質問第四九号

八ツ場ダムの必要性の根拠に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月九日


大 門 実 紀 史   
紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<八ツ場ダムの必要性の根拠に関する質問主意書>


 利根川支流の吾妻川で建設が進んでいる八ツ場ダム建設事業は治水利水並びに環境面でその必要性に疑義が生じている。利水面では利根川流域の水道用水、工業用水が減少の一途をたどっており、治水面でも八ツ場ダムの治水効果がカスリン台風再来時にはゼロであることが明らかになった。さらに事業工期の延長は、地域住民の生活再建をいっそう困難なものにしている。国土交通省は八ツ場ダムの必要性の根拠として@費用便益比、A渇水の到来、B大洪水の到来をあげている。しかし、いずれも八ツ場ダム建設を前提とした過大なものであるとの指摘が国民各層からなされ、八ツ場ダム建設中止を求める住民訴訟の中心的な争点となっている。これら問題に合理的な根拠を示すことなくダム建設をすすめることは許されない。以下、合理的な根拠があるかどうかを検証するため質問を行う。

一 国土交通省関東地方整備局は、八ツ場ダムの完成年度を五年間延長し二〇一五年とした。八ツ場ダムの過大な水需要予測や洪水対策は根拠がくずれ、ムダな公共事業の典型との指摘は日に日に強まっている。政府は、こうした国民の声に対してどう説明責任を果たそうとしているのか、見解を示されたい。

二 国土交通省関東地方整備局は、八ツ場ダム建設事業の費用便益比を二・九と公表し(二〇〇七年十二月二十一日)、洪水調節に係る便益については八千二百七十六億円としているが、便益の算出方法を明らかにしてその妥当性を検証する必要がある。

1 便益の計算は年平均被害軽減期待額から求める。その際、洪水が発生したときの利根川の氾濫区域の計算が必要であるが、次の諸点を明らかにされたい。
(一) 利根川の氾濫区域の計算はどのような洪水を想定して行ったのか。八斗島等の各洪水基準点の想定流量(洪水の規模)並びに想定した洪水のパターン(何年洪水の再来の想定か)を明らかにされたい。
(二) 氾濫区域の計算に当たって、利根川流域をどのようなブロックに分けたのか。各ブロックの範囲を具体的に明らかにされたい。
(三) 氾濫すると判断した水位は、計画高水位か、堤防高か、あるいは別の想定なのか、明らかにされたい。
(四) ある地点で氾濫すれば、洪水位は下がり、それより下流では氾濫しにくくなる。この点を考慮して氾濫計算を行ったのか。この点を考慮して計算を行ったならば、その具体的な計算方法を明らかにされたい。
(五) 利根川が氾濫した場合、洪水がどの範囲に広がると想定したのか、氾濫区域の計算方法を具体的に明らかにされたい。
(六) 氾濫区域におけるブロックごとの面積と市町村名を明らかにされたい。
(七) 利根川の氾濫区域の計算方法と利根川の浸水想定区域図の計算方法(関東地方整備局のホームページに示されている)の相違点を具体的に明らかにされたい。
2 年平均被害軽減期待額の計算では、次に被害額の計算が必要になるが、次の諸点を明らかにされたい。
(一) 氾濫区域の被害額の計算はどのような方法で行ったのか。その手順、算定内容(直接被害、間接被害)を個別具体的に明らかにされたい。
(二) 被害額の計算はいつの時点での資産評価額に基づいて行ったのか。
(三) 被害額の計算の結果、求められた氾濫区域のブロックごとの被害額および市町村ごとの被害額を明らかにされたい。
(四) 被害額の計算結果から利根川の年平均被害軽減期待額をどのような手順で求めたのか。具体的な手順、算定内容を明らかにされたい。
3 八ツ場ダムの年平均被害軽減期待額は利根川の年平均被害軽減期待額から算出される。このことについて次の諸点を明らかにされたい。
(一) 利根川ダム群の全体の治水効果はどのように求めたのか。また、その治水効果の計算結果は各洪水基準点で毎秒何立方メートルであったか。
(二) 八ツ場ダムの治水効果はどのように求めたか。また、その治水効果の計算結果は各洪水基準点で毎秒何立方メートルであったか。
(三) 八ツ場ダムの年平均被害軽減期待額は、利根川の年平均被害軽減期待額から算出するが、具体的な手順、算定内容を明らかにされたい。
4 一九九七年の改正河川法は、治水利水に加え「河川環境の整備と保全」を目的に加え、住民の意見を反映させる仕組みを導入した。よって、関係者から求められた情報は積極的に公表すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 治水利水並びに環境面で多くの問題を有する八ツ場ダム計画はただちに中止すべきである。また、中止された場合、地域住民が受けた困難を償うなどの観点から、住民の生活再建支援や地域振興をはかる法整備が必要となるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。


答弁書第四九号

内閣参質一七〇第四九号
  平成二十年十月二十一日

内閣総理大臣 麻 生 太 郎   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員大門実紀史君外一名提出八ツ場ダムの必要性の根拠に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員大門実紀史君外一名提出八ツ場ダムの必要性の根拠に関する質問に対する答弁書>


一及び三について

 八ッ場ダムは、「利根川水系工事実施基本計画」及び「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」(昭和六十一年建設省告示第千二百八十四号)等に洪水調節等に必要な施設として位置付けられているとおり、一級河川利根川水系利根川(以下「利根川」という。)の治水対策上及び関係都県の利水上必要な施設であることから、八ッ場ダム建設事業を中止することは考えていないが、今後とも、一級河川利根川水系に係る河川整備計画の策定過程等を通じて、八ッ場ダムの必要性等の説明に努めてまいりたい。

二の1の(一)について

 国土交通省が八ッ場ダム建設事業等の再評価を行うに当たって前提とした利根川及び一級河川利根川水系江戸川(以下「江戸川」という。)に関する氾濫計算(以下「利根川及び江戸川に関する氾濫計算」という。)では、昭和二十二年九月の洪水時の降雨パターンを用いて、利根川の基準地点である八斗島地点の上流域の流域平均の三日雨量が百ミリメートル、二百ミリメートル、二百五十ミリメートル、三百ミリメートル、三百五十ミリメートル、四百ミリメートル及び五百ミリメートルとなる場合について、既設の相俣ダム、藤原ダム、奈良俣ダム、矢木沢ダム、薗原ダム及び下久保ダムによる洪水調節の効果を考慮して流出計算を行い、その結果、八斗島地点におけるピーク流量は、それぞれ毎秒三千百二十立方メートル、毎秒一万千八百四十七立方メートル、毎秒一万六千三百七十五立方メートル、毎秒一万九千六百二十八立方メートル、毎秒二万千五百七十一立方メートル、毎秒二万三千九百二十八立方メートル及び毎秒二万九千八百五十九立方メートルであると想定している。

二の1の(二)及び(六)について

 利根川及び江戸川に関する氾濫計算では、氾濫ブロックとして、利根川の左岸側の六ブロック及び右岸側(利根川の派川である江戸川に係るものを含む。)の九ブロックを設定しているが、お尋ねの「各ブロックの範囲」及び「氾濫区域におけるブロックごとの面積と市町村名」については、関係する資料が保存期間を経過しているため、具体的にお答えすることは困難である。

二の1の(三)について

 お尋ねの「氾濫すると判断した水位」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、利根川及び江戸川に関する氾濫計算では、氾濫ブロックにおいて、想定する洪水の水位が安全に流下できると評価した水位を超える地点がある場合に、当該氾濫ブロックのあらゆる地点において破堤又は越水が生じる可能性があると仮定している。

二の1の(四)について

 「治水経済調査マニュアル(案)」(平成十二年五月十一日付け建設省河計発第二十九号建設省河川局河川計画課長通知。以下「マニュアル」という。)においては、氾濫ブロックごとの氾濫計算に当たって、当該氾濫ブロックの上流部における破堤による氾濫は想定していないものの、当該上流部における越水又は溢水により生じる下流への流量の低減は考慮すべきとしており、利根川及び江戸川に関する氾濫計算においても、マニュアルに従って行ったものと考えられるが、関係する資料が保存期間を経過しているため、具体的にお答えすることは困難である。

二の1の(五)について

 御指摘の「氾濫区域」については、マニュアルに従って、各氾濫ブロックについて流量規模ごとに二次元不定流計算を行い、浸水が想定される区域を設定したものと考えられるが、関係する資料が保存期間を経過しているため、具体的にお答えすることは困難である。

二の1の(七)について

 御指摘の「利根川の浸水想定区域図」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、例えば、利根川及び江戸川に関する氾濫計算では、各氾濫ブロックにおいて、一地点を破堤地点又は越水地点として設定しているが、利根川に係る浸水想定区域を指定した平成十八年関東地方整備局告示第三百三十八号等の関係図面の作成に当たっては、氾濫ブロックを設定することなく、複数の地点を破堤地点等として設定している。

二の2の(一)について

 御指摘の「氾濫区域の被害額」については、マニュアルに従って、各氾濫ブロックについて、流量規模ごとの氾濫計算により算出される浸水した場合に想定される水深と資産等に関するデータを用いて、浸水による家屋等の建物に係る被害額等を直接被害に係る額として算出し、また、浸水した事業所の生産の停止による損失額等を間接被害に係る額として算出した上で、それらを合算して求めたものと考えられるが、関係する資料が保存期間を経過しているため、具体的にお答えすることは困難である。

二の2の(二)及び(三)について

 お尋ねについては、関係する資料が保存期間を経過しているため、お答えすることは困難である。

二の2の(四)について

 利根川及び江戸川に関する氾濫計算における年平均被害軽減期待額は、マニュアルに従って、各氾濫ブロックについて、流量規模ごとに、八ッ場ダム建設事業等を実施した場合と実施しない場合における被害額の差である被害軽減額と当該流量規模に係る年平均超過確率を用いて、当該氾濫ブロックの年平均被害軽減額を算出した上で、それらを合算して求めている。

二の3の(一)について

 御指摘の「利根川ダム群」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、昭和五十五年に変更された「利根川水系工事実施基本計画」においては、昭和二十二年九月の洪水を主要な対象洪水とし、更に利根川流域の過去の降雨及び出水特性を検討して、八斗島地点における基本高水のピーク流量を毎秒二万二千立方メートルとするとともに、八斗島地点下流の河道で対応可能な流量等を考慮し、八斗島地点の計画高水流量を毎秒一万六千立方メートルとし、両者の差である毎秒六千立方メートルを八ッ場ダム等の八斗島地点上流のダム等の洪水調節流量としているところである。

二の3の(二)について

 八ッ場ダムによる洪水調節に係る便益の算定に当たっては、利根川上流域の過去の降雨特性が多様であることから、過去に生起した三十一の洪水時における降雨パターンを用いて、年超過確率二百分の一の洪水が生起した場合について、八ッ場ダムがあるとき及び八ッ場ダムがないときにおける八斗島地点のピーク流量を求め、両者の差である毎秒五百三十五立方メートルを八ッ場ダムの洪水調節効果としている。

二の3の(三)について

 八ッ場ダムによる洪水調節に係る便益の算定に当たっては、各氾濫ブロックについて、河川改修に係る年平均被害軽減期待額を含まない八斗島地点の上流のダム等に係る年平均被害軽減期待額を算出し、これに八ッ場ダムを含む八斗島地点の上流のダム等による洪水調節効果量に対する八ッ場ダムの洪水調節効果量の比率を乗じて得た額を合算すること等により、八ッ場ダムに係る年平均被害軽減期待額を算出している。

二の4について

 八ッ場ダム建設事業及びその必要性に関する情報については、国土交通省関東地方整備局の見解や同局に寄せられた質問に対する回答等を含め、同局八ッ場ダム工事事務所のホームページに掲載する等の取組を行っているところであり、今後とも適切に提供してまいりたい。
 なお、河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第十六条の二第四項の規定により、河川管理者は、河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずることとされている。