<第173回国会 2009年11月19日 農林水産委員会 第03号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日、十五分の質問なので、是非、核心部分を短く返答をお願いしたいと思います。
 今月十七日から十回目の交渉が行われています日豪のFTAについてお聞きします。
 大臣は、基本的には自由貿易を目指すと、ただ、日本の国益ということがあるから守るべきは守るというふうに述べられているんですけれども、そもそも二〇〇六年当時にこの交渉に入るべきではないという強い反対の運動が起こっていたのは、これ豪州産の農産物の関税が撤廃された場合の影響について極めて大きな打撃を受けるということが明らかだったわけですよね。農水省の試算で、当時、日本の小麦の生産が九九%減少、砂糖生産は一〇〇%減少、乳製品は四四%だと、牛肉生産は五六%だということで、影響額にして七千九百億円に上るということが明らかにされていたわけです。
 私の地元北海道でも、そうなると二万一千戸離農ということにならざるを得ないんじゃないかと。今五万大体九千戸ぐらいですから、もう半分ぐらい減ってしまうと。関連製造業の影響も含めると地域経済への影響というのは一兆三千億円にも及ぶということで、明らかにして、北海道を挙げてこれは反対の決議、意見書を上げたという経過があるんですね。
 この日豪のFTAの影響に対しての評価ということで、大臣の認識を伺いたいと思います。

○国務大臣(赤松広隆君) 日豪のEPAについての今御指摘がございました。
 平成十八年十二月一日、農林水産省が正式に出している文書でございますけれども、ここでは、今御指摘のように、国内農産物への影響ということで七千九百億円マイナスになるというようなことも試算をしているわけでございます。
 そういう意味で、全くフルオープン、すべての品目にとやれば大変大きな影響が出るのはもう当然のことでございますので、先ほども少し申し上げましたけれども、十回の交渉を続けてまいりましたけれども、オーストラリア側もなかなか強硬でございますし、私どもも譲れないものは譲れないということで、そういう状況が今続いているということでございます。
 こうした事務レベルでの十回、交渉は交渉でやっていますけれども、先日、クリーンという貿易大臣が日本に参りまして、是非農水大臣に会いたいということだったものですから、十月二十六日の日にお会いをさせていただきました。その折、私からも、我が国産品のセンシティビティーについてはこういう考えですよと、とてもこういうものについては今開放するというわけにいきませんというような中で言うべきことはきちっと説明をしておいたということでございます。

○紙智子君 オーストラリアは、どこの国に対しても例外を認めないという立場で今までも来ていると思うんですね。
 メキシコとのEPA協定が結ばれて結局どういうふうになったかというと、自動車産業は三・二倍に小型のメキシコへの自動車が増えたということがあったんだけど、逆に日本はメキシコからの農産物の輸入が増えて、冷凍オレンジジュースですとか冷凍牛肉ですとか、それから生鮮の、チルドの牛肉とか、前年比で二倍増えてきたわけですよね。それがやっぱり日本の経済にも影響を与えているということがあるわけで、結局構図としては、農業を犠牲にする形で自動車産業が利益が上がったという形になっているわけです。
 ですから、日豪のFTAの農水省の試算から見ても、もしこれ受け入れたら大変な事態で、譲らないところは譲らないと言ったわけですから、それであればやっぱりこの交渉というのは中止すべきだというふうに思うんですけれども、いかがでしょう。

○国務大臣(赤松広隆君) 冒頭、先生もお認めになりましたけれども、私どもの立場は、世界に対していずれの国とも自由な貿易を促進をしていくというのがまず基本姿勢でございます。しかし、特に日本の国益ということを考えたときに、事農業にかかわる、畜産等も含めてですね、こういうものについては、これは非常に我が国にとってセンシティブな問題であり、ここを犠牲にしてまでも自由貿易の促進ということにはこれはなかなかならないと。大変勝手な言い方ですけれども、これはこれとして特例を認めていただきながら、その他の私どもが輸出するものにはでき得ればそれはゼロ%にしてもらいたいというようなことを、これも交渉していくということでございます。
 ですから、それぞれいろんな国々との交渉はありますけれども、これを、例えばこの程度認めてもほとんど国内産業に影響ないという場合はそれはそれを認めながら、反対に自動車、電機あるいは医薬品もあるかもしれませんけれども、そういうものについてどんどんと私どもが取るべきものは取っていくということだって当然あるわけですから、オーストラリアというのは非常に、いい意味でですよ、いい意味でフェアな国でございまして、みんな公平に同じ態度でやりましょうというところですから、それはそれで交渉は交渉として、私はほかの意味での、やっぱり国と国との付き合いもありますし、信頼関係もあります。ですから、できるだけ粘り強く交渉は続けていった方がいいのではないかと思っています。

○紙智子君 ちょっと時間がなかなか足りないので、短くお願いします。
 日米のFTAについてなんですけれども、日豪のFTA以上、FTAを上回る影響が予想されているわけですけど、この日米のFTAを締結した場合の影響については大臣はどのように認識をされていますでしょう。

○国務大臣(赤松広隆君) 取りあえずまだその段階に達していないというのが私の認識でございます。豪州と違って十回もやっているということじゃありませんから。

○紙智子君 影響について、日米経済協議会の委託研究で、日米EPA効果と課題ということで分析されているのがあって、関税率が比較的大きく保護された産業において、日本との関係でやると、FTAに伴う生産縮小が観察されると。日本においては、米で八二・一四%、穀物で四八・三%、肉類で一五・四四%と推定をしていると。だから、米の生産なんかはもう破滅するに近い状況に追い込まれちゃうということでもあるんですけれども、そのことが地域経済にも打撃を与えることになると。
 かつて農水省が、完全自由化した場合に食料自給率は四〇%から一二%まで下がるというのを出したことがあるわけですけれども、これも最悪のシナリオなわけですけれども、米国から見ると、農産物を外しての交渉というのは全くこれはもうあり得ないというか意味のないことになってしまうわけですよ。しかし、やっぱり農業を入れるということについてはしっかりアメリカとしては持っていて、二〇〇七年の日本経団連の講演の中で在日米国大使館のハンス・クレム経済担当公使は、FTAあるいはEPAに向けた交渉を政治的に実現可能なものにするためには農業を含まないわけにはいかないというふうに述べていることからも、この意図というのははっきりあるわけで、これで私は日本の農業を守ろうと思ったら、これは交渉に入るべきではないというふうに思うんです。その選択肢が一番賢明だと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(赤松広隆君) 言われる趣旨は分かるんですね。もう既にアメリカなんかは自動車その他について事実上関税ゼロですから、私どもはもう得るべきものは何もないと。反対に、米あるいはその他乳産品を含めて取られる方ばかりですから、そういう意味でいえば先生の言われる趣旨は理解はできますが。
 ただ、私どもはやっぱり基本論としてすべての国々と自由な貿易が実現できるように、マルチ的にはWTOで、そしてバイでは、個々にはそれぞれ二国間交渉をと、EPAで、FTAでと言ってきているわけですから、自らその門を閉ざすようなことはやるべきではないと。向こうが交渉をしたいと、話合いしたいと言えば、やっぱり常に門戸は開けていくと。ただし、主張すべきことはちゃんと主張する。譲らない方がいいものについては譲らないということさえしっかりしていれば問題はないのではないかと思っております。

○紙智子君 ちょっと言いたいことはありますけれども、次にちょっと移りたいと思います。
 米国産輸入牛肉の違反に対する対応についてなんですけれども、十月にまたしてもこの米国産牛肉が、危険部位の脊柱が見付かったと。二〇〇六年の七月に輸入再開して以来、違反事例というのは全部で十三件なんですね。うち、禁じられている危険部位の混入は三例で、カーギル・ドッジシティーが三例、タイソン社レキシントン工場が二例と繰り返されているわけです。そのたびごとに、間違いを正したから大丈夫だと言って入ってきたわけですよね。
 「ノンコンプライアンス・レコード」、これなんですけれども、御覧になっているかなと思いますけれども、これ見ると、これらの会社というのは、実は以前からずっと繰り返してきているわけですよね。もう本当にいわく付きと言ってもいいぐらいの会社でありまして、何でそうなっているのかということは根本的な原因があるからだと。
 赤松大臣は、先日米国に行かれて、農務長官との話の中で遺憾だと言って詳細な調査を要求したわけですけれども、これに対してどんな回答が返ってきているのか。それに対する大臣の認識ということで、短くお願いします。

○国務大臣(赤松広隆君) 御指摘のとおり、一泊三日でちょうどその行っている最中にその問題が突然出たものですから、もちろん詳細はまだつかんでおりませんでしたけれども、ビルザック農務長官に対して私から遺憾の意を表明いたしました。そして、詳細な調査について要請をしました。
 その後、帰ってきましたら、今度はルース駐日大使が是非あいさつに来たいということでお見えになったときにも、この問題について私の方から同様のことを要請をいたしました。
 十一月八日に調査報告書がアメリカ農務省から提出をされまして、もう中身見ていますか、もし、そこには、一として、混載の原因は研修を受けていない従業員が日本向けでない製品を誤って日本向けのラベルが張られた箱に箱詰めして、しかもチェック担当従業員がこれを見落としたことによるものであると。それから、改善措置として……

○紙智子君 いいです。

○国務大臣(赤松広隆君) いいですか。そういうことの、あれがありました。
 しかし、委員御指摘の二回目とかなんとかとかいろんなことあるものですから、今回厚生労働省と一緒に特別査察を今実施をしておる最中でございます。また、その査察の結果を受けまして、どういうふうにするかまた判断をしていきたいと、このように思っています。

○紙智子君 なぜ繰り返されるのかという、ここの問題というのは、私たち構造的な問題点があるというふうに思っているわけです。つまり、この中読んでいくとすごく分かってくるんですけれども、まず食肉処理の驚異的な処理のスピードというのがあるんですね。大量に一日に何千頭というふうに処理していくと。それで、その処理を支えているのは多くの移民の労働者で、中には言葉も通じない人もいるし、しょっちゅう入れ替わっているということがあるので、どの部位を切ってどうするかとか、これはどこの国向けだとかそういったことを徹底するということもなかなか大変になっていると。
 それから、検査体制、食肉官の検査も危うい立場で、基準を満たしていなくても輸出の証明書にサインすることも少なくないという報告がされているわけです。そのほかに、飼料工場における交差汚染の問題も防止策が徹底されていないということなど含めた、そういう一部の工場だけでない全体にかかわる問題があって、ここを改めずに部分的に直しただけでは解決にならないと。
 だから、二〇〇七年の六月二十一日だったと思いますけれども、まだ民主党さんも野党のときに四野党でそろって集会を開いて、共同の集会のアピールを出してそのことも指摘しているわけです。
 ちょっと一部だけ読みますと、このような米国牛肉処理施設のずさんなBSE対策は、米国処理施設におけるBSE違反記録で明らかにされているが、輸入再々後の違反事例の多発はそのことが是正されてないことを示しているということで言っているわけで、やっぱりこういうことが非常に直されないといけないわけですけど、今回大臣が米国の農務長官との話、違反があった場合全面禁止等となっていて、全部直ちにストップされるわけじゃないと述べられたんですけど、これは、そのことが本当だとすると、結局問題点を容認することになるじゃないかと。
 我が党は、これだけ繰り返されているわけだから、一回やっぱりストップして、全部ストップして、そして真剣にそういう構造上の問題を改めさせるということを、少なくとも日本と同様の検査を求めていくということをすべきじゃないかと思いますけれども。
 それと、ちょっと時間になるので、あと最後に触れてほしいんですけれども、国内の検査体制の問題で要するにどうなっているかということなんですよ。民主党のマニフェストで、BSE対策として二〇〇八年に打ち切られた全頭検査の国庫補助を復活しますってあるんですけど、これをそのとおり実行されるのかどうかということを最後に確認をしたいと思うので、併せてお願いいたします。

○国務大臣(赤松広隆君) 今御指摘の点につきましては、例の混載事案ができたときに当該出荷施設からの輸入手続を停止したという事実はございます。それに加えて、あと、今査察へ行っていますから、特別査察を、それを受けた結果を、査察の中身を精査をいたしまして、本当にシステム全体にわたる問題であるのか、あるいは、委員は違うと言われますけれども、単に単純なミスということで起きたことなのか、それを判断をしてその後の処置をどうするのかを決めさせていただきたいというふうに思っております。
 それから、あと国内の、今事実上国は全頭検査というよりも、それを各都道府県が事実上全頭検査をやっているわけですけれども、それの扱いについては実は、これは国内のそういう食の安全の問題ということになりますと厚生労働省の所管でございますので、私の方でそれを続けるとか続けないとかいうのはちょっと立場上まずいのではないかと思います、権限がありませんから。

○委員長(小川敏夫君) 紙君、なお時間が過ぎていますので、簡潔にお願いします。

○紙智子君 はい。
 単純なミスではないんです。繰り返されて現実の問題としてあるわけだから、そこはしっかりと、査察に今行っているから結果見てと言うんですけど、言うとおりになってきちゃ駄目なわけで、そこはやっぱり繰り返されている事実を基にしてきっちりとやってほしいことと、それから、公約として言われていることについては、農水大臣だから管轄じゃないと言われるんですけど、やっぱり厚生労働省に対してしっかりと実行する立場で物を言っていただきたいなということを最後に申し上げて、質問を終わります。