質問主意書

質問第一七三号

サンルダム建設問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月十九日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<サンルダム建設問題に関する質問主意書>


 私は、先国会、今国会あわせて、サンルダムに関して質問主意書を四回提出してきたが、その答弁内容はきわめて不十分であることから、今回は論点をしぼって、以下質問する。

一 治水について

 天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)は「戦後最大の洪水流量により想定される被害の軽減を図ることを目標」としていることから、これを行うためには「これまで破堤、決壊、越水した箇所で未整備な地点を優先して整備すればよいのではないか」と前回指摘したのに対して、答弁は「本支川及び上下流のバランス等を考慮し、水系全体として適切にバランスのとれたものとなるよう実施することが重要」というものであった。
1 政府は、これまで破堤、決壊、越水した箇所で未整備な地点を優先して整備する方法では、水害被害の軽減をはかることができないと考えているのか。軽減されないと考えるならば、その根拠を述べられたい。
 また、過去の洪水で越水した区域の治水を行わず、サンルダムだけで被害の軽減を図ることができると考えているのか、あわせて所見を述べられたい。
2 目標流量の設定について、誉平では実績流量を目標流量にしているにもかかわらず、真勲別と名寄大橋では「地域の気象を考慮しなければならない根拠」と「実績流量を用いない理由」を前回質問したのに対して、答弁は「地域の気象、開発の状況等を総合的に考慮して設定した」というものであった。総合的に考慮した「地域の気象、開発の状況等」を具体的に述べられたい。
3 天塩川流域委員会(以下「委員会」という。)の第十四回委員会資料中の「天塩川の河川整備計画に関して寄せられたご意見について」(当日の資料では資料5の十二ページ)によると、名寄川のサンル川合流点における目標流量は毎秒六百五十立方メートルである。この数値にサンル川の目標流量毎秒四百五十立方メートルを加えると毎秒千百立方メートルとなる。一方、真勲別地点における目標流量は毎秒千五百立方メートルなので、この数値から計算すると、サンル川合流点より下流の目標流量は毎秒四百立方メートルとなる。では開発局は、実際の雨量をもとにしたサンル川合流点より下流支川の目標流量をどのような計算で算出したのか、根拠を示されたい。
4 国土交通省の治水対策は「基本高水」という一定限度の洪水を対象にしており、それを超える洪水では破綻するという根本的問題を抱えている。また「基本高水」を大きく設定し、それに応じた対策を行おうとすれば長い時間と莫大な費用を要する上に、環境への負荷も高めることとなる。結果的に対策が完成するまでの長期間にわたり、住民を危険にさらし、財政を圧迫し、環境を破壊するなどの重大な問題が多々あることを専門家から再三指摘されている。こうした指摘をどう受け止めているか。
 また、従来の治水対策を転換し、いかなる洪水に対しても治水機能を失わない治水対策、すなわち越水しても破堤しない堤防づくり、遊水地などの対策に転換すべきではないか。

二 サクラマスへの影響について

 前回答弁書では、魚道の効果について「二風谷ダムの魚道については…サクラマスの遡上調査等の結果により経年的に遡上していることなどから、魚類の資源維持に大きな役割を果たしていると評価した」、「経年的に魚道により降下をしていることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」と評価する一方、「『魚道の効果については…サクラマスが魚道を遡上または降下している事実が把握できれば十分』とは考えておらず…個別の魚道や河川の特性に応じて、学識経験者の意見等を踏まえ、総合的に検討し判断するものと考えている」と答弁している。
1 前回、「魚道の効果はサクラマスが魚道を遡上または降下している事実が把握できれば十分と考えているのか」と質問したのに対して、「事実が把握できれば十分」とは考えていないと答弁した。では、二風谷ダムの魚道の効果をどう把握し、判断したのか、「総合的に検討し判断」した根拠、個別の魚道や河川の特性、学識経験者の意見などを具体的に述べられたい。
2 北海道地方ダム等管理フォローアップ委員会(以下「フォローアップ委員会」という。)が了承した内容は、「サクラマスの親魚は経年的に遡上していることから、魚道は有効に機能し、魚種の資源維持に大きな役割を果たしているものと判断された」と「サクラマスは経年的に魚道により降下をしていることから、魚種は沙流川に回帰しているものと判断される」の二点である。この内容は「サクラマスが魚道を遡上または降下している事実が把握できれば十分」という見解ではないか。
 また、フォローアップ委員会は、前回答弁書のいう「個別の魚道や河川の特性に応じて、学識経験者の意見等を踏まえ、総合的に検討し判断するもの」には該当しないと考えるが所見を述べられたい。
3 北海道栽培漁業振興公社(以下「公社」という。)の報告書では、サクラマスの幼魚スモルトが魚道を降下するのは「一パーセントにも満たなかった」とあるが、開発局はこの報告書等をもとに「経年的に魚道により降下していることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」と評価したと前回答弁している。サクラマス資源の維持には一定以上の親魚が回帰することが必要だと考えるが、開発局はスモルトが魚道を降下するのは一パーセントにも満たなかったとしても、サクラマス資源が維持されていると考えているのか、所見を述べられたい。
4 前回答弁書で、フォローアップ委員会は「公社による調査結果を評価するものではなく…開発局が行った評価に対して意見を述べるもの」と答弁しているが、一般的に客観的評価とは、学識経験者が調査結果を解析し評価を行うものである。二風谷ダムの魚道の評価を行ったのが、ダムと魚道を建設し、遡上調査を行った開発局であれば、その評価は当然客観的とはいえないのではないか。所見を述べられたい。
5 前回、「遡上魚のうち天然魚と標識放流魚の割合」を質したのに対し、「標識放流魚の回帰率についてはお答えできない」と答弁しているが、放流スモルトは標識されているので遡上魚の中の標識魚は確認が可能である。公社ニュース「育てる漁業」No.三五五(二〇〇一)では「ついに標識サクラマスを沙流川で再捕」の記事が掲載され、No.三六一(二〇〇二)では「二〇〇二年までに標識サクラマス親魚四尾が再捕確認」と述べられている。開発局は、@遡上した標識魚を確認していないのか、A確認しているが、標識放流魚の回帰率を算定するのが困難なため「お答えできない」と述べているのか。開発局が標識魚を確認しているかまたは公社からデータ入手が可能であるならば、遡上魚の中の標識魚の割合を答弁されたい。
6 前回答弁では「標識放流魚の調査はダムの影響を検証するために必要である」としているが、ダムの影響を検証するためには遡上してきた親魚の中の標識放流魚の割合の把握があわせて必要ではないか。必要でないと考えているならば、その根拠を示されたい。
 また、今後も標識放流魚の割合を把握しないのならば、標識放流魚の調査目的とその解析方法を明らかにされたい。
7 前回、「『ダムを建設して暫定水位運用の期間に魚道の機能を十分把握・検証する』という考え方を示し、天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議(以下「専門家会議」という。)の理解を得ているのか」と質したのに対し、「専門家会議準備会で説明している」と述べている。開発局が「説明」したことと、「専門家会議が理解」することとは別の問題であり、質問に的確に答えていない。この問題について専門家会議の理解・了承を得たと判断しているかどうか、またその判断の根拠を答弁されたい。

三 建設費について

1 サンルダムで提案されているバイパス方式は、第十八回委員会資料に示されている「ダム上流でスモルトを集魚し、湖岸沿いに設置した開水路や管路によりダム堤体下流まで誘導する方式」というものであり、美利河ダムはダムに注ぐ河川と魚道を結びつけるものなので、似ているが異なるものではないか。
2 この他にも、美利河ダムではスモルトを集魚する必要がない、また魚道を遡上する親魚は美利河ダムではダムに遡上することはないが、サンルダムのバイパスではダム湖に入るようになっているなどの相違があるが、この両者を「同じ方式」という根拠とこれら相違点について説明されたい。
3 両者は建設費用の面からも異なると考えられるが、美利河ダムの魚道に要した経費とサンルダムに予定されている魚道とバイパスのために見込まれている建設費用について答弁されたい。

  右質問する。


答弁書

答弁書第一七三号

内閣参質一六九第一七三号
  平成二十年七月一日

内閣総理大臣 福 田 康 夫   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出サンルダム建設問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出サンルダム建設問題に関する質問に対する答弁書>


一の1について

 第四回答弁書(平成二十年四月二十五日内閣参質一六九第一一〇号)一の1についてで述べたとおり、河川整備に当たっては、治水上の安全性を確保するため、水害の形態及び氾濫域の状況のみならず、本支川及び上下流のバランス等を考慮し、水系全体として適切にバランスのとれたものとなるよう実施することが重要であると認識している。
 また、第二回答弁書(平成二十年二月五日内閣参質一六九第一一号)一の1の(一)についてで述べたとおり、天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)に記載された治水対策が途上であるため整備計画の目標流量を安全に流下させるために必要な河道が確保されていない区間においては、堤防の整備、河道掘削等を行うとともに、サンルダムを建設し洪水時の水位を低下させる必要がある。

一の2について

 お尋ねについては、第二回答弁書一の2の(一)についてで述べたとおりである。

一の3について

 お尋ねの「実際の雨量をもとにしたサンル川合流点より下流支川の目標流量」が何を指すのか必ずしも明らかでないが、真勲別地点における目標流量の設定に当たっては、名寄川におけるサンル川合流点より下流の支川についても考慮した上で、第二回答弁書一の2の(二)についてで述べたとおり算定している。

一の4について

 河川整備に当たっては、水害発生の状況、河川環境の状況等を考慮し、河川整備基本方針及び河川整備計画で目標とする一定規模の流量を対象として水害を防止又は軽減することを基本とし、あわせて一定規模を超える洪水が発生した場合においても被害をできるだけ少なくするよう配慮することとしている。また、河川整備には多大な予算と時間を要することから、段階的に整備を進め、治水上の安全性の確保を図っているところである。
 御指摘の「越水しても破堤しない堤防」が何を指すのか必ずしも明らかでないが、仮に耐越水機能が確保された堤防を指すのであれば、一連の堤防で耐越水機能を確保する技術的知見が明らかになっていないため、耐越水機能を確保するための堤防の整備を行うことはできないと考えている。また、遊水地の整備を中心とした対策については、整備計画の作成過程において、代替案として検討し、その効果等を比較考慮した結果、ダムの建設を中心とした整備計画に定められた対策が適切であると判断したものである。

二の1及び2について

 沙流川水系二風谷ダムの魚道については、北海道開発局が行ったサクラマスの遡上調査等の結果により、サクラマスが経年的に遡上していること、魚道を利用して降下した魚種が五科十一種確認されていること、二風谷ダムの上流域におけるサクラマスの生息状況等から、北海道開発局としては、魚類の資源維持に大きな役割を果たしていると評価したものである。また、学識経験者からなる「北海道地方ダム等管理フォローアップ委員会」(以下「フォローアップ委員会」という。)において、サクラマスが経年的に遡上していること等を示した上で、サクラマスの遡上については「経年的に遡上していることから、魚道は有効に機能し、魚種の資源維持に大きな役割を果たしているものと判断される」と、降下については「経年的に魚道により降下をしていることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」との評価について了承されているところである。北海道開発局としては、これらを総合的に検討し、二風谷ダムの魚道について、サクラマスの遡上及び降下の機能を確認しているものである。

二の3について

 第四回答弁書三の1の(二)についてで述べたとおり、サクラマスの降下については、御指摘の北海道栽培漁業振興公社の報告書も含む北海道開発局の調査結果より、二風谷ダムの魚道を利用して降下した魚種は五科十一種で、サクラマスは経年的に魚道を利用した降下が確認されていることから、北海道開発局としては、「経年的に魚道により降下をしていることから、親魚は沙流川に回帰しているものと判断される」と評価しているものである。

二の4について

 二風谷ダムの事業主体である北海道開発局が行った評価等に対して、より客観性等を確保する観点から、フォローアップ委員会を設置し、意見をいただいているところである。

二の5及び6について

 北海道開発局が二風谷ダムの下流で行っているサクラマスの遡上調査においては、遡上したサクラマスのうち標識されたものが確認される場合もあるが、当該調査は、遡上したサクラマスのうち標識されたものの数を把握するために行っているものではなく、また、遡上までの間に標識が脱落する可能性があること等から、お尋ねの「遡上魚の中の標識魚の割合」については、お答えできない。
 また、二風谷ダムにおける標識放流魚の調査は、サクラマスの動向を把握し、ダムに設置した魚道の効果も含むダムの影響を検証するため、魚道等においてサクラマス幼魚(スモルト)を捕獲し、その降下の状況を把握しているものである。

二の7について

 第四回答弁書三の2の(一)についてで述べたとおり、サンルダムにおいて暫定水位運用の期間に恒久的対策の効果を把握・検証することについては、「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)の設置に先立ち開催された、専門家会議と同じ委員で構成される「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議準備会」において、説明しているものである。

三の1及び2について

 お尋ねの「バイパス方式」及び「バイパス」の意義が必ずしも明らかでないが、ダム上流からダム下流へ魚を降下させるための方式の一つとして、ダム上流の分水施設において集魚し、開水路等を通じてダム堤体下流まで誘導する方式があり、後志利別川水系美利河ダムで採用しているものとサンルダムで検討しているものは、いずれもこの方式である。

三の3について

 美利河ダムの魚道の工事に要した費用は約七億円であり、また、第三回答弁書(平成二十年三月十一日内閣参質一六九第五九号)四の2についてで述べたとおり、サンルダム建設事業において魚道に係る費用は約八億円と見込んでいる。