<第162回国会 2005年5月12日 参議院農林水産委員会 第14号>


平成十七年五月十二日(木曜日)
   午前十時開会

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 本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○特定農地貸付けに関する農地法等の特例に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 農業経営基盤強化促進法の質問いたしますが、冒頭、BSEの全頭検査にかかわる問題について質問したいと思います。
 五月六日、食品安全委員会は、厚労、農水両省の諮問に対して、全頭検査の対象となる牛を二十一か月齢以上に変更した場合には食品健康影響は非常に低いレベルの増加にとどまるとする内容の答申を決定しました。で、厚労省は、検査対象を二十一か月齢以上とする省令の改正案を発表しました。パブリックコメントには、この間、七割を占める反対意見が寄せられているにもかかわらずなんですね。
 この結果を受けて、農水、厚労両省は、米国産牛肉について二十か月齢以下は検査なしで輸入再開するということを食品安全委員会に諮問しようとしています。
 大臣は、安全、安心が大前提だというふうに繰り返してこられたわけです。安全、安心というのは、やっぱり国民の信頼がなければこれ成り立たないことなわけですね。公募意見の七割が二十一か月で線引きをして検査対象から外すということは反対だというふうに言っているにもかかわらず、この二十か月齢以下の牛肉を検査なしで輸入させると。これ認めるということは大臣が日ごろおっしゃってきた立場に反するんじゃないかと思いますけれども、いかがですか。
○国務大臣(島村宜伸君) 私たちは、常々申してきたことは、科学的知見に基づいて食の安全、安心に万全を期する、これを大前提としてこの問題にも取り組んできたところであります。
 食品安全委員会は今日まで大変熱心な御審議や御検討をいただきまして、その結果、先般の答申をいただいたわけでございまして、言わば専門家の御意見としてまあ問題がない、少なくともそういう御判断をいただいた以上、我々はそういう御意思を尊重したいと考えます。
 なるほどパブリックコメントにおいて消費者の側で全頭検査は望ましいという御意見があるのは、これはむべなるかなと思います。だれしもこれは全頭検査すればそれはより安全だとお考えになるのは当然ですし、特に、この問題が発生した当初のマスコミの報道その他でかなり皆さん衝撃を受けたわけでありまして、ごらんのとおり、一時はお肉屋さんからすっかり牛肉の姿が消えたと、こんな現実もあったわけでございまして、その後のいろんな経過を見ますと、私どもはかなり国民の意識も変わってきていると、こう考えるところであります。
 しかも、今日までには恐らく四百数十万頭に及ぶと思いますが、の牛の検査をし、少なくとも二十一か月未満の牛に関しては言わば危険な牛が発見されておらないという現実も踏まえまして、我々はこれらについては冷静に対処していきたいと考えております。
 なお、こういう時期その他につきましては、これは我々が今どうこうすべきものではございませんので、一応現時点では冷静にその推移を見守っているということでございますし、私が今まで御説明したことと急に私の考えは変わったということは毛頭ないわけであります。
○紙智子君 BSEの人への感染、それから発症についてはまだ解明されていない部分が非常に多いわけです。科学的な知見も限られているわけですね。だからこそ、予防的な見地も含めて、国民の多数はやっぱり全頭検査は継続すべきだというふうに求めていると思うんです。
 アメリカ産の牛肉についても、この月齢判別方法や飼料規制やそれから特定危険部位の除去などの問題では疑義が委員会の中だって出されてきたわけです。パブリックコメントに寄せられたこの国民多数の声を尊重するならば、米国産の牛肉の輸入再開の諮問というのはすべきじゃないというふうに思うんですね。
 安全、安心、これ改めて言うまでもないことですけれども、なぜ安全、安心ということで言ってきたかといえば、やっぱり国民は本当に不信がすごく最初の段階で強かったわけです。だから、元大臣の武部大臣が肉を食べて、だから大丈夫だと幾ら言っても、国民はやっぱり不信を持っているわけですから、だから牛肉の消費ががあっと下がったということがあったわけですよ。
 そういう立場からいえば、やはり国民が納得しないのに、とにかく科学的にはもうお墨付きが出たんだと、だから言うことを聞けということにはできないと思いますし、やっぱりそうであるとすれば、何のために今まで議論してきたのか、何のための反省だったのかということになると思うんです。
 ちょっと今日は、趣旨は法案の審議ということなので、是非ちょっと委員長にお願いしたいんですけれども、是非BSEの問題をめぐっては集中審議をお願いしたいと思います。
○委員長(中川義雄君) 理事会で検討します。
○紙智子君 それで、この本体の農業経営基盤強化法の問題に入りますけれども、まずリース特区の評価についてです。
 農水省は、このリース特区について、昨年の十月の実施自治体へのアンケートの回答を基に、現時点で弊害がないということで判断をして今回全国展開にオーケーを出しました。しかし、既に収穫を開始した特区というのは六十八特区のうち二十八にすぎません。違います。(「四十二」と呼ぶ者あり)四十二、増えているんですかね、そうすると。始まったばかりだということだと思うんですけれども、現時点で用水管理や共同作業や農地利用で混乱が起きてないと、これは当然だと思うんですよ、始まったばっかりなんだから。問題は、たった一年や二年で弊害なしというふうに評価していいのかということなんです。
 やっぱり特区の参入法人というのは、現時点で経営が成り立っていないところがほとんどなわけですけれども、昨年、農水省が行った特区の評価のための調査、これでは経営状況については調査対象とされていませんね。経営状況を評価の対象としていないというのは、これなぜなんでしょうか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) このリース特区、構造改革特区制度、耕作放棄地の発生防止策として講じられているわけでございます。
 具体的に地域で水利用、土地利用に混乱があったかどうか、あるいはきちんとした耕作がされているかどうか、こういう点をチェックして、ちゃんと耕作放棄地の発生防止として役立っているかどうかをチェックすると。経営状況は直接それと関係ないということで調査対象にはなってないわけでございます。経営状況の悪化が続きましたら、恐らく何らかの形で、耕作をきちんとしないとかそういう状況が現れるものというふうに考えておりまして、要は耕作放棄地の発生防止策としてチェックするポイントと直接結び付いてないということで対象としてないわけでございます。
○紙智子君 一般の株式会社が参入することで一番危惧されるのは、やっぱり農地の荒廃なわけですね。きちんと継続して農業経営をずっとされるのかどうかと、これがやっぱり重要な問題だと思うんです。リース特区の実施地域というのは、耕作放棄地や耕作放棄地となるおそれのある農地が相当程度ある地域というふうになっているわけです。この間の法案審議の中でも、今回の措置は耕作放棄地の対策だとずっと強調されているわけですけれども、農地が耕作放棄になるのは、高齢化の影響ですとか、あるいは農業生産が引き合わないというようなことがあるというのがその理由の中心だというふうに思うんですね。
 この間、山梨の勝沼醸造、皆さんの話の中にも出てきましたけれども、行きましたが、例えばあそこの場合はブドウを作ると。そうすると荒れた土地の方がむしろいいんだと。水はけは良くなきゃいけないけれども、しかし乾いている土地の方が作りやすいというようなことでね。たまたまそういう、ブドウの場合はそういうものが適しているということなわけですけれども、作物によっては逆もあるし、むしろそっちの方が多いと思うんですけれども、全国どこでもブドウを作るわけじゃないですから。
 そうすると、やっぱり企業が参入して本当に経営がうまくいくのかという保証があるのかという問題があります。参入する農地というのは、ただでさえ生産性が低い農地だと。今後、経営が成り立たないで撤退に追い込まれるケースが少なからず発生することもあるんじゃないかと。そうならないというふうに言えますかね。
○政府参考人(須賀田菊仁君) そういう懸念がありますからこそ市町村と協定を結んで、経営悪化か何かいろんな理由で耕作放棄、まじめに作ってない場合にはもうリース契約を解約をして戻していただく、新しい受け手はまた探すと、こういう仕組みにしているわけでございます。そういう試行錯誤を繰り返していかないとこの制度というのは定着しない。正に先生言われたような懸念があるからこういう仕組みにしているわけでございます。
○紙智子君 協定の問題はもうちょっと後から聞きますけれども、経営局は、食料・農業・農村審議会の企画部会で、経営的には成り立っていないと、リース特区について人件費とか地代の半分も出ない、参入法人に撤退されると耕作放棄に戻ってしまうと、だから地元が必死に支援しているというふうに報告していますね。
 この間、特区以外で資本力のある大企業が農業参入でもって二年、三年で撤退するケースが続きました。私も前にも例で挙げましたけれども、例えば千歳に作られたオムロンですとかそれからユニクロもこの間一年半ぐらいで、衣料のところですけれども、これが野菜や米や果実や、こういうところに参入して、一年半でもう撤退するというようなことが起こっています。
 経営が行き詰まって途中で撤退という事態がだから当然あり得ると。下手をすると、経営難で撤退して耕作放棄地になるか、あるいはそれを防ぐために地方自治体が重い負担を負うことになりかねないんじゃないかと。農業経営が安定的に継続できるかどうか不明の段階で弊害なしと断定して全国展開するというのはやっぱり早過ぎるんじゃないかと。これはちょっと大臣にお聞きしたいんですけれども、どう思われますか。
○国務大臣(島村宜伸君) 経営を、一つの企業を経営しよう、あるいは一つの産業を興そうといろいろ考えられて取り組まれても、すべてが成功するというわけではないわけでありますし、当然に農業という新しい分野に取り組むとなれば、殊更にやはり事前の検討というのは十分なさった上で少なくも皆さん経営をなさろうと思うんだろうと思いますから、その意味ではその企業の調査その他の結果に我々は期待するしかございませんが、少なくも思い付きで何か言わば農業をやるというような企業はどこにもないはずですし、今までやっているところの経過をいろいろ聞いてみますと、それぞれに着実に取り組んで、言わば一気呵成とは言いませんが、それ相応の言わば進展も見ているというふうに聞いておりますので、私はそれぞれに皆さんが企画されたとおりの結果を生んでくださるものと期待しているわけであります。
 さはさりながら、やはりそれは企業は必ずしもすべてが成功するわけじゃございませんで、先ほど須賀田局長から申し上げたとおり、もしそれが予定どおりいかない場合、企業の場合には撤退もあり得るわけですから、事前の調査、そしてまたお互いの協定、そしてまたそれぞれの自治体の御判断によって、それがそのまままた放棄されるようなことが起きないように十分監視をしていくと、こういう考えに立っているところです。
○紙智子君 期待を持ってというふうにおっしゃるんですけれども、やっぱり甘いんじゃないかなと思うんですよ。
 それで、現在特区の取組でいいますと、食品加工会社が地元の特産で原料の確保を図ったり、それから、公共事業が減少していて不況で仕事がないと。それで、そういう零細な建設業者が言わば労働力や機械を活用するために農業参入するというコントラクターだとか、こういう形なんかもあって、地域密着型の取組があるわけですよね、現在のところ。これは私は否定するものじゃないんですよ。やっぱり本当に不況の中であえいでいる中でどうするかという、必死なわけですから、むしろ当然成功してほしいと思うわけです、そういうところはね。しかし、農地を保全する、その農地制度の観点からいいますと、最悪の場合を想定した対応が必要だと思うんです。だから、慎重の上に慎重を期すということが今やっぱり大事だっていうふうに思います。
 そこでなんですけれども、企業参入による弊害は参入法人と協定を結ぶことで防止できるんだというふうに言っていますよね。しかし、問題は実効性があるかどうかと、それが。
 で、協定違反が生じた場合にはリースは解除されて農地は返還されることになるわけですけど、現在農水省が示している協定内容を見ますと、協定に違反した場合の事項を定めるというふうにしているだけですよ。それ以上の内容は自治体任せですよね、言ってみれば。最低でも、産廃の投棄などで農地を荒らしたような場合は参入の法人の責任で原状復帰させるとか、それを約束させるとか、そういう農地の荒廃の歯止めをしていくべきじゃないのかと、そうしないと歯止めにならないんじゃないかというふうに思うんですけれども、いかがですか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 農地を例えば遊休化させた場合、参入法人が協定に違反した場合にはリース契約は解除できるわけでございます。
 で、原状回復のお話でございます。
 現在、民法上の解除の効果として、五百四十五条でしたか、当事者の一方がその解除権を行使したときは各当事者はその相手方を原状に復させる義務を負うと、解除の場合には原状に回復させる義務を負うということになっておりまして、協定に原状回復の規定が設けられているか否かにかかわらず、参入法人が原状回復を行うということが基本でございます。例えば、産業廃棄物を投棄するというような悪質なケースの場合には、当然原状回復の義務を負うということになるわけでございます。
 実際に、特区、勝沼の場合もそうですけど、協定にその旨を定めている場合が多うございます、原状回復の規定を定めている場合が多うございます。
 ただ、よく考えていただきたいのは、例えば果樹、まあブドウでもいいんですけど、ブドウを植えると。で、いつかのときに退いていく場合に、じゃ、ブドウの木を引き抜いて戻せということまで課するかというと、そこまで課する必要はない。引き続きブドウを生産する人が入ってくればいいのであって、その辺のところはよく市町村が実情を勘案していただいて運用していただければというふうに思っております。
○紙智子君 全国農業会議所の中村専務さんが資料を出していますけど、千葉県では、特区など農地の規制緩和によって産業廃棄物処理会社などからの農地参入による農地取得の問い合わせが増えているというんですね。それで、食品残渣等を堆肥化してクリーン農業をやるんだと。まあNPOっていう話もありましたけど、NPO法人というと何となく印象がいいということがあって、その看板を掛けながら、実態は産廃の処理ということを目的としていると思われる相談も多いっていうふうに提起しているわけです。非常に巧妙に、これまでのちょっと経過の中を振り返ってみても、そういう巧妙に農地をねらっているのもあるんですね。
 ですから、そういう中で、今、自治体ではこう約束させているようだということじゃなしに、農水省自身が把握して、やっぱりそういう間違いが起こらないようにということでやらせる必要があるというふうに思うんです。
 それから、先ほども言いましたけど、現在リース特区に参入している法人のほとんどが経営的には成り立っていない状況だと。で、撤退に追い込まれることもあり得るわけです。しかし、この示している協定案には、参入法人の経営破綻など法人の都合で撤退する際の対応を取り決める項目はないですね。
 で、今回の法案に、企業の一方的な撤退で農地が放置されるような事態を防ぐということでいうと、この法案にですよ、そういう対策というのは入っているんでしょうか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) リース特区で入ってきた法人が撤退をしていくという場合には、市町村との合意の下でそのリース契約が解約されるというふうになろうかと思います。その上で、この制度は制度でそのまま続くわけでございますので、市町村が農地の返還を受けて新たな受け手を探した上で貸し付けるという仕組みになりまして、この制度のねらいとする耕作放棄地の発生防止はその新たな受け手によって達せられると、こういう仕組みになろうかというふうに思っております。
○紙智子君 そういうふうに言われるんですけど、その参入法人が撤退する場合に、農地を元の所有者に返すわけにもいかないと、そして結局耕作放棄地に戻ってしまう可能性も生じるわけです。何らかの協定違反が発生して協定を解除した場合、同様に、返還された農地をだれが管理するのかっていう問題が生じてきます。
 耕作放棄地対策だっていうふうに言うんですけども、場合によっては耕作放棄地をかえって増やしていくっていうことにもなりかねないんじゃないかと思いますけど、そういう心配しませんか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) まず、この制度は、ほっとけば耕作放棄地になりそうだというところに農業生産法人以外の一般の株式会社の人に来ていただいて管理耕作をしていただくと。それがなくなったら元の状態に戻るわけでございます。だから、余りうがった見方をされぬようにですね。ほっとけば耕作放棄地になりそうなところに、次善の策なんですけども、管理してくれる者に来ていただくという制度ですから、それは、この制度がなかったよりもあった方が耕作放棄地が広がるということにはならないんじゃないかというふうに思っております。
○紙智子君 ただ、協定解除、撤退ということになったら、次の借り手が見付かるまでは結局合理化法人がこの農地を管理耕作することになるわけですよね。しかし、その合理化法人の状況というのは今非常に厳しいですよね。地方行革で予算も削減されると、人件費も削られていますし、事業推進体制に影響が出ている。今でさえも、中山間地を中心に、受け手のない農地の管理耕作が重い負担になっているわけです。これに一層拍車を掛けることになりやしないかと。耕作放棄地の企業参入先にありきっていうことになると、これは本当の解決にはつながらないというふうに思うんですよ。
 ちょっと時間にもうなりますので、最後ちょっと言わせてもらいたいんですけども、今回の法案、我が党は反対です。それは、やっぱり農地法を形骸化させる危険性が非常に強いというふうに思うからです。耕作放棄地の対策として、今、やってくれるところだったら企業でもどこでもいいという声も確かにあることは知っていますけれども、農地制度に穴を空けるようなことはすべきでないと思うんですよ。ずうっとこの間例えば経済同友会なんかは言ってきたのは、農地法を全面的に改正せよと、それで株式会社に農地を取得させることを求めてきているわけです。ずうっとそうですよね。そういう中で、そこに道を付けることになるんじゃないかと思うんです。
 で、今回視察した勝沼ですけども、いろいろお話聞いて、非常にそれは、夢を語り本当に情熱を持ってやっておられると思ったわけですけれども、自らもブドウを作る農業生産法人になってやってきているわけですよね、この間。現在特区に参入している地域に密着した企業というのは、やっぱり農家の出身者が多いんだと思うんですよ。だから技術も、作物をやっていく技術もちゃんと身に付けているし、そういう中で、農業生産法人を立ち上げて農地を取得するっていうことも難しくないと、ないはずだと思うんですね。あえて農地法に穴を空けることをしなくても、農業生産法人に誘導していくべきだと思うし、それを支援するのが本当じゃないかというふうに私は思うんです。
 それで、これに関連しての続きは次の委員会でやりたいと思うんですけども、そのことを再度申し上げて、私の質問を終わらしていただきたいと思います。