<第171回国会 2009年4月7日 農林水産委員会 第06号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 特定農産加工法は、輸入自由化によって影響を受ける加工業者を支援をし、そのことで地域農業の発展にも寄与しようとするもので、五年間の延長ということでは賛成です。
 しかしながら、この農産加工品の輸入自由化は、加工業だけではなく原料の農産物を生産する農家の経営にも大きな影響を及ぼしております。対象業種である非かんきつ果汁、リンゴの果汁、これは一九九〇年の輸入自由化以後、輸入量は増え続けて、一九八九年二万二千トンから二〇〇七年には十二万三千トンに、五倍以上に増えました。国産の果汁の六倍以上が輸入されていると。これに伴ってリンゴの価格は生食用も加工用も下落をし、生産者に大きな打撃を与えているわけです。リンゴ生産の一戸当たりの農業所得で見ますと、自由化後で九五年、このときには三百四十四万七千円と、二〇〇七年のときには百八十四万二千円まで下がっているわけです。一時間当たりの農業所得ということでも、〇五年には六百五十二円、時給ですね、〇七年は七百七十五円ということですから、高校生のアルバイトよりも下だと。主要産地のリンゴの農家は専業的な従業者が多いわけです。その労働の成果ということでは余りにも悲惨だと。
 実態を見てみると、現在もWTOやFTA、EPAということで交渉が行われているんですけれども、輸入自由化による影響を後から支援策ということでやっても、それでもって緩和しようと思っても、やっぱりこれはなかなか不可能だということを示しているというふうに思うんですけれども、まずこの点について大臣の御認識を伺いたいと思います。

○国務大臣(石破茂君) 実態といいますか、数字は委員がお挙げになったとおりでございます。ですから、後から対策ということで打つのでは遅いのだということ、それは確かにそうで、ですからこそこういうような法律を延長し、更なる施策を講じていきたいというふうに思っているところでございます。あるいは、農商工連携等々によって手取りを増やす、需要を喚起するということもやっていかねばなりません。あるいは、果樹共済にもっと加入をいただいて経営を安定をする、そういうようなことも考えていかねばならないことだというふうに思っております。
 ですから、対策というふうに後から講じるのではなくて、これをやれば何が起こるかということを事前に予測をし、その前にいろいろな施策を打っておくということは、あくまで一般論としてでございますが、必要なことだというふうに認識はいたしておるところでございます。加えて、どのように果汁の消費を増やすかということも考えていかねばなりません。私どもとしてリンゴの経営農家の実態というものはよく承知をしておるつもりでございますが、更に対策の誤りなきを期してまいりたいと思います。

○紙智子君 そのリンゴなんですけれども、一大産地である青森県で昨年の春先はこれは霜とひょう害があって、それに加えて九月にほぼ同じ地域でまたこれはひょうの害に見舞われると。さらに、十一月には記録的な降雪ということで枝折れということが発生したわけですよ。過去に例を見ない気象災害に襲われたわけです。それから、気象要因が大きいと言われているんですけれども、つる割れというのが大量に出ていると。ちょうど真ん中のところにひびが入って中が腐ってしまうわけですけれども。それと併せて、不況による消費低迷ということも相まって最悪の状況が重なったというふうに言われているわけです。
 青森県では一生懸命努力して、ひょう太君とかネーミングをして、少しでも生産者の手取りを確保しようということで、生食用で販売するということで努力をしてきたわけです。でいって売れてはきたんだけれども、今年三月初めは被害を受けた膨大なリンゴが加工処理し切れずに廃棄される危機にあるという報道もされました。それから、完全に値崩れをして売れずに在庫になったリンゴが大量に不法投棄されたという報道もされているわけです。
 農水省も対策を取っているんですけれども、現時点でのこの未利用のリンゴの在庫状況がどうなっているか、説明願います。

○政府参考人(本川一善君) 御指摘のように、二十年産のリンゴに関しましては度重なる気象災害によりまして傷のある被害果実が大量に発生をいたしまして、加工原料用にも大量の果実が仕向けられているところであります。国としても必要な支援をさせていただいているところでありますが、一部の農家におかれましてはやっぱり自家保有していたものの処分に困っているという状況があったというふうに承知をしております。そういう中で、河原に不法投棄されたリンゴが生じたといったような報道も私ども承知をいたしております。
 今般、その未利用のリンゴの在庫状況につきまして青森県に確認をいたしました。そうしましたところ、現時点の情報でございますが、一時は未確認ながら相当量の在庫を抱える農家もあったようだが、現在は堆肥化や畑へのすき込みも進み、在庫はわずかとなっているとの報告を受けているところでございます。

○紙智子君 不当投棄は犯罪なわけですけれども、安い輸入果汁を利用する業者が増えている、先ほど来話がありましたけれども。そういう中で、一時は在庫が積み上がって加工場の入荷を拒否されたり、それから余りにも低価格で出荷できずに苦労している農家も多いというふうに聞いてきたわけです。被害果に対する市場の評価というのは極めて厳しいと。それで、産地価格が昨年十二月で生果がキロ百三十円で、前年の同時期の比較で六四%というふうに暴落していたわけです。それから、加工用に至っては十数円から十円にもならないということですよね。被災農家の販売額が大幅に減少して再生産に向かう生産者の経営というのは極めて厳しい状況にあります。
 現行で農家の経営対策は唯一果樹共済ということになるわけですけれども、今回、青森県での霜、ひょうによる被害面積、これが一万二千七百二十六ヘクタールに及ぶと言われているんですけれども、この果樹共済が支払われた面積はそのうち何%になるでしょうか。

○政府参考人(高橋博君) 平成二十年産の青森県におけますリンゴの果樹共済でございますけれども、加入面積全体は七千ヘクタールございました。これは、二十年産のまだ結果樹面積出ておりませんけれども、十九年産、二万一千二百ヘクタールに対する割合で見ますと、加入面積率は三三・三%でございます。このうち委員御指摘の降ひょうなど、これは春先の降霜、五月、六月及び九月の降ひょう等でございますけれども、これによりまして共済金の支払対象となりました被害面積は六百ヘクタールとなっております。支払共済金につきましては四億八千万円というふうになっているところでございます。

○紙智子君 結局、だから六百ヘクタールと言いましたよね。ということは、被害面積の四・七%ということですよね。どうですか。

○政府参考人(高橋博君) 先ほどの委員御指摘の面積で除すればそういうことになると思います。

○紙智子君 そういうことなんですよ。だから本当に一部ということなんですけれども。
 それで、結局、制度はあるんだけれども、ここからちょっと大臣にお聞きしたいんですけれども、制度があってもそれで農家が救済されないということであれば制度自身が現状に合っていない、機能していないということだと思うんです。
 今回の被害地域で、ひょう、霜の対象とする共済に加入している農家というのは五%に満たないんですね。つる割れという事態に至っては、これはもうオールリスク方式に加入していないと共済対象にならないということで、一%程度しか対象になっていないんですよ。ほとんどのつる割れ被害というのは救済されなかったということなんですね。
 リンゴ農家の場合、これまで台風にも度々やられているというので、台風による落下に対しては備えなきゃいけないという気持ちが強くて、暴風雨のみの対応の特定危険方式というのに加入していたわけです。すべての災害に備える共済に入るということになると、これは掛金が倍になると。先ほども最初に申し上げたとおりに、リンゴ農家の経営というのは非常に厳しい状況の中ですから、加入するとなると本当に大変なわけです。
 しかしながら、この異常気象という事態で、今までちょっとなかったような、そういう災害の種類にもなってきているということでは、これからもこうした異常気象に基づく災害の可能性というのがあるわけで、やっぱりオールリスク方式の掛金で入れるということがこれは望ましいわけですけど、それにはやっぱり軽減が必要だと。国庫補助で、今五割の国庫補助なんですけれども、やっぱり引上げが必要じゃないかというふうに思うわけですけれども、大臣いかがでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) これは御指摘のとおりの部分も相当ございまして、暴風雨など特定の災害を対象にすることによって掛金が安くなりますよという特定危険方式を採用しました。だから、暴風雨には良かったが、それじゃないのはどうしてくれると、こういうことになるわけでございます。あるいは、防風ネットなどの防災施設の設置によって共済掛金率を割り引くでありますとか、過去の被害の発生状況により地域又は農家を幾つかにグループ分けして災害発生率が低いところでは共済掛金がお安くなりますよというような危険段階別の共済掛金率を設定、そういうような措置を講じてまいりました。
 これらを活用した果樹共済の加入促進を進めてまいりたいと思っておるのですが、そのオールリスクに対応するということになりますと、それはもう保険の設計をどうするのだという議論になってまいります、当たり前のことですが。そうすると、国庫負担率、これを上げることができるか、二分の一以上上げたときにそれは保険なのか補償なのかというお話になってくる。その際に、果樹だけそういうような政策を講ずることが果たして妥当なりやということになってまいります。現時点で政府として、オールリスクにする、そしてまた二分の一を更に引き上げるということについて検討いたしますなどということを申し上げることはできません。
 ただ、こういう方々にどうすれば対応できるかということは、いろんな方向から検討してみなければいけないと思っております。保険につきまして、今もうはっきりしたことは申し上げられませんが、その場合にほかの品目とのバランス、あるいはほかの果樹とのバランス、そういうものも全部考えねばならないような、そういう問題であるという認識は持っております。

○紙智子君 今御答弁あったように、青森だけの問題ではないわけですよね。
 それで、実際にいろんな形で、防風ネットであれば軽減するとかという形でやってきているけれども、実際にそれで加入促進でやってきて今どうなっているかというと、最初のときにちょっと紹介ありましたけれども、この間、四月の時点、新たに加入が増えたということで見ると、すべての加入方式を合わせて加入率が三三・三%から三五%に本当にわずかにしか増えていないという現状ですから、そういう意味では、やっぱり本当に在り方といいますか、そこのところを検討が求められているというふうに思うんです。
 それで、今回被害、この被害果が大量にジュースなどの加工用に回ったわけですけれども、この加工用リンゴの価格というのはキロで十数円です。今年に入って庭先価格ということで二・五円というまでの声も上がっています。生食用でいいますと、生食用と比べると、この価格というのはもう十分の一とか二十分の一なんですよね。だから、この価格では到底再生産というのは不可能で、たとえ共済に入っていてもその収入減というのは補えないという状況なわけです。
 これまでも災害のたびに大量の果樹が加工用に回されるということが繰り返されているわけですけれども、農家の頑張りだけではちょっとこれどうにもならないと。これからも異常気象による災害多発ということが予想される中では、災害によって加工に回さざるを得ない場合に、この加工用の果実に対して価格補てんを検討するべきじゃないかというふうに思うんですけれども、この点についてはいかがでしょう。

○政府参考人(本川一善君) 御指摘のように、災害時の果樹農家の再生産を図るというのは非常に重要な課題でございます。ただ、これにつきましてはやはり果樹共済により対応することが基本であるというふうに考えております。我々としてはそれへの加入促進を更に努めていきたいと思っております。
 ただ、そういう場合に、それだけで十分かというお話は確かにございます。そういうことに加えまして、大規模な災害発生時には被害を受けた果実の販売対策や加工仕向けの円滑化に向けた対策を併せて講じることによって所得確保を図るということにしているところでございます。
 御承知のように、昨年産のリンゴにつきましては被害が発生したことから、被害リンゴそのものあるいは加工品の販売促進をするということで、ひょう太君という形でリンゴを生果で販売する。私も一箱購入させていただきました。それから、リンゴジュースにつきましても販売促進をするということで、これも農林水産省でも購入をさせていただいたところであります。そのようなことに努めるとともに、加工仕向けの果実の大量発生に対しまして、果汁の製造に要する資金に対する金利支援を申し上げるとか、あるいはその市場価格への助成、こういうものを通じて価格維持あるいは加工仕向けの円滑化を図ってまいりたいというふうに考えておるところでございます。

○紙智子君 いろいろな共済で八割減の評価とかということも言われるんですけれども、実際には加工用果実というのは数円にしかならないと。それで、通常の生果用の価格の二十分の一以下ということではやっぱり救済というのにはなかなか結び付いていないというのが現実なんですね。
 元々このリンゴ、加工業でいいますと、輸入自由化の前までは、これ生食用の下級品に付加価値を付けるとか、それで生食の価格安定、需給調整などの役割を果たしていたと。災害時のときには被害に遭った果樹の利用で生産者の経営を助けてきたというのがあったわけですけれども、これが、輸入果汁が増大した中でその果たしてきた役割を果たせなくなっているというのが今の現況なんですよね。これは生産者の責任ではないということでは、やっぱりそこに対してのきちっとした対策が必要だと思うわけです。
 もう一つ、ひょう害に加えてつる割れが例年以上に多いということで、同じぐらいの数つる割れの被害というのがあるわけですけれども、加工業界でおよそ二年分の在庫を抱えているというふうに言われていたわけですよ。搾っていないのも残っていると。それで、夏には果汁の在庫というのは例年の二・四倍になるんじゃないかと。これに輸入の果汁が加わるということになるといよいよ大変になってくるということなんですけれどもね。
 その消費拡大ということで、これはちょっと要望に止めておきますけれども、その利用促進ということで、例えば学校給食なんか含めて、そういう実効性のある消費拡大の対策を是非取っていただきたいということが一つ言いたいと思います。
 それと、時間がちょっと迫っているのでもう一つ併せて言いますと、リンゴの果汁について国内の需要量の九割が輸入原料を使用していると、先ほども話がありました。そして、この原料原産地表示について、これは以前から、消費者からもリンゴの産地からも強い要望が出されてきた問題です。
 三月に食品表示に関する共同会議の中間的な取りまとめということでここに出されてきているんですけれども、これ読みますと、結局、今現在二十食品群ですか、表示ということで義務付けられている原産地表示なんですけれども、この対象品目の拡大ということについてはこの中を読むと触れていないんですよね。そういう品目の拡大というのは検討しないのかということなんですけれども、いかがですか。

○政府参考人(竹谷廣之君) お答え申し上げます。
 今委員御指摘のように、食品表示の共同会議、厚生労働省と私どもの両方の審議会の委員から成ります会議でございますけれども、検討いただいていたわけでございます。そうした中で、その場におきまして、去年の七月から検討する中で更なる拡大につきましてもいろいろ御議論をいただいたわけでございます。
 そうした中で、やはり今委員御指摘のようなリンゴの果汁の問題なども御議論いただいたわけでございますけれども、原材料の安定調達ということ、あるいは品質の安定ということから、一般にジュースはかなり産地の切替えがあるとか、あるいは中間加工品の問題があるとかといったような問題が指摘されているわけでございますし、また、やはりこういう原料原産地表示ということになりますと、事業者の対応能力ということで、特に中小零細の事業者の対応能力をどう考えるかという問題もあります。また、国際規格等の関係もございまして、それらの課題があるという御議論がありました。
 そうした中で、一つの議論のたたき台として、最終的な中間取りまとめ案の中にも入ってきておりますけれども、大くくり表示ということで国産、外国産という形で、産地が切り替わっても外国産と一つにまとめてしまうとか、あるいは可能性表示といいまして、どこの国又はどこの国というようなことで検討できないかということも議論したわけですけれども、なかなか委員の方が、この共同会議の委員の方々の中で意見が分かれ、賛否が分かれたということがございまして、この点については中間取りまとめ案の中におきましては引き続き検討という形でございます。
 また、新たな切り口として、原料原産地の情報を提供していくということについて、例えば二次元バーコードでありますとかホームページといったものとの活用とリンクさせたような取組といったものも考えてみてはどうかということもございまして、この点につきまして検討すべきという御提言をいただいたわけでございます。
 ですから、今申し上げましたように、原料原産地表示そのものの拡大につきましても議論をさせていただいたわけでございますし、また幅広い角度から情報提供の制度を確立するということについても中間取りまとめ案の中に位置付けられているわけでございます。これにつきましては、今国民の皆様方の幅広い意見を伺っているということでございまして、それらを踏まえまして更なる検討を深めてまいりたいというふうに考えている次第でございます。

○委員長(平野達男君) 紙君、時間ですからまとめてください。

○紙智子君 いろいろと難しいことを言わないで、できるところから急いでやるというふうにしていただきたいということを最後に申し上げて、終わります。