<第165回国会 2006年12月12日 農林水産委員会 第5号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。私は、前回の委員会で食料自給率の問題を取り上げて、やっぱり自給率向上ということが国民的な緊急な課題だというふうに明らかにいたしました。
 そこで、大臣にお聞きしたいんですけれども、安倍内閣はこのEPAそしてFTA推進ということと、この自給率の向上ということと、どちらを優先してやろうとされているのか、明らかにしていただきたいと思います。

○国務大臣(松岡利勝君) それは二者択一ということではなくて、やっぱり双方が成り立つようにというのが基本であります。

○紙智子君 安倍内閣の諮問機関ということでいろんなところで大きな影響を持っています経済財政諮問会議というのがありますけれども、この経済財政諮問会議のこの経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇六と。この中に様々な分野のこと書かれていますけれども、ずっと読んでいくわけですけれども、この中に食料自給率の向上ということは全く書いてないんですね。食料自給率という言葉すらも全くどこにも出てこないということなんです、一つも触れられてないと。やっぱりここに、日本農業を含めて食料自給率をないがしろにしてもEPAを推進するという根本的な背景があるんじゃないのかというふうにも思えるんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(松岡利勝君) それは見方、とらえ方はいろいろあると思うんですけれども、しかし私どもは政府の一大方針として、これは法律に基づいて基本計画を立て、そこにおいて食料自給率というのは明確に位置付けているわけでありますし、過去の国会答弁等におきましても、あるいは歴代総理におきましても、この食料自給率というものは、定めましたものをしっかりと達成に向かって努力をしていく、このような方針で臨んでおるわけでありますし、安倍内閣においてもそれは間違いなく同様でございます。

○紙智子君 この中にはEPAの推進というのははっきり書いてあるわけですけれども、そのやっぱり肝心な閣議でも決定された食料自給率という問題は書いてないわけですよね。やっぱり、本来こういうところに出られる機会もあると思うわけで、きちっとやっぱり提起もして入れさせるということも当然本来やらなきゃいけないことだというふうに思うんです。
 この委員会の中でもいろいろとこの間も議論されてきているように、日本農業に、日豪のFTAですね、致命的な打撃を与えると。農水省の関税撤廃された場合の影響試算が発表されているわけですけれども、国内生産額の減少額で約七千九百億円、それから関連産業の経営や雇用への影響、それから耕作放棄地の増加、影響抑制のための新たな財政負担ということで約四千三百億円、更に食料自給率への影響も指摘されているわけですけれども、結局、この影響の総額ですね、幾らの影響が出てくるというふうに想定しているのか、様々なことを含めて、ということと、それから、食料自給率についてはどの程度低下するという見通しなのか、これについてお答え願いたいと思います。

○政府参考人(佐藤正典君) 御説明申し上げます。
 豪州から輸入される農産物の多くは、我が国にとりまして大変重要な品目でございます。仮に日豪EPAにおきましてこれらの品目の関税が撤廃されるとすれば、我が国の農業に大きな影響が生ずるものと考えております。
 農業への影響につきましては、仮にということでございますが、EPAによりまして豪州産農産物の関税が撤廃された場合の影響ということで、委員御指摘の試算ということで、小麦、砂糖、乳製品、牛肉の四品目につきまして、直接的な影響として約七千九百億円の国内生産が減少すると試算をいたしまして公表したところでございます。
 御指摘のように、このほかにつきましても、関連産業の経営、雇用での甚大な影響あるいは自給率への影響が生ずることが想定される面ございます。
 しかしながら、こうした関連産業も含めました地域経済への総合的な影響あるいは食料自給率への影響につきましては、試算の前提となる条件など、なかなか困難な点が多いことから、現時点では具体的に試算したものはございません。
 いずれにしましても、悪影響が生じないようにしっかりと守るべきものは守るとの方針で交渉に入りました場合には交渉してまいりたいというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 食料自給率三〇%まで下がるというような新聞報道なんかもあるんですけれども、この辺はどうですか。

○政府参考人(佐藤正典君) 御説明申し上げます。
 先ほど御説明いたしましたように、私どもとしては、食料自給率への影響はあるというふうに思っておりますけれども、具体的な数字については、大変困難な点があることから、試算はしていないところでございます。

○紙智子君 一番影響があると言われています北海道で、北海道庁は試算を出しているわけですよね。それで、この影響額でいうと一兆三千七百十六億円、雇用への影響ということでいいますと四万七千人、完全失業率で三・二ポイント上昇すると。これすごい大きいことですよね。かつて拓銀がつぶれたときに匹敵するかそれを超えるかというぐらい言われているわけですけれども。自治体への影響も危惧をされていて、夕張市のような財政の破綻を招くような自治体がこの後出てくるんじゃないかというふうに言われているわけです。
 北海道以外で見ても、例えば砂糖の関税撤廃ということでいいますと鹿児島の南西諸島、それから沖縄の農業地域の経済に、これサトウキビですね、深刻な影響が予想されると。それから牛肉の関税撤廃ということになると、九州の畜産県ですね、深刻な影響が予想されていると。
 だから、本当にこの日本農業とそれと密接につながっている地域経済に本当に立ち直ることができないような重大な打撃を与えることになるわけですけれども、大臣、この点いかがですか。

○国務大臣(松岡利勝君) 紙先生御指摘のとおり、日豪のEPAによって、まだ交渉は開始はされておりませんけれども、そして心配されておられるような、今日も与野党を通じていろいろ御指摘がございましたが、そのような重要品目についてもし関税撤廃ということになれば、これはもう、その品目の生産はもとよりでございますけれども、関連産業や地域経済全体にとって大変な悪影響を及ぼすということは、農林水産省の試算、それから今先生御指摘の北海道庁の試算、そういったことで示されておりますように、大変なものがあると、このように認識をいたしております。先般も、北海道の高橋知事、また道議会の皆様方、それから私ども自民党の関係の議員の先生方から、特に自民党の農林水産物貿易調査会におきましても、これはもう議論のあったところでございます。そして、御指摘のようなことについては、もうこれは幾重にもそのようなことを私ども承っておりまして、重々認識をいたしております。
 したがいまして、間違ってもそういったことにならないように、私どもは、これはもし交渉が始まるとすれば、その交渉におきまして我々の目指すところをしっかりと貫いて守り抜いていきたいと、影響のないように結果を出していきたい、このように思っておるところでございます。

○紙智子君 この間の議論の中でも大臣は、段階的な削減のみならず除外及び再協議を含めすべての柔軟性の選択肢が用いられるものとして開始されるべきである旨の合意が入ったということで、問題ないというふうに言われるわけですけれども、それで安心している人というのはいないんですよね。
 それで、お聞きするんですけれども、小麦、砂糖、それから乳製品、牛肉以外の農林水産物で、これオーストラリアが日本に輸出している品目で関税が掛かっている品目というのは何々あるのか、それの輸入額というのは幾らですか。

○政府参考人(佐藤正典君) 御説明申し上げます。
 小麦、砂糖、乳製品、牛肉以外で豪州が日本に輸出している品目のうち有税となっている主なものにつきましては、牛の臓器あるいは舌、それから大麦、カツオ・マグロ類、エビ、オレンジ、マンゴー等の生鮮果実及びマカダミアナッツ等の乾燥果実などがございます。
 これらの輸入額につきましては、二〇〇五年の数字でございますけれども、牛の臓器、舌で三百二億円、大麦が約百八十億円、カツオ・マグロ類が約百四十億円、エビが百三十億円、生鮮・乾燥果実が約五十億円となっているところでございます。

○紙智子君 今ざっと言われましたけれども、そういうナシの問題ですとかココアですとかアスパラガスですか、それからマカダミアナッツと言いましたよね、オレンジなど、大麦などなどを今挙げられましたけれども、それら今ざっと出したものを計算しても大体八百億ぐらいですかね、金額にして。だから、金額的にはそんなに大きいものではないというふうに思うんですけれども、これらの品目の関税を撤廃して果たしてオーストラリアが納得するというふうに思われるのかどうか。
 やっぱりオーストラリアが求めているのは主要品目ですよね。主要品目の関税撤廃ないし削減が彼らの目的であるということは明らかだというふうに思うんです。オーストラリアがこれまで締結したFTAの内容を見ればそのことはもう明らかだと思うんですが、日本は、このオーストラリアの資源確保というのがやっぱりその目的の非常に主要な点というか、大事にしていることだと思うんですけれども、その目的を達成するためにはやっぱりオーストラリアの合意を得なきゃいけないということですよね。
 そうすると、選択としては、むしろオーストラリアから日本に投げ掛けられているというか、ボールは投げられているというふうに考えられるんじゃないかと思うんです。オーストラリアの資源確保が必要なのか、それとも日本農業なのかと、そういう選択になるんじゃないかというふうに思うんですけれども、大臣、いかがですか。

○国務大臣(松岡利勝君) これ先ほども申し上げましたように、日本全体にとってはいろんな観点からの外交戦略、また経済貿易戦略、そしてまた地域におけるいろいろな枠組みの主導権をどう取っていくか、そういういろんな観点があると思っております。そういう全体の総合的な判断に立って、これは日本としても大きなメリットがあるという判断でオーストラリアとの関係を求めていこうと、安倍内閣として安倍総理はそのように私は考えてこのことを進めようと、こう思っておられると思っております。
 そういう中で、じゃ全体の利益のために農業がその分の犠牲を受けるのではないか、受けさせられるのではないか、これはもう端的な御指摘だと思います。
 そういう中にあって、私は何度も申し上げておりますように、全体的な観点から進めるとしても、その中にあって農業が、他の、工業を中心とする他の分野の利益、その分農業は利益をオーストラリアに与える、これはあり得ないし駄目だと、こう申し上げているわけであります。農業の分野にあって、その中で、こちらにメリットがあれば、メリットに応じて、それに見合って受入れを考える。何度も基本的な取組の方針を述べておりますけれども、そういう観点に立ってやってまいりたい、そしてまたそれを貫いてまいりたい。オーストラリアの目的はそうかもしれませんが、我々の目的はこの重要品目を譲らなくて守り抜くということが目的でありますので、目的と目的がぶつかった場合、これはもう正に、場合によってこちらの目的が通らなければ、先ほど外務省からも言っておりましたように、いろんな選択肢がある、中断も含めていろんな選択肢がある、そういう腹構えをもって臨んでいこうということであります。
 さっき先生御指摘の段階的削減、除外、それから再協議といった枠組みができたから安心だと。決してそれは安心というんじゃなくて、そういう土台ができた、その上に立ってしっかりと、皆様方の御懸念が現実にならないような、間違ってもそういうことにならないような交渉を進めてまいりたい。大変な交渉になると思いますけれども、私どもは粘り強く自分たちの目標、目的を達成するまでやり抜くと、こういう決意でございます。

○紙智子君 総合的に見てメリットがあるかどうかという話をされたのと、実際の交渉の段階においては中断もあり得るというようなことをおっしゃったわけですけど、私は本来、日本農業に対して存廃にかかわるような本当に大きな打撃を受けざるを得ない、そういうFTA交渉は入るべきではないと思います。それが農業者の強い要求だというふうにも思います。
 日本政府も、昨年の四月の段階では、この国内農業の影響を懸念して日豪のFTAについては締結を見送ったわけですし、さらに昨年の八月段階においても、当時の岩永農水大臣が日本の農業を守る責任があるというふうにおっしゃったんですね。そして、物のFTAにはこだわらずと、物のFTAにはこだわらず経済関係強化の方策を幅広く検討することが重要だと。だから、FTAでなきゃいけないのかどうか、もっと違う形もあるんじゃないかということも含まっているのかなと思うんですけど、こういう御発言をされていまして、日本はFTA締結する意思がないというふうに明言をされたわけですよね。去年の八月の段階ですよ。
 それを、今締結の交渉に入るということは、これはやっぱり重大な問題であるというふうに思います。このことだけでも、やっぱり与える影響といいますか、農業者の希望を奪うことになってしまっていると。もうこの先こういうことでもし交渉に入っていけば、結局は譲歩せざるを得なくなるんじゃないのかというようなことから、もうやっていてもしようもないというふうになってしまいかねない事態があるわけですし、その責任をどのようにこの後取るおつもりなのか。その大臣の見解について明らかにしていただきたいと思います。

○国務大臣(松岡利勝君) まず、昨年四月の段階で農業への影響を懸念して日豪EPAを見送ることとしたというのは、そういう事実はまずないと思っております。ハワード首相と小泉総理との会談にあって、首脳会談の中でひとつ研究を進めましょうということの合意があって、その合意の中で農業というものは非常にセンシティビティーなものがあるということについて認識は共有された、これが正確な事実だと思います。
 そこで、八月の時点で当時の岩永農林水産大臣が物のFTAにこだわらなくてもいいんじゃないかということを言ったと。これはまた、その当時の時点における相手方との会談の中で、日本側への思いといいますか、一つの考えとしてそういったことを示されたんだろうと、こう思っております。FTAですから正に物ですよね。EPAというのはもっと幅広い、物だけじゃない、人も含めた経済全般にわたっての交流ですから、今はEPAをやろうと、こういうことになっておるわけでありまして、その八月以降は、新たに中川農林水産大臣になり、そして今日に至っているわけでございますけれども、その後共同研究が進んで、そしてお互いに最終的な整理が付いた、今こういう段階に来ていると。
 その段階の中でもなおかつ、私どもは先ほどから何度も申し上げておりますように、しっかりとこの合意ができた足場に立って、私ども日本としては、この農産物の分野におきましては交渉をしっかりと進めて、我々の守るべきセンシティビティー品目を必ず守り抜いていく、そのような交渉をやっていく、こういうことでございます。

○紙智子君 私は、今度のその交渉というのはやっぱり世界が注目しているんだと思うんですよ。そういう中で、もし日本がこの交渉に入ると、中断もあるという話なんですけど、そういう中で、そもそも交渉自身はまとめるつもりがあって交渉に入るということがあるんだと思うんですけれども、決裂するという事態になったとしたときに、これは日本のせいで、ボールは日本に投げられてきたと、オーストラリアからすれば、日本のせいでこれが決裂したということになると、国際的に見て日本はもう自分のことだけ考えてというみたいな、そういうダメージというふうになる状況も出てくるんじゃないのかと。そうすると、貿易自由化の最先端を行っている安倍内閣自身が打撃を受けると。それは避けなきゃならないということで一定の譲歩をせざるを得ないということに追い込まれるんじゃないかという、そういうことも懸念するわけです。
 やはりいずれにしても、FTA、EPAということで、いろんな考え方というのはあるんだと思うんですよ。実際に臨んでいる方向で、投資協定だとか、そのほかいろんなやり方があるんだと思うんだけど、そういう選択肢も含めて、本来日本の農業にダメージが出ないような形でのそういうものもあるというふうに思いますし、そういう点では私は、このFTA交渉ということでは非常にそこに懸念される中で入っていくということ自体反対であるということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。