<第159回国会 2004年6月3日 農林水産委員会 第19号>


平成十六年六月三日(木曜日)
   午前十時一分開会
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本日の会議に付した案件
○理事補欠選任の件
○政府参考人の出席要求に関する件
○農業協同組合法及び農業信用保証保険法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

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○紙智子君 では、続きまして、今の宮本議員の後を続きまして、農協法の問題について質問させていただきます。
 農協の改革については、広く国民の声を反映することが重要だというふうにされています。政府の経済財政諮問会議などでも議論がされてきたわけです。この中で、経団連の奥田会長ら財界の委員は、農協が独占的な地位にあることで新規参入が抑制されているとし、独占禁止法の適用除外になっていることを問題にしています。そして、他の業者との同等の条件での競争や経済事業の抜本的な見直し等をいち早く要求してきたわけです。財界も農協改革について主張しているわけですけれども、大臣は、この財界のねらいについて、それがどこにあるかというふうにお感じでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 経済財政諮問会議、民間議員が御発言と、今御指摘もありましたとおり、独占禁止法の適用除外制度についての問題提起、これがされたところでありまして、農協等が行う共同購入あるいは共同販売等の活動はその本来の事業であることから、同制度の意義は今日でも依然私は高いものと、こう思っております。
 しかし、そのような御指摘を受ける、いろいろ不公正な取引と、こういうことにつきましては独占禁止法が適用されているところでありまして、その独占禁止法違反、こういうことが生ずることのないよう公正取引委員会に対しましても連携して厳正にチェックをしてまいりたいと、このように考えております。
 さらには、農協が、それだけでなしに、やはり生産者あるいは消費者のニーズに沿うような、また時代に沿うような農協の使命を果たされるようにいろいろの考え方が披瀝をされたんではなかろうかと、こう思います。
○紙智子君 ちょっと今質問した中身に対してなかなかお答えになっていないようなんですけれども、経済財政諮問会議で、この議事録あるわけですけれども、この中で例えばウシオの会長さんが言っておられるのは、農協は米以外でいろんなことをやっている、しかし、日本の商社はほとんど入れず、利益は農協の独り勝ちになり、農民は保護に頼っている、この意味で農協が独占禁止法の適用除外になっているのも問題だと。これは平成十四年の二十五回経済財政諮問会議、ここでウシオ電機会長がこういう発言をされているわけです。
 そのねらいが、結局、農協の事業に大企業が割り込んでいって利益を上げていくということにあるというのが明らかに示されているというふうに思うんですけれども、そういうねらいがあるというふうに思いませんか。財界の側のねらいということを聞いたんです。
○国務大臣(亀井善之君) 必ずしもそういうことではないんではなかろうかと。農協は農協として農協の組合員のためにいろいろな仕事をするということが使命でありますので、農協もやはり組合員の生産活動等々にどう対応することがよろしいのかと。
 それは、経済界なり一般の方がそういう御発言をされる、それはその御発言かと思いますけれども、私は、農協は農協の役職員一体となって農業者のニーズに合う、そのようなことをするわけでありますから、私はそれは発言は発言として、ただねらいは、必ずしもそういうこと、それ以上に私は農業者がしっかり、農業者のためにやることが私は必要なことじゃなかろうかと、こう思います。
○紙智子君 農協がその農協の元々の役割に基づいてやる、そのことを否定しているわけじゃなくて、財界のねらいがどういうふうにあるかということをどう大臣が感じられているかということを私聞いたんです。それはそれとしてという話なんです。
○国務大臣(亀井善之君) 財界の人がそういうことをどういうねらいでおっしゃっているかというのは、これは私も分からない話であります。それぞれの立場でおっしゃるわけですから、必ずしも大企業はそれをやろうと、こういう意識をお持ちになっているのか。現実に農家の皆さん方とのお仕事をする関係でそんな簡単なものでは私はないんではなかろうかと、こう思います。
○紙智子君 農協が米以外にもいろいろやっている事業に言わば大企業も参入していきたいと、それをやろうとすればいろいろ邪魔になるというようなことが露骨にやっぱりこういう発言の中に現れているというように私は思うんですよ。
 問題は、やはりそういうことを発言されていることなんかもきちっと直視して、やっぱり本来の、農協の組合員に奉仕する農協組織の協同運動ですね、そこを高めてやはり発展させていく、協同組合としての事業を守り発展させていく、そういう立場での支援が重要だというふうに思うんですよ。
 ところが、昨年三月の農協のあり方についての研究会、この報告書出ていますね。この報告書の中でも、資料の中にありますけれども、選択と集中、そして一般企業と競争して勝ち抜くようにということが書いてあったり、競争力のないものは撤退するんだという形で競争をあおっているわけです。営利本位に農協の事業を変えていこうとする方向がこれ強められているんじゃないかというように思うわけですけれども、農水省としてもこの報告書にあるような方向で進めるということなんでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今後の農協運営を考えました場合に、農協、いろんな総合事業体として存在しておりますけれども、やはり利益を上げるのを目的とする団体ではございませんけれども、赤字であっていいということではございません。そうしますと、健全な経営を図っていくという上からは、経済事業につきましてやはり全般的な見直しを行い、組合として今後ともしっかりやるべき話、あるいは組合以外のところにゆだねるべき事業、そういうものをもう一回抜本的に見直しをするということでございます。そしてまた、信用事業なり共済事業、こういったものに今依存している体質でございますけれども、そこでの収益がなくても成り立つ経済事業、こういうものを今後確立することが必要であろうと思っております。
 現在、この利用状況を見ますと、先ほど言いましたように、健全化の観点から、やはりその選択と集中という考え方は、基本的にはこれをベースに考えていくべきものと思っておりますし、そういった運営の見直しの中でいかに組合員へのメリットを最大限確保していくかと、こういう観点で今後しっかり健全化を図っていただきたいと思っております。
○紙智子君 大臣もこの経済財政諮問会議に出席をされていると思うんですけれども、その中で、大臣の側から出している資料の中にも農協改革についてということで出しているものがあるわけですけれども、その資料の中身を見ましても、例えば全農の生産資材事業は競争力のあるものに特化というようなことが書いてあったり、あるいは農協の経済事業で黒字化できない事業から基本的に撤退ということがこの中に書いてあるわけです。
 これでいきますと、やはり農協法の第八条、ここには、組合はその行う事業によってその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的として、営利を目的にその事業を行ってはならないというのが第八条、農協法の第八条にあるわけですけれども、これとも反していく方向になるんじゃないかと思うんですね。
 もちろん競争はあってもいいと思いますし、赤字を克服するということ、これは当然必要なことだというふうに思います。しかし、今、信用事業や共済に頼ってという話があったんですけれども、信用事業や共済の利益を回して赤字の部門に補てんして、全体としてやっぱり組合員の営農や生活を守るということのためにそれを回していくということも、農協の在り方、形としてはそれは当然あり得ることだというふうに思うんですよ。一般企業と競争して利益が上がらないところは撤退なんだと、そういうことを言うことによってやっぱり協同組合としての本来の農協の性格からそれていくんじゃないか、そして組合員のニーズにこたえられないということになるんじゃないかと思うんですけれども、大臣、この点はいかがでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) それぞれの農協、全体としての組合員のニーズにこたえる対応、それは信用事業あるいは共済事業、経済事業とそれぞれあるわけでありまして、今、委員からのお話のとおり、すべてそれが赤字になってしまうからそれから撤退するんだと、これでは農協の使命というのは果たすことはできないわけでありまして、それはやはり営農の問題も、信用、共済、経済事業、パッケージでいろいろやらなければならないと思います。
 ただしかし、やはり赤字になる、それはそういうことが解消できるようないろいろの経営努力をやはり一方ではやらなければならないわけでありまして、そういう面で組合員の負託にこたえる経済事業、経済事業につきましてはそういう不断のやはり努力が必要ではなかろうかと、このように思います。一概にそれが赤だからといってそれから撤退というのは、これはやはり組合全体、組合員のこと、また十分考えて対応しなければならないことじゃなかろうかと思います。
○紙智子君 今、大臣が答えられたことというのは、私は当然のことだというふうに思うんですね。
 それで、さらになんですけれども、今度の法案でいいますと、全国農協中央会が組織や事業や経営指導に関しての基本方針を定める、これを都道府県の中央会が各農協に守らせていくということになるわけですけれども、この中には全中が定めた経済事業改善指針も入るというふうにされているわけです。それで、大臣も最近発表した農政改革基本構想でその指針の法的位置付けについて明確にするというふうにしているわけなんですが、自主的な組織がそういう指針を作って実行するのはいいんですけれども、これを法的に明確にするというのは、今までとどういうふうに違ってくるのかといいますか、どういう効果をねらっているのか、これについて局長、お答え願います。
○政府参考人(川村秀三郎君) 全国中央会なり都道府県中央会というのは、その傘下の組合員、会員を指導するあるいは監査を行っていくという権能は現在もあるわけでございます。ただ、昨今の農協を取り巻く状況、経済社会状況をとらえますと、正に系統全体として歩調を合わせて取り組んでいかなければ実効が上がらない。例えば、トレーサビリティー等安全、安心の問題にしましても、どこか一つの農協が問題を起こしますと、これが系統全体の評価につながって不信感につながっていくと、こういったことも多々あるわけでございます。
 そういうふうになりますと、やはり全国の系統組織が足並みをそろえて改革に取り組んでいくという共通な事項もあるわけでございます。そういったものについて全国中央会が基本的な方針を定め、そしてまたスケジュール管理もしっかりしていくという意味では、一般的な指導権限があるとはいっても、やはり法文上、そういった共通事項、各中央会が連携をするために必要な基本的な指針、そういったものについてはきちんと全国中央会が定めて、そしてまたそれを基に各県の中央会が事業を実施していきますよと、そういうことをより明確に農協法上位置付けた方が効果が上がる、またそれを支援する、そういった自主的な活動を支援することにつながるということで、今回の農協法の改正を提案させていただいているところでございます。
○紙智子君 今いろいろ言われたんですけれども、結局そういう方向で指導が厳しくなるということですかね。
○政府参考人(川村秀三郎君) 全中なりの指導が厳しくなるというよりも、むしろそういう整合性が取れた形、それから全国と歩調を合わせてやっていくということがより明確になるということだと思っております。
○紙智子君 この経済事業改革指針、これを見ますと、部門別の収支の均衡、それから子会社や物流、農機、それからガソリンスタンド、Aコープなどの拠点型事業の収支改善について三年間、目標として課していると。それで、三年間の間にいろいろやって改善が図られない場合には廃止などの選択肢もこの中で示されているわけですよね。
 それで、こういう指針が法的に位置付けられるということになりますと、強制力も働いてくると。無理にやっぱり収支を改善しようということで、結局、手数料の引上げをせざるを得ないとか、あるいは人員を削減しなきゃいけない、事業の合理化をしなきゃいけない、廃止しなきゃいけない、こういって、本当はしたくないけれどもそういうふうに追い込まれていく、そういう懸念があるんじゃないでしょうか。いかがでしょう。
○政府参考人(川村秀三郎君) 正に協同組合の目的を達成するということ、これは組合員へのメリットの最大限の発揮ということでございます。これは、先ほど大臣もお答えをされましたけれども、すべて赤字を解消することが目的ではございませんで、やっぱり立地の観点等から見ましても、農協でなければその地域で事業を実施できない、また組合員等がその事業のメリットを享受できないというケースもあります。そういうところは正に組合員に対しましてちゃんと情報を提供し、十分理解と納得を得た上でやっていく。また、できるだけそういった事業であっても効率化を進めていくという観点も必要だろうということで、一律的に現地のあるいは地域の実情を無視して改革を進めるということではないということでございます。
○紙智子君 理解と納得を得てと、そして無視してやるというわけじゃないというふうに言うわけですけれども、しかし国が、選択と集中だ、黒字化できないのは撤退ということで旗振りをしているわけですよね。そういう中で、民間で決める経済事業改善指針を法的に位置付けるということになれば、幾ら納得と理解、状況とかみ合わないことじゃやらないんだといいながらも、実際にはそういうことに追い込まれていくんじゃないのかというふうに思うんですね。
 それで、農協としては、やっぱり地域の特性とかあるいは自主性とか創意性ですね、これを最大限に生かしていかなければならないと思うわけですけれども、例えばそういう追い込まれる中で、画一的にもう収支改善第一主義みたいな形で、さきに言ったような手数料の引上げとか人員の削減とか事業の廃止とか、こういうようなことがやられて、組合員のニーズにこたえられないという事態になりかねないというふうに思うんですけれども、これを防ぐということではどのようにして防ぐおつもりでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 全国中央会がこういった実施方針を作りますし、またそれに応じて都道府県の中央会がされる、そしてまた実行していくという過程があるかと思います。今、委員が御懸念のような事態、こういうことは、やっぱり協同組合の原理原則的な究極の目的、組合員の最大限のメリット、そういったものが本当に阻害されているとか、そういうものがあればもちろん行政としても指導していくことになろうかと思います。
○紙智子君 今、損なわれる事態があればきちっと行政としても指導していくというふうにおっしゃいましたので、そこはしっかり留めておきたいというふうに思います。
 それで、私、この間も農協の関係者の皆さんとも懇談をしてきたわけですけれども、やっぱり農協というのは何のためにあるのかと。やっぱりそもそものところに立って、農協というのは、やっぱり食料生産と供給に責任を持つ、そして組合員や地域の生活環境を守る、そういう重要な役割を果たしているし、そうありたいということを言っているわけです。
 その中には、市場原理になじまない営農あるいは生活相談、それから地域の農業や環境を守る活動もあるわけです。決して農業者の責任でない今の困難といいますか、外圧やあるいは農政、日本の国の農政によってもたらされた困難な農業情勢があるわけですけれども、そういう中で縮小せざるを得なかったというか、そういう販売、購買の生活関連の事業もあるわけで、これらも多少赤字でも何とかやりくりしながら必死に守っていくということで頑張っていると。信用事業や共済の利益を回して、こういう分野に補てんして続けるというのも、言わば組合員の営農や生活を守るということで、そういう農協の当然の姿としてもあるんだろうというふうに思うんです。一定の線を、上から線を引いて、事実上その存続の可否を押し付けるというようなことは私はすべきではないと思いますし、そのことを強く述べておきたいし、一言、最後に大臣からもこのことについて一言いただきたいと思います。
○国務大臣(亀井善之君) やはりこの基本的な指針、そういうものは、これ全国的な農協、そういう中での一つの目標なり、そういう中でいろいろ連携をしていくことは必要なことであるわけであります。
 そしてさらに、やはり都道府県ごとに、あるいは地方によってはそれぞれ創意工夫と。また、いろいろ地域の環境も違うわけでありますから、それぞれのそういう中での対応というものはやはり基本指針、基本方針にのっとり、またそういう中で地域のそのような創意工夫、独自性というものが私は発揮をされることが必要ではなかろうかと。
 そして同時に、一番基本的なことは、やはり事業を進めるにつきましても、組合員の皆さん方の理解がなければこれはできないわけでありまして、執行部の皆さん方もそれを独断でできるわけではないわけでありまして、やはり組合員の皆さん方の理解ですとか、また役職員、執行部、そのコミュニケーション、こういうものも必要なわけでありまして、そういうことが実現されなければ、私は農協の、JAの健全な組合運営というものはできないと、このように考えております。
○紙智子君 終わります。