<第171回国会 2009年4月2日 農林水産委員会 第05号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 最初に、発議者である民主党の方にお聞きしたいと思います。
 我が党としては、この農協などの協同組合については、そもそもやはり組合員の自発的な意思と相互扶助を原則とするものであって、ですから特定政党のために利用してはならないというのはこれ当然のことだというふうに思っています。
 ところが、にもかかわらず、実際に組織ぐるみで、いろいろお話がありましたけれども、選挙をやったり、線引きできずに一体化してやるという状況もある、あるいは、構成員の政治信条や政治活動の自由を侵害する事態というのがあると。これを正すというのはやっぱり必要なことだというふうに思うわけです。そういう意味では、先ほども訓示的という話がありましたけれども、そういう規定として別にあることに対して、盛り込むことに対して反対する必要はないなというふうに思っております。
 同時に、これも議論になりましたので改めて確認ということになりますけれども、この政治的中立規定が現場で逆に構成員の個々人の思想や信条や良心の自由を抑制したり侵害するような口実に使われないかといったような懸念の指摘もあるわけです。
 そこで、この規定によって構成員個々人の政治信条や政治活動の自由を侵すことはないですねということをまず確認をしておきたいと思います。

○郡司彰君 これまでのやり取りの中にも若干類似の話がございましたけれども、より踏み込んだ中身の御質問かというふうに思っております。
 今回の改正案は、農協等の構成員が個人として行う政治活動を制限するものではないことから、御質問のような懸念は生じないものと考えております。むしろ今回の改正案は、農協等の協同組合において政治的信条による差別が行われてはならないという考えの下で、農協等の構成員が政治的見解の相違を理由に相互に排斥し合うという事態を防止することをねらいとしているという点で、その構成員の政治的信条の自由がより尊重された協同組合の運営に資するものであると考えているところであります。

○紙智子君 はい、分かりました。
 それでは続いて、まあちょっとこれとは少し離れるんですけれども、石破大臣にお聞きしたいと思うんですが、農協が本来の役割を果たしていく上で農協の経営問題というのは非常に大きな問題だというふうに思います。それで、現在やはり避けて通れない問題、金融の問題として農林中金の問題についてお聞きしたいと思います。
 昨年の秋から、世界的な金融危機で農林中金は一兆九千億円を超える有価証券の評価損を発生させました。それで、国内の金融機関では最大の損失を発生させたということなわけです。その原因がどこにあったのか、そして農水省としてもなぜこれ未然に防げなかったのかということについてお聞きをしたいと思います。

○政府参考人(高橋博君) 御指摘の農林中金の有価証券損益でございますけれども、農林中金の発表によりますと、平成二十年九月末におけます有価証券等残高、三十九兆六千三百五十三億円でございます。評価損が一兆五千七百三十七億円となっているところでございます。
 このような評価損の発生原因でございますけれども、委員御指摘のとおり、世界的なサブプライム問題の顕在化以降の金融市場の混乱によりまして、証券化商品等の有価証券の一部に過去に例のない価格下落が発生しております。農林中金におきましても、他の金融機関と同様に影響を受けているものと認識しているところでございます。
 農林水産省といたしましては、農林中金が適切なリスク管理に取り組むことが重要との考え方の下に、これまでも金融庁と連携をしつつ、ヒアリング等を実施してきているところでございまして、今後もこのような取組を通じて、農林中金のリスク管理の状況、金融市場の動向等に十分注視してまいりたいというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 農林中金の四十六兆円に上る資金の運用について、八割、その約八割が有価証券投資と、約七割が国際部門の有価証券投資になっていて、ドル建ての運用が五割に上るということですから、アメリカへの有価証券投資にのめり込んでいたということは明らかなわけですよね。
 それで、現に、サブプライムローンで経営不振に陥ったアメリカの住宅金融二社、ここの債権保有額が三兆五千億円に上るということですよね。国内の金融機関からは、農林中金については和製ヘッジファンドというふうにも呼ばれていたということが報道されているわけです。
 さらに、驚いたことに、報道によりますと、海外では、農林中金が昨年の十月、値下がりしていたサブプライムモーゲージを裏付けとした資産担保証券、ABSや、債務合成証券、CDO、これを約二百六十億ドル、日本円にしますと二兆六千億ということですけれども、買い増しに動いたということが話題になったわけです。当時の農林中金の債券投資部長は、イギリスの新聞に対して取材に答えて、最近の値下がりで証券化商品の市場が魅力的になったと。この機会にどれだけ証券化商品を中心としたアセットを積み増せるかが農中の戦略投資のかぎになると答えたというふうにされているわけです。もし、これが真実だとしますと、世界的な金融危機のさなかにハイリスクな投資にのめり込んで更に損失を広げたということになるわけなんです。
 これが事実なのかどうかということと、もしこれ事実だったらば、こういうようなヘッジファンドとも言われるような資産運用の在り方そのものが問題じゃないのかなというふうに思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

○政府参考人(高橋博君) 農林中央金庫等個別金融機関の経営内容にかかわることにつきましてはコメントは差し控えさせていただきたいと思いますが、委員御指摘の点につきまして、農林中金の公表した資料によりますと、証券化商品の残高でございますけれども、平成十九年九月末で四兆八千億円、二十年の三月末で六兆円、二十年の九月末で六兆八千億円、二十年十二月末で六兆円ということになっております。
 御指摘の月刊誌、報道等の記事でございますが、農林中金が、これは二十年ではなくて十九年だと思いますけれども、十九年十月に資産担保証券あるいは債務担保証券を二兆六千億円買い増したというような月刊誌の報道記事があるということは承知しておりますけれども、このような数字について、今申し上げましたような残高の発表との関係におきましても、どのような数字を根拠としているかは私どもとしては承知している立場ではございません。
 いずれにいたしましても、農林中金の投資判断でございますが、農林中金自らの経営戦略、経営判断の下で行われているものでございまして、農林水産省としてコメントする立場ではございませんが、農林中金が適切にリスク管理を取り組むことが重要との考え方の下、これまで金融庁と連携しつつ、ヒアリング等を実施してきたところであります。今後とも、このような取組を通じまして、農林中金のリスク管理の状況、金融市場の動向等について十分注視してまいりたいというふうに考えております。

○紙智子君 大臣はいかがお考えでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) これは、個々の経営判断によって行われるものでございます。ただ、私どもとしても、今局長から答弁申し上げましたように、その状況は注視してまいりたいと思っております。
 今、御指摘のような、もし仮に真実であればというお話でございますが、私どもとして、それが真実であるということを申し上げる立場にはございません。

○紙智子君 国内のほかの金融機関では全くそういうふうになっていなかった中で、農林中金についてはそういう事態だということが言われているわけで、やはりもちろん個々のということで、農林中金さんの判断だとおっしゃるかもしれませんけれども、農水省はやっぱり監督する責任があるわけですから、そういう点では、リアルな分析、事態を把握し分析するということが必要ではないかというふうに思うわけです。
 それで、一兆九千億円の有価証券の評価損のために、農林中金は全国の農協や信連から一兆九千億円もの資金を集めると、増資をするということを発表しました。それで、このことが全国の農協や信連にも深刻な影響を与えているわけです。
 農林中金は今、経営再建中だということで、全国の信連から二百五十億円もの資本注入を受けている千葉県の信連に二百三十九億円もの資金要請をしているわけです。それから、静岡や広島、大阪、岐阜などの信連は三百億円以上の有価証券の評価損を出していて、経営的にもこれ影響を与えることは必至だということです。それから、茨城県の信連では、農中へのこの資金提供のために四年間に百五十億円もの資金を県内の農協から借り入れるというようにしているわけですよね。
 だから、こういう中で、農協の中で貸しはがしや貸し渋りということがあってはならないわけですけれども、この農協の経営や信連の経営に与える影響、これをやっぱりどういうふうに考えているのか、そして貸しはがしとか貸し渋りをやっぱり起こらないようにどう防ぐのかということについて、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) 先月末日までに、後配出資及び永久劣後ローンによりまして約一兆九千億円、この増資を実施したと、このように承知をいたしております。この場合に、それぞれの信連あるいは農協などの経営に与える影響について十分考慮するとともに、それぞれの信連、農協等の増資額につきましては、個別協議の上、信連の貸出余力等を含めました個々の経営の実情に応じた額を決定したと聞いておるところでございます。
 農林中金への資本拠出の方法についてでありますが、信連等が農林中金に既に預けておりますそのような預金を出資に振り替えると、こういう形で行われております。また、農協系統の貯貸率、普通でいえば預貸率ということになるんでしょうか、これ、ほかの銀行等の預貸率が五割以上となっておりますが、これは御案内のとおり二割から三割程度と低いわけでありまして、貸し出す資金に困るという状況にはなっておらない。
 そのようなことを考え合わせますと、農協系統金融機関が農林中金の増資に応じたからといって、農家の皆様方に対して貸し出す資金が減少し、貸し渋りに直結するという事態にはならないものというふうに私は考えておるところでございますが、信連等に対しまして、当省として、利用者の方々から貸し渋り、貸しはがし、そのような苦情が来ていないか、あるいは会員でありますJAに対しても、貸し渋り、貸しはがし等の情報が入っていないか、そのようなことについてきめ細かに確認をしておるところであります。
 今後とも、農林漁業及び中小零細企業の方々に対します円滑な金融が行われるように私どもとして取り組んでまいりたいと考えておるところでございます。

○紙智子君 今詳細に把握して、そういうことが起こらないようにということもお話しされたんですけど、実際に聞こえてきている話があって、毎月きちっと返済しているのに、農協の方がやっぱり厳しい状況の中で、すぐに全額を返してほしいというふうに言われたということもあるわけですよね。ですから、ちょっとそこのところはしっかりと監督指導していただきたいというように思います。
 それから、前回の農協法の改正で、農林中金に全国の農協や信連の資金の運用を集中させるという方向を打ち出しました。それだけに、こうした海外での投資ファンド的な資金運用の在り方を改めるということはこれ言うまでもないことだと思いますけれども、今、農水省としても日本農業の再建が焦眉の課題だということで非常に力を入れようというふうに言っているわけで、本来そこにこそ農林中金の資金も注ぎ込むべきだと思うわけです。
 現在、農林中金の資金の貸出比率ということでいいますとわずか二割で、そのうち系統団体の貸出しというのはわずか五・八%だと。こういう在り方というのも、これだけやっぱり日本農業をもっと再生させていこうとしているときに、こういうふうな在り方でいいのだろうかというように思うわけですけど、これやっぱり在り方そのものも考えるべきではないのかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) そもそも論で恐縮ですが、農林中央金庫法第一条、これには、「農林中央金庫は、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合その他の農林水産業者の協同組織を基盤とする金融機関としてこれらの協同組織のために金融の円滑を図ることにより、農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的とする。」、このように明確に定められておるわけであります。
 この目的を果たしますために、農林中金は、十九年度末で農協が農家組合員等から受け入れた約八十二兆円の貯金のうち、農協、信連の農家組合員等への貸出金等を除いた余裕資金であります約三十六兆円、これを受け入れまして、これを効率的に運用することによりその収益を農協、信連に還元し、農協系統金融機関の経営基盤を強化すると、このような役割を担っておるわけでございます。
 このように、農業融資につきましては原則として農協、大規模な農業者に対しては信連がそれぞれ行っておるところであります。農林中金自らは更に大規模な農業者や食品企業などに融資を行うとともに、農協、信連の余裕資金を効率的に運用し、収益還元をすると、このようになっておるところでございます。
 私どもとしては、農林中金を始めとする農協系統金融機関が、農林漁業者の経営の安定、農林漁業の発展、これに寄与しているかどうか、一条の趣旨にのっとって本当にそういうようなことが行われているかどうか、このことにつきましては、当然のことでありますが、強い関心を持って見てまいりたいと、それが私どもの責務であると考えておる次第でございます。

○紙智子君 ですから、やっぱり当然農業の発展のためにということなんですけれども、そうであれば、やっぱり今回のような海外での投資ファンドのような、そういう資金運用の在り方というものを見直していかなきゃいけないんじゃないかということを申し上げたいわけです。
 それで、今、米国政府によって巨額支援を受けていますAIG、アメリカ保険大手ですね、アリコの親会社ということでもあるわけですけど、AIGの役員に対する巨額ボーナス問題が世界的にも非常に怒りを呼んでいるわけです。それで、これは巨額の政府支援を受けて破綻を免れながら役員に、幹部役員に対して億単位の高額のボーナスを払ったというので、オバマ大統領もそれこそ怒りの声を、非難をしているわけですけれども。
 一方、日本において、農林中金の今までの理事長を務めてこられた上野さんの退職金が何億という単位だという話も聞いているわけですけれども、全国の農協や信連にこうやって影響を与えている中で一体これはどうなのかというふうに思うわけですけど、この点について、大臣、いかがですか。

○国務大臣(石破茂君) これは、退職金をどうするかというのは農林中金自らが決定をすることであります。農林中金の中でその意思が決定をされるわけでございまして、当省としてそれにお答えする立場にはございません。
 オバマ大統領あるいはアメリカの金融機関の件、それは私も当然承知をしておるわけでございますが、それとこの問題、本当にパラレルに論じられるものであろうかと思っておりますが、いずれにしても、農林中金の中でそれぞれの方々がそれぞれの意思決定というものをなされている。それはもう機関によってなされておることだというふうに承知をしております。

○紙智子君 それぞれの機関で決めているということなんですけど、実際末端の部分では、今ちょうど三月期で総会などの時期ですよね。やっぱり専らその中で出ているのは、どうしてこうなったのか、その責任とか原因も十分説明されないまま事だけ進行していって、我がところの信連からは幾ら出すんだ、農協からは幾らだということが決められていくというのはどうも納得できないと。納得できないまま事が進んでいくということで、そういう声が上がっているわけですよ。
 それで、そのことを指摘しておきたいのと、もう一つの問題として申し上げたいのが農林中金への天下りポストの問題です。
 農林中金の理事長の年収というのは大体四千八十万円というふうに言われていますけれども、退職金は億単位というふうに言われているわけです。このポストが長年、農林水産省の事務次官の天下りポスト化してきたということですね。今回は上野理事長の後任ということで生え抜きの河野氏に替わりますけれども、そうすると今度は、理事長のポストはあるわけだけれども、じゃ副理事長を天下りポストにしようというような動きがあるやに伝えられているわけです。大臣、このことについてどのようにお考えでしょうか。

○国務大臣(石破茂君) それは、副理事長の選任手続というのは、農林中金の中で役員推薦委員会というのがございまして、その推薦等を経て経営管理委員会で決定されるということは委員も御高承のとおりでございます。
 というように、農林中金の副理事長のポストというのは法令に基づく農林中金内部での手続を経て選任されるということでございまして、御指摘のように、これはもう必ず農水省の天下りポストですよというようなことにはなっておりませんし、実際に冒頭から申し上げておりますように、それは経営というものをやっていくわけでございます。経営の手腕のない者を充てればそれはもう経営自体がおかしくなるわけでございまして、どういう人間が一番ふさわしいかということは、農林中金の内部でまさしく経営ということを主眼として決定されるというふうに考えております。
 したがいまして、天下りポストにこう用意をされておるとか、そういうような話合いができておるとか、そういうようなことは私自身あり得ないことだと、あるべきでもないと思っております。

○委員長(平野達男君) 紙君、時間ですからまとめてください。

○紙智子君 はい。
 いずれにしても、農林中金というのはやっぱりその目標に照らして本当にふさわしい形で運用されなきゃいけませんし、そういう意味では国民の不信を買うようなことというのはあってはならないわけで、そういう意味では農林水産省としてのしっかりとした監督を行っていただきたいということを最後に申し上げまして、質問を終わります。