<第162回国会 2005年5月17日 参議院農林水産委員会 第15号>


平成十七年五月十七日(火曜日)
   午前十時開会

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参考人
農事組合法人酒人ふぁ〜む総務担当理事 福西 義幸君
社団法人日本農業法人協会副会長 有限会社神林カントリー農園代表取締役 忠 聡君
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 生源寺眞一君
全国農業協同組合中央会専務理事 山田 俊男君
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本日の会議に付した案件
○農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
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○紙智子君 四人の参考人の皆さん、今日はありがとうございます。日本共産党の紙智子です。
 それで、最初に、酒人ふぁ〜むの福西参考人からお聞きしたいと思います。
 資料を出していただいて、これ読ませていただいて、今日の発言も聞きながら、何というのかな、改めて組織というのは人がつくるものだというか、人だなということをちょっと痛感もしましたし、学ぶところも大いにありました。
 面白いと思ったのは、語録集がいろいろ載っていまして、それで例えば、もうからずとも損をせず、先祖伝来の美田にて自らの食を生産し味わう、そんなぜいたくを集落民全体が享受するというようなことなど、集落を形成する上での言ってみれば原点となるような、そういう議論がうんとされたのかなというふうに思いながら読んだわけですけれども。
 いったん、担い手、このままではいなくなってしまうと、地域がやっぱりなくなってしまうんじゃないかというような行き詰まった状況の中で、集落営農ビジョンを発足させてこだわりの産物を作ると。それから、個性を生かしていけるような営農のシステムをつくるとか、あるいは、営農グループをいろいろ女性もお年寄りも入ってやれるような、みんなが参加していけるような仕組みもつくっているというのも共感するんですけれども、やっぱり簡単にここまで来たわけじゃないというように思うんですね。
 まず、法人化するまでの間、いろいろと集落での話合いがされたと思いますし、その合意形成するまでに一体どういう段階を踏んでまとまっていったのかなと、困難なところもあったんじゃないかなと思うんですけれども、そこのところをちょっと聞かせていただきたいと思います。

○参考人(福西義幸君) じゃ、お答え申し上げます。
 先生確かに御指摘のように、最初は我々のおやじ世代の地権者から猛反発食らいましたよ、食いました。当然ながら、平成の初めのころでございますから、まだ全国的に、おい、集落営農ってそれ何なのというようなことになりますから、何を考えとんねんというような感じでございました。
 ところが、我々は逆に問いただしたんですよ。じゃ、あなた方、農地持ちの地権者として何の責任を果たしてきたんだと、相続人である我々にただほうり投げただけじゃないと。それをきっかけに我々の集落は、すなわち相続人、後継者を集めての話合いに入ったんです。それまでには期間は掛かりましたけれども、最終合意形成の段階では、もう時の地権者はちょっとこちらへどいていただいて、相続人の皆さん方集まってください、あの方々に十年、二十年先の農業は語れないんだからということで、もう基本が、それが唯一の合意形成の手段でございました。
 それからもう一つ、農業者と、非農業者と言ったらいいんでしょうか、農業をやっていない方とが共存する集落でございますから、どうしても気候のいい今のシーズンにやはり子供を連れてだれしも遊びに行きたいですよ。そのときに、農作業をやらなくちゃならない農家の息子たちの苦悩を解消してあげたかったし、また農業に嫁いでこられた若いお嫁さんの思いを解消してあげたかったということと、もう一つは、農業を主としてやっておられます高齢者のいろんな苦労を解消してあげたかった。これが集落営農につながった一つのきっかけと、若者が結集してくれた、もう簡単に申し上げましたらそれに尽きるんですが。
 それともう一つは、我々の集落に脈々と流れ続いてきました、先ほど忠さんの話にもありましたように、結の精神ですよ。相互扶助の精神です。まだまだ有り難いことに農村集落というのはそれが一部残っているんですね。それに付け込んだということになります。

○紙智子君 しばらくは集落営農組織ということでやってこられて、法人化するまでに少し間があったと思うんですけれども、ずっと集落組織でやって実績も上げてきて、その中でどうして法人化しようというふうに思われたんですか。

○参考人(福西義幸君) 実は法人化しましたのは、一つは、今日まで我々がやってきたことを規範とするならば、これを制度化していこうじゃないかと、すなわち、かすがいを入れようと。役員間でもめ事が発生してトラブって、あしたから辞めたとならぬようにしようということと、もう一つは、今後、これからの先を読む中で当事者能力を付けておこう。
 それから、経営をやるんだよと、任意組織の仲よしグループじゃ経営やれないなと。お互いに、役員にとっても構成員にとっても機能分担しよう。役員は当然ながら、高効率の農業をやる役員、それから経営管理やる役員、営業を担当する役員、機能分化やろうと。それから、構成員にとっては、オペレーターとしても出役いただく代わりに全集落挙げての出役体制を取ろうよ、年齢と体力に合わせた作業を見付けますよ、これからの中心となる、我々の経営基盤となり得る野菜の研究をやろうよということで。
 あるいは、転作作物何がいいんだろうと。我々、生産調整を五〇%やっていますのはリスク分散とコスト分散なんですよ。経営をやらなくちゃならないから、一年に一回しか取れない米だけに集中するということはできなかった。
 そういうこと等々を考え併せて法人化したということになります。

○紙智子君 私も法人化したところを幾つか歩いたりもしていろいろ見てきたわけですけれども、法人化したとしても、例えば農産物の価格が下がったりとかということがあるわけで、そうすると、最初の立ち上げのときはある程度のいろいろ制度を使ってやるんだけれども、なかなかやっぱり困難な中で悩みながらやっているというところも多いわけですよね。
 それで、酒人ふぁ〜むの場合は、経営的にはどういう今状況にあるのか。そして、安定した経営をするために、例えば販売ルートの確立だとか直販での売行きだとか、実際に売れないと話になっていかないと思うんですけれども、そういう工夫なんかについてはどういうことをされているのか。それから、農業生産法人への支援ということでいうと、国への要望などあればお聞かせいただきたいと思います。

○参考人(福西義幸君) まず、販売なんですが、我々は五十六名の組合員で構成をしています農事組合法人でございますから、五十六名の組合員全員が営業マンという考え方を持っています。それと、我々が持っています、我々の組合で持っています販売力イコールが生産力のマックス点と、こういうふうに考えていますから、それ以上のものは作らないよと。
 それともう一つ、経営につきましては、我々は今日まで安定経営に入るには面積拡大が第一というふうに考えていたんですが、最近は実は変わってきたんです。今日現在我々が考えています一番安定経営ができるまず面積を考えようと。
 だから、集落営農、みんなそうだと思うんですが、よくよく、ちょっと話ずれますが、集落営農組織と認定農業者とが集落内で衝突するなんという話を聞きますけれども、それはもう考え方が違うんですよ。お互いに同じパイを取り合いするからそういうことが言えるだけであって、経営感覚を変えれば幾らでもできるんですよ。だから、我々の集落営農組織だって、我々の集落営農組織が一番高効率な農業をやりながら一番付加価値の高い点で止めようよと、これが集落営農運営のきっかけとポイントじゃないかなと、こう実は考えているんですが、基本的にはそんなことをやりながら集落全員出役体制の組合法人形成を取っています。
 販売方法は、五十六名の営業マンが動いています。それともう一つ、我々は、我々の力以上のところへの販売は考えていません。できるだけ我々の目線、若しくは少し下がった場合の目線の相手しか取引をやらないということも決めていますので。それと併せて、経営状況は、今のところは何とか一年やりましたら少々の利益並びに組合員配当ができるという経営状況下になっています。したがいまして、米価には余り期待は置いていません。
 以上です。

○紙智子君 もう一つだけ聞きたいんですけれども、酒人ふぁ〜むの場合はみんなが二種兼業農家ですよね。いわゆる農水省で掲げている主たる農業者というか、所得六百万ですかね、というのを得ているような主業農家というか、そういう人が中に入っていないわけです。しかし、みんなで力を合わせて実態に合ったやり方でやってきているのかなと思うんですけれども、あえてそういう農家がなくてもいいのかというか、これからもこのままのスタイルでやっていくのかどうかということです。

○参考人(福西義幸君) 先生御指摘のとおり、その問題も随分議論してきたんですよ。まだ今もやっています。
 ただ、よくよく考えてみますと、じゃ、私どもの集落がそうして農地集積を図りましたよと。農地集積図った農地をある一定の特定の個人、すなわちA君ならA君に、あなた担い手となってくださいよって農地渡した、託しましたよと。それは、農業経営で彼が成功してくれれば良ですわ。ところが、今の米価情勢等々、農産物諸情勢かんがみてきて、託したのはいいけれども、彼がどんどんどんどん資材まで売り払いながら集落の農地を守らないということになってきたときに、その責任だれが取るのと、こうなってきましたから、そういった責任等々は、じゃ集落内全員で取ろうよということが一点。
 それからもう一つ。仮に集落の力でまとめ上げた農地を一人の担い手に託した、二人でもいいですが。彼らが軽トラックを乗って農村集落内走っているうちはいいんですよ。ベンツに乗ったら、今度集落内は逆にねたみが出ますわ。あのやろう、おれの農地で稼いでおると、こうなるでしょう。そうならないように、全員でそれも分散しようじゃないかという結果です。

○紙智子君 ありがとうございました。
 それじゃ次に、「かみはやし」というんですね、カントリーの忠参考人にお聞きします。
 今お聞きした質問と同じ質問にもなると思うんですけれども、法人化して、それで必ずしも、何というんでしょうか、うまくいくわけではないというか、やっぱり難しい問題もあるわけですけれども、これをやっていて、特にやっぱりもっとこういう点で支援を欲しいとかということがありましたら、最初にちょっとそれをお聞きしたいと思います。

○参考人(忠聡君) 二十一年目に入っておりまして、トータルしますと半分くらいが赤字のときがございました。最近は安定してきているんですけれども、何かないかと言われれば、私は経営安定のための準備金制度が欲しいなと思っております。
 いろんな意味で、何といいますか、いわゆるセキュリティー制度をつくってはいただいております。もう一方では、これが不足だから何かを下さいという時代でもないんだろうと。であれば、自分たち自らがそういった不測のときのためにある程度蓄えておけるというような、今申し上げたような、これは税制になると思いますけれども、そういった制度が必要かなと思います。特定農業法人にはそのような制度がもう既にあるわけでありますけれども、それをもう少し拡大、拡充するというふうな形で手当てしていただけると大変有り難いなと思います。
 以上です。

○紙智子君 この本ですね、「農業構造問題研究」ということで、この中に「神林カントリー農園の概要と青年農業者への期待」というのがあって、その中で参考人は、いろいろやり取りの中で、将来株式会社化される意向あるかというふうに聞かれていて、そのときに、興味はあるんだけれども、安易な株式会社というのはちょっとどうかと、協力者がどれだけ現れるのかと、地域ではまだまだ理解されていないところがあるのでというふうに答えているんですけれども、これは現時点ではどのようにお考えでしょうか。

○参考人(忠聡君) そのときとそれほど変化はしておりません。
 ただ、私、先ほど法人化ということについて農村は非常に慎重だというふうに発言申し上げましたが、それはその株式会社という、そういう言葉に対しても更にやはり敏感なのではないかなというふうに思っております。
 したがって、私は今のところ、融資による有限会社方式の、それ以上を求めようというところまでは正直至っておりません。
 ただ、基本的には、農業以外の出身者であっても、私は、本当に農業をやりたくて、農業が好きで、それで一緒にやれると、それがまた自分たちも地域の方もその人を受け入れてくれるというふうなやっぱり環境があれば、人は受け入れていきたいと思いますし、今後また更に資本の充実を図りながら経営を拡大していきたいということが出てくれば、それはまたそのときで考えたいなというふうに思いますが。
 関連しますけれども、私は、土地利用型農業がどんどんどんどん膨らんでいって、それが例えば欧米で言う数百ヘクタール、もう既にそういう私ども法人の仲間もいますけれども、更にそれが一千、二千というような経営はちょっと考えられないのではないかなという、そんな思いも実はしております。
 以上です。

○紙智子君 この同じ雑誌の討論の中で、新潟県の新規参入支援制度のことが書かれていました。法人に対して月額十万円出されていると。
 それで、忠さんはこれを活用して研修受入れで青年農業者を育てるという重要な役割を担っておられるんですけれども、研修受入れそのものもなかなかやっぱり大変だというか負担掛かっていると思うんです。本当は、やっぱり融資ということじゃなくてもうちょっと、何というんですか、そういう支援できるものというのはあっていいんじゃないかというふうにも思って見ていたんですけれども、今のそういう制度と、それからこの分野を発展させていくということでいうと、どういったことを国なりに要請したいですかね。

○参考人(忠聡君) 経営の中で人を育てるということについては、非常に時間と労力が掛かることは確かです。しかも、気持ちはあるんだけれども全く経験がない者を受け入れ、しかもその方をある程度経営にとってプラスになるようになるまで育成していくと、育てるということについては、私どもが以前に活用した、一定の期間をそういった助成という形でいただくことというのは非常に重要なことでありますし、私どもにとっても有り難いことだなと思っております。そのうち何人かは当社に就職をした者、研修期間を経てもう県内の法人あるいは家族経営の中で頑張っている若者がおります。
 そういった意味では、今後ともそういった施策があれば大いに活用したいと思いますし、私ども法人の仲間もそういった思いが相当あるのではないかなというふうに考えております。
 以上です。

○紙智子君 ありがとうございました。
 じゃ次に、全中の山田専務理事にお聞きしたいと思うんですけれども、出されている資料の中で、農地と担い手に対する考え方ということで、効率的かつ安定的な農業経営と目される農業の動向で、これまでの認定農業育成政策の努力にもかかわらず、水田農業では認定農業者は五万九千戸にすぎないと、これらの認定農業者への農地利用の集積は十分とは言えずと、農地を集積した大規模農家もコストがかさみ苦労しているというふうに言っていますけれども、この原因についてどのように分析をされておられるのか。

○参考人(山田俊男君) ひとえにやはり農地がちゃんと集まらないということにもう限るというふうに思っております。
 御案内のとおり、戦後、小規模機械化体系がちゃんと、これはそれなりにすばらしくできまして、小さな経営でもできるという体系ができちゃって、それにずっと来ました。ところが、ここへ来まして、もうそれでは所得を稼げないわけでありまして、規模拡大しようと思いましても農地の利用の問題が引っ掛かっているというふうに思っています。一番大事なのは農地の問題。ですから、担い手の問題と農地の問題は全く深く結び付いた課題だというふうに思っております。

○紙智子君 いろいろな声が出ている中で、例えばこれだけ耕作放棄地が増えているんだし、この際、その歯止め掛からないんだったら株式会社でも何でも、とにかくやってくれるんだったらいいじゃないかというような声が出ていたり、あるいは農業団体にとっては不利益だから参入に対して抵抗するんじゃないかと、農業団体のわがままじゃないかみたいな、そんな声も一部出たりしているわけですけれども、私はそういう問題じゃないというふうに思っているわけですけれども。
 山田参考人は、これらに対してはこの資料の中でも、地域農業の実態をもうちょっとよく把握して発言してほしいということですとか、もっとやっぱり根本の、そんなわがままということじゃないんだということを話されているんですけれども、これに対してちょっと詳しくお話しください。

○参考人(山田俊男君) やはり、JA、我々も含めまして、生産者に責任があるというふうに思います。耕作放棄地を出すんであれば、それをちゃんとよそに貸せばいいんです。しかし、よそに貸す努力をJAもちゃんときめ細かくやったのかどうかというやはり責任はあるというふうに思っております。しかし、一方で、一体借りても何を植えるのかと、うまく効率が上がらないぞという部分もありますので、そこはやはり、これを植えると安心だぞという政策のやはり裏付けも何としてでも必要というふうに思っています。
 我々も、株式会社が入ることに反対だぞというふうに、わがままだという、しょっちゅうあっちこっちで言われていまして、身がすくむ思いでありますけれども、しかしちょっと翻って考えてみますと、農地の所有を前提にしてどんどん会社が入ってくるということは、もう極めてこれは危険なことだというふうに思っておりまして、今回のリースを中心にして地域の調和の中でやっていく特区はもうぎりぎりの要件であろうかというふうに思っておりまして、所有の議論に入る前にもっと生産者、それから我々団体、それから市町村、これらに猶予を与えていただきまして、そしてちゃんと耕作しているという実情をやっぱりつくり上げていくことにいたしたいというふうに思っています。