<第169回国会 2008年3月27日 農林水産委員会 第4号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今回提案されております法案については、原料の高騰やあるいはこの原油高で厳しい経営を強いられている水産加工業者に対しての制度資金を拡充していくというもので、これ評価できるというふうに考えております。
 その上で、今日は漁業経営安定対策について質問をさせていただきたいと思います。
 二〇〇八年度から実施されます漁業経営安定対策ですけれども、私の地元の北海道でも漁業関係者が長年要望してきていて大変期待があるわけですよね。所得や年齢など制度の対象となる漁業者の要件が明らかになりまして、全国で説明会も開催され、制度のスタートに向けての準備がされているわけですけれども、農水省として、この経営安定対策を利用することができる漁業者が全国でどれぐらい、どの程度になるというふうに想定をされているのか、まずお聞かせいただきたいと思います。

○政府参考人(山田修路君) 経営安定対策の利用者についての御質問でございます。
 経営安定対策につきましては、将来にわたって継続的に水産物の安定供給を担い得る経営体を育成するということでございまして、一定の要件を課しておるわけでございますが、この効率的かつ安定的な漁業経営につきましては、昨年定めました水産基本計画とともに公表しましたいわゆる構造展望というのがございますが、この中で平成二十九年度の目標数値を示しております。現在、約一万五千の効率的かつ安定的な経営体を、平成二十九年度において二万五千にしていくということを目標としております。
 経営安定対策はこういった目標を達成するための手法ということでございますので、具体的に経営安定対策の人数ということではありませんけれども、こういった二万五千の人たちに対して施策を講じていくという考え方でございます。

○紙智子君 そうしますと、所得要件の推計でどれぐらいになるのか、また二〇〇八年度の予算の積算、そこでどのぐらいの目当て、目標としているのか。

○政府参考人(山田修路君) 経営安定対策の主な要件として五つございます。それぞれが、私ども考えておりますのは、これからの普及推進の状況によってかなり変わってくるものというふうに考えておりますので、各要件ごとにどうかという分析は必ずしもしておりませんけれども、先ほど言いました水産基本計画の見込みなども踏まえまして、二十年度予算におきましては、この初年度の対象者ということで一万一千余りの経営体を想定して予算を編成しているところでございます。

○紙智子君 最初聞きましたときに二割ぐらいという話もありましたし、一割から二割なのかなということなんですけれども、北海道でいいますと、北海道の漁連が行った調査を基に、現在農水省が示している要件でこの制度の利用可能な漁業者がどれぐらいかというと、法人、個人合わせて千六百と言っているんですね、全漁業者の一割にしかならないと。それで、北海道の関係者も、これほど少ないと思わなかったというふうに言っているんです。水産庁の二割という最初の想定自体が多過ぎるというふうに思うんですけれども、国産水産物の供給基地と言われてきている北海道で、実際にはもうその半分と、一割しか対象にならないということになると、これはちょっと余りにも少な過ぎるんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょう、大臣。

○政府参考人(山田修路君) この経営安定対策は、先ほど言いましたように、効率的かつ安定的な漁業経営を目指す方ということで、他産業並みの所得が漁業経営から得られる方というのを想定をいたしております。したがいまして、ただいまありますすべての方が加入が可能な漁業共済制度の上乗せ措置として、特に担い手に対してこういう制度を設けるということでございますので、今までの方がこれまでより不利な取扱いを受けるということではなくて、そういう担い手の方をより育成していくための対策を今回講ずるというようなことでございます。そういう意味で、こういった要件が設けられているということでございます。

○紙智子君 北海道で一割しか加入できないということは、先ほども質問があったんですけれども、ほかの都府県なんかでいえばもっと割合は減るということで、それで農水省の想定の半分にしかならないというのは、加入要件自体がやはり漁業者の実態に合ってないんじゃないかというふうに思うわけです。
 それで、これから増やしていくんですよと、初年度はこうですけれどもという話もされたんですけれども、ネックになっているのはやっぱり所得制限だと思うんです。経営安定対策の要件となる所得の下限でいいますと、今説明があったように、他産業並みの所得を目指し得るということで、都道府県ごとの雇用者の所得の平均の約八五%と。北海道でいいますと、個人では二百六十八万円なんですね。所得がこれ以下の人は加入できないということになるわけです。
 北海道がすべての漁業者を対象に行った調査で見ますと、年齢要件ですね、六十五歳以下で、所得の要件である二百六十八万から五百九十一万の所得を得ている漁業者で回答した経営者に対して見ますと、一三%にすぎないんですよ。だから、二割想定というどころか、もう実際、所得の要件で一割に絞り込まれてしまっていると。やっぱりハードルが高過ぎるんじゃないかというふうに思うわけです。
 今、漁業者に雇用者の所得の八五%の所得がなければならないという要件は、これは地域や漁業者の実態、これをもう無視していると言わざるを得ない。そういう機械的なことではいけないんじゃないかというふうに思うんですけれども、これ大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 今、委員のお話を聞きながら、昔のことを思い出しました。余り昔の話はいたしませんけれども、四十年ほど前に私は、水産庁で漁業共済制度をつくれと、こういう国会側からの強い要請がありまして、急遽、漁業災害補償法というものの立案にかかわったわけでございまして、二年ほどこれに集中的にかかわったわけでありますが、その際に、一番この制度の創設に、熱心にこの制度創設に推進をされたのが実は北海道の漁業の関係者でありました。特に漁連の会長をしておられました安藤孝俊さんという方が浜回りをずっとしながら、どうしても浜の経営の安定のためには漁業災害補償制度が必要だということで全国に檄を飛ばし、運動を展開して、この制度の創設に至ったということを思い出したのでございます。
 今回の漁業経営安定制度というのは、漁業共済に加入している人、これがベースなんですね。その上積みとして、漁業共済の場合は補てん額が八割、ですから二割分は自己のリスクになっている、その部分について、一定の要件を満たす人についてはその代わり積立て方式で自分も出す、国も援助するという形で九割と。つまり、九割まで、仕組みは違うんですけれども、漁業共済に入っているという前提でいけば、それに一割上乗せができると、こういう仕組みでやってみようということでございます。
 どの程度の漁業者が実際これに積極的な加入をしていただけるのかどうか、これも率直に言って、大いに期待しつつも、なかなか急には広がらない。私も漁業共済を進めてきた経験からしますと、なかなか保険システムというものが理解、納得していただくのは難しかったこともございますので、まあ、スタート時点で逆につまずいたりしますと、後、普及が非常に難しくなるということもありますので、まずはこのスタートは今のような、委員、厳しいんではないかという御指摘がございます加入要件についてはこの条件でスタートさせていただきたいというのが率直な気持ちでございます。
 農業などと違いまして、漁業経営の主体というのは漁労活動という非常に厳しい海の上での危険を伴う仕事でございますから、年齢六十五歳で切っているということ、これ自身が問題だという意見もございます。その点も重々念頭に置きながらも、この仕組みを成功させるためにこのような条件でスタートをさせていただきたいと、このように提案をしたところでございます。

○紙智子君 やっぱり先ほど来議論になってきていますけれども、まずここからスタートなんだということなんですけれども、ただ、この後の条件として、実際に漁業者の経営状況というのは今燃油の問題などで大変厳しい状況にあるわけで、この後、じゃ所得を伸ばしていくことができるのかということになると、なかなかやっぱり大変だと思うんですね。
 だから、将来にわたって水産物を安定供給を確保するために、効率的で安定的な経営体を育てると、そういう制度の目的からも外れてしまうんじゃないんだろうかと。全国で開いた関係者の説明会の中でも、やっぱり地域の実情を踏まえて要件を考えてほしいんだという声が出ているわけです。地域や漁業者の実態に合った要件にするということがやっぱり改めて必要じゃないかということを指摘をしておきたいと思うんですね。
 さらに、共済の加入が壁になっているという問題があるんです。今、前提に加入しているということがあるというふうに言われたんですけど、経営安定対策に加入するために、前提として漁獲共済に加入しなけりゃならないと。
 昨年の末に、北海道のひやま漁協ってあるんですけど、函館の方ですね、こっちの漁協で、イカ釣り漁業をやられている方たちの話なんですけれども、国庫補助率が高い義務加入にするためには、加入区域内の関係漁業者の三分の二の同意が必要だということになっているわけですね。これが厳しいという話なんです。それで、所得要件で経営安定対策に加入できない漁業者は、わざわざ共済加入というふうにもしないというわけです。イカが駄目だとほかの地域の漁業経営の柱が丸ごと制度から外れることになってしまうと。災害などの備えのためにもやっぱり共済加入を進めることは必要なんだけれども、漁業者がやっぱり加入しやすくする対策というのが必要なんじゃないのかなと。
 その辺、検討されているのかどうか、お答え願います。

○政府参考人(山田修路君) 漁業共済への加入につきましては当然、普及推進も行っていく必要がありますけれども、制度としてもやはり漁業者にとって魅力的な制度、加入しやすい制度ということが必要であると考えております。
 これにつきましては、昨年の七月から十二月にかけまして漁協系統団体ですとか漁業共済団体、また学識経験者による制度に関する意見交換会を開いておりまして、一応その十二月に取りまとめました論点整理の中では、今後の我が国漁業を担っていくような重要な漁業者が漁業経営安定対策に参加できるよう、また見直すべきところは見直していくということも必要であるというような取りまとめを得ておりまして、今後その見直しも含めまして、更にその漁業共済制度の在り方については検討していきたいと考えております。

○紙智子君 どれだけの漁業が実際に制度に加入できるかというのは四月以降になるともっとはっきりしてくるんだと思うんですけれども、やはり想定から見ても非常に現実は厳しいという見込みもある中で、やはり制度そのものをやりつつも、やっぱり必要な見直しをどんどんしていって実態に合うようにしていくと。農業の方も品目横断ということで変えているという経過もあるわけですから、始まって変えているわけですから、ですから、これ自体も、本当に実態にかみ合うように最初からやっていかないとやっぱり後になってやっていくという人たちができなくなると思いますので、そのことを最後に申し上げまして、質問を終わります。