<第166回国会 2007年4月10日 農林水産委員会 第6号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 種苗が海外に不当に、不法に持ち出されて、そこで作られて逆輸入してくると、そのことが日本の農業に対して大きな打撃を与えると、それが頻発するという、後を絶たないという、そういう事態の下でこの新品種の育成者権を適正に保護するというのは、これは必要だというふうに思うわけです。今回の改正は表示の適正化や訴訟手続を円滑化するということのためにとる措置で、これは賛成できるというふうに思っています。
 その上に立ってですけれども、今回の法改正でも見送られたんですが、現在、原則認められている種苗法における自家増殖の特例の見直しについてお聞きしたいと思います。
 今回の法改正に先立って設置されました農水省の植物新品種の保護の強化及び活用の促進に関する検討会、この報告で自家増殖について制度改正に向けた具体的検討を開始すべきというふうにしています。この問題は生産者を中心に反対の声が大きく出されていて、前回、二〇〇四年の改正のときのパブリックコメントの中でも反対の声が多数寄せられていたわけですけれども、法改正は見送られたと。それで、今回も具体的検討を開始するというふうに繰り返しているんですけれども、やっぱり今回も制度改正が見送られているんですが、それはなぜなのかということを最初お聞きしたいと思います。

○政府参考人(山田修路君) 委員今お話がありましたように、現行の種苗法においてはこの自家増殖は原則自由となっているわけでございますが、これは農業者が収穫物の一部を自己の経営において次季作用の種苗として使用するという、この自家増殖というのが従来から農業者の慣行として行われているということがございますので、これまで原則としてその自家増殖については許諾が必要ないという取扱いになっているわけでございます。
 一方、今お話がありました検討会の中での議論でございますが、これにつきましては、検討会の中では、UPOV条約においては自家増殖には原則として育成権者が及ぶと、まあ原則と例外が逆になっているという条約のスタイルがございますし、それから委員の中の御意見として自家増殖の慣行が農業者に育成者権についての意識を根付かせる上で障害になっているんじゃないかというような御意見があって、その具体的な検討に着手すべきという報告になっているところでございます。
 農林水産省といたしましては、これまで、最初に申し上げましたような自家増殖を原則として自由としてきたというような経緯がございます。この理由もございます。こういったことと、一方で検討会の報告もございます。こういったことを踏まえつつ、本年度から、まず自家増殖に関する現状の把握、それから関係者の意見聴取等をまず行っていきたいというふうに考えております。

○紙智子君 現状の把握とよく意見を聴き取るということだと思うんですけれども、農家は冷害や干ばつなどが繰り返される長い農業の歴史の中でといいますか、そういう中で自家増殖を行って再生産を行ってきたというふうに思うんです。自家採種ということでいいますと、新しい品種を短期間で普及する、そういう産地形成していくためにも役立ってきたというふうに思うんですね。新たに種苗をすべて購入するということになりますとこれ大変なコストが掛かると、で、農家経営を圧迫することにもなるということで、あと農家の自立も脅かすんじゃないかということもある、批判も出ているわけです。
 昨年、超党派の議連がつくられて、議員立法で有機農業の推進法ができたと。それで、それに基づく基本方針も発表されて、有機農業の推進を国の施策としても位置付けたということですよね。有機農家や関係者からは、このことに、この出された法案に対しても非常に期待が寄せられているわけですけれども、自家採種の原則禁止ということは有機農業の推進にも大きな影響を与えるということで懸念をされているわけですね。
 有機農家は自家採種や交配で種を取って、農家同士お互いに交換したり融通したりして優良な種を育てて、有機農法に適する種を確保する努力を積み重ねてきていると。それで、現在、原則例外扱いということで、自家採種に対してもし規制が強化されるということになると、有機農業者などの自家採種活動が大きく制約されることになるんじゃないのかと、そういう懸念がされているわけです。
 それで、有機農家の種取りの活動そのものをどう評価するかというのはこれ大事なことでもあるというふうに思っていて、これをどういうふうに思っているのかということと、それから、やっぱり尊重すべきだというふうに思っているんです。尊重すべきだし、継続できるようにすべきじゃないかと思っているので、その辺のところをお聞かせいただきたいと思います。

○政府参考人(山田修路君) 有機農業に使用する種苗をその有機農業をやっておられる方々がどういうふうに確保しているかということにつきましては、購入した種苗を使っておられる方もあるでしょうし、それから自家増殖の方、あるいは種苗交換会ということで確保しておられる方々もあるというふうに聞いておりますが、現状において実際にどうなっているかということを私どもは十分にまだ把握していない状況にございます。
 有機農業者のお話をお聞きしますと、従来から使っている在来品種を自家増殖をされている方、あるいは権利が切れている登録品種を利用されている方というような方もございます。こういった方々については種苗法の制限が掛かるわけではないわけでございまして、いずれにしましても、有機農業者の方々がどういうふうに種苗を確保しているかというのを実態をよく見ませんと、種苗法との関係についてもこの関係が異なってくるわけでございます。
 したがいまして、有機農業の実態について十分把握をしながら自家増殖の取扱いについて検討をしていく必要があるというふうに考えております。

○紙智子君 よく把握して取扱いを検討していくということだと思うんですけれども、自家採種を含めた有機の種苗確保の体制というのは、これはすごく大事なことだというふうに思っているんです。
 それからもう一つ、有機農家の皆さん、関係者の皆さんからは、やっぱり種苗供給に対しての要望ということでもう強く出されていて、有機農業における優良品種の役割というのは非常に大きいわけですよね。有機農業を発展させる観点を種苗政策にやはり盛り込む必要があるんじゃないかと。在来品種の保全と活用が重要な課題になっているわけですけれども、そのことと、それから有機農業に適した種苗の開発や流通体制の整備というのもやっぱり求められているんじゃないかと。現在の流通体制ではなかなかカバーし切れないということも課題になっている、パブリックコメントでも出されていますけれども、そういうことだと思うんです。
 これまで個々の農家や有機農業団体の努力で維持されてきた優良品種の自家採種、保存、開発ですね。有機農家への普及の活動を生かしながらも、これ自身をも国も支援をしていく必要があるんじゃないかというふうに思うんですけれども、その点はいかがですか。

○政府参考人(山田修路君) 有機農業は化学肥料、農薬を使用しないということを基本とする取組でございますので、この技術を確立し、推進していく上で、病害虫抵抗性を有するなど有機農業に適した種苗を確保するというのは極めて重要でございます。
 先般の有機農業についての基本方針を検討しました食料・農業・農村政策審議会の生産分科会の中で、有機農業に取り組む農家の方々に参加をしていただきましたが、その委員の方からも、有機農業に使用する種苗の流通あるいは確保の重要性というお話がございました。一方、先ほどお話をしましたが、有機農業に使用する種苗の実態、必ずしも明確に把握ができていない状況にございます。
 こうしたことから、今後、有機農業に適した種苗の開発、流通について国の対策を検討していくという観点から、有機農業の推進に取り組む民間団体の協力等も得ながら、有機農業に使用されている種苗の生産、流通、利用の実態やその種苗の開発に関する有機農業者の方々のニーズの把握ということをまずやっていきたいというふうに考えております。

○紙智子君 種子に限りませんけれども、有機農業でいうと三十年余り民間が蓄積してきた技術や理論というのがあるわけです。国や自治体の研究機関や普及機関において多くが共有されていないという現実もあると思うんですね。民間が積み上げてきた知見や情報の収集をやはり関係者と協力して早急にやっていくということが大事じゃないかというふうに思います。
 それからもう一つ、法律ができて最も期待されているのは、やっぱり有機農家への直接支援なんですね。基本方針の中では、有機農業者等への支援について、農地・水・環境保全対策を活用するというふうに言っているわけです。しかし、現場では有機農業者はその要件となっているエコファーマーに認定されにくいという声が上がっています。日本の有機農業でいいますと、農家一人一人の取組から始まってきたというのもあって先進的な取組をしてきたところが多いわけですけれども、そのために村の中でいいますとちょっと孤立してしまっているという面もあって、何というんでしょうか、まとまり要件というのがあるわけですけど、農地や水や環境保全の対象になりにくいと。基本方針を論議した生産分科会やパブリックコメントの意見でもそういった同様の指摘もされているわけですけど、このような実態をどのように見ているのか。有機農業を推進していこうというふうになりますとやっぱり是正する必要があるんじゃないかと思うんですけれども、それについていかがですか。

○国務大臣(松岡利勝君) 紙先生の御指摘は我々も問題意識としては受け止めております。
 そこで、我が国農業を環境保全を重視したものに転換することは食料・農業・農村基本計画にもこれは大変重要に位置付けられておりまして、化学肥料、農薬の使用を低減することは重要なこれは課題であります。
 そういったことから、化学肥料、農薬を使用しない有機農業もこの一環として推進していくと、そのような位置付けでございますし、化学肥料、農薬を大幅に低減する取組に対しては、それこそ今先生も御指摘ございましたが、本年四月から導入する農地・水・環境保全向上対策において掛かり増し経費に着目をして個々の農業者等に対して支援すると、こういうことにいたしております。有機農業についても、この本対策の支援対象として位置付け、取り扱っていく、そのように考えております。
 この取組については、地域の環境保全や農産物のブランド化などを効果的に進める観点から一定の地域的なまとまりを要件としていると。今後、この推進に当たりましては、地域における取組のレベルアップを図りまして、有機農業の面的な拡大に努めてこういった方々が対象となるように我々としてもこれはその認識を持ってまた対応してまいりたい、このように思っております。

○紙智子君 エコファーマーなどについてなかなか対象になりにくいという問題は、既にもうクリアしちゃっているということがあるわけですよね、ずっとやってきていて。だから、一〇〇%ほとんどそれに近くやっているためにその要件から外れちゃうというのがあって、これはやっぱり是正して対象になりやすいようにしてほしいというのがありますので、それはよろしくお願いしたいと。
 現在、既に有機農業を実施している人たちに対して、実質を備えた支援にしてほしいという声がやっぱりあるわけです。日本の有機農業の歴史や実態を踏まえますと、個々人を対象とした支援というのは、やっぱりまとまらないとということじゃなくて、やっぱりそれは必要じゃないかというふうに思うわけです。
 現在、有機農産物として有機JAS表示がされて流通している比率というのはわずか〇・一六%ということですから、この中には提携で直接消費者に届けているものは入っていないわけですけど、有機農業推進議連の谷津会長は十年後には四割にするというふうにおっしゃっているわけですよね。物すごくそういう意味では意欲を持っての発言されているわけですけれども、法律を作ったからには、やっぱりこれまでの延長線ということではなくて、政策を根本的に変えていくような取組にしていかなきゃいけないというように思うんです。
 生産の分科会でもパブリックコメントでも、有機JASの認証経費への助成や直接支払への要望というのはすごく多く出されていますから、やっぱりそこにこたえていくと。生産分科会では、有機農家、生産側の委員だけでなくて、流通関係や地方行政の担当者なども含めて要望されていますので、是非この期待にこたえてほしいと。その辺のところを、どうこたえるかということを最後にちょっとお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(松岡利勝君) それは今、谷津会長からもそういうような目標を、お話があったと。私は、やっぱり環境という側面、それから健康という側面、それからやっぱり食べ物としての、食品としての、何というんですか、安全性とか安心とか、いろんな要素が非常に多く総合的にかみ合って、絡み合って有機農業というのは期待されているんだろうと、このように思うわけでございます。
 私も、私の地元にも、オアシス農業とかいろんなネーミングをして一生懸命取り組んでいるグループの皆さん方おられます。だから、法律ができて、広がりが更に広がっていくんだろうと。今、紙先生おっしゃいましたように、そういう先進的なことをやっているとなかなか地域の中では孤立しているというような御指摘もございましたが、やはりこれは広がりを示していくんじゃないかと思いますし、私どもも、これは先ほど言ったように、環境なり、また健康なり安全性なりという、そういった観点からもこれは重要な方向だと、こう思っておりますので、今先生の御指摘になりましたようなことについても積極的にこたえていくことができるような取組をしていきたいと、このように考えております。