<第171回国会 2009年6月11日 農林水産委員会 第14号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は三人の参考人の皆さん、ありがとうございます。
 それで、私は最初に清水参考人にお聞きしたいと思います。
 それで、今回の改正では、農地を所有とそれから利用とに分けて、貸借については、借りれば農外の企業でも自由に借りられることにしているわけです。それで、先ほど参考人のお話の中にもありましたけれども、農地法そのものはこれまでずっと何度も緩和をされてきていて、農業生産法人の制度の条件も緩和してきたし、農産加工等の関連事業も行えるようになったり、二〇〇二年のときには構造改革特区で、さっき特区の全然役に立たないという話がありましたけれども、農業生産法人以外の企業も農地リース方式で参入できるようになり、その後二〇〇五年にこれを全国展開ということになってきたわけです。企業でも農業生産法人に参加すればいいし、特定法人貸付事業ということでやりますとそれもできるようになるということで、ずっと広げてきたという経過があると思うんですよ。
 ですから、私は、本当に真剣に情熱を持ってというか、農業に参入しようという意欲があれば既に道は開かれてきているんじゃないのかというふうに思っていて、それをもっともっと緩和しろというやっぱりことというのは、結局は農地の最終的には取得というんですか、そういう自由化に開いていくということにつながらざるを得なくなるんじゃないのかなというふうに思うわけですけれども、この点について清水参考人のお考えをお聞きしたいと思います。

○参考人(清水徹朗君) お答えします。
 おっしゃるとおりでありまして、やっぱり非常にこれからの流れ、これまでの流れをずっとたどっていきますと、かなり危険な道を歩むリスクがあるというふうに思います。
 ですから、まだしかし、歯止めはまだあるし、衆議院でも修正したわけですので、事後規制もやはり重要ですね。ちゃんとその事後規制なり何か問題が起きたときに取消しなり是正措置なりをちゃんと地域の農業委員会がやることができるかということですね。ですから、これ以上というか、なぜ企業に所有権を、株式会社に所有権を認めるとまずいかということについて改めてやっぱり認識する必要があるというふうに思います。

○紙智子君 この事前に配られました資料を読んでいまして、清水参考人は、農業の担い手の高齢化が進行する中で、その受皿として今集落営農や大規模な稲作経営を育成していくという方向で、そのこと自体はそれほど間違ってはいないと。しかし、それを規制緩和とか市場原理で進めるべきだという経済財政諮問会議などの主張は農村の実態や農業の特性を理解していない誤った見方だというふうに指摘をされているわけですよね。
 じゃ、農村の実態とか特性を踏まえた在り方ということに立てば、どういう在り方が望ましいのかと考えますでしょうか。

○参考人(清水徹朗君) これは今日お配りしたペーパーの中にも書いておりますけれども、九の「今後の稲作農業のあり方」というところに書いておきましたが、とにかく上から、上からというのは国からですね、行政主導で構造改革を進めていったとしても、もう農業基本法以来ずっともう五十年近くやってきているにもかかわらずなかなか進まないというのはそのような理由があるわけで、それは、農村はやっぱりなかなか行政の論理では動かないということですね。
 ですから、ここに書いたとおり、高齢者のリタイア、世代交代、農業機械の更新に合わせて、時間を合わせて行うべきだと。たとえWTO交渉、FTA交渉があろうとも日本の食料の方が重要なんですから、もうWTOやFTAを食料の観点から逆に見直すというようなことを主張すればいいというのが私の意見であります。

○紙智子君 それじゃ、次に武内参考人にお聞きしたいと思います。
 武内参考人は、以前、有機農業の議員連盟の学習会のときにたしか来ていただいたことがあると思います。そのときにも随分率直なお話されていて、それで今回も、御発言もいろいろ問題提起もされているというふうに思っているわけです。
 それで、事前に読ませていただいた資料の中で率直に述べておられますけれども、耕作放棄地ではやらないと、今後やらないというふうに決めたということを言われていて、確かに企業の側から見ると、利益が出なければこれ成り立たないわけですよね。しかし、今度の法改正をめぐっては、一般的にはどういうふうにみんながここを理解しているかというと、この改正というのは、食料自給率向上にとっても、担い手がだんだん少なくなってきているそういう耕作放棄地を企業の参入も含めてなくしていければいいんじゃないのかというようなことでもって言われてきていましたし、そういう意味では、先ほど来武内さんが言われていることとギャップがあるなということを非常に痛感しながら聞いていたわけですけれども。
 やっぱり企業の側から言えば、優良農地を確保したいということでしょうし、大きく利益を上げていきたいということなんですけれども、地域から見ますと、やっぱりちゃんと利用してくれればそれは有り難いと思うと思うんですけれども、地域から見ると、やっぱり様々な多様な形態の農業があり、そういう中で共存していくというんですか、そういうことを望むわけですけど、やっぱり競争の中でやれないところが出てきて離農せざるを得ないというふうになったときには、地域社会そのもの、地域経済そのものの支え手がいなくなっていくということになるわけですから、やっぱりそうじゃなくて、ちゃんと成り立っていくようなことを望んでいるんだと思うんですよ。そのことが可能だとお考えかどうかということをお聞きします。

○参考人(武内智君) 決して耕作放棄地はやらないというんじゃなくて、悪い土のところはやらないというふうに言っているだけです。
 先ほど言いましたように、悪い土は私ども民間だけで受け切れない。これは、先ほど清水さんもおっしゃっていたように、JAでさえも多分できないでしょうと。それをどうして民間企業が赤字を、自分たちのお金を出してやらなきゃいけないんだろうと。それは本来は国や行政がやるべきことで、その支援がきちっとされればいいと思うんです。
 例えば、今、千葉の近くで、私どもの農場の近くで耕作放棄地があります。七年前に私が貸してくださいと言ったときには、貸せませんと言われました。今は、おばあちゃんが亡くなったから借りてほしいと。ところが、もう既にそれは山になっている。これは、我々がブルドーザーを持ち込んでやるには数百万掛かります。市に今そういう補助ありますねと言ったら、市では今やっていませんと。来年、再来年になるとできるかもしれません。そこをじゃ我々民間ができますかということなんですね。
 だから、それは、法整備も含めあるいは補助制度も含めて一つの仕組みになればできると思います。決して地域で、我々は依頼されたところを、あるいは高齢者の方たちがやってほしいというところは基本的には受けています。やはり数ヘクタール単位のところはなかなか個人で受け切れないので、それが多分企業というか組織でやる宿命だと思っていますので、地域等の活性化を考えれば、それはやっていこうと思っています。
 ですから、私は、耕作放棄地をやらないんじゃなくて、あくまでも悪い土ということで言っているつもりでおりますし、それからもう一つ。いい農地でやっても、そう簡単に利益出るものではございません。基本的には赤字をどう減らしていくかと。五年スパンで何とか黒字にしたいという、今私は農場の進出のときには考えておりますので、皆さんから企業は利益、利益と言いますが、本当にこの農業の事業については出ません。どうやったら出るか、逆に言うと教えていただきたいぐらいでございます。

○紙智子君 私も、今現役の農業者の方だって本当に長い間悪戦苦闘しながらやってきているわけですよ。だから、中には大ざっぱな経営やっていることもあるかもしれないけど、でも、私の知っている限り、多くの農家の皆さんはやっぱり必死の思いで、それこそ労賃も出ない中で、家族のですね、労賃も出ない中で精いっぱいやってきているというふうに思っているわけですよ。だから、そういう現役の農家の人がやってうまくいかないのに企業が入ってすべてうまくいくかというと、そんな簡単な話ではないというふうに思いますし、武内さんも、この間自分でもいろんなところにやってこられて、やっぱりそう簡単じゃないし、そのことはよく理解されてきているんだというように思うんですけれどもね。
 やっぱり、企業の皆さんの中でまじめにやっている方について私たち否定するつもりはないんですけれども、やっぱり問題はその背景にある問題といいますか、現役の農家であろうと企業が入るにしても、そういうやっぱりよって立つちゃんと採算が合うようなことというのを本来もっと国の政策で考えていかなきゃならないんだと思うんですけれども、その点で何かありますか。

○参考人(武内智君) 確かに地元で一生懸命やっていらっしゃる方はたくさんおります。ただ、農業はいい農地でやる農業であれば難しくありません。素人でもできます。悪い農地だからプロでもできないんであって、農家の人たちが苦労しているのは経営であり、販売であり、そっちです。ですから、販売や経営がきちっとできれば、今御質問あったようなことについては僕はクリアできると思っています。
 それは、やはり人を育てていないからこうなった、あるいは、本来はJAさんがそれを、販売をきちっとしていかなきゃいけない、農家さんからちゃんと再生産ができる価格でやらなきゃいけない、契約栽培をしていかなきゃいけないんですけれども、ここがうまくいっていないと思います。それは、我々はビジネスを前提に考えていますから、そこのところをきちっと、要するにどこに何を売るというのを決めてから私ども作りますので、ですからいい農地があればそのことは十分できますし、それは農家さんも同じことが言えると思います。
 ですから、農家さんにもう少し経営とマーケティングのことを教える、若い、まあ年配の方は無理でしょうけれども、若い方たちに教えるような制度が国としてやっぱり必要ではなかろうかなというふうには思っています。

○紙智子君 それじゃ、この次に松本参考人にお伺いしたいと思います。
 私も、この農業委員会の役割ということで、おとといですか、ちょっと議論になって、実際に農業委員会が形骸化してしまっていて十分役割を果たし切れていないことなんかも指摘もされていたんですけれども。
 聞いてみますと、やっぱり実際に、この間、例えば平成十五年から二十年まで、農業委員会会数、農業委員会自身の数も四三%ぐらい減っているとか、それから農業委員の数も三五%ぐらい減っているとか、それから役員、事務局員数ですか、二五%ぐらい減っているとかということで、体制そのものが弱まってきているということと併せて、実際に現場で農業委員さんの方とお話ししますと、農業やっている方も入っているし、その中には自治体の方も入ってやって構成しているわけですけど、農業をやっている方は、やっぱり農作業ですごく忙しい中でいかに時間を割いていろいろ見回りをしたりとか、それからいろんな書類を見てこれが本当にどうなのかということで検討するとかということで、そのこと自身もすごく大変でしょうし、やっぱり判断をしていく上では判断するにふさわしいものを持ってないとできないということもあるんだと思うんですけれどもね。
 そういう、実際具体的に農業委員の皆さんが果たす役割というか、それをちょっとイメージとして分かるような形で、具体的にこんなふうになったときにこういうふうにしてやっているということを少し説明いただけますでしょうか。

○参考人(松本広太君) 大変先生方が危惧されています農業委員会の現状の姿、これが心配だと、こういうことなんだろうと思うんですね。ほっておけばそうだと思いますよ、思います、ほっておけば。だけれども、制度を運営するのにほっておいた制度はないわけですから、それを乗り越えなきゃいかぬという思いがまずありまして、その上で先生からの御質問でありますが。
 例えば、農業委員さんが自らの質を向上すると。努力しておられますですよ。大変、自ら農業経営やっておられて言われますのは、役害だと、農業委員になるのはいろいろ仕事があって役害と。農薬の薬じゃなくて、役、役職の役で大変だと。だけれども、村うちでやらにゃいかぬのだということで出ていくということですよね。だから、それを、そういうエネルギーとこれをどう前向きにサポートするか、あるいは押すかということを考えていかなきゃいかぬと思っておりますし、農業委員会が開かれた後は、この後は自ら勉強会を開く、学習会を開くという農業委員会も多数あります、聞いております。でもそれは半日仕事で、農業委員会二時間やって帰れば楽なんですけれども、夕方までいろいろと農地法の勉強とか更にいろいろなことをやると、こういうこともやっておられるわけですね。
 さらに、今三万八千人農業委員さんと申し上げておりますけれども、この中にはいわゆる地域での農業の柱といいますか、担い手になっておられます認定農業者、こういう方々も、三万八千人のうち、たしか直近では八千人か九千人が農業委員さんになっていただいております。まさに地域の担い手ですよ。こういう方も自ら農業委員になって地域農業、あるいは地域の農地を守ろうということでやっていただいておりますから、こういう取組をどうサポートして国民の地域社会の期待にこたえる農業委員会の仕事を進めていくかと、こういうことだろうと思っています。そのために私ども会議所も、都道府県の農業会議も微力ながらどう力を発揮できるか、あるいはサポートできるかと、いろいろと知恵を出していきたいと思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。

○紙智子君 もう一つ、これ先ほどもちょっと風間先生の方からお話があって、事後処理ということですよね。
 これ事後処理、本当にできるのかなというのは正直言って私思っていまして、どんなふうにすれば、事後でなくてやっぱり事前のところで食い止めないと、もういったんクリアしてしまった後に、後で解決するって先ほども言われていましたけれども、やっぱり裁判に逆に訴えられたりとか、向こうの方がすごく知恵が回って訴えられたりとかということもあった場合に、大変なやっぱり、時間的にもそうだし労力もそうですし、ということになるなということを考えたことがちょっとありまして、それは例えば、入って参入してくるときに、もう最初にきちっと書類さえクリアすればそれでオーケーというのがあって入ったんだけれども、実は入ってみたらやることと違っていて、それで注意をしても言うことを聞かないと。よくよくやっていったら何となく危ない人で、傷のあるような人で、それで脅されると。もう農業委員会も恐ろしくて抵抗できないというような、こんな事態も中にはあるわけですよ。
 そういうときに、事前にやっぱり食い止めなきゃいけないんだと思うんだけれども、そういうことを含めて、どうやってじゃ解決できるのかなということを思ったわけなんですけれども、この点についてはどうでしょうか。

○参考人(松本広太君) 何も今般のことでそういう問題があるということじゃなくて、農地については転用問題も含めましてそういう課題を抱えてずっと今日来ておるし、これからもそれはあるんだろうと思います。
 先生おっしゃったように、ちょっとなかなか難しい問題、産廃問題もあれば違反転用もありますし、それで、今回の農地の権利関係の貸借、この世界においても基準に合わなければそれを止めるといいますか、取り消すということでありますから、取り消した場合には農業委員会が後始末をしなさいと、こういうことも義務付けられておるわけですね。これは大変な重い話だと思います。
 ですから、でもやらなきゃならないということになりますと、今度の集積とかあらゆるシステムをそういうことで連携させて、もし予期せぬ、あるいは期待、何といいますか、意に反してそういう事態にならざるを得なかったという場面には、やっぱり地域の総力戦でその農地が遊ばないように、遊休農地にならないように、そういう対策を農業委員会のみではなくて関係機関、JAさんもそうでありましょうし、市町村、あるいはもろもろ総力戦でその農地を次の生産資源として設定する、そういう取組をするしかないんだろうと、このように思います。これはもう、きれい事じゃないんだろうと思います。

○紙智子君 あともうちょっと、一分ぐらいありますね。じゃ、あともう一つお聞きします。
 下限面積の弾力化という問題で、転用目的に道を開くんじゃないのかと。そうならないようにするためには地域を限定するべきじゃないかという御意見がありますけれども、これ、具体的にどういう問題かということをちょっとお話しいただきたいと思います。

○参考人(松本広太君) これは、なってみないから分かりませんけれども、感想的に言いますと、現農地法制では、大体、これ、サラリーマンの方でも何でも、お勤め人の方は、農地を欲しいけれども、家庭菜園やりたいけれどもと思っておられても、一般的に、不動産屋さんも、町場のですね、それは購入できませんよと言うのが一般的な常識でもう普遍化されております、聞いていただければ分かると思いますけれども。しかし、今回これを、所有権の移転についても下限を一応なくすというかフリーにすると、委員会の判断でできるという法制になっていますね。
 そうしますと、あ、ちょっと先々のこと、こういう御時世ですし、一般の優良なる市民の方が、自分の人生として、ああ、農地を取得したいと、こういう素直な気持ちが起きても不思議じゃありませんですね。また、そういう希望を持っている市民の方がたくさんおられますから、そういうことについて、多分、今度の法制はそういうことも見通しての対応だろうと思いますけれども、そうであるなら、せっかくのそういう見通したこの法改正方向が結果的に何か地域の中でそごを起こすと、いろいろと摩擦を起こすと、そういうことが、やってみなきゃ分かりませんけれども、起きないように今からいざのときの対応を考えておかにゃいかぬじゃないかということをかねがね私ども、今回の意見開陳でも申し上げたことでありますが、そういう問題意識であります。それだけに、農業委員会に任すよという一言じゃなくて、これも大変大きな委任事項だけに、きちんとした基準をお持ちいただきたいということであります。

○紙智子君 終わります。