質問主意書

質問第二四号

ヨーネ病問題に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十月十五日


紙   智  子   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

<ヨーネ病問題に関する再質問主意書>


 私が九月十二日に提出した「ヨーネ病問題に関する質問主意書」に対する答弁書(以下「前回答弁書」という。)を九月二十五日に受領した。前回答弁書を精査したが、答弁内容は、ヨーネ病問題を解明するには極めて不十分かつ不正確な内容であると言わざるを得ず、これでは事実を解明することができない。
 そこで、以下質問する。

一 ヨーネライサ並びに、ヨーネライサ2使用による検査件数を年度別に明らかにされたい。また、陽性患畜と診断された根拠としてヨーネライサないしはヨーネライサ2が使われた件数、ヨーネライサ以外の診断法との組合せで摘発がなされた件数を明らかにされたい。また、ヨーネライサ2により陽性とされた患畜の数を明らかにされたい。

二 前回答弁書では「一般的にエライザ抗体検査を含め、抗体検査の特性として、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があるものと認識している。」としているが、国がこのような見解の下に伝染病予防対策を進めているとすれば問題である。

1 病気にかかっていない動物も陽性となり淘汰されることがあるという断り書きが当該診断キットに明示されているのか、明らかにされたい。
2 病気にかかっていない動物も誤って陽性となり淘汰される可能性があると、当該キットを防疫に使用する都道府県に対し農林水産省は説明しているのか明らかにされたい。
3 病気にかかっていない動物も誤って陽性となり淘汰される可能性について、検査対象農家に事前に説明してきたか、また、都道府県に対してそのように指導をしてきたのか明らかにされたい。
4 ヨーネライサを用いた場合、疾病にかかっていない家畜が陽性を示す可能性があるか否かについて、どのような評価過程を経て検査法として病性鑑定指針に組み入れたのか、担当機関及び説明する記録を明らかにされたい。
5 ヨーネ病の診断において、「一般的にエライザ抗体検査を含め、抗体検査の特性として、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があるものと認識している。」との前回答弁書の科学的裏付けとなる科学論文名及び論文作成者名を明らかにされたい。

三 前回答弁書にある「このため、都道府県におけるエライザ抗体検査を用いたヨーネ病の確定診断に当たっては、複数回の検査を行うなど、正確な診断に努めるよう指導しているところである。」との答弁について理解しがたい。

1 「疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性のある」検査法を用いて同一動物を複数回検査しても、非特異陽性で生じた結果は再評価できないと思われるが、なぜ正確な診断ができると考えるのか、明らかにされたい。
2 ヨーネライサが陽性となった場合、非特異陽性の可能性を否定するために、他の診断法、例えば菌分離法による再確認を行うように指導しているのか、明らかにされたい。
3 従来より診断淘汰の実施を重ねてきている経過において、「陽性」と診断された家畜が、政府が答弁するように「病気にかかっていない家畜で陽性を示している」家畜であるか否かを具体的にどのように評価してきたのか、明らかにされたい。
4 従来のヨーネ病の検査の実施において、ヨーネライサ、細菌学的検査、ヨーニン反応など法に定める検査を平行して行った場合に、検査結果の一致がどの程度認められたのか、具体的に明らかにされたい。

四 前回答弁書にある「ヨーネ病の患畜頭数が増加したのは、発生状況の把握のための検査の強化により、検査の対象となった家畜の頭数が増加したことによるものと認識している。」とあるが、果たしてそうなのか、疑問がある。

1 検査頭数の増加が陽性牛の増加につながることは想像できるが、今回農林水産省が、ヨーネライサ2に見られるという牛のウイルス病の不活化ワクチンを接種した牛の一部には、ヨーネ病陰性にもかかわらずヨーネ病陽性と判定される可能性があるという指示をしたことから、これにより誤って淘汰された牛がいるものと推定される。しかし、前回答弁書では、この頭数がどのくらいであるのかとの答弁にはなっていない。この点について、これまでの調査に基づいた根拠と見解を再度明らかにされたい。
2 前回答弁書にある「ヨーネ病の患畜頭数が増加したのは、発生状況の把握のための検査の強化により、検査の対象となった家畜の頭数が増加したことによるものと認識している。」との答弁が、疫学的に妥当であることを示す根拠を明らかにされたい。
3 牛のウイルス病の不活化ワクチン接種とヨーネライサ陽性との関連の有無について、この問題が指摘されてからどのような調査研究が遂行されているのか、また、その進展について具体的にそれぞれ明らかにされたい。

五 政府は「過去にエライザ抗体検査によって陽性となったものについて再検査する場合、時間の経過等により、検査材料が以前の検査時より劣化することから、科学的に適切な再検査ができないと考えている。」と答弁したが、通常、単クローン抗体においては抗体が不安定な場合もあるが、ポリクローナルの免疫抗体の抗体価は相当の期間安定なのではないか。ヨーネ病の感染により生じる血清抗体が、特に四度の冷蔵保存やマイナス二十度での凍結保存により著しく低下して検査不能になるということがあるなら、その科学的なデータを明らかにされたい。

六 農林水産省は家畜伝染病の血清学的な診断を実施する都道府県の機関に対して、検査に用いた血清などのサンプルを再試験に備えて保存するように指導しているのか、明らかにされたい。

七 政府は「また、現在のところ、エライザ抗体検査のほかに血清を検査することによりヨーネ病の診断を行う適切な方法はないと承知している。」と答弁したが、これは、共立製薬が販売するヨーネライサのみが市販キットであるということなのか明らかにされたい。

八 都道府県でヨーネライサ2による非特異反応が問題視されたのは数年前からと聞いているが、都道府県より問題が指摘された際に、共立製薬の製品以外のエライザ法による特異性の評価はいずれかの研究機関において研究がなされたのか。また、その結果はどうであったのか、明らかにされたい。

九 ヨーネ病診断に用いるキット製品が一社製造の一種類のみでなされていることは適切であると考えるか。今回のような問題が生じた場合や製造工程のトラブルなどが生じた場合にヨーネ病の防疫に支障が起こらないか、明らかにされたい。

十 政府は「家畜伝染病予防法におけるヨーネ病患畜の殺処分に対する手当金」について答弁したが、これは非特異反応の問題とは無関係な、家畜伝染病予防法に基づく手当金の説明である。陰性でありながら陽性と診断がなされた場合、有形無形の損害が農家に生じることは明らかであり、それに対する国家補償をすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

十一 政府は家畜伝染病予防法を根拠に防疫をしているが、今回のような診断法に不備が明らかになった場合、法的な根拠や要領を作成して指導している農林水産省から農家に対して何らかの謝罪や説明を要すると思うが、どのような対応を採ったのか明らかにされたい。

十二 「牛用ワクチン接種とヨーネ病ELISA価の非特異的上昇に関する試験成績」はどのような経過で研究推進が決定されたのか、当該研究の課題名及び予算の根拠について明らかにされたい。また、前回答弁書で具体的な内容が明らかにされていない、牛用ワクチンとの関連する非特異反応以外の可能性について、どのような研究が実施されているのか明らかにされたい。

十三 少なくとも、都道府県より非特異が指摘され始めてからいかなる研究がなされたかを把握することは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の一機関である動物衛生研究所が研究機能を果たしてきたかを評価する上で、また、なぜ疑義が示されてから農林水産省より都道府県に対して通達がなされるまで期間を要したのかを理解する上でも必要である。動物衛生研究所にて進めてきたという、ヨーネライサ抗体検査における非特異反応が起こる原因を究明するための研究に関する過去及び現在の具体的な研究課題名を明らかにされたい。

十四 今回、ヨーネ病の血清学的な診断において、ワクチンに起因したとされる非特異の問題が明るみに出たが、同様の原因が他の疾病の血清診断に及ぼす影響はないのか。これについても早急に検討を進めるべきであると思われる。この点に関して、研究並びに行政レベルでの対応について明らかにすべき点がある。

1 ウイルス病以外のワクチンに関連した牛、若しくは他の動物の免疫診断に及ぼす影響について、ヨーネ病以外の診断に関して、これを確認するための調査研究を行ったか明らかにされたい。
2 これまでの調査研究で明らかになったこと、並びに研究がどのように計画され進められているのかを明らかにされたい。
3 政府が今回の非特異の原因としている牛のワクチンについて、その成分や製造方法について再検討を実施しているのか、実施しているのであれば内容を明らかにされたい。

  右質問する。


答弁書

答弁書第二四号

内閣参質一六八第二四号
  平成十九年十月二十三日

内閣総理大臣 福 田 康 夫   


       参議院議長 江 田 五 月 殿

参議院議員紙智子君提出ヨーネ病問題に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。

<参議院議員紙智子君提出ヨーネ病問題に関する再質問に対する答弁書>


一について

 ヨーネ病のエライザ法を用いた抗体検査(以下「エライザ抗体検査」という。)は、家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)に基づき都道府県が行うヨーネ病の検査の方法の一つであり、検査方法ごとの具体的な件数等は国として把握していない。

二の1について

 ヨーネライザ及びヨーネライザUの使用説明書には、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す旨の記載はなされていない。

二の2について

 農林水産省から都道府県に対し、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性がある旨の特段の説明は行っていない。なお、参議院議員紙智子君提出ヨーネ病問題に関する質問に対する答弁書(平成十九年九月二十五日内閣参質一六八第二号。以下「前回答弁書」という。)の二についてで述べたとおり、一般的にエライザ抗体検査を含め、抗体検査の特性として、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があり、都道府県の家畜防疫員は専門的な知識を有していることから、このことについては理解しているものと考えている。

二の3について

 農林水産省としては、前回答弁書の二についてで述べたとおり、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があることから、検査を行う都道府県に対して、ヨーネ病の確定診断に当たっては、複数回の検査を行う等正確な診断に努めるよう指導しているところである。

二の4について

 ヨーネライザは、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)に基づき、中央薬事審議会における調査審議を行い、性能その他の品質又は有効性等の審査を経て、動物用医薬品として承認されたことから、診断法として「病性鑑定指針」(昭和六十年十一月二十五日付け農林水産省畜産局長通知)に組み入れたところである。

二の5について

 御指摘のような科学的裏付けとなる特定の論文はないが、エライザ抗体検査を含め、抗体検査の特性として、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があることは、明石博臣他著「動物の感染症」等の一般的な獣医学の教科書にも記述されているところであり、周知の事実であると承知している。

三の1について

 同一の検査方法であっても、異なった時期に採材した血清等による検査を行うこと等により、非特異的反応の影響を軽減できるものと考えている。

三の2について

 ヨーネ病の検査においては、家畜伝染病予防法に基づき、家畜伝染病予防法施行規則(昭和二十六年農林省令第三十五号)別表第一に掲げるエライザ法による複数回の検査若しくはエライザ法、ヨーニン検査等を組み合わせた検査又は細菌検査を実施することとされている。

三の3について

 患畜の決定に当たっては、三の2で述べたとおり、都道府県が複数の検査を組み合わせて診断することとされている。

三の4について

 お尋ねの件については把握していない。

四の1について

 一般的にエライザ抗体検査を含め、抗体検査の特性として、疾病にかかっていない家畜であっても陽性を示す可能性があるものと認識しているが、個別の家畜について、実際に疾病にかかっていない家畜であって陽性を示すものであるか否かを検証することは困難であることから、お尋ねの頭数について、把握することは困難であると考えている。

四の2について

 家畜伝染病予防法に基づき実施したヨーネ病の検査の対象となった家畜の頭数は、平成九年が十四万八千六百四十三頭、平成十八年が五十二万八千七百八十三頭であり、それぞれの年におけるヨーネ病の患畜頭数は、平成九年が五百七十四頭、平成十八年が千百七十九頭である。

四の3について

 エライザ抗体検査においては、一般的に非特異的反応が起こり得ることから、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所(以下「動物衛生研究所」という。)では、極力非特異的反応を減らすべく継続的に研究を実施してきたところであり、引き続き同様の研究を実施していると承知している。

五について

 一般に血清の保存は、抗体価の低下を引き起こし得ることから、保存された血清材料をもって検査時の状況を再現して検査を行うことは困難と考えている。

六について

 前回答弁書の四についてで述べたとおり、農林水産省としては、再検査を行うことを想定していないことから、当該検査に用いた血清等のサンプルを保存するよう指導はしていない。

七について

 牛の血清の検査のためのヨーネ病の診断薬としては、共立製薬株式会社のヨーネライザ及びヨーネライザU並びに動物衛生研究所のヨーネ病診断用ELISAキットが薬事法に基づき承認されているが、現在、販売されているのはヨーネライザUのみと承知している。

八について

 お尋ねの研究がなされたかについては承知していない。

九について

 動物用医薬品については、製造業者等からの承認申請を受け、審査を行った上で承認がなされるものであり、現在、ヨーネ病のエライザ抗体診断薬として販売されているものは、ヨーネライザUのみとなっている。また、御指摘の「今回のような問題が生じた場合や製造工程のトラブルなどが生じた場合」が必ずしも明らかではないため、一概にお答えすることは困難である。

十について

 農林水産省としては、都道府県に対し、正確な診断が行われるよう複数の検査を行うこと等を指導しているところである。また、これらの検査により、患畜と判断された家畜について、家畜伝染病のまん延を防止するため必要があるときは、都道府県知事は家畜伝染病予防法第十七条の規定に基づき、家畜の所有者に家畜を殺すべき旨命ずることができるとされており、同条の規定による都道府県知事の命令により、家畜が殺された場合等には、同法第五十八条の規定に基づき、手当金が支払われることとなる。

十一について

 農林水産省としては、ヨーネ病の確定診断に当たっては、正確な診断が行われるよう複数の検査を行うこと等を指導しているところであるが、動物衛生研究所の研究により、ヨーネ病のエライザ抗体検査におけるエライザ値の一部の牛における一過性の非特異的な上昇の可能性が確認されたことから、検査を実施する都道府県に対し、必要な科学的情報を提示したところである。

十二について

 エライザ抗体検査においては、ヨーネ病に限らず、一般的に非特異的反応が起こり得ることから、動物衛生研究所では、極力非特異的反応を減らすべく継続的に研究を実施してきたところであり、「牛用ワクチン接種とヨーネ病ELISA値の非特異的上昇に関する試験成績」は、運営費交付金等により、平成十八年度から「ヨーネ病の発症機構の解析と診断技術の高度化」という研究課題として実施された成果の一環と承知している。また、牛用ワクチンと関連する非特異的反応以外の可能性については、他の疾病を原因とした非特異的反応が生じる可能性を否定し得ないことから、抗原の作製法の改善による非特異的反応の低減に関する研究を実施しているところであると承知している。

十三について

 過去においては、動物衛生研究所の前身である農林水産省家畜衛生試験場において、「ヨーネ病の診断技術の確立」という課題名の研究が実施され、現在は、動物衛生研究所において「ヨーネ病の発症機構の解析と診断技術の高度化」という課題名の研究を実施していると承知している。

十四の1について

 エライザ抗体検査をはじめとする血清診断に当たっては、非特異的反応を抑止することが必要であることから、当該非特異的反応の有無について研究が行われたものと承知している。

十四の2について

 血清診断の非特異的反応については、今回のヨーネ病の事例以外に、豚コレラのエライザ抗体検査が、BVDウイルスの感染によって擬陽性を示すこと等が明らかにされているところであり、前述のように、血清診断に当たっては、当該非特異的反応の有無について引き続き研究が行われるものと承知している。

十四の3について

 今回の非特異的反応の原因とされている牛のワクチンについて、その成分や製造方法の見直しの検討は行っていないが、ヨーネライザUについて、本年十月十七日付けで薬事法第八十三条第一項の規定により読み替えて適用される第十四条第九項の規定に基づく農林水産大臣の承認事項の変更の承認が行われたところである。