<第169回国会 2008年5月23日 沖縄北方特別委員会 第05号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 冒頭、委員長が異例とも言える質問をされました。それというのも、それぐらいやはり基地があることで住民の皆さんが受けている苦痛や恐怖感やあるいは不安が非常に大きくて、解決が本当に切実に求められているということからだと思います。私はそういうふうに受け止めているわけです。
 しかしながら、両大臣の先ほどの答弁聞きますと、結局、安保条約そして地位協定の下で日本が基地を米国に提供している以上、あくまで米軍の裁量に任せていることだから、日本としては本来は口出しできないんだと、そういう立場が前提になっているというふうに思うわけです。
 レンジ4の移転についても、地域住民との摩擦が大きくならないように移転を約束してもらったということなんですけれども、結局、訓練は続けたまま移転するという計画で、三つの施設ですね、今あるレンジ4のところを、A地域に移すために、AのものをBに、BのものをCにというふうな玉突き型の移転計画でもって建設工事すると。そのために費用も更に掛かるということですけれども、これに掛かる費用もすべて日本の持ち出しという形なわけです。
 工期が約一年半遅れたということが現地から訴えられましたけれども、この工期が遅れた原因も工事を請け負っている業者の責任なんだということが言われるんですけれども、そういう言い訳をして、住民の皆さんの苦しみが何ら解決されるわけじゃないと。一体いつまで我慢をさせるのかということについて、まず外務大臣、お答えを願います。

○大臣政務官(小池正勝君) このキャンプ・ハンセン内のレンジ4に所在する米陸軍複合射撃訓練場につきましては、地元の懸念に最大限配慮した結果、レンジ16に近接する既存レンジに代替施設を建設することに合意して、二〇〇七年の三月から工事の一部に着手を既にいたしております。工事の手順の調整によりまして当初の計画より遅れが生じていることは事実ではございますけれども、日米の合意に従って移設が完了するように日米双方で鋭意取り組んでいるところであります。

○紙智子君 ですから、ずっと苦痛は続いているわけですよね、住民の皆さんにとっては。レンジ4にその訓練施設ができたときに、米側は小型武器の使用や早朝や夜間の訓練は行わないということを説明していたわけです。ところが、実際には約束は守られていないと。早朝四時から夜間十二時まで訓練をやって、結局、爆撃訓練やヘリコプターを使用した訓練も行われて、当初の説明についてはもう平気で覆しているというのが私たちが話を聞いた伊芸区の区長さんの訴えだったわけですよ。これに対して政府は何も言わないのかということも感じたわけです。結局、米軍の運用優先という立場なわけで、そこを優先すれば住民の安全は守れないというふうに思うんです。
 この問題というのは、恐らく立場がもうずっと平行だと思うので、これ以上質問はしませんけれども、やっぱり日本国民の安全をこそ優先する政府の責任を果たすべきだということを申し上げておきたいと思います。
 それで次に、北方の質問に入りますけれども、知床周辺の生態系の保全を日ロ間で進める重要性ということで外務大臣にお聞きしたいと思います。
 知床が世界自然遺産に登録をされて、関係自治体や漁協などで住民の皆さんが生態系保全のための様々な努力を続けています。今年二月のユネスコと国際自然保護連合の現地調査でも高い評価を受けました。この地域は、知床とオホーツク海、それから北方四島など、千島列島の間を様々な野生生物が行き来する同じ生態系にあるわけです。最近のロシア側の急激な開発が進んでいるという問題ですとか、それからトロール船、漁船による乱獲あるいは密漁などで環境破壊や漁業資源の枯渇が大きな問題になっているんですね。
 そこで、知床の自然を守るためにも、海域全体の生態系保全をロシア側と協力して早急に取り組む必要があると。世界自然遺産の指定に尽力された前斜里町長の午来昌さんらが、世界自然遺産を北方四島及び得撫島まで拡張するように求める動きも今地元でつくられているわけです。
 それで、領土交渉の本体をしっかり進めていくというのはもちろんそのとおりなんですけれども、環境がテーマとなっている今度の北海道の洞爺湖サミットに向けて是非生態系保全の取組を強めていただきたいということを質問したいと思います。いかがですか。大臣、お願いします。

○大臣政務官(小池正勝君) 北方四島を含めてという御質問でございました。
 北方四島がロシアによって不法占拠されているという現状におきましては、世界自然遺産区域を北方四島まで拡張することは、北方領土問題に関する我が国の立場を損なう可能性がありまして、適当ではないと考えております。他方、我が国固有の領土である北方四島は、御指摘のように、優れた自然環境を有していると、これは御指摘のとおりでございます。北方領土問題に関する我が国の立場を損なわない形で生態系の保全などに関する協力をロシアとの間で進めるべく、現在調整をしているところでございます。

○紙智子君 次に、外務大臣は、さきの日ロ外相会議の際にシベリア抑留中の死亡者の名簿の提供を受けられました。それで、これは厚生労働省にお聞きしたいんですけれども、九一年以降、計四万九百四十人分の名簿が渡されて、うち氏名が特定できた人が三万二千九人、県を通じて御遺族が判明して埋葬場所などを通知された人が三万五百二十一人ということです。
 ところで、この日本側の求めに応じてロシア側は、九三年に死亡者の本籍地、死因、死亡場所などの個人資料も約三万八千人分提供しています。うち約一万五千人分は漢字の氏名もあって人物が特定できると。二〇〇五年には病歴を記したロシア語のカルテがマイクロフィルムで提供されています。ところが、ほとんど御遺族がこのカルテの存在を知らされていないんですね。たまたま知って厚労省から受け取ることができた御遺族というのはわずか十数名だということです。
 私、先日、学徒動員されてシベリアで亡くなったお兄さんを、その情報をずっと探し続けていて、ようやくカルテまでたどり着いて入手された方からお手紙をいただきました。それで、ロシア語で書かれているので知り合いの方にそれを訳してもらったということなんですけど、そうすると、その最期のところまで、亡くなる寸前のところまで、どういうふうな病状の中で亡くなられて、息を引き取られたのかということが克明に記録されているわけですよね。そういうことを知って、本当に家族、遺族にとってはつらいことではあるけれども、でもやっぱりその一方で、どこでどうやって亡くなったのかって知らなかった中で、本当にいやされる部分というのもあったんだと。それで、遺族としては、最低限の希望はこうした資料がロシア側から届いていることを厚生労働省が遺族全員に可能な限り知らせてくれることだというお手紙をいただいたんです。
 当然そういう気持ちになるというふうによく分かるわけですけれども、今厚生労働省が抑留者の死亡者に対してどういう情報があるのか、是非御遺族の周知、広報を行っていただきたいということなんですけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(荒井和夫君) 今委員が前段で御説明いただきましたように、約四万一千人の抑留者名簿、死亡者名簿をロシアから入手し、そのうち三万一千名については既に遺族の方に対してその事実をお知らせしております。
 平成十七年のロシア政府からの資料につきましては、これはそれまでにロシアから入手した資料の元データになるものだと思いますが、を入手し、マイクロフィルムの形で約三万七千名分入手しております。そして、その中から、今までは特定できなかった、過去の資料では特定できなかった方々を特定する努力を私ども行ってきました。
 それと並行して、平成十九年の三月末までに、そのマイクロフィルムの画像を電子化する、そういうことも終了し、今ちょっと先生からもお話ありましたように、希望する遺族にはその写しを提供いたしました。
 ただ、今先生がおっしゃいましたように、もっとはっきりとした形でやれという御指示でございますけれども、先生からのお話を聞いて、御遺族の中には多分いろいろな方がいらっしゃって、その事実は知りたくないという方もいれば、是非とも知りたいという方もいらっしゃると思います。したがいまして、私ども、私どもが持っているデータについての広報をホームページ、関係団体のお知らせなどで掲載すること、それから、更に前に進めて、御遺族に対して個別に、その具体的な中身ではなくて、こういう情報がありますという一般的な情報を個別の遺族にもお知らせするというようなことを検討して、その周知に努めることを検討してやってまいりたいと思いますが、しっかりやりたいと思います。

○紙智子君 よろしくお願いいたします。
 それから、さきの大戦とシベリア抑留者に関連してもう一つ厚生労働省にお聞きするんですが、サハリンの少数民族、ウィルタ、ニブヒなどが日本軍の軍人軍属として従軍をして、そのことによってソ連からスパイの罪を着せられて、シベリアに戦犯として抑留されていた人が七十余名に上っています。抑留中に死亡した方も含めてほとんどの人が、日本国籍がなかったことで何の補償も受け取っていないという問題があるんですね。
 厚生労働省、援護法での扱いは、これはどうなっているでしょうか。

○政府参考人(荒井和夫君) お答え申し上げます。
 戦傷病者戦没者遺族等援護法におきましては、サハリンの少数民族であるかないかにかかわらず、国と雇用関係にあったようなそういう軍人軍属等が戦争関連の公務によって傷病を負う、また死亡したことに対しましては、国が使用者としての立場から障害年金、遺族年金等の給付を行うものでございます。
 今の御質問に関係しましては、例えば日本軍に従事をして亡くなられた場合に、その御遺族が日本国籍を有する場合には援護法の適用を受けることは当然可能でございます。
 ただ、私どもは、サハリンの少数民族という形での整理若しくは情報の集め方をしておりませんので、一般的な日本の軍人軍属、準軍属の一環として支給をしているということでございます。

○紙智子君 サハリンの少数民族と同様に、日本の旧植民地下にあった台湾出身の軍人軍属だった戦病死者、重傷者には、議員立法で一律二百万円の弔慰金が支払われた経過があります。こういう対応と比較しても著しく、この人たちはもう何もないということになるわけで、均衡を欠いていると思うんです。
 一家の働き手を戦争に取られて、それでスパイの汚名も着せられて戦犯としてシベリアで抑留された人々は、外務省によりますと、一昨年六月、サハリンの遺族が総領事館に戦後補償を行うように要請に来られたというふうに聞いています。非常に苦しい思いをずっと抱き続けてきていると。
 大臣にお聞きしたいんですけれども、この樺太ですね、日本の旧植民地だった点で台湾と同じだと思うんです。こういう著しく均衡を欠いた、人道上も許されない扱いについて、せめて台湾並みに措置をとるべきだと思いますし、日ロ交渉においても、待っているんじゃなくて、日本の側からも、こういった問題があってやっぱり解決しなきゃならないですねということで働きかけるべきではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(高村正彦君) この問題について先ほど厚生労働省から答弁ありましたけれども、援護法に基づく現行の制度を超えていかなる措置をとり得るかについては、外務省としてお答えすることは困難であります。
 台湾の軍人軍属につきましては議員立法として措置されたというふうに承知をしているところでございます。

○紙智子君 政治家としてどうでしょうか。

○国務大臣(高村正彦君) 今外務大臣として答弁をしておりますので、外務省としてお答えすることは困難でございます。

○紙智子君 非常にやっぱりつらい立場で、結局日本に軍人にされてそういう事態になっているわけですから、こういう問題は、洞爺湖サミットの際にもやっぱりそういうことも持ち出してやっていくということが、働きかけていくということが良いチャンスだと思いますので、そこのところは是非御検討いただきたいということを述べまして、質問にさせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。