<第174回国会 2010年2月19日 農林水産委員会>


○ 安い脱脂粉乳の輸入でため込んだ大手乳業メーカーの内部留保を、国産の脱脂粉乳の支援に

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 先日、十七日に我が党としても大臣のところに畜産・酪農経営を維持発展させるための申入れをさせていただきました。今日は、その内容に沿いながら質問させていただきます。
 まず第一に、加工原料乳の生産者補給金についてですけれども、現在、デフレ経済の中で畜産・酪農製品の消費が低迷をし、牛乳について見ますと、成分無調整牛乳からより安い加工乳に需要が移っていると。そのために生乳が余剰になって、加工原料乳の仕向けが増えているわけです。酪農経営は飼料価格の高騰で打撃を受け、もう一息つく間もなく今のように大変なデフレ経済による需要減で打撃を受けているわけで、この事態を放置するわけにいかないと思うわけですね。
 つきましては、酪農経営を改善させるためにも、生産者補給金の引上げということと、加工原料乳の仕向けが増えているという状況ですから、これは限度数量を二百五万トンまで引き上げる必要があるんじゃないかと。これは生産者の団体の皆さんからも要求されていて、今現在二百五万トン相当の加工向けになっていて、去年と同じように百九十五万トンということになると、十万トン、補給金が対象から外されると。その分は結局、生産者の負担になるということなんですよね。
 ですから、少なくともこの二百五万トンまでは引き上げてほしいというのがあって、先ほども話があったように、一般には三十万トン余剰になるんじゃないかという指摘もあるわけですから、すごくそういう意味では控えめな数字だと思うんですけれども、そういう要求が上がっているという中で、是非この点対応していただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(赤松広隆君) 先日、紙議員を始め四名の皆さん方が要請、申入れにお越しになりまして、私どもとしてはいずれの党派、会派からであっても真摯にきちっとそれは受け止めようということで、私自身が対応させていただきました。
 そのときにも申し上げたんですが、二十三日に審議会の畜産部会が開催をされ、諮問、答申の上決定するということになっておりますので、事前に私どもが多いとか少ないとか言うことについては、これはやっぱり御遠慮申し上げた方がいいだろうと。ただ、どういう形で判断をしていくのかということになれば、例えば限度数量の問題については生乳の生産事情、あるいは飲用牛乳及び乳製品の需給動向等、先ほど三十万トンという話もありましたけれども、そういうことも考慮しながら適切に算定し、生乳需給及び酪農経営の安定を図るためにはどの程度の数量が適当かということで最終的には決めさせていただきたいと、このように思っております。

○紙智子君 現場から上がっている要求といいますか、ここは受け止めていただいて、そこをしっかりと踏まえて対応していただけるようにというふうに思います。
 次は、国内の酪農製品の需要が今のデフレ経済の下で低迷していると。そういうときに、カレントアクセスということで、農畜産業振興機構を通じて十三万七千トンもの生乳換算の脱脂粉乳やバターが入ってきていると。それから、十三万三千トンもの脱脂粉乳の輸入、これもカレントアクセスということで、こっちは関税割当てで輸入されているものと。これはもうきっちり入ってきているわけですよね。それによって一層の価格低迷を招くというのは必至なわけで、本来、カレントアクセスというのは、需要がなければ輸入については減少してもWTO上何の問題もないものだと思うんですよ。
 国内がデフレ経済で酪農製品の需要が低迷している以上、この輸入について抑制すべきだと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○副大臣(郡司彰君) 解釈そのものもいろいろ私どももできるというふうに思っております。そして、そのような中で、カレントアクセスのうち、農畜産業振興機構が輸入する乳製品については国家貿易というようなことで、これまでの政府も着実に履行をする必要を認めてきたというふうに思っております。
 したがいまして、私どもとして、これまでの前政権の取ってきたものを直ちに変えるということについては、それはそれなりの議論が必要でありますし、対外的にもそれなりのきちんと交渉があって後のこととしての場合にはあり得るかもしれません。
 しかし、現在はそのような状況になっていないということからすれば、国家貿易の下で国又は国の代行機関が自ら輸入を行うことから、通常の場合には当該数量の輸入を行うべきというこれまでの考え方を踏襲をし、WTO加盟国間で一定の共通認識が得られている状況の下での履行をしていかなければいけないのかなというふうに思っているところでございます。
 ただし、国内への売渡しにつきましては、乳製品の種類、量、時期を調整をし、国内需給への影響を可能な限り抑えているところでもございまして、例えば平成十七年度は実質的には八万五千トン、今年度は現時点では七万トンというふうなものが数値としては残っております。
 他方、御指摘がございましたように、民間への関税割当てにつきましてでございますけれども、アクセス機会の提供にとどまるということでございますから、これまでも必ずしもその数量を満たす輸入が行われているとは思っておりません。国産脱脂粉乳等への置き換え等も一つの方策というふうにもちろん考えておりまして、価格の問題というものはあるところでございますけれども、関係者におきましてこうした取組を私どもは期待をしているというようなことでございます。

○紙智子君 ちょっと今の答弁だと全然納得できないんですよね。
 いろいろな、カレントアクセスをめぐる解釈もいろいろあると言われたんですけれども、これはやっぱりあくまでも国家貿易という範囲ではないと思うんですよ。やっぱり、そのやりようによっては自由に調整できるものだというように思うし、実際にアメリカやEUがどうかということで見てみますと、例えば脱脂粉乳で例を取ると、アメリカの場合も最終年のアクセス量で五千トンだったものが二〇〇六年には二百トンと。それから、EUは、最終年度の約束ということで言ったのは六万八千トンですけれども、二〇〇七年のときにはゼロですから。
 こういう各国のやっていることが何で日本でできないのかというと、ちょっとこれは、解釈はいろいろというんですけれども、違うんじゃないのかということがあります。この点はどうですか。

○副大臣(郡司彰君) 先ほど申し上げましたように、委員の言われた数量と実質的に入ってきている数量というものも、もちろん今ほかの国の例もありましたように、私どもでも違っております。
 ただ、そのものを、これまでの私どもの政権のときではないとはいえ、そこを一方的にという形を今取るかどうかというような国内的な議論も、それから政府としての議論もまだ十分に行っている段階ではございませんので、直ちにそのような形を取るということはなかなか難しい問題であるというふうに私は思っております。

○紙智子君 前政権がやってきたことなんだけれども、政権が替わったわけですから、今やっぱりそういう意味ではもう一度検討し直すチャンスのときだというように思うわけですよね。
 それで、実際に、じゃ日本の国内で入れているものもその時々で違いがあるというんですけれども、それであれば、具体的に今までどういうふうに入ってきたのかということを、今でなくていいです、後でお示しいただきたいということ。
 それで、このカレントアクセスの関税割当てを実際に受けて輸入している企業ということで見ますと、明治乳業、森永乳業、日本ミルクコミュニティなどの大手乳業メーカーを始めとして、三井物産などの大手商社、それからロッテや明治製菓などの大手菓子メーカーが名前を連ねているわけです。食品、乳業の大企業がこの安い輸入の脱脂粉乳に群がっている姿というのが歴然としているわけですよ。
 資料をお配りしたのでちょっと見てほしいんですけれども、これを見ますと、大手の乳業メーカー全部足し合わせても約三千億近い内部留保があるわけです。ですから、これまで乳製品の関税割当てでもうけてきた企業に対して、やっぱりこの国産の脱脂粉乳の購入を求めて輸入を抑制するというふうにすべきだと。だから、関係者のところでいろいろ話し合ってもらって自覚的にという、そういう消極的態度ではなくて、踏み込んで、やっぱり農水大臣としてそのイニシアチブを発揮して、そこのところを考えて直してもらうというふうにするべきだと思いますけれども、いかがでしょう。
大手乳業メーカーの内部留保額
明治乳業 1213億1800万円
森永乳業 968億8900万円
雪印メグミルク 677億 300万円
総計 2859億1000万円

○副大臣(郡司彰君) 事実として、先ほど舌足らずでございましたけれども、カレントアクセスのうち、先ほど言われたアメリカ、EUについては、御指摘の部分は民間の部分だろうというふうに思っておりまして、例えば、例として挙げておりませんでしたけれども、カナダなどもこれは国家貿易の範疇で行っておりまして、それはほぼ約束のものをカナダでも受け入れているというようなところが現実ではないかなというふうに思っております。
 それから、今、大手乳業メーカーのことについても御指摘がございましたが、これは経済の論理、自由経済の仕組みの中でどのようなものを留保とするかどうかというのはその企業それぞれの戦略の中での判断ということになろうかと思っておりまして、このことについて国としてコメントをするというのはいささか妥当ではないというふうなことで控えさせていただきたいと思っております。

○紙智子君 ちょっとね、せっかく多くの農民の皆さんが期待をしているわけですよ。民主党政権に替わったと、自分たちの願いを前進させてくれるんじゃないかと期待しているのに対して、反する今のちょっと答弁だなというふうに思っているわけです。もうちょっと前向きな答弁が出てくるのかなと実は思っていました。
 やっぱりこの乳業の業界というのは、メーカーとそれから生産者とがお互いに支えながら成り立っているものだと思うんですよ。そういうときに、生産者の方がそれこそ牛を売ってでも何とか続けられるようにしなきゃいけないと、言わば生産基盤を小さくしながら何とかやりくりしているわけですよ。そういう状況が分かっているときに、これだけ内部留保がたまって体力があるわけだから、乳業メーカーの方は、せめて今まで輸入で安い物でやっていたやつを国内産に置き換えるということで、少しでもそこに国内の牛乳というか脱脂粉乳ですね、これをやっぱりそこに使ってもっと消費をできるようにしていくというふうに向けるぐらいやって当然じゃないかというふうに私は思うわけですけれども、いかがですか。

○副大臣(郡司彰君) 政策的な問題で、それぞれの先ほど言いました指定団体等とも含めて、それぞれ需給の関係については応分の負担というものをそれぞれの段階でお願いをしている。それを受け入れていただいているというのは、これはこれまでのことも含めて当然でありまして、私どもの政権としても、必要に応じてもちろん乳業メーカーにも大変な御努力をいただくということは、これはこれまで同様きちんとやっていかなければいけない。ただ単に乳業メーカーだけを保護をするというような観点から申し上げているつもりは毛頭ございません。
 ただし、先ほど言いましたように、それぞれの企業が持っている戦略その他を自由経済の下において統制的に何かを行うということ自体は、これは控えていかなければいけないだろう、そのように思っているところでございます。

○紙智子君 先日、鳩山総理大臣自身も、今やっぱり雇用が大事だと、いのちを守るんだという中で内部留保という問題についても触れて、やっぱりこれもよく考えなきゃいけないということを発言されているわけで、まさに今この乳業の関係をめぐっても、本当に乳業メーカーだって私たちつぶれちゃいけないと思っているわけで、お互いに成り立っていくという関係の中で社会的責任を果たさせていくというのは非常に大事だし、そこはやっぱり政府が、政治がきちんとそこをやっていくというのが必要だということを申し上げておきたいと思うんです。
 それで、ちょっとほかのもありますので次の方に移りますけれども、畜産の関係です。
 畜産経営についても、デフレ経営の影響で枝肉価格の下落と、深刻な影響を受けているわけですけれども、この畜産経営の維持にとってマル緊事業、不可欠ですよね。それから物財費、これは補完マル緊ですか、そして豚肉の価格差補てん事業が今年度で切れてしまうと。当然これは継続すべきだと思っていますし、補てん割合がマル緊事業が八割で物財費マル緊が六割ということについても、我々としてはやっぱり十割補てんに是正すべきだというふうに思っていますけれども、この点、いかがでしょうか。

○副大臣(郡司彰君) マル緊の事業そのものは、これまで御議論をいただきましたように、制度の事業の終期を迎えている段階ということもございまして、それぞれの御意見をいただきながら検討をさせていただきたいというふうに思っております。簡素なものに変えていこう、あるいは一本化ができないものだろうか、そのときの生産者の負担の割合というものをどうすべきかということについて、これまでも御議論をいただいてまいりました。
 十割というような形ということでございますけれども、例えば枝肉の卸売価格が補てんを前提として固定化するのではないか等の問題が出てまいることもございまして、その辺のところについてはモラルハザードを起こさないようにしなければいけないだろうというふうにも思っております。
 いずれにしましても、私どもの方で考えているセーフティーネットあるいは戸別所得補償という制度の中でも、改めて現在の収入保険的なものあるいは基金の運用、それとこれからの制度というものがどのような形になってくるかという中で方向性を見出したいというふうに思っておりますけれども、今現在の中で十割ということについてはなかなか難しいという判断をしているところでございます。

○紙智子君 この制度ということでは、分かりやすく簡素にということについては、使いやすくするというのはこれは私も賛成なんですけれども、ただ、やっぱり現状を、現場が混乱しないように、よくやっぱり実情を聴き取って、そしてかみ合う形に考えなきゃいけないというように思うわけです。
 それで、現実の実態は、余裕がなく、生産基盤を切り詰めて離農しないように頑張っているというのが実情ですし、豚をやっている人、百頭ですかね、やっている豚の農家の方に聞くと、もうこの間四百万減収になったと。それから、今日の農業新聞の一面に出ていましたけれども、これ茨城の方ですよね、毎月百万以上の赤字だと。この農家の実態というのは、百頭をやって年間二千頭の肉を出荷していくということでやってきているんだけれども、結局〇九年の深刻な価格の高騰の中で非常に大変な事態になって、〇八年が百万円だった赤字が〇九年に三千万に膨れ上がっているということなんですよね。だから、豚の価格が低迷して赤字が膨脹して基金の拠出もできないという、そういう状況が一方にあるわけですから、ここをしっかり踏まえて対応していただきたいというふうに思うんです。
 それから、肉用の子牛ですけれども、補給金の保証基準価格ですけれども、一頭三十一万円ということなんですけれども、これも、〇八年には子牛生産のための飼料代などの物財費の方が上がっているわけですよね。そっちの方が高いと。三十一万円の保証基準の価格ではこれ物財費もカバーできない状況なので、これも引き上げるべきだと思いますが、いかがでしょう。

○副大臣(郡司彰君) このことについても先ほど来御議論をいただいておりまして、一つは基準の問題、それから制度そのものがかなり複雑ではないかというようなことでございますので、それぞれ基準についても、そして全体の制度をどうすれば簡便な形に変えることができるか、今の御意見等も踏まえながら検討させていただきたいというふうに思っております。

○紙智子君 また酪農問題に戻るんですけれども、酪農ヘルパー、今年度の事業が終了ということです。それで、酪農経営を維持するために不可欠な事業なんですけれども、これも延長すべきだし、酪農ヘルパーの広域利用などの支援内容を充実すべきだと。
 それから、民主党としてコンクリートから人へという考えで公共事業の削減に取り組んできたわけですけれども、余りにもちょっと画一的で、公共事業として行われている草地基盤整備予算も百二十一億円から五十四億円に減らしているわけですね。これは飼料自給率の引上げということを一方で言っているわけですけれども、これに逆行することになるわけです。
 これらについては見直されるべきだというふうに思いますけれども、今言いました二点について明らかにしてください。

○副大臣(郡司彰君) 御指摘をいただきましたことで、コンクリートから人へという割には減っているではないかというような御指摘をいただきました。このことについては、草地のこともありますし、ヘルパーのこともあるんだというようなことでございます。
 ヘルパーについては、かなり、平成二年度から実施をしておりまして、きちんと、三百六十五日生き物が相手だけれども、休みも取れるようになった、病気のときにも大変に役立っている、そのような形でございますので、互助制度をそのような形から今後とも検討をしていきたいというふうなことを前提にやっていきたいというふうに思っております。
 それから、草地の関係は、これは私どもも事業仕分の中で本当に理解がされているんだろうかというような疑念を持ったことも事実でございます。どうもそこに関係をする人たち以外にとってみると、草地の土も年度によって更新をするというようなこと自体も余り北海道以外のところではぴんとこないようなことがあったのかもしれません。
 しかし、それらのことを踏まえまして、生産性の低い草地を生産性の高い草地に転換をするための取組を支援ということで、新たな事業としても今回またしっかりとやっていくつもりでございますので、御理解をいただければなというふうに思っております。

○紙智子君 最後、一問だけになりましたけれども、中長期的な畜産・酪農経営を守るために、これもちょっと出されていますけれども、畜種ごとの必要な所得を確保することを目的としての価格・所得補償制度の導入が必要だと私たちも思っております。この点について、やっぱり、自民党さんからもいろいろありましたけれども、各党というか、民主党さんだけの中だけではなくて、やっぱり本当にこうみんなの知恵を集めて、本当に実態にかみ合ったものにしてほしいというふうに思っているんですけれども、そういうことをめぐって、最後、大臣お願いします。

○国務大臣(赤松広隆君) 先ほどの答弁でもさせていただきましたけれども、現在まで行われてきました畜産経営安定対策が畜種ごとに行われておりまして、まさにこれがセーフティーネットとして大きな役割を果たしてきたという前提がございます。
 私どもは、ただ、そうはいっても、経営基盤、安定的なこれからの将来に向かっての経営ということを考えたときに、こうした酪農、畜産については、是非今、農業で始めようとしている戸別所得補償制度、こういう制度の中でやっぱり全体的にきちっと岩盤部分をつくっていくという意味で、制度としてやっていくべきだというふうに考えておりまして、ただ、今年度につきましては、今度、例の価格を決めたりあるいは限度数量を決めるちょうどその発表の同じ時期に、その前段階となるような一回いろんな仕組みを簡素化して分かりやすくする。そしてまた、旧来からあるこの育種ごとのきめ細かいそういうものも織り込んだ形でのあの所得制度というのを将来的に見据えながら、取りあえず、まず今年はそんなスタートにしてみたいなというふうに思っております。

○紙智子君 終わります。