<第162回国会 2005年3月17日 参議院農林水産委員会 第3号>


 平成十七年三月十七日(木曜日)
   午後一時三十一分開会

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本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農林水産に関する調査
 (畜産物等の価格安定等に関する件)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 最初に、農水省は、本日の審議会に加工原料乳の限度数量の引下げを諮問しました。これは北海道の酪農家にとっても大きな打撃になります。
 脱脂粉乳の在庫が過去最高の水準というわけですけれども、これは二〇〇〇年に雪印のあの食中毒事件が起きて、それを契機にして急激に需要が減っていると。しかし、この粉乳調整品ですね、この輸入が年々増大をして定着してきていると。毎年、脱脂粉乳の換算で約四万トンが輸入されているんですね。加工原料乳の限度数量を引き下げれば輸入に置き換わる可能性もあると。
 新たな基本計画の案では、一五年までに生乳生産量を八百四十万トンから九百二十八万トンへと増産する方針を打ち出しているんですけれども、これでは際限のない生産縮小になるんじゃないでしょうか。
○政府参考人(町田勝弘君) 脱脂粉乳につきましては、十六年度末で九万二千トンということで、消費量の約半年分以上を上回る量の在庫があるということでございます。
 これにつきましては、生産者団体自ら二万トン対策、今年やっているわけでございますが、その中身は、今お話がありました粉乳調整品、輸入が入ってきております。これを価格を安くすることで輸入調整品に置き換えていこうと、こういった対策を講じているというふうに承知いたしております。
 また、それに価格が下がることに伴います低下分の八割につきましては、いわゆるならし事業ということで国と生産者がそれぞれ負担をして支援、国については支援をしているということでございます。
○紙智子君 加工原料乳の補給金、十二銭引下げになったわけですよね。いろいろな対策という中にチーズの対策拡充したということもあると思うんですけれども、しかし、聞きますと、チーズへの奨励金引き上げたといっても、そこに向けた乳価というのはキロでいうと四十円から五十円ですよね。例えば十円とか十二円の上乗せをしたとしても、手取りでいえば加工原料乳には及ばないと。生産者は輸入調整品との置き換えのために、お話もありましたけれども、既に負担を出してやっているわけです。全体としては酪農家の手取りの収入というのはやはり減少にならざるを得ないと。コストの削減、それからこの間、ふん尿処理のための施設の整備に非常にお金を使ってきていて、規模拡大のための投資も行ってきている農家にとっては大変大きな打撃になるんですね。
 こういう点で、やっぱり非常に大変じゃないかと、そういうふうに御認識ありませんか。
○政府参考人(町田勝弘君) 脱脂粉乳の過剰在庫につきましては、現在でも乳業メーカーの大きな負担になっているというふうに考えております。
 仮にここで限度数量を需要を上回るような形で設定いたしまして生乳生産を行いまして、脱脂粉乳の在庫は更に増加するということになりますれば、乳価の引下げ圧力、また一層強まるということで、私ども、かえって生産者の所得の減少につながるおそれがあるのではないかというふうに考えておりまして、今後需要の伸びる可能性のありますチーズ等、そういったものへの仕向け、これを増やしていく、そういった方向で考えているということでございます。
○紙智子君 伸びる可能性という話もありましたけれども、実質的にはやっぱり大変な状況というのは変わらないわけで、そこはよく状況も踏まえて支援をしていただきたいというふうに思います。
 それから、乳用種の肉用子牛の補給金のことなんですけれども、今回算定方式が見直されました。大規模な育成農家のコストの削減と、それから農産物の統計によるぬれ子の価格、これを反映させた結果として、保証基準価格というのは大幅下げの諮問になっていると思うんですね。
 乳用種の育成農家には一万頭を超えるところから小規模なところまで、いろいろと幅があるわけです。今の育成農家は補給金でようやっと経営が成り立っているわけです。大規模な農家に合わせてコストを計算して大幅に引下げということになれば、農家戸数でいえば多数を占めている中小の規模の育成農家というのはこれやっていかれないことになるんじゃないでしょうか。
○政府参考人(町田勝弘君) 今回の乳用種の保証基準価格の算定の見直しでございますが、昨年、十六年度の価格決定に当たりまして、政府の方の審議会からこれを実態に合わせて見直すべきという建議をいただいていまして、私ども、それに踏まえて算定の見直しを行ったところでございます。もちろん、この保証基準価格の算定に当たっては、再生産の確保を旨としてやるという法律の規定もございますので、それに沿って算定をしているところでございます。
 御指摘いただきました大規模だけの統計というか、そういうふうになっているのではないかということでございますが、私どもは、大規模だけではなく頭数規模別のウエート、加重平均をして使っておりますので、したがいまして、小規模層、コストが比較的高い方の値も含んでいるというふうに承知いたしております。
○紙智子君 現場を踏まえておられるのでしょうか。この保証金の価格が大幅に下がっていきますと、ぬれ子の価格も下がることになるんですよね。やっぱりいろいろなバランスを取りながら、足りないところはいろいろ補てんをしながらやっているわけですけれども、酪農家の経営にも影響していく問題なわけです。和牛とホルスタインとを掛け合わせてF1というようなことで生産がこの後更に増えて、酪農の生産基盤を崩しかねない問題にもつながりかねないと。
 そもそも牛肉の輸入自由化の代償措置としてこの農家経営を維持するために導入されたものなわけでしょう、この仕組みそのものが。その補給金は、やっぱりそもそものこの導入のことからいっても、下げるべきでないというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(町田勝弘君) 今回の算定によって酪農家から供給されるぬれ子の価格が下がるのではないかという御指摘でございますが、私ども、ここ十年ぐらいの統計を見てみますと、ぬれ子の価格というのはこれまでも、保証基準価格というよりは、むしろ子牛価格、枝肉価格、こういったものに連動いたしております。また、ぬれ子の販売収入というのは、これは酪農経営におきましては副産物でございまして、全体の収入に占める割合は二%程度ということでございます。こうしたことから、そう酪農家に大きな影響があると、そういうことはなく、影響は限定的であるというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 何かもう全然現場の状況って聞いておられるのかなというふうに、もうさっきから全然影響がないというようなことをおっしゃるんですけれども、現場へ行って歩いてみたら大変だという話が出てくるわけですから、そこはやっぱりちゃんと見ていただきたいというふうに思うんですね。
 それから、続けて行きますが、新たな食料・農業・農村基本計画の案の中で、我が国のこの農業生産全体の在り方を環境保全を重視したものに転換することを推進しと、農業生産活動に伴う環境への負荷の軽減を図るというふうにしています。これは畜産・酪農経営において特に重要な問題になってきていると思います。
 北海道の酪農地帯でも、このコスト削減に追われて、多頭化し搾る量をいかに増やすかということで追求されている中で深刻な状況が生まれているんですね。
 多額の資金を投入して例えばふん尿処理の施設を整備しても、北海道で寒い、寒冷地ということもあってなかなか、何というんですか、温度の関係でコンクリートの中でなかなか完熟していかないというか、だから生のまんまということなんですよね。だから、本当は環境のためにということでそれを整備しようというんだけれども、実際に生のまんまというか、まかざるを得ないというか、そういうのはもう実態としてはあちこちから出されるわけです。本来の趣旨からいえば、これは違うんじゃないかということで出されるわけなんです。そういう方向で努力するということはみんな一致してやっているわけですけれども、現場はそうなっていると。なかなか発酵しないと、それで飼養規模に見合う施設が造れないで間に合わない状況になっているわけです。堆肥にしなきゃいけないわけだけれども、こういう環境汚染、逆にそういう形でどんどんまいていきますと汚染になるんじゃないかという心配の声も出されているんですね。
 農水省のやり方はふん尿を隔離するだけじゃないかと、こういう批判の声も上がっているんです。ふん尿処理の対策について主産地の農業の関係者から、やっぱりちゃんと循環させるためには、北海道のように土地の制約がないところですけれども、そういうところは草地に対しての頭数の制限というのもやっぱり必要なんじゃないかということなんですね。環境や安全や国土保全を考えると欧州のような仕組みが必要じゃないかと、例えば一頭につき一ヘクタールの草地が必要だという、こういうふうなことなんかも意見として出されているわけです。
 それで、新たな酪肉近代化方針も策定されるんですけれども、この環境保全型、持続可能な酪農経営形態がどういうものであるのか、そういう経営を増やすためには農水省としてどのように支援していくのか、是非具体的に示すべきじゃないかと思うんですけれども、これ、大臣、いかがでしょう。
○国務大臣(島村宜伸君) 御指摘の近く策定いたします酪肉近代化基本方針におきましては、資源循環型の畜産を確立するため、飼料畑を持ち、自給飼料に立脚した経営の育成や家畜排せつ物の適正な管理と利用に関し、基本的な方向を明記することとしております。
 このような基本方針を踏まえ、飼料生産基盤の整備や耕作放棄地の放牧利用、また、耕畜連携による堆肥の利活用などの各般の施策を推進してまいりたいと、こう考えております。
○紙智子君 書いてあることはいいんですけれども、それを実際にやるとなると、現場ではやっぱりなかなかできないできているんですよ。
 何というのかな、実際には、そうなればいいと思っているわけですけれども、そのコストをもっと下げなきゃならないと、そうするとやっぱり飼う頭数を増やさなきゃいけないというようなことで、なかなかやっぱり生活をやりくりするということで考えればそのとおりになっていかないというか、言っていることが、アクセルとブレーキを一緒にやられているようなものだという声もありまして、もっとやっぱり踏み込んで、具体的にどこで詰まっているのかという、その打開しなきゃならないところはどこなのかということでやらないと、せっかくこの示す方向はいいんですけれども、それが実行されていかないということになると思うんです。
 最後に、ちょっともう一問お聞きしたいんですけれども、欧米や韓国で取り組まれている環境支払制度、この導入によって環境の負荷を減らしていくと、こういう農業経営への転換を誘導していくというのが今日ますます必要になってきているというふうに思うんです。
 酪農では土地利用型の酪農推進事業が環境に対する負荷を軽減をして自給飼料の生産体制の維持のために実施されているわけですけれども、加工原料乳に限ったもので、しかも、農水省の一般会計でなくて農畜産振興事業団による関連の対策ですよね、やられているのは。で、〇五年度限りの制度になっていると。これをやっぱり、事業団で関連で五年だけということじゃなくて、やっぱり環境保全に対する位置付けといいますか、直接支払として位置付けて、欧米でもやっているわけですけれども、畜産全体に広げて制度化するということを農水省として検討すべきじゃないのかと思うんですけれども、これ、大臣、いかがでしょう。
○国務大臣(島村宜伸君) 私ども、こうして御答弁申し上げる際にも、誠実にお答えすることと、もう一つは事実に即してお話しする、さらにはまた議事録にも余りいい加減な言葉が載るといけないんで、努めてその辺は努力をしているところであります。
 また、こうした基本は、私どもも、我が党も、今、公明党さんと連携をしておりますが、それぞれの意見と知恵を持ち合って、それでかんかんがくがく、いろいろもみにもんで初めて方針が決定しているところでありまして、例えば中川委員長を始めとして専門家は党内にもたくさんおられるわけですから、そういう意見が言わば盛り込まれて初めて政策が立案されていると、そういうことでございますんで、まず御理解いただきたいと思います。
 また、今の御指摘のことにつきましては、自ら飼料畑を持ち、飼料を自給する酪農・畜産は、家畜排せつ物を飼料畑に還元できることから、環境の保全に役立つものであり、これを振興していくことがまず重要であると、これを基本的に考えております。
 また、飼料畑を自ら持つ酪農経営を育成するために、平成十一年度から飼料作物の作付面積を基準として定額の奨励金を交付する事業を実施してきているところであります。本事業は十七年度までの実施となっていることから、今後、酪農・畜産分野における環境保全や飼料生産基盤の強化につながるよう、その在り方につき検討していきたいと考えております。
 なお、いろいろ御提言をいただくことにつきましても、我々は謙虚に耳を傾け、導入可能なことやあるいは我々の気が付かない点に御指摘をいただいた場合には、これらを誠実に受け止めて検討の中に入れていきたいと、このことを申し添えたいと思います。
○紙智子君 終わります。