<第168回国会 2007年12月6日 農林水産委員会 第7号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 先日私は、北海道の標茶町という、釧路からもう少し山に入る方ですけれども、ここで開かれました酪農危機突破釧根集会というのに参加をしてきました。そこで出された声は非常に悲痛なもので、過去最悪の赤字だと、このままじゃみんな死んじゃうと、メーカーは最高の利益を上げた、もうこれは人災だという言い方をしていました。三十数年間酪農をやってきたけれども、今のえさの暴騰は我々の努力だけでは越えられないというんですね。朝から晩まで三百六十五日休まず働いても何で借金だけが増えるんだと、こういう声が出されていました。
 それで、大臣はこの間中国に行かれて、日本のリンゴを販売を促進するということでテレビなどでも報道されておりましたけれども、そのことをいろいろ言うつもりはないんですけれども、日本の酪農の大変な今の危機的な状況の中で、やっぱり現地に行かれて、本当に大臣が先頭切って現場の状況をよく聞いて、そしてやっぱり現場でその対策について陣頭指揮を執るというのが、私は、本来の農林水産省の在り方ではないかと、行政の在り方ではないかというふうに思うんですけれども、まず大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 現場が悲痛な叫びを上げているということにつきましては、私もいろいろな角度から現地の皆さん方の声を伺っております。委員がおっしゃられるような、過去こんなことはなかったという生産者側の認識であります飼料の高騰というのはそのとおりだと思っております。
 酪農経営におきます飼料費の比率、約四割強ですが、それらのことを考えますと、今のような飼料の高騰が酪農経営に大変な影響を与えているということについては十分認識しているつもりであります。さらに、飼料のみならず光熱水費などについても上昇をしておることから、併せて大変な経営の状況になっていると承知しております。

○紙智子君 私も現地で話を聞いて驚いたんですけれども、酪農家の皆さんは今の飼料や燃料代の高騰で経営のやっぱり展望を見えない状態になっているわけです。
 それで、例えば、子牛に飲ませる、生まれてから一週間、二週間、三週間ということで飲ませるミルクですね、代用乳、これについて言いますと、元は、二十キログラムの袋だと思いますけれども、これで五千五百円ぐらいだったものが今一万円になっていると。もう倍近くなっているということなんですね。それから、原料の輸入、その値上がりしているというのも、原料になっているのが輸入の脱粉なんですよね、脱脂粉乳、これが上がっているということがあると。それから、配合飼料や燃料代なども二〇%以上にもう軒並み上がってきていて、これからでいうと十二月、組勘の償還ということになってくるわけですよね。それで、もうどうしようもないという中で牛を売りに出さなきゃいけなくなっているんですよ。本当は牛は置いておいて搾りたいわけですけれども、しかし、その組勘の精算ということになったらどこかでお金をつくらなきゃいけないわけで、売りに出さなきゃいけないということになっているわけです。
 ところが、こういう状況はほかにもあるものですから、牛がたくさん出されてくる。そうすると、出した牛がまた戻ってくるということになるわけですね、価格も下がっていますし。結局、また返ってきた牛というのはえさも食べさせなきゃいけないということになっているわけで、非常にやっぱり大変だと。この前行ったときには、その釧根の地域で三百頭の牛を出したんだけど百頭戻ってきたということですよね。
 こういう状況になっていて、この状態を続けますと、それこそ搾る牛がどんどん減っていって、この酪農の言わば生産基盤ですよね、これそのものが大きく崩れていくことになりかねないと、そういう声が現に上がっているんですけれども、このことについて大臣は御存じでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 生産者側が、将来、先行きを見ながら、現状の苦しみの中で非常に悲観的な見方をしている生産者もいらっしゃるということは承知しているつもりでございますが、すべてみんながみんなそういうような認識であるというふうなことではありませんで、こういうような対応、こういうことをしてもらえば、ここを乗り切ればまた来年につなげていけるということで、必死で頑張っている酪農家も、もというか、そういう農家が多いというふうに、私はそう認識いたしております。

○紙智子君 この地域でいうと、農協ごとにも今いろいろ白黒、実際帳簿なんかを見せてもらうわけですけれども、大体一つの農協でいうと六割ないしは七割が赤字ですよ。それで、黒字のところももちろん中にはありますけど、それらも含めて平均しても三百万から五百万の赤字なんですよ。だから、多い人は何千万ですよね。そういう状況になってきていて、先行き暗い人ばかりではないという話もあるんですけれども、しかし多いですよ、実際、現場は。だから、そういう事態をやっぱりとらえてやる必要があると思いますし、生産者はとにかく言うのは、一刻も早く乳価を引き上げてほしいと言うんですね。それも、四月までさかのぼって引き上げてほしいというふうに言うんですよ。それが言わば最大の願いだと思うんですけれども、今、乳業メーカーと生産者団体との間でちょうど飲用の乳価についての交渉が行われている最中だと思うんです。当初、十一月末までにはそれ決着を付けるということだったんだけど、まだ決まっていなくて十二月に入っていますけど、依然としてその話が続いていると。
 それで、農水省として、この乳価の交渉なんかは、今までも民間同士の交渉なんだといって手は出せないようなことを絶えず言うわけですけれども、そういうことであれば本当に事態は大変だと、やっぱり農水省としてやるべきことがあるというふうに思うわけですけれども、この点、大臣、いかがですか。

○国務大臣(若林正俊君) 生産者、酪農家と、その生産者の搾った乳の買上げをいたします乳業メーカーとの関係は、言わば共存共栄なんですよね。メーカーの方からしましても、本当に委員がおっしゃるように、その地域一帯でもう酪農をギブアップして酪農生産がなくなってしまうといえばメーカーだって経営が行き詰まってしまうわけでありますから、そこは生産者の事情、状況というのは、専門の指導員も含めまして、メーカーはメーカーとしてお互い生産者との間に連携協力しながら、終年、いい関係を持って現場はやっていると、これが普通の状況であると思うんです。
 しかし、今の置かれた状況のように、急激にえさ代が高騰していくといったような中でコストが大変な状況になっているというようなこと、そのことにどう対応するかということは、やはり酪農のメーカーの方も、乳業のメーカーの方も、そのことを真剣に、深刻に受け止めて対応をしていくというふうに聞いております。
 そして、例年ですとこの乳価交渉というのは年明けから大体始まっていくものなんですが、今年は、生産者団体の方はえさ価格の高騰の情勢などを踏まえまして二十年度の乳価についてはもっと早めに交渉に入ってもらいたいということを求めておりまして、メーカー側もそういう事情を承知して既に話合いが始まっているというふうに承知しているところでございます。そういう乳業メーカーも、酪農家が飼料価格の高騰によって極めて厳しい状況にあるということは、先ほども申し上げましたが、理解をいたしておりまして、この交渉には真摯に応じているものと私は認識をしているところでございます。
 農林水産省としましては、こういう生産者団体と乳業メーカーとが現状の認識を共有しまして日本の酪農の安定的な発展のために前向きな交渉が行われることを期待しているところでございますが、農林水産省が直接これらの生乳取引に介入をして直接干渉するというわけにはまいらないというのが状況でございます。
 そういう民民交渉の過程で生乳価格が決定されていくというのは、過去においてもずっとそういう体制で、お互いが最終的には納得、調整してこの生乳価格を決めてきているということでございまして、我々としましては、そういう乳業メーカー自身も経営の中で決して楽な状況でございません、そのことはやはり製品価格にこれが反映されて、量販店や消費者の負担もお願いをしていかなければならない状況になっていくということも考えられるわけでありますから、そういう意味では、引き続き海外の諸情報を我々としては関係者の方に提供しまして、量販店や消費者の理解が醸成されますように推進を図っていく、環境条件を整えていくということで対応をしていきたいと思っております。

○紙智子君 乳業メーカーに対して、もうけるなということは言いません、それは。もちろん利益上げなきゃいけないというふうには思いますけど。ただ、九月末、九月の中間決算の段階で、ある乳業メーカーでいいますと、純利益が三六・三%になっているわけですよ。主にチーズ部門が良好だったということなんですけれども。片や生産者は、生乳で出す場合には大体七十一円とか二円とか何円かで出すんですけど、チーズに出す場合は四十円ですよ。だから、価格は下がるわけですよね。確かに量ははけるんだけれども、しかし価格は下がるということでは、その分野にシフトが多くなればなるほど生産者の方はすごく大変になっていくということなんですね。だから、そこのところはもう少しやっぱり生産者に還元すべきじゃないのかなというふうに思うわけです。
 それで、今お話大臣からありましたけれども、確かに共存の関係で、よって立つ生産者がつぶれてしまったら乳業メーカーだって成り立たなくなっちゃうということだと思うんですね。
 そういうことで、例年三月末には、その価格、加工原料乳なども決定されるわけですけれども、それを今、早めにやるんだという話なんだけれども、これやっぱり、来年、普通だったら三月末だけど、一月にももう早期決定するような話合い設けて、あるいは現在の飼料価格や燃料価格を前提としてこの乳価を試算して発表するというふうなことを通して、民間ベースの乳価決定もある程度支援もできるというか、応援になる形になるんじゃないのかと。
 今やっぱり生産者にとって必要なことというのは何かというと、やっぱり希望なんですよね。先行きが見えるようになるということで、あと三か月もすれば乳価は上がるということが分かれば、これは、じゃ、もう少し頑張るかということになっていくというふうに思うんですよ。そういう措置を、民間でということなんだけれども、政府として、そういうやっぱり方向性というか、示していくということではそういう措置をやるべきではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 委員も御承知のように、この生乳取引につきましては、行政側は、取引交渉が円滑に的確に行われるような体制づくり、環境づくりをずっとしてきているわけでございまして、今は指定団体、指定生乳団体は、北海道、今のお話であれば北海道はホクレンが、そして東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、それぞれのブロック別に農協が販売農協連というようなものを組織しまして、それで、生産者の立場からこれを一元的にメーカーと交渉できるような体制づくりというのは今まで農林水産省も陰に陽に働き掛けをしながら、今、かつてのようにばらばらではなくて、そういうブロック別の話合いができるような体制を取ってきたわけでございます。
 そういう中でその地域の牛乳取引をしている乳業メーカーとの間に非常に状況に応じた、物別に、用途別も含めまして、きめ細かな交渉がずっと続いていくわけでございまして、行政側がこれをとらえて決めるというよりも、もっともっときめ細かな価格の折衝、交渉があり、最終的にはその理解の下に乳価が決定されているというのが実情でございます。
 そのような生産者の販売のための体制整備もしっかりしてきておりますから、その各ブロックの農協、販売農協連を中心にしっかり結束をして乳業メーカーと真摯な折衝を続けていかれることが望ましいと、こう考えておりまして、今年の状況を踏まえながら、少し前倒しで交渉が始まり、折衝が続けられているというふうに承知いたしているところでございます。行政が個別のことに直接に介入することは差し控えた方がいいというふうに考えているわけでございます。
 なお、いろいろな情報の、新しい情報、生産費あるいは価格の見通しなどについて余り途中でいろいろな情報を出しましてということは、かえっていろいろな予断を与えるというようなことから無用の混乱を起こすおそれがありますので、やはりきちっとしたデータが積み重なって出せる時期にこれを公表していくということが正しいと、私はそう考えております。

○紙智子君 やっぱりもう今度やめちゃおうかどうしようかというふうに悩んでいるところにある中で、何となくあいまいもことしてよく分からないというんじゃなくて、前倒しでやるんだったらやるんだということなんかを含めて、やっぱり希望の持てる方向をもっと打ち出していく必要があるんじゃないかというふうに思うんですよ。だって、そうしていかなければ、今本当に現に大変な借金抱えている人たちがもう続けられないということになってしまっているわけですから、そういう意味で私は農水省としてやれることというのはいろいろあると思うんです。そこをいろいろ工夫していただきたいと思うんですけれども、やっぱり情報が、今前倒しで早くやろうとしているということも言われているんだけれども、現に伝わっていないんですよ、現場には。ですから、やっぱり現地に行かれて、そういうことも直接的に受け止めながらやっていく必要があるというふうに思うんですけれども。
 前回の質問をした中で、例えば家畜飼料特別支援資金というのがあって、これは見直しをして発動する基準を少し緩めたということをこの前言われました。使い勝手が良くなるようにしたということなんだけれども、現場でいいますと、やっぱり借金をしなきゃいけないということになるわけですから、そうすると、やっぱり利子が付いていくということ自体も大変重い負担になっていて、これ自体も利用をちゅうちょしてしまう、せっかく制度があってもちゅうちょしてしまうということになっていて、これなんかも無利子にしてほしいという声なんかもあるわけですよ。
 ちょっと時間が迫ってきたので続けてちょっと言いますけれども、現在、バターなんかも不足しているという話があるんですね。それで、脱脂粉乳は今国際価格の方が高いですよね、国内のよりも。それで、その国内産をもっと使えるようにという話があるわけですけれども、やっぱり不足の事態にこれからなっていくということになれば、そんなに制限しなくても、搾る量も制限しなくてもいいということなんかも言うんでしょうけれども、言っているという話もあるんですけれども、しかし、実際にそのメッセージが伝わったときにはもう時遅しというか、あきらめてしまっているということにもなりかねないというように思うんですよ。北海道では生産抑制が必要ないというふうに今言っているんだというふうにこの前レクチャーのときに言っていましたけれども、しかし現場には届いてないからこそ、当座の経営困難を回避するために牛を売りに出しているわけですよね。
 だから、そういうところに行って、生産基盤を縮小させないように、生乳は回復できなくなってしまわないように、農林水産省として、やっぱり来年度は計画生産ということで抑制をしなくてもいいんだと、だから牛を保持しておきなさいと、そのためには無利子の資金も用意するんだというようなことも含めて生産者を励まさないと、やっぱり本当にそうかということにならないと思うんですよね。
 そういう点で、是非思い切った手だてを取っていただきたいというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(若林正俊君) 大変苦しい事情にあるということ、そして将来、先行きについて、いろいろ形態によって違いますが、今までの経営の負債を一杯抱えている酪農家もいらっしゃるでしょう。それぞれ個々によっていろいろ違いがあると思いますが、私は、やはり生産者団体が本当に、さっき組勘というお話がありましたが、生産者の事情をよく承知しているわけです、一番分かっているわけですよね。そういう生産者団体が、北海道であれば北海道単位に組織化してホクレンという組織をつくり、そのホクレンが生産者の、また単協のJAの更に委託を受けた代表として乳業メーカーと話をするし、経営の相談にも応じているということであります。
 我々は、そういうJAの指導力、組織力、それらを非常に高く評価いたしておりまして、いろいろな情報も、すべての農家に直接情報を的確に伝えるというよりも、そういう事情をよく分かっている生産者の組織ですから、そういう組織を通じてお話を、情報を伝達をするのが基本になろうかと考えているところでございます。
 なお、先ほどお話ありました畜産飼料特別支援資金について無利子にしたらどうだというお話ございますが、もう委員も御承知のように、実はこれは災害資金と同じ、災害で打ちのめされた状態であっても、災害とかそういう環境変化に応ずる一時的な経営悪化に対する措置としては、一・三五から一・四五%という言わば政府資金の中では一番の低い条件を提示しているわけでございまして、災害資金並みのものをここで提供するということで御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 じゃ、時間になりましたけれども、やっぱりしばらくは穀物市場はこの後も高い値段が続くと言われているわけですから、そういう意味では、先を見越して温かい対策を取られることを最後に心から要求いたしまして、質問を終わります。