質問主意書

質問第九六号

ヨーネ病問題に関する第三回質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月二十日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<ヨーネ病問題に関する第三回質問主意書>


 二度にわたるヨーネ病に関する質問主意書に対して、政府は、不誠実な回答に終始し、多くの科学的事実に反する答弁を繰り返している。さらに、この間、ヨーネ病に関する多くの問題が生じ、家畜衛生の確保にとって不可欠なヨーネ病のサーベイランスも中断状態になっており、畜産関係者からも不安の声が出されている。また、ヨーネ病とクローン病との関連を示唆する報告も国際的に増えつつあるだけに、ヨーネ菌による食品汚染のリスク評価を進める必要性も高くなっていると思われる。
 そこで、以下質問する。

一 ヨーネライザUについて

1 私は、ヨーネライザUが、不良品であり、それにより、農家に被害を与えたことを度々指摘してきた。それに対して農林水産省は、一般的に抗体検査の一般的特性として、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があるとして、問題視しない見解を明らかにしたが、それは、人間は一般的に過ちを犯すから、犯罪を犯しても問題ないという暴論と同じである。農林水産省は、ヨーネライザUが、不良品であることを示す報告が「家畜保健衛生業績発表会」の報告においてなされていることを知っているはずである。これまでに都道府県より国に対して提起された本件に関連した発表や質問・要望書について明らかにされたい。
2 私が、過去にエライザ抗体検査によって陽性になったものについて再検査することを求めたのに対して、時間の経過等により、検査材料が以前の検査時より劣化することから科学的に適切な再検査ができないとしているが、保存されている血清が室温保存でない限り、抗体価の著しい低下などは起こり得ないのが生物化学的な常識である。都道府県の家畜保健所にはこれらの血清は保存されており、サンプルが集められれば、動物衛生研究所において、数日で回答が出るような検査であるにもかかわらず、なぜ再検査をしようとしないのか明らかにされたい。
3 血清の再検査は、我が国の過去三年間のヨーネ病の実際の発生動向を把握するために必要である。また、ヨーネライザUのような非特異事件の全貌を解明することは、この検査法を指定している国の責務である。その点をどのように受け止めているか、政府の認識を示されたい。
4 食品衛生法では、ヨーネ病の疑似患畜の牛からの牛乳は、回収対象となる。当然、酪農家や乳業メーカーに多大な損害を与えることになる。それだけに、非特異的反応が極力出ないような抗体検査製品を提供する義務が農林水産省にはあるはずである。それを一般的に抗体検査は陽性を示す可能性があると不良品をかばい立てするような態度を取ることは、極めて問題である。再度この問題に対する見解を明らかにすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

二 ヨーネ病サーベイランス中断問題について

1 ヨーネ病の疑似患畜の牛が、本年十月二十六日、神奈川県で確認され、この牛の乳が混ざった可能性のある牛乳六十二万個が回収されたが、回収の法的根拠を明らかにされたい。
2 これまで、毎年六百頭から一千頭を超えるヨーネ病患畜が発生していたが、一度として、食品衛生法が適用されてこなかった理由を明らかにされたい。
3 農林水産省は、現在、ヨーネ病サーベイランスを中断しているが、その理由を明らかにされたい。
4 ヨーネ病サーベイランス再開をするために、どのような措置をとろうとしているのか、また再開時期はいつ頃を想定しているのか、それぞれ明らかにされたい。
5 北海道のヨーネ病検査について「検査に三日から四日かかるヨーネ病は当面、出産前などで搾乳していない牛だけを対象とするよう検査方法を見直した。こうすれば、陽性の牛が出ても搾乳中ではないため、牛乳出荷には影響が出ない上、適法だ」と報じられているが、この方法では、ヨーネ病の診断精度が下がるのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。
6 法定伝染病であるヨーネ病の防疫体制については全国統一の検査体制が必要ではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 ヨーネ病の食品リスク評価について

1 ヨーネ病とクローン病との関連性について、様々な論及がなされているが、政府として、どのように評価し、今後この問題についてどのような研究を進めようとしているのか明らかにされたい。
2 ヨーネ菌による食品汚染について、殺菌による効果はどの程度なのか。また、殺菌によって毒素や菌の成分の人の健康に対する影響まで除去できるのか、それぞれ明らかにされたい。
3 ヨーネ菌による食品汚染についてリスク評価を進めるべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
4 米国農務省が、ヨーネ菌による食品汚染について検討を始めていると報じられているが、政府は、その検討状況を把握しているのか。把握しているのであれば、その内容を明らかにされたい。

  右質問する。


答弁書

答弁書第九六号

内閣参質一六八第九六号
  平成十九年十二月二十八日


内閣総理大臣臨時代理           
国務大臣 町 村 信 孝   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出ヨーネ病問題に関する第三回質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出ヨーネ病問題に関する第三回質問に対する答弁書>


一の1について

 お尋ねの「都道府県より国に対して提起された本件に関連した発表や質問・要望書」がどのようなものを念頭に置いているか定かでないが、農林水産省としては、都道府県から、ヨーネ病のエライザ法を用いた抗体検査(以下「エライザ抗体検査」という。)の改良についての一般的な要望がなされていると承知している。

一の2及び3について

 参議院議員紙智子君提出ヨーネ病問題に関する再質問に対する答弁書(平成十九年十月二十三日内閣参質一六八第二四号。以下「前回答弁書」という。)の五及び六についてで述べたとおり、一般に血清の保存は、抗体価の低下を引き起こし得ることから、保存された血清材料をもって検査時の状況を再現して検査を行うことは困難と考えている。また、前回答弁書の四の3についてで述べたとおり、エライザ抗体検査においては、一般的に非特異的反応が起こり得ることから、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所(以下「動物衛生研究所」という。)では、極力非特異的反応を減らすべく継続的に研究を実施してきたところであり、引き続き同様の研究を実施していると承知している。なお、前回答弁書の三の2についてで述べたとおり、ヨーネ病の検査においては、家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)に基づき、正確な診断を期すため、家畜伝染病予防法施行規則(昭和二十六年農林省令第三十五号)別表第一に掲げるエライザ法による複数回の検査若しくはエライザ法、ヨーニン検査等を組み合わせた検査又は細菌検査を実施することとされている。

一の4について

 前回答弁書の十一についてで述べたとおり、農林水産省としては、ヨーネ病の確定診断に当たっては、正確な診断が行われるよう複数の検査を行うこと等を指導しているところであるが、動物衛生研究所の研究により、エライザ抗体検査におけるエライザ値の一部の牛における一過性の非特異的な上昇の可能性が確認されたことから、検査を実施する都道府県に対し、必要な科学的情報を提示したところである。

二の1について

 ヨーネ病等の疾病にかかった、又はその疑いのある牛の乳については、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第九条第一項において、これを食品として販売し、又は食品として販売の用に供するために加工等をしてはならないこととされている。
 御指摘の事案においては、ヨーネ病について疑似患畜(家畜伝染病予防法第二条第二項に規定する疑似患畜をいう。以下同じ。)と判定された牛の乳及びその乳を加工又は使用した製品(以下「乳等」という。)は食品衛生法第九条第一項で販売等が禁止されているものであることから、事業者が自主的に回収したと承知している。

二の2について

 厚生労働省としては、二の1についてにおいて御指摘のあった事案の発生以前において、ヨーネ病について患畜(家畜伝染病予防法第二条第二項に規定する患畜をいう。)又は疑似患畜と判定された牛の乳等について食品衛生法第九条第一項違反と判断されなかった具体的事案について承知していない。

二の3について

 神奈川県におけるヨーネ病の疑似患畜と判定された牛から搾乳された生乳が含まれる乳製品が自主回収された事案を踏まえ、今後の家畜伝染病予防法第五条に基づく検査を円滑に実施するため、あらかじめ出荷日程との調整を十分に行うなど検査の実施手順等を改めて点検することを都道府県に対して依頼しているところであり、実施手順等の検討を行っているために検査を行っていない都道府県があるものと承知している。

二の4について

 現在、各都道府県において家畜伝染病予防法第五条に基づく検査の実施手順等を検討しているところと承知しており、検討が終了した後のしかるべき時期に、検査を再開するものと考えている。

二の5について

 お尋ねのように搾乳していない牛等を対象としても、ヨーネ病検査の診断精度は変わらないものと考えている。

二の6について

 ヨーネ病の検査については、家畜伝染病予防法に基づき、家畜伝染病予防法施行規則別表第一により検査方法等を定めているところである。

三の1について

 これまでのところ、クローン病の原因については、ヨーネ病との関連性も含め様々な仮説があると承知しており、今後もクローン病の原因究明についての研究を推進してまいりたい。

三の2について

 お尋ねの食品中のヨーネ菌の殺菌による効果については、平成十四年七月十七日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会及び同年八月二十八日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会における乳の殺菌条件に関する審議において、乳中のヨーネ菌について、現行の牛乳の殺菌基準である保持式による摂氏六十三度三十分間の加熱殺菌により、十の五乗以上の菌数を減少させることができる旨の評価がなされている。また、同部会及び同分科会において、食品衛生法第九条第一項の規定により、ヨーネ病にかかった、又はその疑いのある牛の乳の使用等が禁止されていること等を前提に、同殺菌基準による加熱殺菌により、乳の安全性は確保されるものと評価されており、人の健康に対する影響については問題ないものと考えている。

三の3について

 食品衛生法第九条第一項の規定に基づき、ヨーネ病にかかり、又はその疑いのある獣畜の肉等の販売等を禁止するとともに、乳については殺菌基準を設定することにより、適切なリスク管理措置が講じられているものと考えており、現時点において、ヨーネ病にかかり、又はその疑いのある獣畜由来の食品について、食品安全基本法(平成十五年法律第四十八号)第十一条に規定する食品健康影響評価を行う必要はないものと考えている。

三の4について

 お尋ねの米国におけるヨーネ菌による食品汚染に係る検討については、米国の「National Advisory Committee on Microbiological Criteria for Foods」において検討が進められており、平成十九年九月二十四日から二十八日にかけて同委員会が開催した会合において、ヨーネ菌による食品の汚染について議論が行われたことは承知しているが、その議論の詳細については把握していない。