<第168回国会 2007年11月8日 農林水産委員会 第6号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、食料自給率の問題についてお聞きしたいと思います。
 本法案の説明でいいますと、十年後に食料自給率が五〇%で、将来的には六〇%に達するように目標を設定しておりますけれども、二〇〇六年の十二月の政策マグナカルタ、この資料の中に入っていますけれども、このマグナカルタの中を見ますと、この中では、食料の完全自給を目指すというふうになっています。このことの意味と、それから、出している法案との関係について明らかにしていただきたいと思います。

○舟山康江君 御指摘のとおり、政策マグナカルタ等にそのような記述があるのは承知しております。
 まずは、今日午前中にも何人かの委員からの御指摘等ありましたけれども、世界的に今食料需給が逼迫しているというのはもう皆さん御承知のとおりでありますし、幾つかの国におきましては今輸出の規制措置をとっているような国もあります。そのような非常に国際需給が厳しい中で自給率の向上を目指すこと、これは安全保障の基本として何としても取り組まなければいけないことだというふうに思っております。
 その第一歩として、まず法案の中では五〇%を置き、完全自給を目指すというのは、やはり安全保障を考える上で本来あるべき姿、政党としての基本的な姿勢としてそのようなことを掲げております。

○紙智子君 そうしますと、食料の完全自給ということでいうと、どういう手段で、どういう段取りでそれをやっていこうということなんでしょうか。

○平野達男君 今の食生活、これをこのままを前提にして食料の完全自給を、一〇〇%というのは、これはなかなか難しいと思います。しかし、さはさりながら、国である以上、国民の食料についてはできるだけその国の食料で確保するというのはどの国も基本的方針なんだろうと思います。
 それで、じゃその上でこの自給率をどうやって上げていくか。それは、一つは食生活の、これも何回も申し上げましたけれども、できるだけ地産地消を進めていくとか、それから、日本人は今どうしてもオーバーカロリーということで、欧米化が進み過ぎて、必ずしも健康にも良くないというようなことも言われております。そうした食生活の改善でありますとか、そういったことがまず一つあると思います。
 それから、他方、やっぱり今の自給率の低い作物についてはできるだけこの自給を高めていくということでございまして、しかしこれには、今回の農業者戸別所得補償でもそうなんですが、やっぱりコストが掛かるということでございまして、そのコストを国民の皆さん方に示しながら、これだけのコストであれば自給率はこれだけ上がっていきますというようなことをやり取りしながら自給率をできるだけ高めていくということが大事だというふうに思っていまして、まずは五〇%、できれば六〇%まで高めていってその先の自給率という、更に高めるという意識を明確に持ってこの農業政策に当たるんだということを、そういう姿勢を示したものであります。

○紙智子君 そうしますと、完全自給ということはずっと先の将来、目指すところの先のところの目標ということで、そこに向けて取りあえずは五〇%、そして六〇%というふうにしていくという考え方ということなんでしょうか。
 もう一つ、この資料の中に農林漁業再生プランというのが載っていますよね。この中見ますと、(3)のところに食生活スタイルの見直しというのがあって、これは自給率のアップも考えていくと、それは食生活の見直しによってということなんですけれどもね。国産食料の消費拡大、自給率の算定の基礎となる食料消費、すなわち食生活の見直しによる自給率アップも考えていく、例えば米の消費等は五十年前の半分の六十二キロ、一人となっているが、これを一人五キロ余計に食べれば二%自給率がアップするということが書いてあるわけですよね。
 そうすると、この本法案の食料自給率目標五〇%というのにこれが含まれているのかどうか。それから、国民に、じゃどのようにして米五キロを余計に食べてもらうというふうに考えておられるのか。この点はどうでしょうか。

○舟山康江君 まず、一点目の御指摘でありますけれども、この五キロ余計に食べればというところは含まれております。
 そして、どのようにして消費の拡大を目指していくのかというところは、先ほど平野委員からもお答えいたしましたけれども、例えば日本型食生活の推進ですとか、あと地産地消、それから、今学校給食で大分米飯給食の回数が増えてきたとはいえ、まだ地域によってばらつきがありますし、平均まだ三回以下というふうになっておりますので、こういった食育にも絡めまして学校給食での米飯給食の普及、また地産地消の推進、このようなことも必要だと思います。また、最近、米粉のパンなども非常に普及し始めておりますけれども、こういうので別の形で米の消費拡大を図るということも、取組も大事だというふうに思っております。

○紙智子君 私は、この食料自給率を食生活の見直しで引き上げていくということ、もちろん意識して、そういうことをみんな意識するというのはこれは大事なことだとは思うんですけど、しかしながら、引き上げることに重点を置くということはちょっと問題があるんじゃないかなと思っているわけです。それで、食生活の見直しができないから食料自給率が上がらなかったと、だから責任は食生活を変えた消費者にあるという議論になると、これは本末転倒になるなと。
 そこでお聞きしたいのは、なぜ日本の食料自給率がこんなふうに低下してきたのか。政府は食生活の西洋化ということが主な原因というふうに言われるんですけれども、民主党としてはそのことについてはどのように原因を分析されているでしょうか。

○平野達男君 まず、先ほどの舟山発議者の答弁の中に、五キログラムを余計に食べてもらって自給率を二%上げるということが五〇%の自給率の向上の中に含まれているというようなニュアンスの発言がございましたけれども、先ほどの、ちょっと訂正させていただきますが、こういう食生活の改善によっても自給率を上げていくということを申し上げたわけで、具体的に五キログラムをどんどん消費を増やして二%ということの数字までを今の五〇%の中には織り込んでいるわけではないということをちょっと申し述べさせていただきます。
 そして、その上で次の質問でございますが、なぜ欧米化の、自給率が下がったかということですね。これはもうなかなかいろんな要素があると思いますが、まあ私なんかはもう学校給食はコッペパンでしたし、脱脂粉乳で育ちました。当時言われたのは、米食うと頭が悪くなる、パン食えば頭が良くなるとか、そんなことも言われたし、魚よりは肉を食べた方が大きくなるとか、今にして思うとあれはだれがそんなことを言ったんだろうかなというふうに思いますが、結果として米離れが進んでパンの消費量が増えてきた。そして肉の消費量も増えてきた。もちろん、所得水準が上がって食生活が変わったということもございますけれども、そういった様々な要素があったんだろうというふうに思います。
 ただ、一貫して今こうやって思いますと、やっぱりもっと米を大事にしようとか、日本食を大事にしようというような、そういった姿勢はどこかからかちょっと欠け始めていたような気も今はしております。そんな答弁でよろしいでしょうか。

○紙智子君 私どもは、我が党としては食料自給率の低下の原因の第一のやっぱり問題というように思っているのは、これ一九六一年ですね、農業基本法にあったというように思っているわけです。なぜかというと、そこで選択的な拡大が決められたと。当時、アメリカの余剰農産物を大量に日本に輸出しようということになって、それで、そこに邪魔にならないものを日本で作らせるというのがあったわけですね。だから、小麦や大豆や飼料、それから油ですね、油料、こういう作物については米国からの輸入に依存をすると。で、日本は果実や酪農や畜産などの生産を拡大するという方向性が定められてきたと。
 この結果、穀物自給率が一九六〇年のときにはこれは八二%だったわけですけれども、一九七〇年、このときには四六%まで下がっているわけです。それで、小麦でいいますと、自給率は六〇年のときには三九%あったわけですよね。それが七〇年のときには九%まで下がると。大豆の自給率も六〇年は二八%だったものが七〇年には四%まで下がったわけです。
 穀類のこの輸入量というのは、六〇年、四百五十万トンだったものが七〇年には千五百八十万トンですから、三倍以上に増えたわけですよね。この結果、カロリーベースの食料自給率というのは六〇年の七九%から七〇年の六〇%、一九%、まあ二〇%近く下がったと。本当に急落したと言っていい下がり方を示したわけですけれども、この点についてはどのように受け止められるのか。まず、ちょっと民主党さんが答えていただいて、その後、大臣の方から答えてもらいたいと思います。

○平野達男君 私は、農業基本法にはいろんな見方がございますけれども、私はもう本当に単純にあそこで言われた選択的拡大というのは国民の消費動向に、変化に応じた国内生産振興を図るんだという思想であったろうと思います。
 しかし一方で、今日ずっといろいろ議論になっていました、農産物の自由化ということが議論になりましたけれども、この間、農産物の、残念ながら、残念ながらといいますか、自由化が進んだというのも事実です。そしてまた、為替も随分変わりました。安い農産物が為替相場の変動によって大量に入ってくるようになってきた。そういう中で内外価格差という問題が今まで以上に顕在化してきているわけですね。そういう中でこういう自給率が下がってきたということだと思います。
 一方で、やっぱりその流れに余りにも今まで安易に、安易にというのは言葉が悪いんですけれども、任せ過ぎたということもあると思います。やっぱり国内産の、できるだけ、地産地消じゃないですけれども、国民の食料はこの国で生産したものを供給するんだという姿勢をもっともっと明確に出していれば今日のような状況にあるいはならなかったかもしれないという、そんな気もいたします。

○紙智子君 じゃ、大臣の方からお願いします。

○国務大臣(若林正俊君) 今、平野議員からお話がございました。私も基本的な認識としては、この農業基本法の言う選択的拡大という言葉は実は消費のことを言っているんではなくて、消費の変化というものを予測しながら、消費が米中心の食生活から変わっていかざるを得ない、畜産とか果樹とかそういう方面に変わっていくのに応じた生産構造、生産体制をつくらなきゃいけないというのがあの旧農業基本法であったわけでございまして、その農業基本法を受けまして、果樹の振興対策とか畜産の種々の生産対策でありますとか、いろいろな関連施策を集中的に講じたわけでございまして、選択的拡大というのは米からほかの需要の方に変化させようという意図は全くなかったのでございます。
 さてそこで、所得の向上に伴いまして食生活が変わってまいります。これは我が日本だけではありませんで、今中国辺りは大変な悩みを抱えておりますし、韓国の変化のテンポも非常に早くなっております。そこで、そういうのをなすがままに任せるのではなくて、健康、栄養管理の面からそれぞれもっと食育の指導を徹底しなきゃいけないということは強力に進めなきゃいけませんけれども、それにしても、ここまで拡大をしてきた肉類あるいは油脂類の消費の水準というものを安定的に供給していくためには、例えば油に、油脂類についていえば、油に搾れるような大豆が日本で作れるかという問題になるわけでございます。日本の大豆は作ってもお豆腐などに向くんですけれども、脂肪分が少ないものですから油用にはならないんですね。ですから、油脂類が増えていけば輸入大豆が増えるというようなことになります。
 それに、小麦についてもいろいろな需要が拡大した、パンの需要についても、日本の小麦はうどんなどには適していますけれども、なかなかパン用には適合しない。もちろん、試験場などで品種改良で新たな油脂分の多い大豆の品種改良とか、あるいはまた適合するような小麦の改良とか、そういうのを進めておりますよ。進めていますけれども、しかしそれは限界があるという意味で、二十七年の需要の予測を立て、それに見合った生産をしていくという意味で、自給率の目標につきましても四五%、そして目標を更にその先の目標として五〇%というのを掲げたのはそういう事情でございます。

○紙智子君 聞いた以上のことをちょっと言われると時間が過ぎちゃいますので、この次また聞きますので。
 それで、食生活が変わったということを常に言われるわけですよ、自給率が下がっていることの背景ということで。でも、これはあくまでも現象面だと思うんですよ。なぜ変わったのかというと、今私言いましたように、やっぱり政策が、そういう政策が変わったことで現に自給率は下がってきた、これは事実だと思うんですね。
 それで、更に言いますけれども、食生活の洋風化というふうに言うわけですけれども、そのきっかけになっているのが、その次でいうと一九六九年です。第二次資本自由化で、このとき飲食業が対象になりました。日本でマクドナルドやケンタッキーフライドチキン、これが外資による外食産業が展開を始めたということがあるわけです。外食産業の展開でいいますと、低価格を武器にやらなきゃいけないというので、そうなると食材を輸入食品に依存するということで進められてきたわけですね。これが食料自給率にマイナスに作用すると。
 そして、食料自給率低下の第二の原因ということでいうと、今度は一九八五年のプラザ合意というものがありました。これはアメリカで、当時レーガン大統領だったわけですけれども、レーガン経済の政策の失敗と、これを日本は当時ドル安の通貨政策協調で救うということで話をしたわけですよ。これによって日本は九年で二・三倍の円高になったわけです。そして、この円高は国内農産物や国内食料品の価格競争力を奪って、大手の食品メーカーや大手の外食産業や大手スーパーは商社と一体になってこの食料輸入を加速していったわけですね。農産物の開発輸入というのもこのときからどんどん加速すると。その結果、食料自給率は、一九八五年、このときは五三%だったのが九四年には四六%まで下がったわけです。
 この点についてどう思われるか、また民主党さんと政府からということで、ちょっと短めに答えていただけませんか。

○平野達男君 今、紙委員が言われたことについて、ここはおかしい、ここは違うんじゃないかというようなことを言う必要はないというふうに思います。大部分はそういうことは言える面だというふうに思っています。
 大事なことは、そういう状況の中で、繰り返しになって恐縮ですけれども、日本の食料生産をどうやって守るか、農村、農業をどうやって守るか、その姿勢、覚悟に少し欠けていた面があるんじゃないかなというような感じが私どもはしておりまして、だから今回、農業者戸別所得補償法案というのを出して、この四〇%を割って三九%まで落ちた自給率をできるだけ上げていこうということを今考えているということでございます。

○国務大臣(若林正俊君) 今委員が御指摘になりましたような為替管理の変更でありますとか、あるいは各種の食品の、スーパーもあるいはマクドナルドなどのようなものの進出といったものは、これは大きな経済の流れの中で発生をしてきているわけでございます。それを法的に国が規制をするというような手段を持ち合わせているわけでございませんので、そういう消費者側の需要の変化、そういうことを望む流れというようなものが非常に激しく進行をしていった結果であります。
 そういう変化に対して、国内の食材の供給の体制というものをどうつくり上げていくのか。それで、そこのところが十分でなかったために輸入食材が急速に拡大していったというようなことについては、私もそんな認識を持っております。

○紙智子君 これまで何度か、食料自給率がなぜ下がったと思いますかということに対して、いつも答弁で政府の方から出てくるのは、一つはやっぱりそういう食べ方が変わったという問題と、それから生産者のニーズに合わない生産の在り方というようなことが返ってきていたわけですけれども、私は、やっぱりもっとその背景にある政策でもってこういう事態が起こったということについてはきちんと自覚をすべきだし、そのことにもう一度やっぱり焦点を当てていま一度考えてみる必要があるんだと思うんです。それで、今多くのことの中で、そういう部分もあるというお話だったかなと、大臣の答弁はそうだったかなというふうにちょっと受け止めたんですけれども。
 もう一つ、第三の低下の原因ということで指摘をしておきたいのが、一九八八年ですけれども、このときは牛肉・オレンジの自由化でした。そして、農産物の十二品目が自由化をされました。それから今度は、九五年にWTO協定が受入れということになったと。このとき、米を含む輸入農産物の更なる増加ということになっていったわけですね。牛肉・オレンジの自由化で、一九八八年に五八%あった牛肉の自給率は二〇〇〇年の段階には三三%まで下がりました。そして、ミカンの生産は一九八八年は二百万トンあったんですけれども、二〇〇〇年には百十四万トンまで半分近く減少しました。農産物の十二品目の自由化で、リンゴの自給率は八八年のとき九八%だったものが二〇〇〇年には五九%まで下がりました。米も一〇〇%自給だったのが九五%まで今下がっていると。
 こういうふうに見ますと、日本の食料自給率というのは、私は、日本政府の政策の結果もたらされたものであって、食生活の洋風化という自然現象のものでないというのは明確じゃないかと。この点について再度、民主党さんと政府から答弁をお願いします。

○平野達男君 貿易の自由化でありますとか、為替の固定相場制から変動制への移行などといったことは、日本だけではなくて世界的に進んできた傾向ですね。その一方でヨーロッパは、そういう中で自給率が上がってきた国が多いです。何をやってきたか。これがやっぱり直接支払なんだろうと思います。そうした貿易の自由化が進んでくる、あるいは為替相場が変動するという中で、農業の生産に係る内外価格差が顕在化してきたわけです。日本は直接支払ということを明確に打ち出してきたのはつい最近じゃないでしょうか。恐らく政府としてきちんと出したのはこの品目横断対策が初めてだと思います。我が党は四年前に、これからの農業政策は直接支払でやるべきだ、これを農林漁業再生プランで打ち出しました。
 アメリカは、農業大国で規模も大きいからそういう直接支払をやっていないか。やっていますね。何でアメリカが綿花の世界最大の輸出国か。これ、輸出補助金を付けているからです。直接支払だけじゃなくて輸出補助金まで付けて農業を守っている。何でヨーロッパが砂糖の輸出国か。これは、三圃式農業という伝統があって、どうしてもビートを生産しなくちゃならない。そういったことの背景があって、直接支払をしながら農業を守っている。そこに相当の補助金を使っているということなんです。
 ところが、日本はそういう努力をしてこなかった。いろんな国際の波の中において日本の農業をどうやって守るべきかということについての原則を確立しないままここまで来たということがこの結果だろうと思います。
 国民の生活は変わります。国民の生活、食生活は変わってくる。嗜好も変わってきます。これは止めようがありません。マクドナルドが入ってくる。これも私は、大臣、多分、ほぼ同意します。入ってくるなと言いたいですよ、それは、本当は。だけど入ってくる。これは今の貿易の枠組みの中ではしようがない。しかし、その中でどうやって日本の農業を守るかということについては、やはり先ほど言った直接支払あるいは所得補償というような制度を利用しながらやっているというのが世界的な潮流であって、日本も今やっとそういう方向性に走った、その入口に立っているという、そういう状況ではないかというふうに思います。

○国務大臣(若林正俊君) 委員が、オレンジ・牛肉の自由化など、それらを契機として外国の農産物の攻勢を受けて著しく後退をしていったと、それは、オレンジ・牛肉にとどまらず、他の作物についてもそうではないかというお話がございました。
 政府としては、この国際的な貿易の拡大ということに総合的に対応をしてきたつもりでございます。全体として言えば、この貿易の拡大によって実は我が国の国益自身は非常に大きな利益を受けてきたわけでございます。我が国の国益を判断するに当たってどうするかという中で、私は通じて農業政策にかかわっておりましたので、ちょうどオレンジ・牛肉の自由化問題などもそうでございますけれども、これを守るべく、いろいろな手段を講じ、知恵を出し、対応をしたことをついこの間のように思い出すのでございますけれども、国全体としての貿易の拡大による国益の、利益のためにこれは譲歩せざるを得ないという事態に陥り、そして、譲歩したことに伴って国内対策も精一杯の生産対策などを講じてきたつもりでございますが、これが十分に農業生産を再編成するところまでにつながっていかなかったというようなことは紛れもない事実でございまして、今のような苦しい状況に立ち至ったということは申し上げざるを得ないと思いますけれども。
 しかし、その間、果樹でありますとか畜産、これは酪農品も含め、肉類まで含めた畜産全体についての生産性の向上などによる供給力の持続的確保ということについては、それなりの効果を上げてきたものと考えております。

○紙智子君 貿易というのは私も大事だとは思います。ただ、やっぱり本当に、それぞれの国の経済の主権とかあるいは食料の主権とか、そういうところを本当にしっかりと尊重して進めなきゃいけないものだというふうに思うんです。
 それで、私、WTOの香港の閣僚会議のときにちょうど議員会議がありまして、たしか若林大臣も一緒でしたし、あのときは松岡当時の農水大臣も一緒でしたし、主濱さんも一緒だったと思うんですけれども、そこに参加をしたんですけれども、ちょうどWTOから十年目ですよ。それで、十年たって、ずっと私は疑問に思っていたんだけれども、一体各国ではどんな議論になっているんだろうかと、日本の中でこういう影響を受けながら各国で問題になっていないはずないし、どんな議論が議員の中ではされているんだろうかという問題意識を持っていて、それで、そういう意見を聞ける場にちょうど行けて非常に勉強になったんですね。
 そうしたら、やっぱり十年たって各国の議員が発言していたことは、十年間で一体何がもたらされたんだと。結局、この地球の中で富めるところはますます富む、貧しいところはますます貧しくなる、そういう格差がもっと広がることになったんじゃないのかと。力ずくで力の強い国が弱い国を経済力でもって押し付けるということは変えなきゃならないという発言と、やっぱりずっと出されて強く思ったのは、WTOのその協定も公正なルールにすべきなんだと、そういう意見が物すごく強く出されていたんですよね。そういう意味では同じ思いなんだなということを痛感したわけですけれども。
 ですから、すぐに今WTOの関係で価格支持はいけないということで、緑だとか黄色だとか青だとかという何か細かい話になっているんだけれども、でも今、日本が陥っているところは三九%という異常に低い自給率で、それこそ国の存立にかかわるような重大なところに立っているときに、やっぱり日本政府は、これではやっぱり国を維持できないんだから、だからWTO協定そのものを本当に変えていくと、それぞれの主権を守るという立場で変えていくという方向でどうして言えないのかということを常々思ってきたわけです。
 これはもうWTOでしようがないんだ、もう圧力はしようがないんだということではなしに、そこをやっぱり変えていく取組というのが、各国の今挙がっている意見、いろんな意見出されていますけれども、そういうところから見てやっぱり主張していくことが大事だと思うし、国益のためということなんですけれども、確かに工業の分野やそういういろんな分野含めてもっと発展したいというのはあるんですけれども、やっぱり全体の中で食料という問題の位置付けがそこで余りにも薄過ぎるんじゃないのかということを指摘をしたいと思うんです。
 そういうところに立って、今後のやはり農業、農政ということで、私も全力を尽くしたいと思いますし、そのことを一言申し上げて、終わらせていただきます。

[討論]
○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、農業者戸別所得補償法案に賛成の討論を行います。
 この間の自民党農政、とりわけ圧倒的な農家を切り捨てる品目横断的経営安定対策の強行によって、日本農業、農村は今深刻な事態となっています。このような中で本法案は、米、麦、大豆など主要品目について生産費と販売価格との差額を補てんするものであり、しかもその対象をすべての販売農業者としております。
 これが実現すれば、日本農業と農業者に対する支援措置になります。特に米を対象としたことは、現在生産費を大きく下回っている米価の下落対策としても有効なものと言えます。また、中山間地域等直接支払制度を法的に裏付け、恒久化することは、中山間地対策としての制度を安定化することになります。
 なお、日本農業を守るためには最低でも現状の国境措置の維持が必要です。この点で、民主党の農産物輸入自由化に対する基本姿勢をめぐっては問題点を指摘せざるを得ませんが、今置かれている農業者の救済につながるとの判断から、賛成といたします。
 以上、討論を終わります。