質問主意書

質問第八七号

室蘭の強制連行犠牲者の遺骨返還に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月十二日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<室蘭の強制連行犠牲者の遺骨返還に関する質問主意書>


 一九四五年七月十五日に米軍による艦砲射撃により亡くなった当時十五歳から十七歳の少年の遺骨三体が現在も室蘭市の光昭寺に安置されている。彼らは旧日本製鉄に訓練生として「徴用・動員」された朝鮮の少年たちである。彼らの遺骨の存在は、外務省外交史料館所蔵文書により明らかとなった。これら三体の被強制連行者の遺族は、遺骨の早期返還と日本政府、関係企業の責任ある対応を願っている。日本と韓国の和解と友好を進めるためには、遺族の意向を尊重し、一刻も早く遺骨を遺族に返還することが重要である。
 よって、以下質問する。

一 朝鮮の少年が徴用され労働者として日本へ強制連行されることとなるのは、一九三九年の閣議によって日本政府が「労務動員実施計画」(昭和十四年度労務動員実施計画綱領 昭和十四年七月四日閣議決定 第十三 朝鮮人ノ労力移入ヲ図リ適切ナル方策ノ下ニ特ニ其ノ労力ヲ必要トスル事業ニ従事セシムルモノトス)を決定したことによる。また、「民間徴用者」の毎年の動員許可を与えたのも日本政府である。その結果として室蘭に強制連行された少年たちは艦砲射撃で死亡したのである。ところが、日本政府は過去において個々の遺族に対し一度も謝罪していない。遺族への遺骨返還に当たり、個々の遺族に対し日本政府の謝罪が行われるべきと考えるが、政府の認識を示されたい。

二 「民間徴用者」の遺骨の返還に際しては、遺族に対し葬祭費など必要な経費を日本政府が負担すべきと考えるが、政府の認識を示されたい。

三 現在、日韓両国政府において強制連行された「旧民間徴用者」の遺骨返還に対してもその調査が始まっているが、遺骨がいつ返還されるのか、そのめどは立っているのか、それぞれ明らかにされたい。

四 外務省外交史料館に保管されている文書『太平洋戦争終結による旧日本国籍人の保護引揚関係・朝鮮人関係・遺骨送還関係』資料によれば、外務省は、室蘭の日鉄輪西製鉄所で働いていて死亡した具然錫(ク・ヨンソック)さんの父親具聖祖さんから息子の遺骨について、一九六三年十月から三回も遺骨調査の手紙を受け取り、さらに、在日本韓国代表部から口上書で遺骨調査の依頼があり調査を行った。その結果、富士製鉄株式会社(現・新日本製鉄株式会社)から遺骨は室蘭のお寺に残されているとの回答を得て、同社に徴用された少年五人の死亡者とその遺骨の所在を確認し、韓国の父親に「遺骨の引渡しについては、早急に在日韓国代表部と協議する」と回答した。室蘭の遺骨返還について、在日韓国代表部とどのような協議をしたのか。その進捗と結果を明らかにされたい。

五 国交正常化のための日韓会談では、韓国人の遺骨返還に関して軍人・軍属の遺骨については話し合われたが、いわゆる「民間徴用者」の遺骨については話し合われなかったと聞くが、それは事実か明らかにされたい。また、日韓会談で「民間徴用者」の遺骨返還について、なぜ話し合われなかったのか明らかにされたい。

六 一九六六年三月に、室蘭の遺骨返還について富士製鉄株式会社(現・新日本製鉄株式会社)は、遺族と遺骨の法的身分関係が明らかになれば遺骨の「引渡しについて相応の努力をし、かつ、その実現を期する所存でございます」と政府担当者に述べ、政府の協力を仰いでいると承知しているが、その事実はあるか明らかにされたい。また、この件について政府はどのように対処したのか明らかにされたい。

七 室蘭の遺骨について、遺族から調査依頼があり、政府も遺骨の存在を確認し、企業も返還の意思を持ちながら、その後四十年間遺骨は返されることなく室蘭のお寺に預けられている。なぜ返還が行われなかったのかその経緯を明らかにされたい。

八 遺骨の存在を知りながら結果的にその後四十年間の長きにわたり遺族に返還することなく放置していた政府の責任は重大だと考えるが、政府はこの四十年間の責任をどう考えているか明らかにされたい。

九 室蘭で遺骨が安置されている鄭英得(チョン・ヨンドク)さんの姉は高齢であり、来日して遺骨と対面してからもう二年半が過ぎ、自分が元気なうちに遺骨を受け取りたいと希望している。遺族にとってこれ以上待ち続けることは限界である。政府は、一刻も早く遺骨を遺族に返還すべきであり、日本政府がその気になれば、今年度中にも返還は可能である。室蘭の遺骨は、政府がかかわってきた遺骨であり、遺族も確認されている。身元が判明していない他の「民間徴用者」の遺骨と同一視することなく、政府の手で今年度中に遺骨を遺族に返還すべきだと考えるが、政府の認識を示されたい。

十 遺骨と遺族の置かれている状況は多様であり、遺骨返還もまた多様な方法がとられるべきであり、政府が一律にとり行うのは必ずしも適切ではないと考える。民間の手によって遺骨の返還を行おうと考えている室蘭市民を始め民間団体の動きもある。このような市民主導の遺骨返還に、政府として賛意を表し、共に遺骨返還を進めるべく政府として責任ある物心両面からの協力をすべきと考えるが、民間団体が行う遺骨返還について政府はどのように考えているか明らかにされたい。

十一 民間が行う遺骨返還の場合でも、政府の真摯な誠意を示すため、遺骨の返還に立ち会い、謝罪と追悼の意を遺族に伝えられるべきと考えるが、政府の認識を示されたい。また、この場合も遺族に対し必要経費を政府が負担すべきものと考えるが、政府の認識を示されたい。

十二 富士製鉄株式会社(現・新日本製鉄株式会社)が外務省にあてた「報告書」の中で、「一九四六年七月二九日に(犠牲者の)未払金一切を安田銀行小切手で第十一空挺師団室蘭駐屯部隊バァー中尉に手交した」とある。さらに、「中央連調半月報」(第二四号・昭和二四年二月五日 連絡調整中央事務局発行)によると「朝鮮人に対する未払給料を朝鮮本国に送金すべく在室蘭進駐軍官憲に斡旋方を依頼し現金を引渡しておったが其の後未だ送金しあらざること判明し」、日鉄輪西製鉄所は政府に「送金に関する手続等の査報方促進依頼」を提出し、大蔵省からの回答を一九四八年一月に同社に伝えている。政府は、これらの事実を把握しているか。また、その後この未払金がどのように処理されたかそれぞれ明らかにされたい。

  右質問する。


答弁書

答弁書第八七号

内閣参質一六八第八七号
  平成十九年十二月二十一日

内閣総理大臣 福 田 康 夫   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出室蘭の強制連行犠牲者の遺骨返還に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出室蘭の強制連行犠牲者の遺骨返還に関する質問に対する答弁書>


一について

 政府としては、旧国家総動員法(昭和十三年法律第五十五号)により徴用された朝鮮半島出身者の問題を含め、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えており、戦争という異常な状況下とはいえ、多くの方々に耐え難い苦しみと悲しみを与えたことは極めて遺憾なことであったと考える。

二について

 徴用された朝鮮半島出身者の遺族に対する金銭の支払等の問題については、大韓民国(以下「韓国」という。)との間では、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号。以下「財産・請求権協定」という。)第二条1において「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が・・・完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」している。

三及び九について

 現在、日韓両国政府間で、徴用された朝鮮半島出身者等の遺骨の返還に向けた作業を行っており、返還の具体的な時期やその目途については確定していないが、今後、可能な限り迅速に遺族に返還できるよう、韓国政府との調整を含め対応していく考えである。

四について

 お尋ねの「協議」については、外務省において調査した限りでは、事実関係を把握することができる記録が見当たらないことから、お答えすることは困難である。

五について

 お尋ねの「民間徴用者」の遺骨返還に関する話合いの有無については、外務省において調査した限りでは、事実関係を把握することができる記録が見当たらないことから、お答えすることは困難である。

六から八までについて

 昭和四十一年三月、富士製鉄株式会社より政府に対し、「韓国人徴用工」の遺骨引受人の身元調査の依頼があったと承知しているが、その後の経緯については、外務省において調査した限りでは、事実関係を把握することができる記録が見当たらないことから、お答えすることは困難である。

十について

 一般論として申し上げれば、人道的観点から行われる民間団体による遺骨の返還は、可能な限り迅速な遺族への遺骨の返還に資する面があると認識している。

十一について

 お尋ねの「政府の認識」については、一について及び二についてで述べたとおりである。

十二について

 昭和三十九年五月付けで富士製鉄株式会社から外務省に対し送付された資料「朝鮮人遺骨送還について」には、「昭和二十一年七月二十九日・・・未払金一切を・・・安田銀行小切手で第十一空挺師団室蘭駐在部隊バァー中尉に手交した」との記述があり、また、昭和二十四年二月五日付けの「中央連調半月報(第二十四號)」には、「朝鮮人に対する未払給料を朝鮮本國に送金すべく在室蘭進駐軍官憲に斡旋方を依頼し現金も引き渡しておったが其後未だ送金しあらざること判明し・・・客年十月北海道連調より本件送金に関する手続等の査報方促進依頼があつたから大蔵省に照會したところその取扱方針を次の如く回答があったので右北海道連調に通報した」との記述がある。なお、「日鉄輪西製鉄所は政府に「送金に関する手続等の査報方促進依頼」を提出し、大蔵省からの回答を一九四八年一月に同社に伝えている」かどうかについては、関係省において調査した限りでは、事実関係を把握することができる記録が見当たらないことから、お答えすることは困難である。
 また、お尋ねの「未払金」がどのように処理されたかについて、関係省において調査した限りでは、事実関係を把握することができる記録が見当たらないことから、お答えすることは困難である。いずれにせよ、徴用された朝鮮半島出身者の未払賃金の問題を含め、韓国との間では、財産・請求権協定第二条1において「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が・・・完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」している。