<第165回国会 2006年12月4日 決算委員会 第3号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 二〇〇五年度は、連続的な大増税、負担増のスタートの年でありまして、高齢者や障害者など負担能力のない人にまで負担を求めたのが特徴でした。
 今日は、その中の障害者支援対策について、二〇〇五年決算を含めてお聞きしたいと思います。
 国連の障害者の権利宣言は、障害者はその人間としての尊厳が尊重される生まれながらの権利を有している、障害者はその障害の原因、特質及び程度にかかわらず、同年齢の市民と同等の基本的権利を有すると、まあほかにもありますけれども、ということで各国にこの権利の実現を求めています。
 総理は障害者施策推進本部の本部長でありますね。日本の障害者支援の対策がそれにふさわしいものになっているとお考えでしょうか。まずお答え願います。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 国連障害者年、これは昭和五十六年でありますが、において、完全参加と平等がテーマとされ、障害のあるなしを問わず、社会の一員として、社会、経済、文化その他あらゆる活動に参加することができる社会の実現が目指されたわけであります。これに続く国連障害者の十年を契機に、障害者の完全参加と平等を目指すノーマライゼーション等の理念に基づき、障害者施策の長期計画が策定、そして推進されてまいりました。
 平成八年から七か年計画、ノーマライゼーションプランが進められてきたわけでありますが、障害を持った方が障害のない方々と同じように活動できる日本にしていこうということでありますが、その結果、国民の意識も大きく私は変わってきたと思うわけであります。
 障害者は健常者とはもう別の生活をするという中から、障害者、障害を持った方々も同じようにチャンスのあるそういう日本をつくっていこうと。その中でバリアフリー、これはもう心の問題も含めたバリアフリーが私は進んできたのではないかと、このように思うわけでありまして、国際障害者年で示された理念に照らして十分ふさわしい日本の現状はなっている。まだもちろんこれから更に努力をしていく必要はあるわけでありますが、この理念に沿って日本も着実に歩みを進めてきたと、このように思っております。

○紙智子君 今着実に進んできているが、しかしまだ引き続きやる必要があるというお考えでしょうか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) こういう施策には完全というものはないわけでございまして、今までのこの歩みの中においては着実な歩みは示しているということでございます。もちろん、さらにこれからも障害者の方々の声に耳を傾けながら推し進めていかなければならないと思っております。

○紙智子君 そういう総理の御答弁なわけですけれども、二〇〇五年度決算を含めまして、国内総生産に占めます障害者支援の予算も先進国の中では一番実は日本は低いまま推移をしてきたと思うんです。その上、障害者自立支援法で社会参加とは全く逆の事態が今起こっているというふうに思います。障害者が生きる上で必要な支援を、利益を得ることとして応益負担を導入しました。これまで負担能力に応じて支払っていた利用料が一律に一割を負担することになって、一体どういうことが起きているかと。
 先日、テレビで作業所に通っている広島の廿日市の障害者の御夫婦が紹介されていました。週五日から六日、一日六時間、はがきの印刷の仕事をしているわけです。一か月の工賃収入は二人で一万円です。ほんの少しでも役に立てるということがうれしいと。でも、毎日、することもなく行くところもなく、ずっと家の中にいる生涯だったら耐え難いというふうにおっしゃっています。
 障害者自立支援法の応益負担でどうなったかといいますと、この御夫婦は二人合わせて障害基礎年金で十六万円ぎりぎりの生活です。ところが、作業所への利用料やヘルパーのこの支払で支出が月に三万五千円増えました。毎月の生活が赤字になっちゃったわけです。五月に社会福祉協議会から三万円を借りて、月に六千円ずつ今返済しているということなんですね。このままだったら、作業所に通って働けばかえって生活できなくなる、社会参加の道が閉ざされて家に閉じこもっていなければならないと。
 こういう声は、恐らく総理のところにも声が届いているんじゃないかと思うんです。障害者施策の推進本部の本部長として、こういう現実をどのように思われますか。

○国務大臣(柳澤伯夫君) 障害者自立支援法につきましては、もう紙委員も御承知のとおりの目的がございます。それは、今までどちらかというと措置費でやられていたころの言わば延長だったと思われるんですけれども、まず第一に、この障害者福祉の自立支援についても実は地域的なばらつきが非常に多かった、それを全国均てんの制度にしよう。それから、どちらかというと利用者の方を向いてそういう趣旨の改革をいたしました。その結果、一割負担ということを皆さんにお願いすると、そして利用者がそれぞれの施設を選択できる、施設の事業者からいったら、利用者の立場をおもんぱからなければいけない、そういうような仕組みになったというように思います。
 今、紙委員は、工賃の話とそれから今度新たな一割負担の話を比較して御指摘になられたんですけれども、この比較は、そういう比較をされたのでは困るわけでございまして、私どもとしては、やはりそういうことによって一体ケア、サービスが幾ら行われたか、それに対してどのくらいの比率の御負担をお願いするか。それはそれぞれのその利用者のこの状況を見まして我々は減免措置もそれぞれ講じているということで、御無理をお願いしているという状況ではないと思っております。

○紙智子君 私は総理に、推進本部長なんですから、その総理に、今現実にこうなっているという問題をお示しして、どう思いますかというのを聞いたんですよ。もう一度、総理、お願いします。総理じゃないでしょう。総理に聞いたんです。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) ただいま担当大臣から詳しい御説明をいたしましたが、まずはこの趣旨として、まずはこの障害者自立支援法においては障害者への支援を一本化した。それまでこのいわゆる障害者への支援はばらばらに行われてきたものもありますし、それを一括した。そしてまたサービスを、全国でなるべく同じようなサービスを受けられるようにした。そして、みんながやはりこの制度を支えていこう、これはやはり大切なことなんですが、国や都道府県に義務化したわけですね、まず支援を義務化した。しかし、まずこの趣旨を国民の皆様に説明をしなければいけないわけでありまして、その中においてまた更に一割の御負担をお願いをしたわけでありますから、それまで措置費であったものが、利用者として、言わば利用者としていろいろと、このいろいろなサービスを選択できるという可能性もこれでできたわけでございます。その中において、この負担、所得に応じまして負担の上限も設けておりますし、今個別に減免の措置もとっております。
 しかし、今様々なこの正に新しい仕組みをスタートをしたわけでありまして、それに至るまでは障害者の団体等の皆様方からいろいろな御意見をいただいた上でこの制度はスタートしたわけでありますが、しかしその中で、いろいろな御意見があることも承知をしているわけでありまして、そうした声にも真摯にこたえながら、今後どういう対応をしていくかということもこれ検討していきたいと考えております。

○紙智子君 時間が短いので、長々とはやらないでいただきたいんです。
 それで、今結論のところで総理は、やっぱりこれからその声も聞きながら改善していきたいというお話だったと思うんですけど。そこで厚生労働大臣にお聞きしたいんですが、実施わずかで、我が党が度々この指摘をしてきた矛盾が出てきているわけです。障害者の方々からも本当に悲痛な声が上がっているわけです。法案に賛成した自民党さん、公明党さん、与党からも、とうとうこの負担軽減のための、予算措置も含めた、そういう今要望、提案が出されているというふうに思うわけです。
 厚生労働省としても、今障害者の負担軽減を盛り込むように要求していくというふうに聞いていますけれども、これ具体的にはどういうことを要求していこうということなんでしょうか。

○国務大臣(柳澤伯夫君) 私ども厚生労働省は、国会の議論もございましたが、もうできるだけ法施行後の実際の法の運用状況、こういうことについて調査をいたしております。大体先月末をめどにこれを取りまとめたいということでございますが、まあこの調査そのものもかなり手間が掛かるものですからなかなかまだ発表にまで至っておりませんが、おおむね概成をしたということでございます。そういうことを踏まえまして、また与党の議論等も踏まえまして、それらを総合して、私ども改善すべきは改善していきたいと、このように考えております。
 大体、利用者の問題、それから事業者の問題、さらには包括支援を運営していただく地方自治体の問題、これら三者について実情に応じた取組をいたしたいと、このように考えております。

○紙智子君 新聞報道などでも出ているのがあるわけで、もう少し踏み込んで言っていただきたいなというふうにあるんですけれども、今言われたことの中でも、一応検討はしてその方向でということなんですけど、現在起こっている深刻な事態を、それに本当に解消できるかどうかということが問題だと思うんです。
 これちょっと見ていただきたいんですけれども、これ、さいたまの市が行っている調査の結果です。(資料提示)四月以降の利用者の負担ですけれども、かなり負担が増えたというのが六一%、多少増えた、合わせて八〇%です。それから、家計への影響もやっているんですけれども、生活できない七・二%、大きな影響を受けた五二・二%、少し影響ということを含めてあるというのは八割超えているわけですよね。こういう実態に、実際にそれぞれの自治体でやっている調査の中でも出ているわけです。
 それで、中でも障害児の影響も非常に深刻だというふうに思っていまして、障害児施設の場合は、これまでの措置制度が保護者との契約になって利用料を負担しなければならなくなったと。
 札幌の施設なんですけれども、入所の定員が四十五人の知的障害児施設です。十月から負担増で既に二人が退所したと。払えないということで、請求書を見て二件相談があったと。これまで負担が無料だったんですけれども、これ最高で月額四万八千円まで増えていると。施設では親の負担を少しでも減らそうということでいろんな行事をもう大幅に削っているんですね。年間で一番楽しみにしていた親子の一泊の旅行というのもやめてしまったというお話なんです。この子供たちの家庭状況は約半数くらいが一人の親の家庭なんですね。親自身が障害を持っているとか、ネグレクト、いわゆる育児放棄ですね、こういう問題を抱えてやむなく施設に入所していると。経済的にも厳しい家庭が半数ということになっているわけです。障害児の場合、親の収入で負担額が決まるということもあって非常に重くのし掛かっていると。
 今検討されているということなんですけれども、このように障害児を抱える家庭を含めて、非常に大変になっている世帯に対して本当に解決できる見直しということになるんでしょうか。

○国務大臣(柳澤伯夫君) 私どもとしましては、この障害者自立支援制度が円滑にいく、特に利用者の観点からこれが耐えられないから施設をやめてしまうというようなことの生じないように、そういう方向での改善策を探ってまいりたいと、このように考えております。

○紙智子君 障害を持った子供の場合、やはり中断しますと発達に深刻な影響があるということがあるわけですね。ですから、そういう意味からでも解決できる負担の見直しをしていただきたいというふうに思います。
 それからもう一つ、大臣にお聞きしたいんですけれども、障害者の働く場所である共同作業所などの施設の運営にしても大きな影響が出ていると。施設への報酬単価が引き下げられた上に、月単位の支払が日割計算で支給されるということになって、多くの施設が大幅な収入減。ただでさえ低い職員の給料を減らして、それでも経営を継続することが困難だというふうになっているわけです。
 障害者の中には体調を崩しやすい人も多いわけですけれども、病院に行って施設に行かないとなると日割りということになりますから、収入が入らないということで、おもんぱかって熱があっても行くという人もいるということを聞いています。
 それで、ヘルパーの事業所も深刻で、重度訪問介護の単価が下がって引き受ける事業所がないと。ヘルパーの人件費を下げなければならないと。この札幌でも、時給、最賃ぎりぎりの七百円です。ですから、ヘルパーからもし生活できないから辞めたいと言われたときどうしようと。やっぱり安心して仕事できるし、命預かってやっているんだという自負が持てるような単価にしてほしいというのが利用者の側の障害者の方から言われるわけですね。
 やはりサービスが後退することのない報酬単価、そして職員の配置基準の見直しをすべきじゃないでしょうか。いかがですか。

○国務大臣(柳澤伯夫君) 先ほど事業者についても改善の方策がないのかということについて、その可能性を探ってまいるということを申し上げました。報酬単価の問題もありますが、基本を我々変えるわけにはまいらないということで、現在あります最低保障、従前のレベルに比べて今原案では八〇%保障したいということを考えておりますが、そういったことの延長で何ができるかということを探ってまいりたいというふうに考えております。

○紙智子君 激変緩和というところではやっぱり大変だと、もっとやっぱり抜本的な対策が必要だというふうに思うんです。
 それで、次、財務大臣にお聞きしたいんですけれども、今ちょっとやり取りしましたけれども、お聞きになっておられて、やっぱり障害者の方々への負担の軽減策、緊急課題ということはお分かりだと思うんですけれども、やっぱりこれを補正予算の中に含めるということで、これ必ずやるべきじゃないかと思うんですけれども、それについて一言お願いします。

○国務大臣(尾身幸次君) 障害のある方が地域で自立した生活を送れるように支援していくことは重要であると認識しております。急速に障害福祉サービスが増大する中で、将来にわたり適切な支援を行い続けていくためには、制度の持続可能性というものを確保することがどうしても必要であります。
 このため、十八年度から障害者自立支援法が施行されたところでございますが、施行後も利用者負担を含めまして様々な御意見がございます。厚生労働省において、先ほどの議論にありますとおり、こうした意見を踏まえた対応を現在検討しているところと承知しております。
 私どもといたしましては、こうした厚生労働省において行われている検討結果を踏まえまして、必要な対応を考えてまいりたいと考えております。

○紙智子君 障害者の置かれている状況というのは、本当に一刻の猶予ならないと。緊急に対処していただかなきゃいけないというふうに思うんです。
 それで、検討の中身がなかなか、まだ言われないわけですけれども、総理にお伺いします。
 まだ詳しい中身が明らかにはなっていないけれども、しかし検討するということなんですけれども、例えば補正でそれをやったとしても、緊急の措置としてはそれでもってやれるとしても、その根本問題が解決するかどうかということになりますと、これは私は非常にそれでもまだ足りないというふうに思うわけです。
 大本にあるのはやっぱり無理な負担を押し付けた応益という考え方です。障害者の就労の場で負担を求めるのも、この報酬を引き上げようとすると利用者の負担が増えるのも、その根本に応益という考え方があるというふうに思うんですね。
 そもそも、やっぱり障害者の方々は、本当に食べたり外出をしたりと、それから人とコミュニケーションを取ったりと、病院に行ったり生きるために必要最小限のことをするにも助けが必要なわけですよね。それがどうして利益を受けたことになるのかと、この疑問は繰り返し出されているわけです。これが利益になるんだったら、障害の重い人ほどそれこそ最もその負担が重くなってしまうじゃないかと、これはやっぱりおかしいと、これこそ見直すべきではないかというふうに思うんですね。
 この間、私、埼玉の二十五歳の重度の障害を持った子供さんをお持ちのお母さんとお会いして話をしたんです。娘さんは知的障害者の更生施設に通っているんですけれども、三月まで無料だった負担が、利用料一割負担と食費で四月から毎月二万五千円前後の負担ということなんです。毎月の障害年金が約八万円です。近い将来はケアハウスに入って自立をして、日中活動をやって、本当に心豊かな暮らしが送れるように願ってきたと。ところが、これが応益負担でもってできなくなったというふうに言うわけです。お母さんが言いますけれども、今は父親が働いて、そこでともに暮らしているけれども、これが二十五歳の自立した女性の姿じゃないとおっしゃるんですね。やっぱり、成人した二十五歳の女性だったら本当に心豊かに自立した生活をやらせてやりたいと、親の気持ちとしてそう思うということなんです。親の収入がなくなったとき、あるいは親がいずれいなくなったとき、その後一体どうするのかということを考えたら心配で心配でたまらないと言うわけですよ。
 そういう思いは本当に皆さん共通の思いだというふうに思いますし、総理にお伺いしたいのは、こういう障害を持つ子供の親御さんたちの願い、本当に子供を思う気持ち、それに国がこたえていくというのは当たり前じゃないかと思うんです。政治の責任じゃないかと。障害者の自立を阻んでいるこの応益負担、これをやっぱり撤回すべきだと思いますけれども、総理、いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) この言わば応益負担を導入して一割の負担をお願いをしたと。それは、言わば利用者の立場として障害を持った方々も、言わばそうしたサービスを利用するという立場に立っていくという中において、また今までなかなか地域の人たちとも閉じ込められた形で交流がなかった人たちももっと地域に出ていって、世の中に出ていって活動しやすい、あるいはまた、意欲を持った障害者の方々については雇用の機会を増やす、そうした趣旨でこの障害者自立支援法が導入されたわけでありまして、この一割の負担についても、みんなで支えていく、障害者の方々も含めてみんなで支えていく、そして利用者の立場として、言わばそういうサービスを利用していくという立場に立つことができると、こういうことでございます。
 もちろん障害の重い方々については、当然所得においてはこの上限を設けているわけであります。この利用料の上限を設けているわけでございますし、また例えばグループホームや入所施設で暮らす方で資産が少ないなど負担能力が少ない方については、月額六万六千円までの収入の方は定率負担をゼロとしているわけであります。このように個別の減免措置をとっているわけでありますし、また、繰り返しになりますが、障害の重い人については所得において利用料の上限が設けられているという制度になっているということは御理解をいただきたいと思います。

○紙智子君 総理は繰り返しそういうふうに答弁をされるわけです。でも、実際に現実が示しているように、この応益負担が導入されたことが今現実の障害者の皆さんの生活のやっぱり自立を妨げているということだと思うんですよ。
 私、二日前に、二日の日に札幌で障害者のシンポジウムがありました。与党の先生方も参加していましたけれども、その現場でも、今本当に見直しをしようというのであれば、当事者である我々の声を聞いて抜本的な見直しをしてほしいというふうにおっしゃっているわけです。
 今総理言われたように、障害者が社会参加をして自立をするために可能な範囲でみんなが支え合うための制度ということであるならば、何で応能負担じゃ駄目なのかと。応能負担はそういうやり方してきたわけじゃないですか。障害者の皆さんだって何も全然負担したくないと言っているわけじゃないと。だけど、能力に応じてやれる範囲でということでやってきたのに、それが原則一割負担ということになって今の事態になっているわけですから、そのことに対してやっぱり変えてもらいたい、元に戻してほしいと、こういう声が出ているわけです。
 あえて応能負担じゃなくて応益負担にしたというのは、やっぱりそもそもが、財源問題が主な理由だったんじゃないのかと私は言いたいわけです。

○委員長(泉信也君) 時間が参りました。

○紙智子君 結局、そもそも障害者に対する予算の枠自体が少なかったわけで、やっぱりお金がないと言いながら、もう一方では、バブル期以上の利益を上げている大企業に対しては大減税をやるわけですからね。そこはやっぱりお金の使い方違うんじゃないかということを最後に指摘をさせていただいて、私の質問を終わらせていただきます。