<第165回国会 2006年11月30日 農林水産委員会 第3号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 FTA問題ですとか、品目横断的経営安定対策の問題ですとか、いろいろあるんですけど、今日は自給率、食料自給率の問題を中心にいろいろお聞きしたいと思っています。
 それで、現在、日本の食料自給率はカロリーベースで四〇%という状況が続いているわけですね。このカロリーベースの食料自給率が四〇%であるということがどういうことなのかというとらえ方ですね、ここでまず大臣の御認識をお聞きしたいと思います。

○国務大臣(松岡利勝君) カロリーベース自給率四〇%、どういう認識を持っているかと、こういうことでございますが、我が国のカロリーベースの食料自給率は、昭和三十五年の七九%から現在の四〇%へと低下傾向で推移してきたわけでありまして、先進国の中では、主要先進国の中では最低の水準だというような認識を持っております。
 また、世論調査によりますと、このような自給率に対しまして国民の約八割が我が国の将来の食料供給に大変不安を抱いている、こういう結果が出ております。これも大変重大、重要なことでございまして、そういう認識を持っております。
 このような状況の中で、国民への食料を安定的に供給する、そういう観点から食料自給率の向上を図るということは、これは食料安全保障上、また、私ども農政を進めていく上で極めて重要な問題だと、このような認識を持っております。将来的には国民に供給される熱量のせめて半分、五割以上は国内生産で賄う、こういったことを是非とも目指したいし、実現をしたい、そういう考え方で取り組んでいきたいと思っております。それを前提にいたしまして、政府といたしまして実現可能性を考慮して、平成二十七年度における食料自給率目標を四五%と、今の四〇%から五%引き上げたい、このように設定をいたしまして取り組んでおるものでございます。消費者、生産者、食品産業事業者などの関係者と一体となった食料自給率の向上を図ることが必要だと思っております。
 また一面、分母と分子ですから、生産されたものが消費に回っていく、そういった意味では輸出、これを大きく推進していくことも食料自給率の向上につながる、この分野も大きく取り組んでまいりたいと、こう思っております。

○紙智子君 いろいろ今非常に、先進国の中でも後れて、非常に重大な認識だということではあったと思うんです。
 要するに、この日本の食料輸入が何らかの理由で止まってしまうということが起こったときには、結局、国民のカロリー摂取量ですね、これが今の四〇%に落ちるということだと思うんですけれども、農水省として、二〇〇二年に不測時の食料安全保障マニュアルというのを作っていますよね。その中で、不測時の一番レベルの高いレベル2というのがありますけど、この2のところを見ますと、国民の一人一日当たりの供給カロリーが二千カロリーを下回るというふうに予測しているわけですね。FAOが飢餓人口を算定する摂取カロリーが二千二百カロリーというふうに、それ以下というふうに言っているわけですから、もし何らかの理由でストップしたときには、日本というのは正にこの飢餓人口と算定される状況になるということだと思うんです。なかなかぴんとこないというのもあるんですけれども、状況からすると、戦後直後の日本と同じ状況だということで、例えば私なんかの場合も一日二千数百カロリーぐらい取っているのかなと思うんですけど、四〇%となりますと、一千カロリー取れるか取れないかというか、そうするとやっぱりもう常に空腹の状態というのが続くということになるんだと思うんですね。
 やっぱり、そういう悲惨な状況を回避をしなきゃいけないということで、やっぱり食料自給率を引き上げる努力というのは本当にこれ真剣にやっていく必要があるんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(松岡利勝君) それはもう紙先生御指摘のとおりでありまして、私ども、やっぱり何といっても食というのはこれは命のもとでございますし、活動のもとでございますから、これが御指摘のように二千カロリーを割るとか、もっとそれ以下になるということになれば、これはもう国民の食生活の状態というのは大変なものでありますので、私ども、全力を尽くして今の現状から目標に向かって達成ができますようにしっかりと取組をしてまいりたい、そのような決意でございます。

○紙智子君 このようなやっぱり食料輸入が途絶という事態、そういう可能性が指摘されているのが、一つは戦争ということがあるでしょうし、もう一つは大規模な港湾ストですとか、それから大規模な災害ですとか、それから意図的な輸出抑制とか、それに加えて、今視野に入れなきゃいけないというのは、先ほどもお話ありましたけれども、地球温暖化の問題。先日のナイロビでの京都議定書の締約国の会議で国連環境計画が提出した報告書の中では、この地球温暖化がこのまま進むと、二〇四〇年ころには、異常気象による被害額ということで二〇〇五年の十倍に当たる一兆ドルというふうに言っているんですね、百十八兆円ですか、これだけの超えるような可能性があるんだということも指摘をされているわけです。
 昨日も実は災害特で私も質問をしたんですけれども、議論もされたんですけれども、当然、農作物の被害が生じることにもなると思うんです。災害による農作物の被害だけじゃなくて、この温暖化による農業に与える被害というのも様々な研究で明らかにされているわけですね。ですから、戦争が今なってないから大丈夫だというふうには言えないというか、当分大丈夫だと言っていられないような事態を今迎えようとしていると。しかも、この温暖化というのはブレーキを掛けられるわけじゃないということで、どんどん進行していくわけですから。現に、今年、オーストラリアでは大干ばつが起こって、小麦の生産ですとか牛肉の生産に深刻な被害を及ぼすと。日本だけじゃなくて、世界的な穀物需要にも影響を与えているという事態だと思うんです。
 大臣、この食料自給率の引上げというのは、そういった意味ではやっぱり一刻の猶予もならないと、非常に緊急の課題だというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(松岡利勝君) 温暖化というのは、これはこれから食料だけでなくいろんな分野にとって大きな大問題をもたらしてくると思っております。
 私もそんなに詳しいわけじゃありませんが、いろいろ知識、これの中で考えてみますと、例えばシベリアが砂漠だった時代があると。今よりどれくらいじゃ温度が高かったのかと、六度だと。六度ということになると、六度高くなればシベリアは砂漠になると。そして、じゃその可能性は、こうなりますと、実は国立、もう国立じゃなくなったんですけど、日本の環境研究所ですかね、ここでは、去年の正月の読売の一面に出ていましたが、四・八度C、最高四・八度C上がる可能性がある。また、世界の気候変動パネルの研究結果では五・八度Cぐらい上がる可能性がある、これは最高ですけど。
 そうすると、日本では四・八、世界の気候変動パネルでは五・八、いずれにしても五度から六度上がると。まさしくシベリアが砂漠になるような状況になってしまう、こんな状況でありますし、九州は今、この四年連続不作でございます。台風ということもございましたが、これが何に由来するのか、温暖化に伴う構造的なものなのかどうなのか一概に断定できませんが、そういうやっぱり危険性も持って対処しなきゃならぬ、こう思っておりますし、そういう状況の中で、先生御指摘の、生育期に気温が一度C上がりますと穀物というのは一割生産量が減収するんだというのは、もう最近の作物生態学の研究成果でそれが言われておるわけであります。
 したがって、温暖化に対処することがいかに重要で大事で必要であるか。あわせまして、その下でこの食料の確保ということをどう本当に考えて取り進めていくか、こういったことにつきましてはまさしく先生の御指摘のとおりでございまして、我々、危機意識を持ちながら、そして、やっぱりしっかりした食料自給率向上、生産力の増大のために全力を尽くして取り組んでいかなければならない、これはもう正に国民的、国家的課題であると、このように認識をいたしております。

○紙智子君 今言われたことまでは多分認識は一緒だと思うんですけれども。ところが、この間、大臣が御発言していることや農水省の動きを見ていますと、緊急であると、大事だと言っている食料自給率の引上げの課題よりも、農産物の輸出、いわゆる攻めの農政というお話をこの間ずっとされていると思うんですけど、ウエートが置かれているのかなというふうに思うわけです。
 それで、政策的にこの優先度というのは、自給率引上げというところを大事にするのか、それとも、そうじゃなくて、攻めということになるのか、輸出なのかというところではどのようにお考えなんでしょうか。

○国務大臣(松岡利勝君) 機軸は一緒なんですよね。いずれにいたしましても、国内で生産されたものが国内外であれどっちであれ消費をされる。これが生産という分母に対して消費という、国内生産のものがですよ、消費という分子になると。分子が大きくならないことには、これ自給率上がらないわけであります。
 したがって、国内で生産されたものが輸出に回っていくということは、国内の生産力を、例えば農家の方々も意欲を持って、そんなに輸出もできてそれだけの大きな価値があるんなら、よし、生産しようと、こうなるわけでありまして、まさしく生産に対するインセンティブを与え、そして自給率を高めていく、これが私は輸出政策でありまして、正に国内自給率を高めていくことと輸出を進めていくことというのは、これはもう軌は一つであると、こういうふうに思っております。
 したがって、全く自給率の観点からも、生産力を大きくしていく観点からも、そしてまた農家の経営を良くしていく観点からも、輸出政策と自給率政策というのはぴったりと軌を一つにしていると、このような認識でおります。

○紙智子君 でも、農産物の輸出でもって食料自給率が上がるかというと、そう単純じゃないと思うんですね。野菜にしても果物にしても、幾ら輸出しても、これはカロリーベースの食料自給率は上がらないわけです。それから、食肉にしても、その飼料が輸入飼料に依存している以上、幾ら輸出しても、これは食料自給率は上がらないと思うんです。穀物の輸出というのは直接割と効果があるわけですけれども、食料自給率一ポイント上げるために、例えば米でいいますと、三十万トン輸出しなきゃいけないと。仮に米を三十万トン輸出して食料自給率一ポイント上げたとすると、そういう場合でもカロリーベース四〇%の事態というのは変わらないわけですよね。もし、輸入がそういう事態の中で止まってしまったということがあれば、あっという間に飢餓的な状況に追い込まれるというふうに思うわけです。幾ら米を輸出して数字上食料自給率を上げたとしても、事態は変わらないというふうに思うんですけれども、この辺はどうでしょうか。

○国務大臣(松岡利勝君) なかなか特効薬がないといえばそれまでなんですけれども、しかしそうは言っておられない、こういう観点で今四五%目指してあらゆる取組をしようと思ってやっているわけでありますけれども、いずれにしても、米が三十万トンで一%とおっしゃいました。百万トン行けばこれ三ポイントになるわけであります。そういったことも含めまして、輸出も含めてあらゆる方策を追求しながら、自給率の向上、そしてまたその生産物の所得の価値を高めていく、農家経営の発展を図っていく、そういう観点から私は自給率政策と輸出政策は全く根は一緒である、このように思っております。
 こういったことを少しずつ大きく取り進めていくと。そして、その結果として自給率の向上につながっていくと。あらゆる努力を積み重ねていくということに尽きると思いますので、そういう御理解をお願いしたいと思います。

○紙智子君 米百万トン輸出という話もありますけど……

○国務大臣(松岡利勝君) 仮にですね。

○紙智子君 仮にですか。それにしても、例えば、じゃその分国内で、今減反してきているわけだけど、じゃ作る計画あるのかといったら、そういうわけじゃないんですよね。
 それから、私一番言いたいことは、食料自給率を上げるためには、本当にこれ簡単じゃないと思うんですけど、上げるにはやっぱり本筋で上げなきゃいけないんだと思うんです。自給率引上げということで言わせていただくならば、やっぱり農水省の姿勢は私は非常に問題だというふうに思っていまして、それは食料自給率を上げるためには、これまでもずっと議論になっているんだけれども、飼料ですね、飼料自給率の引上げというのは不可欠です。ところが、その切り札の一つというふうにも言われてきた、さっきも話に出ていましたけれども、水田における飼料作物の生産の振興予算ということで今回のその概算要求見ても、むしろ六十二億から五十四億に八億円減らされているということになっているわけですね。これでいいのかと思うわけです。
 飼料ということでいうと、水田で作る飼料、稲ですね、さっきも話あったけれども、これ自給率を上げる上では決定的な切り札だと。単収当たり六百キロですか、大体十俵ぐらい取れるという。だから、そういう意味で、本当上がっていくということではあると思うんですけれども、減反した後の水田でいかに作っていくかというのが非常に大事なわけです。
 それから、畑地使うということでは、デントコーンなんかもあるわけですけれども、作付けを増やしていく予算というのが本当に大事だと思うわけですけど、これを減らしていたんじゃ、やっぱり自給率向上にはならないんじゃないでしょうか。

○国務大臣(松岡利勝君) 先ほどの品目横断の対象作物というのは、もう既に申し上げましたような考え方で今四品目選んでいると。それから、その飼料作につきましても、自給飼料のこれを拡大していくということについては、私どもはこれをやめたわけでもありませんし、後ろ向きになったわけでもありません。それはそれとして、これが自給飼料が増えるような、これはこれとして畜産、酪農の政策の一環としても、これは積極的に取り組んでいるところでございますので、先生の御指摘の中でどこがどう具体的に変わったら、農林省は先生にそれはいいと言っていただけるのか、どこがどう変わればいいのか、ちょっとその辺の点がまだ、御指摘があれば我々も十分検討してみたいと思いますけれども。

○紙智子君 だから、本筋でやるべきだということであって、飼料作物の問題もそうだし、それから小麦、大豆、これもやっぱり非常に大事ですよね。この生産拡大が食料自給率に直結するわけだけれども、しかし、現に今行われていることは、強引に進められている品目横断的経営安定対策の下で、これ作付面積はどんどん減っているというのが実態だと思うんです。
 大規模消費地に近い埼玉ですとか群馬に行きますと、やっぱり地産地消ということでもって一応頑張ってやっていて、学校給食に是非県内産のものをというんで、随分頑張って生産しているわけですよね。そういうところで、取り組んでいるところでお聞きしても、これらの県でも品目横断経営安定対策の下で農家も減っているし、作付けの目減りもこれ必至だと。だから、学校給食に全部県内のものをとやっているんだけれども、足りなくなるんじゃないかというような不安の声が出されている事態なわけです。これではやっぱり食料自給率引上げの緊急性に対応できないと思いますし、逆に食料自給率が下がりかねないと。やっぱりそこのところをちゃんと位置付けて人も予算も付けるべきだと思いますけれども、いかがでしょう。

○国務大臣(松岡利勝君) 私ども、自給率を少しでも、ちょっとでも上げていく、目標に向かってその実現を図っていく、そういう観点から可能なというか必要なその政策は今進め、また予算化もしているところでございますし、それはまた今回の品目横断担い手経営安定対策、こういうような新たなスタートに当たりましても十分そういったことも考えて、そして四千百三十億というこれに必要な予算も今まで以上に充実をした形で実は今概算要求として年末の本予算編成に向けて精一杯、最大限の折衝を今いたしているところでございますので、紙先生の御指摘は御指摘としていただきながら、我々としても自給率向上の観点で全力を挙げておるということをまず御理解いただきたいと存じます。

○紙智子君 時間にもうなったので終わりますけれども、やっぱり食料自給率の問題というのはお題目ではいけないんだと思うんです。本気になってやらないと、本当に大変なことになるというふうに思いますし、そういった意味では、基本計画にもう明記されているわけで、本当に最優先の課題として位置付けて取り組まなきゃいけないんだと思います。
 そういう意味では、人も予算もと、それから品目横断というのは私いろいろ問題感じていまして、今のまま進めると、本当に逆行して作付けが減っていく事態になりかねないと思いますので、またそれについてはこの後いろいろ御議論させていただくということで、そのことを最後に申し上げまして、質問を終わります。