<第166回国会 2007年3月22日 沖縄及び北方問題に関する特別委員会 第4号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず、北方四島の医療支援を中心的に行っています市立根室病院の医師不足が今深刻な事態になっているんですが、これまでも四島からの患者三十四人を受け入れて、このうちの心臓疾患や気管支ぜんそくなどの患者二十六人、八割近く患者を受け入れてきました。今年度からは、四島住民の健康診断で五十七人が受診するということです。北方四島のこの住民支援事業の一環として位置付けられて行ってきたわけですし、根室市の再構築提言書でも、更なる機能整備と運営ということで要求もしているものでもあります。
 ところが、この根室病院が昨年度、常勤の医師が十七名いるわけですけれども、この体制が今年度十一名になって、四月からは常勤医師は三名と、内科医が一人もいなくなるという事態が報じられて、根室市も本当に必死になってこの医師の確保のために走り回って働き掛けをして、そこまでの事態は何とか回避できるかどうかなというところに今来ているということのようなんですけれども、仮にこの常勤医師十一名を確保できても経営的には非常に大変と。
 外務省としてこうした事態をどのように認識をされているのか、また打開のために関係省庁にどのように働き掛けているのかということについて、まずお聞きしたいと思います。

○政府参考人(原田親仁君) まず第一に、外務省としても、北方領土返還運動における根室の重要性は十分認識しております。
 北方四島からの患者受入れ事業につきましては、今御指摘のあったように、これまでの実績において市立根室病院が重要な役割を果たしてきておりまして、外務省としては引き続き根室病院に蓄積されてきている知見、経験を活用させていただきたいと考えております。
 今御指摘のあった市立根室病院の窮状につきましては、我々としても根室市とも連絡を取りつつ状況を把握しておりまして、外務省としては直接の所掌ではございませんけれども、同病院が果たしている重要な役割につきましては関係省庁に対して伝えてきているところでありまして、今後とも伝えていきたいというふうに考えております。

○紙智子君 根室市とこの隣接地域は返還運動の中心的な役割をこれまでも担ってきているわけですけれども、北方担当大臣としてこの事態に対してどのように認識をされているのか。また、現地から要請もされているわけですけど、この体制整備について厚生労働省などに要請などをされているのかどうか、そこのところをお願いいたします。

○国務大臣(高市早苗君) 現在の認識ですけれども、市立根室病院のお医者様の数ですが、それは今委員が御指摘されたとおりでございます。そしてまた、さらに、十九年度には循環器内科、外科、整形外科の常勤派遣医が非常勤化されるかもというようなことで打診がされているというふうにも聞いております。
 この市立根室病院は、北方四島住民支援事業の患者受入れにも非常に重要な役割を果たしていただいておりますし、そして何よりもお地元にお住まいの皆様たちの命、健康を守るという上でも大切な場所であると。ですから、非常に深刻な問題だという認識はございます。
 現在、根室市から数度にわたりまして厚生労働省と文部科学省と総務省に対しまして要請書を提出されておって、直接要請を行っておられるということについても聞き及んでおります。そして、今厚生労働省、文部科学省、総務省、それぞれ各省でその対策を検討されているというふうにも聞いておりますので、私の立場といたしましては、北方領土問題の解決の促進という観点からにはなりますけれども、その三省で対策を検討されているという今そういう段階でございますので、その状況を見守りながら連携を取らせていただきたいと思っております。

○紙智子君 ここは、昨年、内科クリニックが閉鎖していますし、同時期に長期療養病床を七十五床持っていた根室隣保院というのがあったんですけれども、ここも閉院となっているんですね。
 さらに、今回のような事態になってきていて、本当に、今領土返還の側面からとおっしゃったんですけれども、やっぱり拠点になる地域でとてもこれじゃ住み続けられないということになってしまっては、本当に運動そのものも促進していくということではそうなっていかないというふうに思うわけです。そういう意味では、やっぱり北方担当としても全力を挙げて打開のために力を尽くしていただきたいというふうに思うわけです。
 それから、次に、ちょっと厚生労働省にもおいでいただいているのでお聞きしますけれども、新医師研修制度に端を発して医師の引揚げがされているわけです。過酷な、一方では、勤務の状況に置かれていて退職する医師も出てきていると、そのことが医療体制そのものを危うくしているんですけれども、これは実はここだけじゃなくて全道的にも大変な問題になっていまして、その中でも根室の病院というのは唯一市内で入院の施設を完備した総合病院なわけです。救急告示の病院でもあると。それから、災害拠点病院ということで、漁業なんかもやっていて海難事故なんというのもあって担ぎ込まれたりということもあるわけですけれども、そういう病院でもあると。入院・外来患者数、年間でいいますと延べ二十三万人、そして第三次医療圏への距離ということでは約百三十キロ離れている、釧路なんかは離れているわけですよね。
 今年度、既に消化器内科が不在になって、産婦人科も今非常勤になっちゃったんですよ。それで、結局根室から産婦人科のある町立別海病院、別海町の、隣の町まで運ばなきゃいけないと、分娩のときにはそこに通わなきゃならないということで、行き来しなきゃいけないわけですよね。そしたら、陣痛が来たということで病院に移動するわけだけど、そこで、まだ早いからといって帰されると、そういう行き来をしなきゃならないという事態もあるんですけれども。
 今年、この二月に、通っていた女性がいったん戻されて、また陣痛が来て、行く途中に間に合わなくて車の中で生まれてしまうという事態があって、ニュースにも報道されたんですけれども、車中で出産ということでですね。本当にまだへその緒がつながっているわけですから、抱くこともできないと、そういう状況の中で赤ちゃんが一時低体温になって、本当に危ない状況にさらされるということもあったんです。
 本当にそういう意味では命にかかわる事態になっているということで、根室市も強い医師派遣の要望が上がっているわけですけれども、是非国の責任でこの医療派遣のシステムをつくっていく必要があるんじゃないのかということでお聞きしたいと思うんですけど、厚生労働省、お願いします。

○政府参考人(松谷有希雄君) 御指摘の市立根室病院の医療状況につきましては、現在、文部科学省や総務省とも連携しながら、地元医科大学からの医師派遣状況も含めまして把握に努めておりまして、北海道並びに根室市当局と鋭意相談を進めているところでございます。
 地域医療の確保は基本的に北海道が中心となって行われるべきでございますけれども、この市立根室病院が、根室市内のみならず根室医療圏全体における先生御指摘のとおり中核的な病院であること、また内科、外科等の基本的な診療科に係る問題であること、また最寄りの医療機関まで今先生御指摘のとおり相当程度の距離があるといった北海道の事情があること、また北海道当局も昨年来医師確保の努力をしてきているというようなことなどの事情も勘案いたしまして、厚生労働省といたしましても、地域で必要な医療の確保のために道と協力しながら、しかるべく対応していきたいと考えております。

○紙智子君 根室に限らず本当に困っている自治体が、今確保しなきゃならない、急いで確保しなきゃならないというときに、本当、市長さん自身が走り回っているわけですよね。あっちへ行ったりこっちへ行ったりして、何とかめどが立たないかということで、これ各自治体が今やっているんですけど、これ自体が私本当に大変だし限界があるというふうに思うわけです。やっぱり全体を把握して、情報を提供して、調整するところをするというようなそういう体制がなかったら本当に大変だというふうに思うんです。関係者の方からは、国の対応は、都道府県がやるということで丸投げだというふうな批判もあるわけです。地方の本当にこういう脆弱な医療体制が、医師不足とこの診療報酬の削減で一層重いペナルティーを科せられる結果になっているということなんですね。
 医療が崩壊すればやっぱりこれ地域も崩壊せざるを得ないと。一番命の安全確保するところがなくなってしまったら本当にいられなくなってしまうわけですから、やっぱり病気や出産が怖くて根室にはもう住みたくないなという声も出ているのも事実ですし、そういう意味では国が本当に国民の医療を守る責任を果たすべきではないかというふうに思うんです。
 もう一つなんですけれども、やっぱりその大本のところに、私は、政府のこの間、医師の数を抑制する政策を取ってきたという問題があると思うんです。政府は新医師確保総合対策というのをまとめて出したわけですけれども、これは深刻な地域の実態にこたえているとは言えない状況なんですね。その対策の中では、十県に対して前倒し的に医学部の定員数を認めているんですけれども、これどうして十県だけなのかというのもあります。深刻な医師不足に直面した自治体からも疑問が出ているわけです。
 北海道でいいますと、面積当たりの医師数は十四・六人、これ全国最下位なんですね、面積で割りますと。まあいろいろ算定というか、十万人当たりの医師数で見ると確かに全国平均の二百十一・七人よりも多いということなんですけど、多いといっても四・五人ということなんですね。北海道の面積でいいますと、東北の六県と、あと新潟県足したぐらいの面積があるわけですけれども、非常に、その面積ということで見て、医師の労働実態も含めて考えれば、医師の労働実態を反映する百床当たりの医師数でいうと七・九人で四十五位、全国で見れば最下位クラスなんですね。
 ですから、ただ単に人口比ということじゃなくて、やっぱりそういう実情をよく把握した上でというか、そこに合ったものに基準を見直すべきだというふうに思いますし、北海道だけじゃなく、北海道を始めとして医師不足の深刻な地域について、直ちに増員をすべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(松谷有希雄君) 昨年八月に関係省庁と取りまとめました新医師確保総合対策におきまして、今委員御指摘のとおり、医師の不足が特に深刻と認められる十県につきまして医学部定員の暫定増を認めたところでございます。
 この対象県の選定に当たりましては、そもそも都道府県全体で見て医師が不足しているかどうかという観点から、人口当たり医師数を指標として用いるとともに、地理的にも医師へのアクセスが困難かどうかという観点から、これを考慮する観点から、都道府県の面積当たりの医師数という指標も活用いたしまして、いずれの条件も満たす県を医師不足が特に深刻な県としたものでございまして、医師の絶対数や医師へのアクセスの困難さという地域の実情を極力反映した指標として選定したものでございます。
 また、厚生労働省におきましては、医学部卒業生の地域定着を促し、地域に定着した医師の確保を図るという観点から、文部科学省など関係省庁と連携いたしまして、医学部における地域枠、これは地元出身者のための入学枠でございますが、この設定を推進するなどの取組を併せて進めているところでございます。
 なお、医師数は毎年三千五百人から四千人程度増加しておるところでございまして、これはマクロでございますが、今後ともこれまでと同程度のペースで医師の増加が見込まれているところから、現時点において閣議決定を見直す必要はないのではないかと考えております。
 しかしながら、特定の地域や診療科で医師の不足が深刻となっているという現状は十分承知しておりまして、国としては、地域の実情をしっかりと把握して、都道府県と協力しながら、十九年度予算案に盛り込んだ施策も適切に活用しながら、実効性のある医師確保対策を引き続き講じていきたいと思っております。

○紙智子君 厚労省として足りている足りているというふうに言ってきているんだけれども、実際に現場に行くと、こういう過疎のところって本当に足りない中で、もう過労死するかどうかという中で、本当に重荷を背負いながらやっている、過労死を本当に生むような事態の中で何とかやっているという状況ですので、そこは是非検討いただきたいというふうに思います。
 最後に、もう一つだけお聞きします。漁網の被害についてです。
 北方水域での漁具被害なんですけれども、漁網なんですけれども、安全操業水域内でロシアのトロール船によると見られる我が国の船への漁網破損、これが被害が非常に甚大で、水産庁によると、今年一月のスケソウダラの底引きの刺し網、延べ三十隻、被害額一千万に上っているわけです。このところちょっと収まっていたんですけれども、またこういう状況が出てきていて、漁獲でいいますと例年の四割まで落ち込んでいるわけです。
 それで、外務大臣は北方領土返還要求全国大会で、北方四島の周辺水域における我が国の漁船の安全かつ安定的な操業の確保に全力を挙げるというふうに表明しているわけですけれども、これ過去にもロシア船による漁具被害、数千万円の被害があったんですけれども、結局は何の補償もされず泣き寝入りすることになっちゃったわけですね。こういうことがやっぱり漁業に痛手を与えていると、地元を疲弊させていくということになるということで、政府としてロシアに再発防止の申入れを行っているとは思いますけれども、こういう被害が出たときの補償の交渉の枠といいますか、一体だれがそういうことをやったのかということを含めて結局分からずじまいでずっと来ているんですけれども、そういうことをやっぱり解決できるような話合いの場というのをつくれないものかということで、前回も要求しているんですけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(原田親仁君) 北方四島周辺水域操業枠組み協定に基づきまして、スケトウダラの刺し網漁業の漁具被害につきましては我々としても承知しておりますし、懸念しております。
 政府としましては、北方四島周辺水域操業枠組み協定の実施に関するロシア政府との協議におきましてこの問題を取り上げるようにしてきております。また、個別の漁具被害が発生するたびに、外交ルートを通じて再発防止のための実効的な措置を講ずるよう求める申入れを行っているところでございます。
 政府としましては、協定に基づく我が国漁船による操業が安全かつ円滑に行われるよう、引き続き最大限ロシア側に働き掛けていく所存でございます。それから、漁業者から具体的な要望があれば、水産庁とも協議して、適切に対処していきたいと考えております。