<第161回国会 2004年11月18日 農林水産委員会 第3号>


第161回国会 農林水産委員会 第3号
平成十六年十一月十八日(木曜日)
   午前十時開会

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本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農林水産に関する調査
 (台風、地震等による被害状況と対応策に関する件)
 (農政改革の方向性と食料・農業・農村基本計画見直しに関する件)
 (BSE対策と米国産牛肉輸入再開問題に関する件)
 (韓国漁船不法操業問題に関する件)
 (植物新品種育成者権保護に関する件)
 (最近の野菜価格の急騰問題に関する件)
 (松くい虫防除対策に関する件)
 (農業共済制度の在り方に関する件)
 (有機農業の推進施策に関する件)
 (森林・林業政策の在り方に関する件)
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○紙智子君  日本共産党の紙智子でございます。
 食料・農業・農村基本計画の見直しの作業が大詰めを迎えているわけですけれども、農水省が出している政策の対象とする担い手について、多くの農家あるいは関係者の皆さんから非常に不安が出されています。これでいくと圧倒的な農家が切捨ての対象になるんじゃないのかということなんですね。
 そこでお聞きするんですが、農水省は今度の政策で、担い手は認定農業者、特定農業団体であるとともに、担い手というからには、他産業並みの五百三十万円の年間所得が得られることが必要だと、ということで数字も出して、そのために必要な経営規模も示しているわけですが、五百三十万円の所得を確保できる経営規模の農家というのは、現在、都府県でいいますと三%程度しかないわけですね。基本計画がこの政策対象として位置付けている担い手について、これらの数字が要件となるのか。それから、経営面積等による一律の要件を設けるんでしょうか。いかがでしょう。
○政府参考人(須賀田菊仁君) まず、五百三十万円という試算をしたわけでございます。これは、現時点で、他産業並みの生涯所得を上げ得るような農業経営が年間どのぐらい所得が必要かということで、一応試算として五百三十万円を試算をしたわけでございます。
 先生おっしゃるように、現在これを満たすのは三・数%でございます。私どもは、そういう他産業並みの所得を上げ得る経営を目指す経営、これを担い手として位置付けていきたいということでございます。
 公的資金を使って施策を集中をしていくということでございますので、認定農業者を基本にいたしまして、経営規模や経営改善の取組等を要件化しろというのがさきの中間整理の内容でございますので、ある程度の経営規模、経営改善の取組というのを要件化をしていきたいというふうに考えております。
○紙智子君 一律の要件というのを設けるんですかという質問です。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 一律というのが、難しいんですけれども、例えば、内地だって二毛作地帯もあれば二年三作地帯もございますし、裏作ができないところもございます。そういう営農類型別の、それから作ります作物も多様でございますので、できる限りの多様性を吸収できるような仕組みにしたいというふうに思っておりますけれども、骨格になるところは何らかのガイドラインとしての要件を設けていきたいというふうに考えております。
○紙智子君 そういうお答えなんですけれども、現在すべての生産者が対象となっているこの価格対策、経営安定対策というのは廃止をすると。新たに、一定規模以上の担い手を対象とした経営安定対策、品目横断的対策を作ることになるわけですね。
 それで、須賀田経営局長は十月の十五日のこの企画部会で、米政策から二歩も三歩も改革を進める必要があるんだというふうに言われていますよね。企画部会の資料で言いますと、経営安定対策の対象となる担い手について、他産業並みの年間所得五百三十万円を確保できる経営規模を要件として一定の幅を設けるということも書かれているわけです。
 となりますと、新たな経営安定対策の対象となるには、認定農業者と特定農業団体である上にどのような面積要件を付けていくのか。米改革から二歩も三歩も進めるということは、今、北海道で十ヘクタール、それから都府県で四ヘクタールという基準なんですけれども、これどの程度の引上げを考えておられるんでしょうか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 私ども、この経営安定対策となる担い手の経営規模等の要件でございます。今、先生おっしゃいましたように、現在の米政策で担い手経営安定対策が北海道十ヘクタール、都府県四ヘクタールを基準にしております。これは、構造展望で言います他産業並みの所得を上げ得る経営の約二分の一の規模でございます。
 十六年度からこの担い手経営安定対策を含みます米政策改革を進めておりまして、この品目横断経営安定対策は十九年から今のところ開始を予定をしております。したがいまして、この十ヘクタール、四ヘクタールで進んでおります米政策改革がどのような進展を見せるか、こういうことも踏まえながら要件をこれから決めていきたいと考えております。
 考え方としては、現在、米政策改革がございますので、これが進展するということを見込みまして、私は一歩でも二歩でもということを企画部会でお答えをしたわけでございます。
○紙智子君 そうすると、米改革の水準よりは後退するものじゃないということですよね。
 じゃ、続けて。
 経営面積で線引きをして農家を選別するということによって一体どれだけの農家が経営安定対策の対象となって生き残れるのかどうかと、これは非常に重大な問題だと思うんです。
 農水省は、米改革よりも構造改革を後退させることはあり得ないというふうに今おっしゃったわけですけれども、現在、米の担い手経営安定対策に、じゃどれだけの農家や経営体が加入できているんでしょうか。水稲の作付面積ではどの程度になるんでしょうか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 十六年から取り組んでおります米の担い手経営安定対策の加入状況、現在、加入者数が三万人、加入面積が十六万ヘクタールでございます。単純に割りますれば、五ヘクタールちょっとということになろうかと思います。
○紙智子君 今、三万人というふうにおっしゃったわけですね。北海道十ヘクタール、都道府県四ヘクタールという現在の基準でさえも約三万軒の米農家しかないわけですよ。これは稲作農家の二%にしかすぎないということですね。そして、稲作、水稲面積、作付面積の一割程度しかないわけです。今後、加入者が増えるということなんですけれども、今のこの基準、北海道十ヘクタール、都道府県四ヘクタール以上の販売農家をすべて合わせても、二〇〇〇年のセンサスで見ても十万戸にしかならないわけですね。新たな経営安定対策の対象というのはこの基準を数段引き上げようというふうに言っているわけですから、そうすると対象農家というのは十万戸からは更にもっと絞り込まれることになるんじゃないでしょうか。いかがでしょう。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 私ども、この考え方として、品目横断の経営安定対策の対象となります担い手を、認定農業者制度を基本にして一定の要件を有する個別経営、法人経営と、もう一つは経営主体としての実体等を有する集落営農、二つを考えておるわけでございます。
 確かに、先生おっしゃいますように、現時点、センサスで言いますと、北海道十ヘクタール、都府県四ヘクタールは十万戸程度でございますけれども、認定農家は十九万戸ございますし、卒業生も三万戸ある。さらに、その認定農家の予備軍も十九万ぐらいあるということでございますんで、一段の努力をしていただいて、さらに集落営農ということで、集落単位で合意を形成をしてこの集落経営体に取り組むという努力をしていただければ多くの方がこの担い手の対象になるんではないかというふうに期待もし、御支援もしていきたいというふうに考えているところでございます。
○紙智子君 期待をしているという、これからですね、増えていくという期待もしているということなんですけれども、本当に確信持ってそういう方向になるのかというふうに思うんですよね。
 例えば、土地の流動化ということもあるわけですけれども、農地を例えば今まで続けるということでは大変だということで手放して、その担い手に集中しようと、そういうことで手放す農家が増えたとしても、今、農産物の価格の下落というのは続いているわけですよ。先日、FTAの協定のこともあって、その意味ではこれからさらに価格にも大きな影響も出てくるだろうと。現時点で農地を拡大できる余力を持っている農家というのが実際どうなのかと。余力持ってないんじゃないかというふうに思うわけです。
 現に、農地の集積の増え方のテンポってどうなっているかというと、農水省のこの資料で見ても、九八年までの農地のその集積の増え方というのは八万ヘクタール、八万ヘクタールぐらいの増え方で増えていっているわけですけれども、二〇〇一年以降で言いますと、それがぐっと減りまして三万ヘクタールぐらいにぐっと縮まってきているというような状況に落ち込んでいるわけですよね。ですから、そういうことから考えますと、現実的に見て、どう考えてもこれ本当にできるんだろうかというふうに思わざるを得ないわけです。
 それで、約一万あると言われている集落営農の組織のうちで、担い手と認定する特定農業団体になった組織というのは百二十にすぎませんよね。で、水田作、畑作農家で約二百万戸のうち、そのほとんどの農家というのは、現在の大豆とか麦とかてん菜等の助成金、これは廃止されたままで、新たな経営安定対策というのは受けられないということになってしまうと思うんですよ。麦とか大豆販売価格だけでは今、肥料や農薬なんかも含めて物財費というのはとても担えない状況になっているわけです。
 実際に、私も北海道で畑作の地域、麦とか作っているところを歩いてきているわけですけれども、今までもこの交付金ね、大豆ですね、大豆の交付金で言うと八千円、それから麦作の安定資金というのは六千円、これだけ受け取って、それでやりくりしてきたという今の現状なわけですから、何とかこれで維持してきたわけですから、いわゆるこの担い手以外の農家というのはこれからこの作物で言えば作れば作るほど赤字になるということになるわけで、圧倒的多数の農家がそうなるとこの麦や大豆等の生産を続けることが困難になると。そうすると、国産の生産の大幅な後退ももたらすんじゃないかというふうに思うわけですけれども、この点いかがでしょうか。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 幾つかの御質問がございました。
 まずは、経営安定対策といいますのは、先生おっしゃったように、経営の大きな受け手になるような経営が価格が下落するんで将来展望が持てないんじゃないかという御質問がございました。
 正にそういうことでございますので、担い手の経営の安定を図るべく、価格が下落したときには一応一定の補てんをする、あるいは担い手に集中をして直接的な支払をする、こういうことによって経営のセーフティーネットを作って、担い手については経営が安定するようにして、ほかの経営資源がそこへ集中するようにしようというのが今度の経営安定対策のねらいでございますので、正に担い手の経営の安定を図る仕組みでございます。
 それから、担い手以外の人はつらいじゃないかというお話でございました。正に、その担い手以外のままでおられますと、それはそういうことになるわけでございますけれども、私どもは、今担い手の要件を満たしてない方も、いろいろな器を用意してございますので、担い手になるべく努力をしていただきたいということを第一義に考えております。
 ただ、兼業所得で例えば家計費を賄えるような人はこの担い手の方へ土地を出すことによって担い手の育成に協力をしてほしいと、このようなことも考えているわけでございます。
 そして、麦、大豆のお話がございました。麦、大豆、現在そのほとんど加工用に仕向けられているわけでございまして、国産の麦、大豆の大きな問題点といたしまして、品質とか価格の面で実需者のニーズに合わない、ミスマッチが生じているという問題がございます。麦については売れ残り、大豆については価格が下がるという問題がございます。
 こういう問題を解決をしてその生産の振興を図るには、どうしても大きな生産単位で高品質で安定的な価格で供給することが必要になるわけでございますんで、そのためには、担い手によって広範に生産が担われるというような強靱な生産構造の下にそういう振興が図られるのではないかというふうに考えておりまして、この点について先生方の御理解も得たいというふうに考えているわけでございます。
○紙智子君 今のお話を聞いていましても、いわゆる担い手と言われるところから外れる人たちに対しては、結局、いろいろな枠と言うんですけれども、本当にじゃそこが成り立つようなことというのは考えられているのかといえば、とても今の話からはそういうふうに思えないわけですよね。
 それから、麦、大豆、ミスマッチという話もありましたけれども、結局、麦、大豆だけに済まない問題になってくると思うんです。麦、大豆で合わないということになると、これ作らないと。それで、それはやめて米作りに流れるということだってあり得るわけですよね。そうすると、今度は米の生産調整が崩れて、米が暴落して、この米の生産にまで影響を及ぼすことになるんじゃないかと。で、もう農業は続けられないという人たちが農業から撤退すれば、これは地域を荒れさせるし、地域が崩壊することにつながるんじゃないかというふうに思うんですよ。
 そこで、ちょっと大臣にもお聞きしたいんです。
 今、例えば島根県議会などは基本計画に小さな農家の明確な位置付けを求める意見書を採択をしています。
 それから、農業新聞、今日のこの農業新聞にも載っていますけれども、今日じゃない、昨日かな、もう少し前ですけれども、農業新聞の中にも載っているんですけれども、農家に対する意識調査をやっているんですね。
 そうしたら、その中では、担い手に農業施策を集中することが適切だとする回答というのは一五%しかないんですよ。小規模や兼業にも配慮すべきだというのが五四%、それから集落営農も広く位置付けて積極的に支援すべきだというのが二六・七%、専業農家でも担い手への政策集中を支持したのは二一%なんですね。
 これは、やっぱり地域農業も、農地も農村の地域の機能もやっぱり一部の大規模農家だけでは到底維持できないんだと、それはもう農民、農村ではもう常識なんですね。だからこういうふうな結果にもなっていると思うんです。
 そこで、大臣、これらの声をどのように受け止められるのかということを是非お願いします。
○国務大臣(島村宜伸君) 改めて申し上げるまでもなく、日本の農業の置かれている状況というのは、極めて劣悪な条件の中でこれは立ち行かなきゃいけない、我々はそれを守らなきゃいけない、かつ将来の展望も切り開かなきゃいけない。その背景には、やはり消費者の理解と協力もまたこれ無視できないと。そういうことごとの中で我々もいろいろ苦悶することも多いわけですし、当然のことにいろんな角度から試行錯誤を繰り返しつつ、将来の展望を開こうと努力をしているところであります。
 そういう意味では、言わば品目横断的な経営安定策はいかにあるべきか、いろいろ我々なりにやっているところですが、結論的にはやはり農業生産の相当部分を占める強靱な農業構造を構築するということに尽きるのであろうと、そんなふうに思います。
 その意味で、現状を率直に申し上げると、国産の麦、大豆は品質や価格の面で実需者のニーズに必ずしも合致しているとは申せないわけでありますし、いわゆるミスマッチが指摘されているところでありまして、これらについての内容の改善もさることながら、担い手により広範に生産が担われるようになれば、大きなロットで均一、高品質かつ安定価格での供給が可能となる、こんなことから現在は一つの方法として考えられているのが我々の認識であります。
 さはさりながら、これでよいというものは必ずしもあるわけでないわけですから、常に謙虚に、言わば現実を踏まえ、将来に向かって、農業者が確信を持って農業を営めるような環境を維持することを大前提にこれからも努力をしていきたい、そう考えてございます。
○委員長(中川義雄君)
 本日の調査はこの程度にとどめます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後一時三十二分散会