今申されたのは。

○紙智子君 そうですね。

○国務大臣(鹿野道彦君) 私どもとしては、TPPはあくまでもこれはどうするかはこれからのことでございますので、これについて今の段階で云々というふうなことを申し上げる段階ではないと思っております。

○紙智子君 そういう答弁をされるのかなというふうに思ったので、さらに、ちょっとお手元に配付をさせていただいたんですけれども、これ農水省の食料自給率の計算書です。これはFAOで決められた計算方法で、世界的にこれで行われているものです。見ていただければ分かるんですけれども、分母のところですね、分母のところに輸入の項目があります。TPPの場合は関税ゼロが原則と。ですから、お米の場合でいいますと、日本の米価の四分の一の価格の輸入米が輸入されることが必至だと。農水省さんが出したこのシナリオありますよね。これに基づいて見ても、入ってくると。そうすると、たとえ今の米の生産体制を戸別所得補償制度で維持したとしても、米国から四百万トンの米が少なくとも輸入されてくると。そうすると、資料の二番目を見てください。米の自給率は、現在の生産体制を維持しても、TPP加入の初年度に現在の一〇〇%から六七%まで一気に下落することになるわけですね。
 これでも自給率五〇%目標と両立できるということが言えるのかどうかということをこの間いろいろ政府答弁の中でも言われているものですから、それについて、両立できないんじゃないかというふうに思うわけですけれども、いかがですか。

食料自給率について TPP参加による米自給率低下について
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○国務大臣(鹿野道彦君) 国会、予算委員会におきましても御党からも質問がありまして、いわゆる国境措置、関税撤廃と、こういうふうなことになった場合に自給率はどうなのか、こういうことにつきましては、今の四〇%が一三%程度になると、こういうようないわゆる試算を発表しているところでございますけれども、何遍も申し上げますが、あくまでもTPPというふうなものに参加を想定しているというわけではございませんし、また、これについてはどうなるかというようなことはこれからのことでございますので、これ以上申し上げさせていただくということは、私としては控えさせていただきたいと思います。

○紙智子君 この間の議論の中で、責任ある総理だとかそれから仙谷官房長官なんかも含めて、両立できるようにやれるんだという発言をされてきているわけで、しかし、この自給率で見れば、こういう形でやっぱり入ってくることを止められなくなった場合は下がることは明らかだと。
 常に仮定のことなんでというふうに言うんですけれども、もしそういうことになった場合はそうですよね。そこのところは認められるかどうかということです。仮定してですよ。

○国務大臣(鹿野道彦君) 菅総理にいたしましても、答弁を私も一緒に聞いておりましたけれども、TPPを参加を前提としてというふうなことの答弁はなかったというふうに承知をいたしております。
 そういう意味で、あくまでもTPPに参加をするかどうかはこれからのことでございますので、同じ答えになりますけれども、私としてはこれ以上この言及させていただくということについては控えさせていただきたいと思います。

○紙智子君 農水大臣は、もしやった場合には、何もしなければ一三%まで下がるという話をされているんですけれども、総理やほかの閣僚の中には、そうじゃなくて、いや両立できるんだと、農業、その参加した場合でも両立することは可能だし、国内対策を打つことでやるんだという答弁をされているわけですよ。だから、そういう答弁をされているということが、言わば、ちゃんと根拠が示されていないのにそういうことを繰り返し言っているということは、これは国民をだましていることになると思うんですよ。

○国務大臣(鹿野道彦君) 私の認識では、TPP参加を前提として両立をするというふうな、そういう発言というふうには受け止めておりません。そのことだけは申させていただきたいと思います。

○紙智子君 ずっと大臣はそういう形で、まだ決めていないと、いないからそれについては答えられないということで先送りをしているんですけれども、しかし、現に情報収集をしながら、そして国内対策ということも考えながらやってきているわけじゃないですか。で、関係国との交渉は始めていくと、さっきもちょっとやり取りありましたけれども。
 そういうことでいいますと、何かあたかも両立できる道があるということが国民には伝わっていっているわけですし、いろんな新聞、マスコミなんかもそういう形で報道もしているわけですから、これに対してやっぱり幻想を与えることというのは国民をだますことになるというふうに思うんですよ。はっきりとしたそれに対しての答えをいただきたいと思います。

○国務大臣(鹿野道彦君) 重ねて申し上げますけれども、TPPに対して参加をするかどうかということについては、まず情報が必要ですねと。九つの国が今参加を表明しているわけでありますけれども、その九つの国すべてと交渉して、そしてすべての国から了承があって、はい、オーケーよということによって初めて参加ができると、こういうふうな一つの前提になっておるというようなことから、じゃ、このTPPについてどうするかということは、情報まず必要じゃないかと。こんなようなことを含めて協議に入っているということでございまして、これを前提として、参加を前提としているというわけではございませんということを重ねて申し上げさせていただきたいと思います。

○紙智子君 じゃ、まあちょっとそれはおいておきます。
 先ほど私が紹介した食料自給率の計算方法と、この計算によって、それで実際にこれが計算によって、例えば参加した場合に一年目でこういうふうに下がっていくという、自給率が下がっていくということについてはお認めになりますか。

○国務大臣(鹿野道彦君) TPPに参加をするということは、いわゆる関税ゼロと、こういうふうなことが前提でございますので、そういう中で、じゃ、何もしないでと、国内対策も何にもしないでどうなのかというようなことも含めて食料自給率が四〇%が一三%になりますというような一つの試算を出しておるというようなことだけは、これは私どもが出させていただいたということでございまして、今日、こうやって突然先生の方から出された数字というものについては、私としてはこれがどうなんだというふうなことはまだ検証いたしておりませんが、現実として、事実として、そういう国境措置というふうなものを全廃した場合に、何もしない場合は食料自給率というものは一三%程度になりますよということだけは試算として出させていただいたということでございます。

○紙智子君 だから、その一三%に下がるという話じゃなくて、実際のこの計算上でやったときに、何もしなければと言うんだけれども、何か国内対策をすれば何とか保たれたりするような印象を与えるような答弁がこの間されていることが問題なんですよ。どんなことをやったとしても、国内対策をやったとしても、入ってくることになればこの計算どおり確実に自給率は下がるわけですよ。そのことについては認められますか。

○国務大臣(鹿野道彦君) あくまでも数字を出すときには、その試算といえどもきちっとした考え方で出さなきゃなりませんので、それで私は何遍も、前提としては何も国内対策をやらない場合というようなことで、そういう一三%になる、そういうところになりますよということを申し上げているわけでありまして、今日、先生から出された、ただいま出されたわけでございまして、こういうような計算の試算もあるのかなと、こんなふうに思っておりますが、まだ私とすれば頭の、余り数字に強くない私でありますので、直ちに先生からこう出されても、そう簡単にこれがどうなのかなということについて言及するというようなことについてはやはり時間が必要だなと、こう思っております。

○紙智子君 これ、農水省が出して、農水省から聞いたやり方で計算するとこうなるということを示したわけです。
 それで、結局、関税ゼロになると、お米に限らず、これお米でやっていますけれども、重要品目の輸入はその価格差があるわけですから急増していくわけですよね。そうすると、この食料自給率の計算方法が決まっている中で食料自給率というのは自動的に下落していくと。それを防ぐにはやっぱり輸入を止めなくちゃいけないと、防ぐしかないわけですよ。だから、両立するというふうなことはあり得ないということを申し上げておきたいと思います。
 最後に、一言、大臣、何かありますか。

○国務大臣(鹿野道彦君) 重ねて申し上げますけれども、私が何遍も答弁させていただいたことを改めて申させていただく以外にないなと、こう思っております。

○紙智子君 時間になりましたので、この問題は引き続き議論になっていくと思いますけれども、終わらせていただきます。