<第171回国会 2009年7月2日 農林水産委員会 第16号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 以前、大臣と議論をした際に、ミニマムアクセス米について、入れなくて済むのであればそれにこしたことはないが、ではどうすればいいのかということで、セクター方式はいかがでしょうかということで、続きはまた次回ということになっていましたので、今日それを質問したいと思うんです。
 それで、このセクター方式の導入について、ミニマムアクセス米問題についてなんですけれども、最初に官房総括審議官の方にまず確認をしたいと思うんです。
 それで、EUは、WTO農業交渉でミニマムアクセスについて、対米交渉の最終段階で品目区分のアグリゲーション、すなわちセクター方式が認められて食肉について適用されているということなんですけれども、EUにおけるセクター方式の導入の経緯とその運用状況、そして効用について明らかにしていただきたいと思います。

○政府参考人(實重重実君) お答えいたします。
 ガット・ウルグアイ・ラウンドは、一九九三年末、平成五年末に合意したところでございますが、農業交渉においては、すべての非関税措置を関税化することとされました。その際、従来の輸入量が消費量の五%を下回る品目におきましては、消費量の五%をミニマムアクセスにする。また、従来の消費量が五%を上回る品目にあっては、輸入量をカレントアクセスとするといった形で関税割当て枠を設定することとされたところであります。
 その場合のその関税割当て枠を算定するに当たって、品目の単位、すなわち算定するに当たってのくくり方でございますが、これについては統一的なルールがございませんでした。実際には、関心のある国同士の交渉によって決められることとなりました。
 御質問のEUにつきましては、食肉のアクセス数量を算定するに当たりまして、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉等の食肉をまとめて一つの単位として算定を行ったところでございまして、食肉部門を一括したことから、いわゆるセクター方式という呼び方をされております。
 しかしながら、このアクセス数量の算定に当たって食肉部門を一括したといいましても、あくまでもミニマムアクセスの全体量の計算に当たってのことでありまして、個々の品目につきましては、譲許表の中で例えば冷凍鶏肉といったように細かく品目別に関税割当て枠を設定しているところでございます。

○紙智子君 もしもEUが品目ごとにミニマムアクセスを設定していたら、アクセス数量は豚肉で六十万トン、それから家禽肉で十九万トンに達していたわけですけれども、このセクター方式を導入したので、アクセス数量は豚肉で七万五千六百トン、家禽肉で二万九千トンで済んだということなので、これによってEUの養豚農家やあるいはブロイラーの保護を図れたという大きな効用を果たしたというふうに思うんですけれども、この点について、次、大臣にお聞きしますけれども、どのように受け止められるでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) セクター方式につきましては今総括審議官からお話を申し上げたとおりでございます。
 ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意というものは平成七年から平成十二年、六年間が実施期間でございます。ミニマムアクセスの数量につきましては、最終年度、日本でいえば平成十二年、消費量の五%というふうに拡大するルールとなりました。
 EUが食肉部門について約束をしておりますアクセス数量を見ますと、いわゆるセクター方式によって算出をいたしますので、豚肉や鶏肉につきましては消費量に占める割合が五%より小さくなりました。六十二万六千トンが十九万三千トン、これが豚肉。二十七万三千トンが十二万三千トン、これが鶏肉でございます。他方、牛肉は三十七万三千トンが消費量の五%でございますが、約束数量は五十四万八千トン。羊肉については消費量の五%というのは六万一千トンですが、約束数量は三十二万トンということになっておるわけでございます。EUはEUへ輸出することに関心のある国々との交渉をいたしまして、食肉部門においてはこのような一定の調整をするということが認められた。何もいい話ばっかりではございません。消費量の五%よりもはるかに多い約束数量というものを設定しておるものもございます。

○紙智子君 はるかに多いというと、羊の肉だったりとか牛肉については高いということだけれども、しかしEUが守らなきゃいけないとしていた養豚の農家やブロイラーについては低く抑えることができたということでは、そこを守る一定の役割は果たしたんじゃないですか。

○国務大臣(石破茂君) それはその時点においてはそういう評価というものが一概に全くないとは私は申しません。
 しかしながら、じゃほかの部門を守らなくてよいかということになれば、それはEUはEUでそれなりの議論があるのだと思います。

○紙智子君 一定の役割を果たして、ほかのところは議論はあるかもしれないけれども、しかし果たしたということは事実だというふうに思うわけですよ。
 それで、次にちょっとまた審議官にお聞きしたいんですけれども、例えば日本でこのセクター方式を導入した場合についてどうなるだろうかということなんですけれども、問題は、日本の場合は米の問題があります。米を含む上位の品目区分というのは穀物ということになるわけですけれども、それでその穀物として区分した場合には、どのような作物が穀物に含まれることになりますか。

○政府参考人(實重重実君) 一般論としてというお尋ねでございますが、一般的に穀物と言う場合の範囲には、用語としては米、小麦、トウモロコシ等が含まれるものと考えております。しかしながら、ウルグアイ・ラウンドの関税割当て枠を算出するに当たって、我が国が穀物部門についていわゆる今申しましたセクター方式を採用しているところではございません。したがいまして、セクター方式の一般論といったような仮定に立った上での御質問にお答えすることは困難であることについては御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 セクター方式は選択してないので無理だけれども、しかし、理屈として言えば、今言われたことで言うと、確認するのは、穀物ということになった場合は、一般論として言えば米、麦、飼料作物のトウモロコシということですよね。ちょっとそのことを前提にして、やるかやらないかはまだこれからなんですけれども、それを前提として、その米、麦、飼料作物としてのトウモロコシが穀物区分の中に含まれるということになって、米、麦、飼料用トウモロコシの総量を穀物区分としてカウントして、それに対してアクセス数量を設定するということになるとすると、そのアクセス数量を飼料用のトウモロコシで処理するということにすれば米のアクセス数量を設定しなくてもいいと、理論的に言えばということですが。実際それをこれからどうするかというのは別として、理論的に言えばそれはそういうことができるということですよね。

○政府参考人(實重重実君) 先ほどEUの食肉についてのお話を申し上げましたが、食肉につきましても、EUについては全体の計算に当たってそのような一括した計算方式を取ったということでございまして、個々の品目につきましては、関心国との交渉によりまして個々の品目別の割当て数量、関税割当て数量を設定し、それを譲許表に記載しております。したがいまして、あくまでも交渉の上、合意を得てそのような形になっているということでございまして、全体が一括して一つの数字だけで譲許表に掲載されているというものではございません。

○紙智子君 だから、EUは、その相手国とのかかわりがあるけれども、交渉できたわけですよね、やって、関心あるところで。できたということは、そういうことも可能な仕組みなんだということですよね。

○政府参考人(實重重実君) 一般に譲許表につきましては、それを提出する時点で関心国との交渉によりまして合意を得るという形で設定されることになっております。ガットの関税貿易一般協定二十八条には、譲許表、他の締約国と交渉し、かつ合意することにより譲許を修正し、又は撤回することができる。ただし、その場合でも、交渉前における定められた水準より貿易にとって不利でない相互的かつ互恵的な譲許の一般的水準を維持するように努めなければならないと、このような規定がございます。したがいまして、一般論として申し上げれば、交渉によって決定されるということでございます。

○紙智子君 だから、そういうことですよね、一般論として、交渉によってお互いの国がそれで合意すればということだと思うんですけれども。
 それで、その飼料用トウモロコシで穀物のミニマムアクセス量を処理するとした場合には、飼料用トウモロコシはこれは国家貿易ではないわけですよね。だから、政府が言うような、これまで言ってきたような義務輸入ではないと。国内需要がなければ、アクセス数量でそれが未達成であったとしても何ら問題のない取扱いになるというように思うんです、一般論で言って。今現に日本ができるかどうかは別として、そういうことも理屈の上では成り立つわけですよね。

○政府参考人(實重重実君) 先ほどEUのケースでも申し上げさせていただきましたように、ミニマムアクセス、あるいはその関税割当て量全体を計算するに当たってのセクター方式ということでございまして、個々の品目については定めていないというわけではございません。
 したがいまして、輸出の関心を有する国々との交渉によって合意を得なければならない。合意を得た上で、そういう算定方式も一定の調整をすることが認められ、また個々の品目についての数量も設定をされているということでございます。

○紙智子君 だから、やっぱり今の説明を聞いても、一般論としてということですけれども、実際に個々の問題についてお互いに合意し合えば、個別のそういうアクセス数量ということもあるけれども、EUのような形でやることもできなくはないんだということなんだと思うんですよ。
 そこでなんですけれども、やっぱり理屈としてはそういうことがなり得るということなのであれば、穀物区分のセクター方式を導入して、やっぱり米のミニマムアクセスから、それを導入すれば日本が非常に苦しんでいる米のミニマムアクセスから解放されることになるんじゃないのかと、そのことが日本農業にとって非常に大きな意味を、役割を果たすことになるんじゃないかと思うわけです。
 二〇〇三年の九月十一日付けの信濃毎日新聞の記事がありまして、ここには、カンクンでのWTO交渉に当たって、当時の交渉に臨む農林水産省の一部にセクターアプローチという考え方が浮上していたということが指摘をされているわけです。
 それで、農水省はかつてなぜこの穀物区分でセクター方式を導入しなかったのか、そのことについて大臣、明らかにしていただきたいと思います。

○政府参考人(實重重実君) 今のお話に、先ほどの私の答弁にも補足させていただきたいと思いますが、ガットの二十八条で御紹介をさせていただきましたとおり、交渉に当たって現状を変更するのは大変困難でございまして、従来の水準を維持するということが定められておりますし、また関係国すべてと、これはWTOに参加している国は百五十か国以上ございますが、関係国すべてと合意をするということに伴いましては、あらゆる日本に対する関心のある国が合意しなければなりませんので、次々と要求をされて、一定の変更を行うためにはそれ以上の変更が必要になるということが想定をされます。
 また、今カンクンについてお話ございましたけれども、カンクンの閣僚会議は二〇〇四年だったかと思いますが、これは、二〇〇四年の際にはモダリティーを確立する、現在行われておりますドーハ・ラウンドについてのモダリティーを確立するための交渉だったわけでございまして、今EUがセクターアプローチ、セクター方式といったような最終局面で、譲許表を設定するための交渉といったわけではございません。ですから、そういう段階で、モダリティーのための交渉の段階で今のような議論があったということはないと思いますし、承知しておりません。

○紙智子君 ちょっと記事を読みますと、もう少し前のことだったかもしれません、この書いた人というのは、二〇〇三年ですからもうちょっと前の話をこのときしているのかもしれません、そこは。ただ、そういうことが、何というんでしょう、俎上に上ったということはないんですか、どうなんでしょう。

○政府参考人(實重重実君) 済みません、今、カンクン閣僚会議、二〇〇四年だったのではないかと申しましたが、二〇〇三年九月でございました。これはモダリティーの会合でございますから、今のような譲許表の話とは全く無関係でございます。それ以前についてどうであったかということについては現在承知しておりませんので。
 ただ、譲許表について議論がなされましたのは、先ほど申し上げました平成五年末のウルグアイ・ラウンドの合意に当たりまして、日本の個別の産品をどうしていくかということでございました。具体的に譲許表は翌年のマラケシュ合意、モロッコのマラケシュで合意をいたしました際に日本としての提案を出しているわけでございますけれども、その際に、今先生御指摘の米につきましては関税化の例外でございましたので、関税化の例外措置であるということが日本としても最も重要な課題でございましたので、そのようなセクターアプローチの議論をするといったような余地はなかったのではないかと思います。

○紙智子君 確かに、当時はまだ関税化されていなかったから、米を守らなきゃいけないという観点から取下げということもあったかもしれないけれども、今はもう既に関税化されてしまっていますから状況はその当時と違うわけで、実際、理論としては、EUはやっているわけだし、やっている国もある中で、やっぱり要は交渉ですよね、ということだと思うんですよ。
 だから、最初からこれを排除してしまって無理ということではなしに、やっぱり新たな状況に立って、これ、今後の問題としてその交渉にしていくべきではないかと思うんですけれども、大臣、いかがですか。

○国務大臣(石破茂君) ということができたらいいなと思わないわけではありません。
 ただ、委員が今るるおっしゃいましたように、あのときはとにかく関税化絶対阻止という話だったわけで、もうとにかくそのためにはいかなることも甘受しましょうみたいな、そういう雰囲気がございました。じゃ、今関税化したらいいじゃないかということ、関税化したのだからいいではないかと、このセクター方式に変わったらどうだということで、それはそういうふうに話がうまくいけばいいのでございますが、まずドーハ・ラウンド交渉におきましてはウルグアイ・ラウンドの譲許表がベースになって交渉が行われるわけで、これを変更しますということは非常に難しいのではないだろうかと。
 仮に変更しようとすれば、よしよしと、そうであれば日本に対して関心を持つ国がこのセクター方式認めてやろうということになると、世の中なかなかそう簡単にはいきませんで、それではと、代償何払ってくれますかという話になるわけでございます。セクター方式に移ってもいいよと、代償も要らないよというような、そういうような有り難い国があればよいのでございますが、なかなかそうはいくまいてというふうに考えております。
 先般委員に御指摘いただいて以来、このセクター方式というのを私も随分考えてみたのですが、なかなかこれを導入するのは難しいというふうに考えております。もちろん、全く考慮の外ということではございませんので、引き続きそういうような方式もあるということは念頭に置いてまいりますが、そうなった場合に膨大な代償の支払、じゃ何をどれだけ出すかということはまた相当の議論になるだろうと。その前に、まずこの話を聞いてくれる国がどれだけあるか、相当に困難なものだとの認識を持っております。

○紙智子君 やる前からすべて無理としないでいただきたいというふうに思うのと、前回話しましたけど、実際にミニマムアクセスが今のまま、今七十七万トンですけど、更に百十何万トンとか増える可能性があるわけで、そういうことを心配、考えれば、やっぱり何としても食い止めなきゃいけないという思いなわけですよ。そのことをちょっと提起をしておきたいと思うのと。
 あと、最後に一問聞きたいんですけれども、今年の春以降、米価が下落傾向が続いているわけです。このままだったら、〇九年産の米が価格の暴落が強く懸念をされているわけです。米の価格形成センターが形骸化している中で、なかなか正確にどうなっているかということが把握できていないわけですけれども、この間、農民連が市場や首都圏のスーパーなどの米の販売価格をずっと調べている中で、一俵当たりで千円から二千円下がっている、それから、中には五キロで五百円下がっているというようなことで、この買いたたきによる安売り競争の様相も見えているということも指摘をしているわけで、こういう今の米価の下落の状態に対する認識とこれからの対応策について、総合食料局長は昨日話聞いたので、今日は大臣にお聞きしたい、最後。

○国務大臣(石破茂君) 私どもが毎月公表しております農協などから卸売業者への相対販売価格の本年五月の最新データでございます。これでは、ほぼ安定した水準で推移しているというふうに認識をいたしております。同様に、毎月把握、公表しております卸売価格及び小売価格につきましても、産地、品種、銘柄によりまして小幅な変動は見られますが、本年五月、これが最新データでございますが、おおむね同水準で推移していると。
 昨年の春から米消費というのは拡大をしてまいりました。しかし、今年の春からこれが大体一巡をいたしましたので、大体昨年同期並みあるいは弱含みかなと。そしてまた、外食における需要というのがやや減ってきたかなというふうに思っております。
 委員御指摘のように、私も時々スーパーをのぞくのでございますが、スーパー等におけます売れ筋の価格帯は下がっているという状況は見られます。ですから、もう大丈夫だ大丈夫だ、安定しているというだけではなくて、需給、価格の動向というのは注視をしていかなければならないという認識でございます。

○紙智子君 時間になりましたけれども、やはり、ちょっと今、今年の作についてはまだこれからによっていろいろ変わってくるとも思いますから、是非注視をしていただいて、やっぱり事態をつかんで機敏な対策をお願いをしまして、質問を終わりたいと思います。