<第169回国会 2008年5月27日 農林水産委員会 第13号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、有明海の再生への開門の問題で質問をしたいと思います。
 それで、五月十二日の決算委員会のときに、我が党の仁比聡平議員が大臣に対して、二〇〇二年、平成十四年の諫早湾の短期開門調査が行われて、そのときに漁民の実感としてタイラギが立った、向こうの現地の人の、タイラギが捕れた、立った、アサリが捕れたと、こういうふうに証言をしていることに対して大臣の認識を問いました。
 私は、この質問を実はビデオライブラリーで見たんです。それで、そのときに、やっぱり大臣の答弁が、仁比議員の質問に対して、まともにちゃんと質問したことに答えられていないなと、納得できる答弁ではないというふうに思ったものですから、再度そのことについて今日質問したいと思います。
 最初にまず確認をしておきたいんですけれども、大臣は農林水産大臣、水産業にも責任を持っている大臣だと、そういう立場でこの有明海を再生させていこうということについての御意思について、最初に確認をしたいと思います。

○国務大臣(若林正俊君) 有明海の再生の問題については、委員御承知のとおり有明海・八代海再生特別措置法がございます。それに基づきまして有明海・八代海の総合調査委員会ができておりまして、そういう委員会を中心に有明海の調査を進め、そして漁業の再生については関係漁業協同組合などの皆さん方と協働をいたしまして、この有明海の漁業の再生に真剣に取り組んでいくということになっております。

○紙智子君 それで、今日お配りしている資料をちょっと見ていただきたいと思います。二枚あるんですけれども、このうちの長崎県におけるアサリの漁業量のところを見ていただきたいと思います。それで、大臣は開門できない理由として、短期開門調査に向けて農水省が行ったシミュレーションの結果のみを根拠にして、二枚貝のアサリのへい死が増加しているということが報告されているんだと、この答弁を繰り返しされていたわけです。
 それで、この資料を見ますと、長崎県海面漁業・養殖業生産累年統計書ということなんですけれども、これで見ますと、アサリ漁の拠点になっている小長井漁協、ここでは短期開門調査の二〇〇二年以降、翌年の二〇〇三年とアサリの漁獲量は倍以上に増えていることが分かるわけです。それで、長崎県全体で見ますと、この一番上のところに合計出ていますけれども、平成十三年、四百三十三トンから、十四年、四百三十六トン、十五年、六百四十一トンというふうに増えているわけですよ。
 これは小長井漁協の漁民の皆さんの証言を裏付けるものだと、短期開門調査によってアサリが増えたということを示すものだと思うんですけれども、これについて、大臣、どのように思われますか。

○国務大臣(若林正俊君) 長崎県の海面漁業・養殖業の生産累年統計書、今委員がおっしゃられましたとおりでございまして、長崎県におけるアサリの漁獲量は、平成十三年が四百三十三、平成十四年は四百三十六トン、平成十五年は六百四十一トンとなっておりまして、短期開門調査の前後だけを見れば漁獲量は増加しているというのは数字の上で明らかであります。
 しかしながら、これを更にさかのぼった平成十一年、十二年を見てみますと、四百九十九トン、七百三十七トンという実績でございまして、平成十五年と同等程度の漁獲量となっているなど、短期開門調査によってアサリの漁獲量が増加しているというふうに判断することはできないのではないかというふうに考えているわけでございます。
 また、諫早湾内の小長井、土黒、神代及び瑞穂、四漁業地域のアサリの漁獲量を比較いたしますと、小長井の漁業地域では、平成十三年は二百二十トン、平成十四年は四百四トン、平成十五年は五百五十二トンと増加しているわけでありますけれども、土黒、神代及び瑞穂の漁業地域の漁獲量は、合計をいたしまして、十三年が百七十一トン、十四年は二十四トン、十五年は五十三トンというふうに減少しているわけでございます。
 このようなことからも、諫早湾内のアサリの漁獲量が短期開門調査によって増加しているとは言えないのではないかというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 今そういうふうにおっしゃるだろうなと思いましたよ。この表で見ると、確かに他の地域のところでは数字的には減っているところもあるんですよ。
 だけど、やっぱりアサリということで見ますと、拠点になっているのが小長井なんですね。やっぱり、元々はアサリじゃなくてほかの魚だとかタイラギだとかほかのものを捕っていたけれども、それがあの諫早湾の堤防を落とされた後捕れなくなったという中で、どうしようかということの中でアサリに力を入れてきたということがあるんですけれども、そういうことでいうと、拠点となっている小長井でこうやって短期開門調査をやった後増えているということや長崎県全体で見れば増えているという事実は、これは間違いのないことだと思うんですよ。
 それで、そのことをもって、今言われたように、これが短期開門の後の結果だというふうには思えないとおっしゃるんですけど、結局なかなか開門できないことの理由に、いろいろな理由付けするんですけれども、実際にはこうやって増えたんじゃないかという漁業者の皆さんのそういう感覚がある中で、これをあくまでも開けないという理由にするのはおかしいというふうに思うんですよ。
 それから、もう一つの資料を見ていただきたいんですけれども、こちらの方は、佐賀県の有明水産振興センターの出したタイラギの生息状況ですよね。これも前回、仁比議員が示したわけですけれども、これについても、潮受け堤防の閉め切り水門を下ろした九七年、平成九年ですね、この翌年からタイラギが消滅をしています。そして、短期開門調査を行った翌年の平成十五年には、タイラギの生息がはっきり見て取れるわけですよね。平成十四年、これ二〇〇二年ですけれども、このときに短期開門ということで開いたわけですよね、わずかですけれども。その後、一年後に、二〇〇三年、平成十五年にこうやって黒い点が増えているのが見受けられると。短期開門ですから、本当にわずかの期間だけ開いてまた閉じたわけだけれども、その影響が次の平成十六年も残った形になって表れていると。だけど、その後また全く皆無というような形で消えてしまっているわけですよ。
 ですから、こういうことに対して、実際には、これやっぱり漁業者の感覚としては、ちょっとでも開けて海流を入れて移動したと、そういう中でこうした変化が出てきているという実感を持っているということだと思うんですけれども、これについて大臣はどのように思われますか。

○国務大臣(若林正俊君) 佐賀県の有明水産振興センターというところがございます。このセンターによるタイラギ生息状況調査というものがございまして、平成十五年、十六年度に有明海の湾奥の北東部、福岡県海域でございますが、その一部地点において成貝の生息密度が高いという結果が確かに示されております。
 しかしながら、一方において、有明海におけるタイラギの漁獲高は諫早湾干拓地の堤防の閉め切り以前の一九八〇年代から大きく増減を繰り返しております。長期的にそれが減少の傾向にあるわけでございます。このようなことから、平成九年の閉め切り以降、平成十五年度の生息密度が高くなっていることだけをもって短期開門調査の影響があったと判断することは難しいと考えているわけでございます。
 また、先ほど申し上げました有明海・八代海の再生特別措置法に基づき、平成十八年十二月に有明海・八代海総合調査評価委員会が報告書を出しております。その報告書によりますと、有明海北部海域のタイラギ資源量の減少は、長期的要因としては中西部漁場での底質環境の悪化があると。つまり、泥化、有機物・硫化物の増加、貧酸素化といった海の底の環境の悪化による着底期以降の生息場の縮小、短期的要因としては北東部漁場での大量へい死とナルトビエイによる食害が考えられると。長崎県海域におけるタイラギの減少の要因、タイラギの幼生ですね、それの輸送状況に及ぼす潮流変化の影響、大量へい死の発生メカニズムについては明らかにされておらず、今後解明していくべきと考えているということで、この専門家の集まりであります調査評価委員会の報告ではこのように言っているところでございます。我々はこのような委員会の報告書を多として、この認識に立っているわけでございます。

○紙智子君 そうやって準備していろいろ書かれたものを大臣読まれて答弁されるんですけど、実際に長い間そこで漁業をやってきて、それで潜水の専門の方もいるんですよ、漁業者の中には。で、潜って海の状況がどうなっているかということを逐一見ているわけですよ。そうしたら、この短期開門調査をやったときに潜った、潜水した方は、海の状況がどうなっているかということをやっぱり変わっているというふうに実感するわけですよね。今までは一年間超えてタイラギも生き残れなかった、それがやっぱり今回は生き残っているんだと。そういう今までと違う状況を実感して、海の状況はやっぱり変わると、だから、やっぱり少しでも開けるとその影響が違うんだということを実感を込めて言っていらっしゃるわけですよ。
 そういう漁業者の訴えについて、大臣はどういうふうに思われるんですか。その事務的に書いたものじゃなくて、少しでもそういうことによって有明海が回復するという見通しというか見込みがあるんだったら、それを本当に受け止めてやってみようというふうに思わないのかというふうに私は思うんですけど、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) それは、漁業者の実感ということも、それはその漁業者がある海域の調査で感じておられることだと思いますから、それはそれとしてそういう声がある、そういう認識があるということはあるでしょうけど、一方、この今申し上げました委員会というのが、全海域に、広い海域にわたって専門的な立場で調査をした報告書に基づいて言いますと、その実感と違う認識を示しているわけでございまして、我々はそういう実感も、実感としてあることは承知しながらも、しかしやはりこの法律に基づいて設置された委員会の調査報告書の考え方に依拠しているということでございます。

○紙智子君 調査報告書の中身に依拠するということで、ずっと同じことを言い続けてきているんですよ。
 それで、先日も仁比議員の質問に対して、諫早湾の潮受け堤防の開門をできない理由についても、平成十六年の元亀井農水大臣のときですね、このときの答弁を同じように繰り返されているんですよね。そのときに、私も実は当時の亀井農水大臣に質問しているんですけれども、その時点の要するに農水省がやった調査結果で判断していて、改めて調査はやる気はないというわけですよね。
 私、その亀井元農水大臣に質問したときに、大臣はやっぱり同じことを言われたんですけれども、同時に言っていたのは、今後も漁業者の声を聴きながら進めていきたいんだと、様々な声があるのは分かっていると、そういうのを聴きながら進めていきたいということを言っておられたわけですよ。
 農水省が、干拓が終われば漁業が継続できるんだということを説明しながら進めてきて、現実には海がどうなったかというと、回復してないじゃないですか。回復してないし、漁業の継続もできない、そして漁業だけじゃもう生計が立てられないということで、漁業者の皆さんが苦しんでおられるわけですよ。そういう漁民の皆さんの声に大臣は一体どうこたえるおつもりなのか、御答弁願います。

○国務大臣(若林正俊君) 諫早湾の干拓事業の実施に伴い、いろいろな漁業に対する影響が予測されたわけでございます。そういう事業実施に伴って発生します漁業への影響につきましては、環境影響評価結果などを踏まえながら、関係漁協との合意に基づきまして、昭和六十一年度から昭和六十三年度にかけまして、漁業権などの消滅あるいは漁業への影響に対する補償を実施してきたところでございます。
 また、有明海における二枚貝類や魚類の漁獲量は、諫早湾干拓事業開始前の一九八〇年代から長期的な減少傾向にありまして、公害等調整委員会の裁定でありますとか、あるいは工事の差止め、仮処分の裁判、いずれにおきましても、諫早湾干拓事業と漁業被害との因果関係は認めることができないという判断を示されているのでございます。
 農林水産省といたしましては、この平成十六年五月の亀井農林水産大臣、委員が御指摘になりました大臣の判断といたしまして、中長期開門調査に代えて、有明海再生に向けた調査、現地実証などを実施するということをお約束をしているわけでございまして、そういう意味では、今後とも漁業者の方々とともにこの有明海再生に向けて取り組んでいくつもりでございます。

○紙智子君 裁判にまで立ち上がらなければならなかった漁業者の思いをどういうふうに農水大臣は受け止めておられるのかというふうに思うんですよ。漁業者の皆さんは、有明海のとにかく豊かだった宝の海を取り戻したいと、その一心なんですよね。本当に干拓地ができてしまっているわけですから、それをまた海に戻すなんということはできないわけですけれども、しかしながら海の環境を少しでもとにかく取り戻すためにあらゆる努力を行っていくというのが、私は農林水産大臣の役割だというふうに思うんですよ。
 それで、いろいろ再生のための調査をするんだと言うんですけど、この間やってきた対策としても、やっぱり効果が上がって明らかに海の状況が良くなったんであれば漁業者は言わないですよ。だけど、やっぱり変わってないんだから、実際に回復されていないという状況がある中で、こういう声が引き続き上がってきているわけですよ。
 本当に漁業者の皆さんは、そういう、いろいろ国としても振興策でその対策やっているんだと言うけれども、状況がなかなか変わっていかない中で、やっぱり開門しかないと。そして、その開門の仕方も、その気になれば、いろいろと大きな影響を与えない形で開門することはできるという、やり方は幾らでも工夫できるんだと。
 ですから、そういう意味では、そういう多くの漁業者の皆さんの本当につらい胸の内をしっかり受け止めて開門する道を検討すべきじゃないんですか。いかがですか。

○国務大臣(若林正俊君) 潮受け堤防の水門を開門するということにつきましては、これは中長期開門調査の実施について、十分な対策を講じたとしても予期しない被害が生ずる可能性があるということ、そして、その調査には長い年月を必要として、その成果は明らかでないということなどから、亀井大臣が、先ほど申し上げましたような判断に至ったわけでございまして、この判断自身は私も変わることはないというふうに申し上げざるを得ないわけであります。
 また、平成元年度から学識経験者の指導の下に実施しています環境モニタリング調査などの結果によりますと、諫早湾内の水質、海の底の底質、そしてその底の底生生物の状況につきましては、潮受け堤防の閉め切り後悪化する傾向は見られていないということから、調整池からの排水による有明海の漁業環境への直接的な影響はないものと考えているわけでございます。
 なお、農林水産省としては、今後とも、その関係漁業者の方々とともに有明海再生に向けた調査そして現地実証には取り組んでまいりたいと、そういう考えでおります。

○紙智子君 予期せぬ被害が起きるかもしれないからってやらないと言うんですけど、もう既に、大きな予期しない、大きな被害が出ているわけですよ。年間で一千五百万から二千万円の、そういう水揚げがタイラギでもあったわけですよね。それが一切できなくなってしまったから、漁業者の人たちは漁業ができないで廃業せざるを得ないとか、中には、借金をして返せない状況のまま、本当にこの見通しを失って自ら命を絶つ人も出ているわけですよね。有明海の沿岸漁業でとりわけ諫早湾に近い長崎県の小長井の沖、それから、佐賀県の大浦の沖、この漁業というのは壊滅的な打撃を受けたわけですよ。
 これ以上大きい、予期せぬ被害と言うんですけど、あるかということを、私は逆に聞きたいし、やっぱり大臣の肉声で話してほしいんですよ。その準備した書いたものを読むんじゃなくて、本当に今苦境に立たされている、そういう漁業者の皆さんの立場に立って、借金返せないで、県はとにかく利子補給についてはやったようですけれども、一体どうするのかと。やっぱり、その状況を打開するには、海が回復されて、また漁ができるようになったら返せるめど出てくるんですから。その海の状況を回復するために、やっぱり大臣として、本当に心の通った温かい決断をしていただきたいと、私は開門をしていただきたいということを強く申し上げたいと思います。
 最後に一言お願いします。

○国務大臣(若林正俊君) 今申し上げたとおりでございまして、その漁業者のお気持ちというのは委員がるるお話しございましたので、そういうお気持ちであることは承知しながらも、しかしながら、この開門によって生ずる予測し難い他の漁業者も含めまして、関係者も含めて大きな被害が出るおそれがあるなどのことを種々考えまして、開門するつもりはございません。