<第164回国会 2006年3月28日 農林水産委員会 第6号>


○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず、今回の組織の見直し、非公務員化は一昨年からの政府全体の方針の中で決められたものですけれども、農水省は当初、法人の統合ではなくて現行の体制の維持を主張して、非公務員型への移行で業務が停滞するんじゃないかという懸念をしていたというふうに聞いています。しかし、押し切られて今回の法案提出に至ったと。そこにやっぱり農林水産研究という、ほかの研究と違う特徴や特殊性を配慮すべきだという考えがあったんだと思うんです。
 私も、農林水産の研究は、やはり食の安定供給ですとか自給率の向上、それから安全、安心ですね、国土環境保全や農業の多面的機能と、こういう公共性が強い、民間にはできない分野の研究が多いというふうに思うわけです。しかも、長期にわたって本当に粘り強くやらなきゃいけない研究がありますし、お話にも出ていましたけれども、地形とか気候も多様な地域に合った研究が求められているというふうに思うんです。
 最初に大臣に、この基本認識といいますか、農林水産研究の特徴や特性をどのように認識をされ、国としての発展への責任についてどうお考えかということについてお聞きしたいと思います。
○国務大臣(中川昭一君) それぞれ試験研究は重要でありますけれども、農林水産研究というのは、まず生き物、自然あるいは水、土壌、空気といったものが大事な研究要素にあるわけであります。
 それから、今御指摘ありましたように、工業品と違いまして、植物ですと大体一年に一回とか、あるいはお魚ですと何年間かに一回とか、木材、木になりますと、何十年、何百年という時間のその軸が物すごく長いという特性もあるわけであります。
 と同時に、最近は、単に生物というだけではなくて、バイオテクノロジーを利用したり、バイオマスエネルギーという観点からも重要な役割を果たしているわけでございまして、そういう意味で、昨日ですか、参議院の予算委員会でも御質問がありましたけれども、昆虫研究によるいろいろな革新的な研究開発、二十一世紀最大の未利用資源であるというような御質問もあったところでございます。
 そういう意味で、世界じゅうが、そして日本じゅうが今一生懸命研究をしておりますけれども、まだまだ未知の部分が一杯あって、無限の可能性のある大事な研究分野であると。そして、日本はその研究において過去にも実績がありましたし、今後も激しい競争、これはもう途上国も含めて世界じゅうがこの分野でしのぎを削っているわけでありますので、日本としても研究、技術立国としては何としてもその競争に負けるわけにはいかない、そして世界に貢献をしていきたいというふうに理解をしております。
○紙智子君 今いろいろ言われて、農林水産研究の特性、特徴からして、政府全体の方向にある組織の縮小や民間活用、短期に成果を求めるというような独法の方針というのは、やっぱり検討を要するというように思うんです。
 今回、農業・生物系特定産業技術研究機構と農業工学研究所、食品総合研究所のこの統合、組織体制の変更ということで行われるんですけれども、五年前に再編されたばかりでまたもや変更ということで、今後とも独法は五年ごとの組織見直しを求められるわけです。
 現場では、頻繁な組織改編ということで、研究の評価業務で費やすエネルギーというのは非常に大きいと、安定した業務推進にならないという声も出ているんですね。当然だと思うんです。さらに、独法の中期目標で論文数を始め数値目標の設定も求められていると。研究の尺度に効率性が導入されるということになりますと、これはやっぱり短期に成果を得られるようなものへの傾斜ということも懸念があるわけです。もちろん、研究者は早く効率的にこの成果を上げようということで努力しているわけですけれども、しかし落ち着いた研究体制、研究の息の長い期間が保障されなきゃいけないということもあるわけです。
 今回の組織の統合や独法の中期目標がこの農林水産研究の推進にとって障害や弊害を生まないようにどのような配慮や留意が必要だというふうにお考えでしょうか。
○政府参考人(染英昭君) 農林水産研究の推進につきましては、基本的には平成十七年三月に閣議決定されました新たな食料・農業・農村基本計画と、それを受けて策定いたしました農林水産研究基本計画、これを達成することを基本としておるところでございます。
 このために、農業関係の試験研究独立行政法人の担うべき研究内容を食料・農業・農村基本計画及び農林水産研究基本計画で示されました研究分野に重点化し、集中的に研究開発を行うことを各法人の中期目標に明示いたしまして、その着実な実行を図ることとしているところでございます。
 そういう意味でございますので、統合いたします農業関係の三法人につきましては、やはり現在の農業の情勢が求めているような試験研究を推進するというのが極めて重要であろうというふうに考えておりますので、農業の生産性の向上なり持続的な発展、あるいは農作物、あるいは食品の安全、安心の確保、こういうようなことを重点的に取り組むことが重要であろうというふうに考えております。
 ただ、その際、先ほどお話が出ておりますように、やはり農業については地域性なりあるいは中長期の観点からやらなければならないという点がございますので、このような研究課題の設定、その具体的な推進におきましては、地域性なりその試験研究の継続性、これに十分配慮しながらやっていくというのが重要であろうというふうに考えております。
○紙智子君 昨年、筑波で懇談をしたときに、ある理事長さんが、統合で効率化が迫られているんだけれども、研究面で国民のサービスの継続に支障が出ては困ると、今でも研究の芽が途中で打ち切られる例があるんだということも率直に出されていて、統合や効率化で研究後退の懸念があるという声も寄せられたんです。
 そうならないようにできるということでおっしゃっていただけるんでしょうか。
○政府参考人(染英昭君) そもそも研究というのは、研究者がそれを担って日々研究をするということを考えますと、当然のことながら過去の研究蓄積、それと今後の研究に対する取組、さらには将来の例えば農業をどういうふうに変えていくのか、それから出てまいります研究課題、この辺を全体を見渡しながら研究に取り組んでいくというのが重要だろうと思っております。そういう意味で、筑波の優れた研究者におかれましては、今申し上げたような観点から、当然のことながら、研究の継続性に配慮しながら研究に取り組んでおるということでございます。
 そういう中で、やはり国の重点目標というのは、それぞれその時々の農政の変化がございますので、それに応じて設定されていくということでございますので、その全体の課題、いわゆる研究目標あるいは研究課題の設定と研究者の従来やってきた研究をいかに調和させながらやっていくのか。でき得れば、過去やってきた研究の成果、それと今後の研究に対する志をきちっとそれに生かしていくというのが重要であろうと思っておりますので、なるべくそのような研究者の希望が研究計画の中に生かせるようにやっていくというのが研究計画の策定あるいは研究課題の具体的な設定のときにも重要であろうというふうに考えております。
○紙智子君 研究にとって、やっぱり研究費といいますか予算というのが非常に大事な確保の問題があると思います。
 国は外部資金の導入や自己収入を奨励するということなんですけれども、農林水産研究は民間でできないやはり公的な研究という性格からして、外部からの収入がほとんど見込まれないというのが現実だと思うんです。それでも、少しでもそういう法人の収入が増えれば、その分法人への運営交付金が減らされるということがあると。結局予算は増えないということですよね。
 それから、国の競争的研究資金の獲得ができない部門というのは、交付金の削減の中でもう研究費も人員も減らされると。しかし、今競争的研究資金の獲得ができないような研究部門でも必要性は高まるものもたくさんあるわけです。研究の継続というのは重要だと。その点では、やっぱり日常的な研究費に費やされる運営交付金が毎年削減されるというのはやっぱり問題だなと思うんです。
 農水省は研究予算の確保をどういうふうに保障していくのでしょうか。
○政府参考人(染英昭君) 試験研究機関で研究を推進するということを考えますと、試験研究機関が持っている予算というのは、一つには運営費交付金であり、あるいは外部資金の獲得という意味で競争的資金の確保、この二つが大変大きな予算ではないかというふうに思っております。
 そういう中で、競争的資金というものは、当然のことながらその使途が決まっておるというような性格のものでございますので、要は、日常的な研究者の研究の中から我が国農業に役立つようなものを生み出していくというものについては運営交付金をいかに使っていくのかという問題だというふうに考えています。
 そういう意味で、これは基本的には独立行政法人の理事長のトップマネジメントの下にいかに研究費を配分するのかというふうな考え方から、正にそれぞれの独立行政法人が置かれた位置、日本農業に対する関係等を考えながら、どこに重点的にお金をつぎ込むのか、そのときの研究課題はどういうものをやるべきなのかということを主体的に判断していただきたいというふうに考えております。
 ただ一方で、運営交付金につきましては、御指摘のように、これを削減を図っていくというふうな大前提がございますので、この辺は、業務の効率化を図るとか、あるいは必ずしも専門的分野のレベルがそう高くないというようなものについてはアウトソーシング等によりましてなるべくお金を節約していくと、そういうような努力も一方で必要になっていこうと思っております。
○紙智子君 例えば、中越地震のときにため池が揺すられて崩れてしまったり地すべりという事態があって、これをどう防止するかとか、こういう研究なんかも本当大事だなというふうに思うわけですけれど、地方自治体からの依頼は多いけれども、しかしこういう分野って民間からの資金は少ないということもお聞きしたわけです。予算も多くなくて研究重点化しなきゃならないということで、やっぱり予算面で必要な研究を絞らざるを得ないという懸念も出されているわけですね。やっぱり予算不足のために必要な研究ができないということがないように、そこはしっかりと見てやっていかなきゃいけないんじゃないかというように思うんです。
 それから、非公務員化で公務への支障はないのかと思うんですね。私は、国でしかできない公的な部分が強い農林水産の研究というのは、それが停滞すると、食料の安定供給や安全や災害や伝染病や、こういうものへの対応が非常に支障を来すと、国民生活に支障を来すことになるというように思いますので、こういうところで公務員としての研究は行われるべきだというように思うわけです。
 それが非公務員型というふうに今度なるわけですけれども、法案は公務員みなし規定で秘密保持義務や刑法適用がうたわれているわけですけど、例えば自然災害、これに対応した出動だとか、伝染病で立入検査をするとか、処分だとか、こういう一定の公権力の行使が必要になるわけです。そういう公的な業務が円滑にできる保障というのは、これ、法案のどこに明記されているのでしょうか。
○政府参考人(染英昭君) 公権力の行使という意味でもいろんな場面があると思います。例えば、自然災害のときの発動、あるいは伝染病が蔓延しそうなときにいわゆる研究機関が研究的なアプローチからお手伝いするというような点もあろうと思います。この辺につきましては、従来から、それぞれの独立行政法人の設置目的に応じまして、それを実施すべき業務として位置付けられているところでございます。
 またさらに、いわゆる公権力の行使という意味では、例えば立入検査等の問題もあるわけでございますが、この辺は、検査を受ける側あるいは国民一般の理解と納得を得なければなかなか円滑に業務が進まないという点もございますので、非公務員化するというふうなこの移行に当たりましては、引き続きまして立入検査等の必要性あるいは主務大臣の指示に基づき立入検査を実施する旨などについて、検査を受ける側や国民に十分周知していくということをやってまいりたいというふうに思っております。
○紙智子君 ちょっと、だんだん詰まってきたんですけど、もう一つ。
 農水省関連の独法に今七十七人の任期付職員がいるんですけれども、非公務員ならば何回も任期付きの更新ができるわけです。農水省は、非公務員型になるメリットとして人事交流の活発化ということを言うんですけれども、こういう任期付職員を拡大する考えなんでしょうか。短くお願いします。
○政府参考人(染英昭君) 従来、独立行政法人の採用という意味では、国家公務員のT種採用試験を活用する、これ従来公務員型で対応ができるわけでございますが、あるいは独立行政法人独自に選考採用などをやっているところでございます。
 この選考採用の中には、いわゆるパーマネントで採用する者あるいは任期付きで採用する者等があったわけでございますが、これ、独立行政法人化した後に、今申し上げましたような選考採用で任期付きあるいはパーマネントの採用が大分増えてきたというふうな実態もございます。
 この任期付研究者というものは、やはり従来の独立行政法人の研究者では持ってないような分野の能力を持っているような人を採用するとか、あるいは若手の研究者で今後大いに活躍できそうな方を採用するなど、いろんな多様な採用のやり方があるんだと思うんですが、そういう意味で極めて有用な採用手段であろうというふうに考えておりますので、この辺は大いに活用してまいりたいというふうに考えております。
○紙智子君 既に一足早く非公務員化されたほかの研究所で、この任期付臨時職員が急増傾向にあるんですね。若い人たちが任期付きで採用されて、三年から五年単位で更新を常に気にしながら働くことになるわけです。大変不安定なんですね。更新されない場合も出てくると。こういう状況で本当に安定した研究生活ができるのかなと。更新されない、とりわけこの息の長い農林水産研究を続けることには支障が出てくるんじゃないかと。
 そういう採用方法が拡大していくということになると、人材育成どころか独法のこの研究者の確保自身が難しくなるんじゃないかと、そういうふうに懸念するんですけれども、この点いかがでしょうか。
○政府参考人(染英昭君) 基本的に任期付研究者は、先ほど申し上げましたように、優秀な人材を採用するという意味では極めて有用な手段であろうというふうに考えております。そういう意味で、具体的には特定の研究課題ごとに公募を行いまして、博士号を取得済みの即戦力となるような研究者を三年なり五年の任期付きで採用しているわけでございます。じゃ、任期付研究者が任期満了になったときにどうするのかということになりますと、やはりこれは独立行政法人におきまして、当該研究の進展の程度であるとか、あるいは本人の意向等に基づいて処遇を決めてるということでございます。
 ただ、一般的に申し上げますと、この任期付制度というのは、いわゆる研究者のキャリア形成にとって大変有用な制度ではないかというふうに考えております。総合科学技術会議の科学技術基本計画においても規定されておりますし、また欧米におきましても研究者にとって定着した仕組みとなっておりますので、国内の研究者にあってもこうした制度の適用が図れるよう、そういう方向でやってまいりたいというふうに考えております。
○紙智子君 ちょっと時間がなくなったので、最後一つだけお聞きしておきたいんですけれども、さけ・ます資源管理センターに関連した、三陸、岩手のアキサケの不漁の原因の調査と、これに対する国としての取組というか、支援といいますか、これについて通告してあるんですけれども、一言お願いします。
○政府参考人(小林芳雄君) サケの来遊数の増減に影響しますサケの回帰数の変動の要因でございますけれども、これは放流した稚魚の大きさ、それから苗としての健全性ということと海洋環境の変化、特に、その稚魚の放流が行われる際の春先の沿岸でのえさの環境、これが大きな要因でございまして、まずプランクトンでございます。そういったものをさけ・ますセンターにおきましていろいろ調査しておりますが、特に岩手県の沿岸につきましては県と共同で、この不漁原因の解明という意味で、一種の標識を付けた稚魚の放流を行っています。あわせて、その沿岸域の海洋調査とか、それから北洋から帰ってくる親魚のモニタリング、こういうことをやりまして、そのプランクトンの量とか沿岸域での減耗要因の把握に努めているということが一点でございます。
 それから、民間が行っていますふ化放流事業におけます稚魚の健苗性の確保というための技術指導をやってまして、今、こういった事業の取組中でございまして、統合後の水研センターにおきましてもこれを引き続き継続していくということでございますし、あと東北区水産研究所におきまして、本州太平洋岸におけるサケ・マスの調査、こういった研究なんかをやっていくために、さけ・ます調査普及課というものも新設することにしております。
○紙智子君 終わります。
○委員長(岩城光英君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。
 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、独立行政法人に係る改革を推進するための農林水産省関係法律の整備に関する法律案に反対の討論を行います。
 反対の第一の理由は、農業・生物系特定産業技術研究機構など四法人の統合は、研究上の必要性からではなく、研究機関の組織縮小、公務員減らしの一環であるからです。元々、現在の農業技術研究機構は、十二の試験研究機関を二〇〇一年に統合したばかりで、わずか五年の後の今、また農業工学研究所と食品総合研究所、それに農業者大学校を統合し、農業・食品産業技術総合研究機構へと再編されます。
 しかし、これらの機関は評価委員会によって十分な総合評価を受けているもので、研究上から統合再編の必要はありません。目まぐるしい組織変更はそれに膨大なエネルギーを費やし、安定した研究体制づくりに障害になっています。また、統合再編を機に、今度の中期目標で事務、業務を法人として担うべきものに特化、重点化を挙げ、業務の一層の効率化をうたっています。こうした方向は、政府の公務員減らしと併せて、粘り強い地道な多様な研究が要求される農林水産研究の縮小、切捨てにつながることは明らかです。
 反対の第二は、役職員の非公務員化は、公務として行うべき農林水産研究にそぐわないばかりか、研究者の身分を不安定にし、安定した研究体制づくりに障害になるものです。農林水産研究は、BSE対策や鳥インフルエンザの発生防止、遺伝子組み換え作物の侵入、混入の防止、有害危険物質の検出や低減化など、食の安全や農作物、生物環境の安全性確保など、国の責任として行うべきものが多く、公務としての位置付けで行うべきで、その点から非公務員化は問題であります。また、非公務員化によって任期付雇用が制限なくできるようになり、政府もそういう方向を強めようとしています。任期付雇用は言わば職員の使い捨て制度と言わざるを得ず、その拡大は雇用の不安定化につながり、ひいては研究者の確保にも影響せざるを得ません。
 反対の第三に、農業者大学校の廃止は、農業の担い手育成にとって大きな後退となるからです。新しい研究機構と統合し、先進的な技術や経営管理を教授するとしていますが、総合的な知識や技術を身に付けたリーダーになる農業者の育成や、今まで果たしてきた道府県の農業大学校への支援機能が大幅に後退することは明らかです。
 以上の反対理由を申し上げて、討論といたします。
○委員長(岩城光英君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 これより採決に入ります。
 独立行政法人に係る改革を推進するための農林水産省関係法律の整備に関する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕
○委員長(岩城光英君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(岩城光英君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
 本日はこれにて散会いたします。