<第156回国会 2003年6月26日 農林水産委員会 第18号>


平成十五年六月二十六日(木曜日)
   午前十時開会
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  本日の会議に付した案件
○理事の辞任及び補欠選任の件
○政府参考人の出席要求に関する件
○主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○農林水産に関する調査(米政策の改革と水田農業の再構築に関する決議の件)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 先日、六月に行いました参考人質疑によって、この法案の問題点が更に明らかになったと。その点について質問をしたいと思います。
 前回、私、質問の中で、この法案によって米価の下落に歯止めが掛かるのかというふうに質問いたしまして、食糧庁長官の答弁は、生産調整をきちっとやっていただくことが価格の維持、あるいは価格を場合によっては引き上げるということにつながるものだと思っているという答弁がありました。
 確認をしたいんですけれども、今回のこの改革で米の価格維持というのは生産調整の成否に懸かっているということでしょうか。
○政府参考人(石原葵君) 端的に言いまして、生産調整をどのようにやるかということが基本的には米の価格を決めるものと思っております。あくまで価格は需給で決まるということでございます。
 そういうことからしまして、生産調整をどのようにこれから実施していくか、そのための、必ずしも十分でない農業者の意識、それをきちっと意識改革を行いまして、生産調整に積極的に取り組んでいただくということが価格の維持あるいは向上、引上げ、そういうものにつながるものと考えておるところでございます。
○紙智子君 今回の改革について、生産調整研究会の座長を務められた生源寺氏が、今までのような強制力をなくす、生産調整に参加するもしないも生産者次第だ、リスクを承知の上であえて参加しない農業者も認めると、そういうシステムだというふうにおっしゃいました。そして、農業者自身が判断する方式の下で、市場全体の需給バランスが大きく崩れる可能性もこれは否定できないというふうにおっしゃっています。そうしますと、たとえ生産調整に参加している人が生産目標を達成したとしても、生産調整に参加しない人たちが生産を拡大したり、直接販売をして安売りをしたりというような動きが出ることで価格下落が止めることができない、そういう見通しというのもあるということじゃありませんか。
○政府参考人(石原葵君) 今回の米改革ではそういうことにならないようにということで、いろんな手だてを講じているところでございます。
 具体的に申し上げますと、十六年度からの当面の需給調整、これにつきましては、これまでの面積による管理といいますか、面積による調整から数量による調整にこれに転換すると。そういうことをした上で、一つには各都道府県産米の需要実績を基礎にいたしまして、客観的な需要予測に基づく生産目標数量を設定いたしまして、当面は行政ルートでの配分も併せて行うことにより、農業者団体の体制整備を図ると。すなわち、行政ルートと農業者ルートで一緒にやっていくことによりまして、今まで行政ルートで培ってきましたノウハウといいますか、そういうものをきちっと農業者団体の方でもやっていただく、そういう体制整備をしたいということでございます。
 それから、農業者の主体的な経営判断に資するように、需給や価格に関する情報をタイムリーに伝達するということもやらなきゃならぬということでございます。
 それから三つ目には、生産出荷団体等が作成する生産調整方針を国が認定することにしておりますが、その認定にかかわりまして、その作成及び適切な運用につきまして国や地方公共団体が助言、指導を行うということにしているところでございます。
 そして産地づくり推進、四つ目には、産地づくり推進交付金の米価下落影響緩和対策や産地づくり対策は生産調整実施者を交付対象とすると。すなわち、これメリット措置として、生産調整、先ほど、生源寺座長がおっしゃいましたように、もちろんそれぞれ個々の農家の自主的な判断でございますけれども、やっぱり生産調整に参加するとこういうことがあるぞと、そういうメリットをはっきりさせるということで、生産調整実施者を交付対象といたしましてこの米価下落影響緩和対策や産地づくり対策を実施するということにしております。
 それからまた、過剰米が発生したときの対応といたしまして、過剰米短期融資制度により農業者・農業者団体が主体的に豊作による過剰米処理するような道も講じております。
 こういうようなもろもろの措置を講ずることによりまして、農業者・農業者団体が主体的な経営判断により実効ある需給調整を行っていく、そして需給及び価格の安定が図れる体制にしていきたいということで、そういうことでも我々、今回の措置の内容あるいは趣旨、そういうのを十分に農家に徹底いたしまして、農家のやはり生産調整に参加しようという、そういう意識改革、そういうものを醸成したいというふうに考えているところでございます。
 それからまた、その作柄の豊凶等によりましてその価格変動がどのようになるかは非常に想定し難いわけでございますけれども、仮に米価が下落する事態が生じた場合の対応といたしましても、米価下落影響緩和対策によりまして下落幅の一定割合を補てんする、そして担い手農業者に対しては担い手経営安定対策を講じるということで、稲作経営への影響を回避できるものと考えております。
 こういう措置につきましても、あくまでも生産調整に参加した人、そういう人にこういうことをやるということで、農家がその生産調整により取り組みやすく、より取り組もうという意欲がわくようにしているということでございますので、御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 今たくさんのことを言われたんですけれども、実際のところ、そのお話の中でもどうなるかということについては想定し難いというお話がありました。
 言われた対策の中で、例えば過剰米が出た場合どうするかと。これは区分出荷ということで自主的にやってもらうんだということですけれども、区分出荷ということを取ってみても、例えばそれは加工用やえさ米の価格で処分しなきゃいけないということになりますと、生産調整に参加した人がまじめに努力して、努力したと。しかし、そういう人たちにとってはそういう、それでも過剰になったときには安く売らなきゃいけないという事態になると、これは不公平感がますます増すだけじゃないかというふうに思いますし、それからメリット措置ということを言われたんですけれども、しかし、現在示されているメリット措置ということでは現行水準を上回るようなそういうことにはならないと思うんですね。
 今までやられてきた稲経というのは廃止をされると。担い手経営安定対策は、都府県でいいますと四ヘクタール以上ですよね。道でいうと十ヘクタール以上でかつ認定農家という線引きがされているわけですよ。そして集落営農というのもあるんだけれども、これは二十ヘクタール以上と。そのほかにも様々な条件が付くわけですよね、法人化しなきゃいけないだとか、経理の一本化だとかといういろいろなことが付くと。そうすると、圧倒的多数の農民は、そこからは対象にならない、これでどうしてメリットというふうに言えるのかということがもう一つ言えるわけですよね。
 それから、先日行った参考人質疑の中で、水稲の作付面積では全国一、北海道はそうなんですけれども、その北海道でいいますと、担い手経営安定対策の対象にならない場合どういう事態になるかというと、その生産者の方は、もしそこから自分たちのところ外れたとしたならば、もう政府の言うことを聞いていられないと、もう自分で自分の身を守るしかないと、防衛策として、自己防衛のために米作るしかないという声も根深くあるということも言われました。農村を回りますと、やっぱり、我々は国土を守るためのボランティアじゃないよと、生きていかなきゃなんないんだということも出されます。
 政府がやっぱり価格維持の責任を放棄する中で、自分の経営を守る、あるいは自分の家庭を守る、家族を守ると、そういうことで判断することをどうして責めることができるかというふうに思うんですね。
 私は、やっぱりこの間、出してきた農水省の政策がこういう事態に追い込んでいるということを思いますし、参考人質疑の中で、二人の生産者の方のお話聞きますと、今度の中身が現場では本当に理解と納得というのは得られているのかというふうに聞いたら、全く納得が得られていないという回答が出されました。それはお聞きになっていたと思うんですよね。
 それで、この法案がやっぱり全国の農家と生産者に大きな混乱を招くというふうになるのは必至だというふうに思うんですけれども、そう思われませんか。
○政府参考人(石原葵君) 今お尋ねの点にお答えする前に、現在の生産調整の農家の取組、これの状況について御説明しておきたいと思いますけれども、現在の生産調整の仕組みにおきまして、計画外流通米として出荷している農家、こういう方につきましても、こういう計画外の方は一般にこの生産調整に参加していないんじゃないかという誤解がございます。こういう人たちにつきまして我々が調べたところでは、約九割が生産調整に参加しておられます。
 それからまた、今年の二月から三月にかけて、我々、米政策改革に関する意向調査というのを実施しております。その結果によりますと、今後の米の生産調整の取組意向につきましては、生産調整に参加したいという方と、それから、助成制度の具体化を見ながら考えると回答した農業者が合わせて約八割に達しております。特に、この米価下落影響緩和対策、それから産地づくり対策、担い手経営安定対策、こういう助成措置につきましては今回生産調整を実施した者に対象とすることにしておりまして、こういう措置につきましては、最終的に八月末の予算の概算要求時、これまでにきちっと最終の姿を決めたいというふうに考えているところでございます。
 ですから、この最終の姿を見て御判断いただきたいということでございますけれども、我々、よく、今回、今までの措置と比べて今回の措置は劣るんじゃないかと言われますけれども、それは最終の姿を見て御判断いただきたいと思いますけれども、それともう一つ加えて、要するに今までの措置、今までの措置につきましては、要するにメリット措置というのがはっきりしなかったわけですね。要するに、生産調整に参加すればそういう、どういうメリットがあるかということについて今までは必ずしも農業者にとっては明確になっていなかったわけです。
 それを今回は、生源寺さんがはっきりおっしゃったと思いますけれども、あくまで農業者の主体的判断でやっていただくわけです。生産調整に参加する、しない、それを判断していくわけですけれども、そのメリット措置をはっきりさせよう、それでインセンティブを与えようということでございますので、我々は、そういうことを明確に示すことによりまして、我々、少なくとも生産調整の取組が大きく損なわれることがないように思っております。そういうことのないようにしなければならないと考えているところでございます。
○紙智子君 メリット措置ということについては、だから結局は、みんなにそれが行き渡るわけじゃなくて、一部に絞られるわけじゃないですか。そして、その中身もはっきり何かよく分かっていないということがあったということを申し上げたわけですけれども。
 今紹介された、農水省として四月に発表した米政策改革大綱に関する意向調査ですね、この調査は私も見ていますけれども、受け止め方がすごく違うというふうに思って聞いたわけですけれども、その中で、結局、生産調整に参加するのが九割とおっしゃいましたけれども、一割はしないと言っているわけですよね、そういうふうに答えているわけですよね。しかも、四分の一の方がその助成制度次第だというふうに答えていると。
 その助成制度次第だと言うんだけれども、実際にその法案の中に具体的に今回、今回出さなきゃいけないのに、その中身がはっきりしないで生産調整に参加して、そして、転作して経営が守れる保障があるのかということが今の時点でもはっきりしないというようなことなわけですから、こういう状況の中でそのまま、すっきりさせないまま強行することになれば、これはやっぱり現場を混乱に陥れることになるし、米の需給や価格の安定を脅かす、そういうことになるというのは必至だというふうに思うんですね。
 それで、もう一つ、需給バランスを崩して価格の下落、この要因になるのは今の言った問題だけじゃないと思うんです。現在行われているWTOの農業交渉ですね、これ、農水省としてもEU案を支持するということを表明してこられました。EUの関税の引下げ目標が日本提案ということを言ってきました。たとえ日本提案が無事に一〇〇%受け入れられたということで通った場合でも、米の関税は最低でも一五%引下げだということですよね。物によっては、そうなると国産米と肩を並べて、外食産業などが本当にこの価格の低い米でもって輸入されてくるということは否定できないわけですよ。それから、農水省はMA米の廃止については、これ、掲げていないですよね。そういう、やっぱり弱腰なわけですよ。だから、削減の保障もないと。
   〔理事田中直紀君退席、委員長着席〕
 そうなりますと、幾ら生産調整の参加者が努力しても、やればやるほど外国からのお米が入ってきて価格も下落するということは、これ、否定できないんじゃないですか。いかがですか。
○政府参考人(石原葵君) 先ほど申し上げましたように、これまでの生産調整については必ずしもそのメリット対策がはっきりしていなかったということに大きな問題点があっただろうと。もちろん、これまで面積で管理していることで、例えばその面積をこなせばそれでいいということで、その限られた、与えられた面積の中で精一杯作られるので、これは当然、農家として当然のことでございますけれども、より多く生産されるとか、そういうこともありました。
 そういうことに加えて、生産調整に参加するかしないかのその判断、そういうときに、自分がこの生産調整をやることによってどういうメリットがあるのかということが必ずしも明確じゃなかったわけです……
○紙智子君 そういう問題はいいです。
○政府参考人(石原葵君) いや、それは前、前段におっしゃいました、されましたので、ちょっと補足させていただきますと、だから、そういうことを考えた場合に、我々は今回きちっと、生産調整をやった場合にこういうメリットがあるんだということを明確に示すことによりまして、農家の生産調整に対するインセンティブといいますか、それを働かせようということでございますので、何度も繰り返しますけれども、御理解いただきたいと思っています。
 それから、米の関税の問題でございますけれども、今回、我が国は、EUが提案しております関税につきまして、最低一五%の引下げというものを我々、これに同意しております。これを適用しますと、米の関税は現行のキログラム当たり三百四十一円から二百九十円となります。この関税水準では、現在のミニマムアクセス米の輸入価格の水準、これはキログラム当たり七十円でございますけれども、これから見ますと輸入米の価格は国内産米の価格を大きく上回ることとなっておりまして、ミニマムアクセス米以外の米が無秩序かつ大量に流入する可能性は、現行と同様、ほとんどないと考えております。そういうことから、米の国内生産や価格にはほとんど影響を与えないものと考えているところでございます。
 それから、MA米について撤廃言っていないじゃないかというお話がございました。
 我々、MA米につきましても、制度の改善ということを我が国の提案の中にはっきりと位置付けております。ですから、我々、この交渉につきましても、まだこれ、交渉中でございますけれども、これで最大限の努力をするということでございますし、この米の改革につきましても、これまでるる申し上げておりますが、政策を講ずることによりまして我が国水田農業の新たな展開を図っていきたいということでございますので、御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 今、輸入米の話されて、これは衆議院でも議論になっていることですよね。平均価格で計算していただきたいと思うんですよ。高い方を取ったら駄目ですよ。
 平均価格で試算すると、関税が一五%で削減されると、十キロで三千二百六十円まで下がるんですよ。しかも、我が国は最低一五%ということで提案してしまっているわけですから、そうすると、一五%の削減というのは最低ラインになるわけですよ、そこで良しというわけじゃなくて、もっと下げろと来るわけですからね。だから、やっぱりこれは、影響を与えないとおっしゃいましたけれども、そんなことはないと。
 米の関税化を決めた九九年のときに、鳥取大学の農学部の伊東助教授ですね、これ、計算していますけれども、一キロ当たり三百四十一円の関税を一年間に二・五%引き下げた場合には、これは七年後には一七・五%削減ということになって、そうすると、今、米国のアーカンソー州でコシヒカリを作っているわけです、それから中国の黒竜江省のところで米を作っているわけですけれども、もう食味でいえばほとんど日本と変わらない、そういう米が採算ラインに乗って入ってくるということを試算しているわけですよね。今すぐは確かに影響しないかもしれないけれども、確実にその後じわじわとやっぱりやってくるということですから、影響がないなんというのは空論だというふうに思いますね。
 それから、更に質問したいのは、非常に問題だと思うのは、売れた実績に応じて生産目標の数量を分配するというふうにしているわけですね。豊作で売れ残った場合には翌年の目標から差し引くということになっているわけです。
 ブランド化できない産地、それから相対的には食味が落ちると言われている産地、北海道もこの間ずっと努力して食味を上げてきました。しかし、それでもやっぱり新潟だとかそれから宮城なんかに比べればブランドの力としては劣るわけです。現在でもコンビニでブランド米の志向を強めて、今まで北海道の米というのは業務用主体ということになっているわけですけれども、この北海道産の卸値が下落する事態に実際なっていると。そうすると、売れない産地に対して露骨に米作りから退場せよということを迫ることになるんじゃないかと思いますし、それから売れ残りを恐れて安売り競争が誘発されてくることになるんじゃないかと、非常にこれ心配されるわけですけれども、そこについての御認識はどうでしょうか。
○政府参考人(石原葵君) 後の点に触れる前に、お答えする前に、前の点でございますけれども、なぜその一五%のEU提案といいますか、それに乗ったのかということでございますけれども、今回の交渉は、ウルグアイ・ラウンド交渉の結果といたしまして、二十条の規定でありますとおり、改革過程の継続という状況の下で、そういう原則の下で交渉を行っているものでございます。
 そういうときに、我々、ウルグアイ・ラウンドの交渉、今の時点から反省しまして二つ問題があったと思っています。一つは、我が国の主張が国際的に孤立していたこと、それからもう一つは、国内の世論が必ずしも統一されていなかったということでございます。
 そして、その特に前の点。要するに、我が国はもちろん関税は一切下げません、MAは完全撤廃ということは主張はできます。しかし、それは前回のウルグアイ・ラウンドと同じような結果、孤立ということを招くんじゃないかと。幸い、EUと我々、考え方一致しております。そういうことで、とにかく今回は一致してやろうということで、例えば今回の関税の引下げ方式につきましては、七十五か国が我々の戦列に参加しているわけでございます。そういうことで、今回のEUの提案にも乗っているということは御理解いただきたいと思っています。
 それからもう一つ、北海道の米についてはどうするのかと、北海道の米とかそういうものはどうするのかと、食味の必ずしも優れないものについてはどうするのかというお話がございました。
 こういうものは、我々よく申し上げるんですけれども、売れる米づくりというのは良食味の米を生産するということだけじゃないんです。今、業務用として求められているのは、味はもちろんいいにこしたことはないんですけれども、味は少し落ちても価格が安いということを業務用では求められているわけでございます。ですから、売れる米づくり、北海道が仮に味に自信がないということであれば、要するに業務用に、おっしゃるようにですよ、そういうあれがあるとすれば、それはあくまで業務用をねらいとしましてその価格で勝負するということもあり得るわけです。
 そしてまた、今消費者が求めておるのは無農薬とか、そういう付加価値の高い米でございます。北海道の米につきましてもそういう努力をされるとか、あるいは一部の県でも既に実行しておりますような、要するに消費拡大の努力をすると、県産米愛用という、そういう努力をされると。いろんなことが相まって、それぞれの県の、都道府県の米の価格を維持し、あるいは生産の増につながるというふうに考えておりますので、御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 安売り競争を誘発するんじゃないかということもあるわけですよ。
 それで、前回の審議をやって、そのときに食糧庁長官は、過剰米の融資の単価について、三千円ということで、まだ決まっていないということですけれども、それが低過ぎるから農家はそういうところに売らないで自ら夜陰に紛れて売り飛ばすんじゃないかと、そういうことをやると価格が下がるんです、だから生産者の意識改革が必要ですというふうにおっしゃったんですね。私はこれひどい発言だというふうに思いましたよ。需給や価格に対する国の責任を棚上げにして、生産者に対する暴言だと。今の発言も聞いていて、腹が立って聞いていましたけれども、本当にこれはひどいと思います。
 結局、国内生産者は価格下落を恐れて、自主的減反という名の下に、実際には限りない減反の拡大をやらなければいけないと、あるいは、生産縮小を強制されることになるんじゃないかと思うんですよ。そういうことはないというふうに言い切れますか。
○政府参考人(石原葵君) 農家の意識改革というのを、我々、この委員会でずっと言い続けております。ですから、今の米の置かれている状況、それを十分農家の方に踏まえていただきまして、例えば生産調整がこれだけ、今の消費の減が仮にあるとすれば、その減に応じて必要な生産調整をきちっとやっていただくということになれば、今、委員が先ほど来おっしゃっておられます価格の減につながるものじゃないというふうに考えております。
 また、この点で一つ申し上げたいと思いますけれども、これ、農林水産省が公表したモデルでございますけれども、それでいきますと、供給量が一割増加すると価格が約三割落ちます、そして農家の総収入は二割強減少するわけです。そういうのが需給で決まるということなんです。ですから、こういうことを十分農家の皆様方に理解していただくと。
 ですから、必ずしも今までも生産調整に参加しないで勝手な行動をされている方がいらっしゃいます。しかし、それはそういうものだということをよく御理解いただくことが重要だと考えておりまして、今、農協系統でもそういうような趣旨の徹底に努めております。先生方にも、農家の皆様方に会われるときには、そういうことだということをよく御説明いただきまして、農家あるいは農業者団体の意識改革が成りますように、そして新たな水田農業展開ができますよう、御協力いただければと思っております。
○紙智子君 今度のこの改正が強制じゃないというふうに言われるわけですけれども、ずっとお聞きしていましても、結局、農家にとっては価格暴落を恐れて減反を拡大していくことになるか、又は価格が暴落して、その結果として生産の縮小をやらなきゃいけないかと、そういう選択が押し付けられるだけだというふうに私は思いますし、これはやっぱり自給率向上ということから見ても、それに逆行すると。そして、国民の安全、安心な国産米の安定供給を望む、そういう願いにも反するというふうに申し上げたいと思います。
 次の質問に移らせていただきますけれども、さきの参考人質疑の中でも、米価格の下落の中で再生産可能な価格、所得の補償を求める声というのが参考人の中からも相次ぎました。私も、この法案の最大の問題というのは、やはり農民が国民の主食であるお米を再生産が可能となるような価格や所得の実現について何の担保もないということがあると思います。国の責任が放棄されているというふうに、問題があるというふうに思います。
 高根沢参考人は、税金を投入して再生産できる値段を保障してくれなければ今度は農家は倒産するというふうにおっしゃいました。それから、矢口参考人は、担い手が破壊される前に所得、直接所得補償による担い手育成を図らなければならないと、こういうふうにおっしゃいました。それから、白石参考人は、米価の回復が稲作農家の経営を支える最大の保障だ、稲作経営安定対策を抜本的に改善して生産費を償う米価を実現することを要求したいというふうにおっしゃいました。
 再度お聞きしますけれども、やはりこの稲作の生産を続けるために価格保障や所得補償が必要だというふうに思われませんか。
○国務大臣(亀井善之君) 我が国の水田農業につきましては、担い手の生産シェアが大変低いわけでありまして、そういう面で構造改革を進めなければならないわけであります。そのような意味におきまして、この米政策を総合的に再構築しようと、こういうことで今回この提案をしておるわけでありまして、産地づくり推進交付金とか、あるいはまた担い手経営安定対策、あるいは過剰米短期融資制度と、これを政策のパッケージとして改革を進めるわけでありまして、やはり何としても担い手への農地の利用集積、経営規模拡大等を推進をすると。そして、すべての農業者の所得を一律に補償するというような措置を講じた場合につきましては、この現状の農業構造改革、このことが農業構造、今日の農業構造が固定化をされるんではなかろうか、そして、意欲ある担い手を育てる、こういう面での構造改革に支障を来すおそれがあるわけでありまして、またさらに、主体的な経営努力、こういう面を阻害する、そして需要に即応することが反映できない、こういう問題があるのではなかろうかと、このような考え方の下に、今の御指摘につきましては、やはり現状のパッケージにおきます改革、こういうものを進めて、この法律に基づき、水田農業の発展、このことを考えておるところであります。
○紙智子君 大臣は、所得補償は構造改革の支障になるんだと。今もお話の中で、構造が固定化されるということを言われました。そう言って所得補償については否定をし続けているわけですけれども、しかしセンサスで現状を見ますと、都府県の面積五ヘクタール以上の経営というのは、増加のスピードというのは落ちているわけですよね。五年ごとに見ると、八五年から九〇年に増加率が三八・一%だったわけですけれども、それが九〇年から九五年になりますと三五・一%、それから九五年から二〇〇〇年までの五年間で見ると二一・七%まで落ちているわけです。二〇〇〇年までの五年間では、この経営規模が五ヘクタール以上の層の経営の四分の一が脱落をしているわけですよね。だから、実際にはだんだん減っていっている、増加率が減っていっているという状況なわけです。
 それで、経営政策研究会の報告の中でも、「農業構造改革推進のための経営政策」というのが出されましたけれども、そこの「はじめに」というところのその部分について書いてあることを見ますと、「日本経済の停滞の中で、農産物価格の下落、農産物輸入の増加等が、望ましい農業構造を担うべき意欲と能力のある経営体の経営に悪影響を及ぼしつつあり、」というふうに言っているわけです。現状認識を示しているわけですよね。これは、やっぱり担い手の農家の所得が補償されていないことが、皆さんがおっしゃっている構造改革、この支障になっているという問題意識じゃないんでしょうか。
 市場原理の導入を進めて、結局価格支持をなくした下で担い手が育たない、規模拡大のこれも進まない、そういう要因になっているのは、結局はこの農業所得を補償するシステムがないからじゃないんでしょうか。いかがですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今の紙委員の御指摘でございますけれども、確かに、ここのところ規模拡大のスピードというものが鈍化をしてきているわけでございます。これは経済全般の状況等もございまして、投資意欲といいますか、規模拡大意欲に対するそういう農家の意向というものが今鈍化しているということを反映しているということでございます。
 今回、米政策で、その米政策全体を抜本的に見直しまして方向性を出すということでございます。そして、かつ、一般的なメリット措置の上に担い手を対象とした経営安定対策を講ずるということで、そういう経営改善あるいは規模拡大に向けて努力をされる方、そういう方に対するインセンティブを与えていこうというのが今回の政策パッケージでございますので、そういうことを通じて頑張っていきたいということでございます。
○紙智子君 参考人質疑のときに、矢口参考人が、我が国に残された担い手は限られた段階に来ているんだと言いました。この現実は現実として認めなければいけないというふうにおっしゃって、所得を実現することが担い手を作る上でも重要だということを指摘しました。さきにも言いましたけれども、価格の維持の機能というのは結局この法律には皆無と言っていいと思います。
 矢口参考人は、担い手が破壊される前にというふうに強調されたんですね。私は、物すごく厳しい響きでこれを受け取りました。担い手が破壊される前にと。再生産可能な価格、所得の補償がなければ、望ましい生産構造どころか、現在何とか頑張っている担い手そのものもなくなるということを意味するんじゃないかというふうに思うんです。
 それで、続けて言いますけれども、安定経営、これは再生産ができる農業所得や、政府助成が行われて所得が補償されることだと。担い手経営安定対策には稲作の再生産を保障する観点というのはあるんでしょうか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 今般の米政策におきます担い手経営安定対策でございますが、これは御案内のとおり、生産調整に参加をしておられまして、かつ米価下落の影響が大きい一定規模以上の水田農業の担い手の経営安定を図る機能というものを有しております。
 したがいまして、米価下落によります経営の影響の緩和を通じまして、稲作生産を含めた水田営農の安定、継続、この確保に資するという意味で再生産につながるものではございますが、これまで、委員が多分御主張されておりますのはこれまでの米価のような再生産確保米価といったような考え方だと思いますが、そういう考え方は取っておりません。
○紙智子君 再生産の確保という機能は、これまでの形ではないというふうに言われたと思うんですけれども、基本的には米価が下がればこの補てんも下がる。結局、今までやってきた稲作経営安定のこの制度そのものの限界といいますか、問題点そのものを継続するものだと思うんです。しかも、拠出はこれまでよりも増えるわけですよね、現行よりも。主業農家の場合は生産費を賄う米価でなければ、やっぱり基幹労働力が米作りに張り付いている意味がなくなると。
 元東京農工大学の学長さんであります梶井功さんがおっしゃっていますね。結局、生産費を賄う米価が到底期待できないということになれば農外労賃を求めて流出することになる。規模拡大などはもう論外で、生産費を償う米価であることが主業農家が主業農家として経営を継続していく最低の条件なんだというふうに言われています。
 担い手が経営を継続して、かつ経営規模を拡大するためには、やっぱり再生産が保障される、そして農地を拡大する、機械の負担に耐えられる、そういう所得がなければならないわけで、一体、この担い手経営安定対策ですけれども、それだけの所得が確保できるのかということについていかがですか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 正に今回の米政策の見直しというのは、生産者、特に担い手の自主性を尊重いたしまして、その経営展開を図るために、単に米価の保障ということではなくて、経営全体の安定ということを目指しましてやっていることでございますので、その担い手の将来のといいますか、担い手がそういう将来方向を踏まえて創意工夫を生かすことによって望ましい米作りの在り方というものが実現するということを望んでいるところであります。
○紙智子君 あわせて、担い手安定対策で圧倒的な多数の農家が対象にならないわけです。これまでも質問の中で申し上げてきましたけれども、都道府県で十二ヘクタール以上を六万戸作るというわけですよね。だけど、現在都府県でどうなっているかというと、経営規模で十ヘクタール以上の認定農家というのが二〇〇〇年センサスだと五千戸余りですよ。そうすると、私たちは、今政府が進めている構造改革というのは反対の立場ですけれども、それそのものを実現しようというふうに思えば、今はそこまで達していない農家がこれから規模をどんどん拡大しなきゃいけないということになると思うんです。
 だけど、実際にこの経営安定対策に該当する四ヘクタール以上の認定農家というのは、今、四万戸に満たないわけですよね。しかも、これからリタイアする人も出てくる。今考えられているこの担い手経営安定対策でいくと、担い手が限界になっている状況で認定農家に四ヘクタールで線引きをする、それ以上のところしかやらないというわけですから、そうすると、どうして十二ヘクタール以上の農家を六万戸も育成することができるのか。それどころか、現在地域の農業の中核を担っている認定農家ですら七割が切り捨てられる状況になるんじゃないかというふうに思うんですね。
 ちょっと時間がありますので、次、続けて言わせていただきますけれども、集落営農の問題です。この法律が小規模農家を切り捨てるものだということも私は指摘をしたいと思うんです。
 今まで農村は、とにかく小さい農家も大きい農家も一緒になってそれぞれの役割を果たしてきたと思うんです。集落の営農を維持してきたと思うんです、用水路の維持とか、あぜ草を刈るとか。とにかく大規模だけが残っても、そういう意味では維持できるものじゃない。しかし、今、岩手県なんかでは既に地域ビジョンづくりということで行われていて、小さな農家が所有している機械の更新を抑制するとか、担い手以外の営農参加を排除する動きが出てきているわけです。それから、島根県が県内の集落営農を対象に行った調査でも、面積要件だけでも六割程度が達成するのは困難だという回答ですよね。現状で二十ヘクタールを上回っているのは二割にすぎない。
 そうすると、結果的に今回の法案で規模の、小規模の農家や条件不利地域の切り捨てということが進むことになるんじゃないでしょうか。違いますか。
○政府参考人(川村秀三郎君) 規模要件の考え方は、これまでも御説明をいたしましたが、二十二年の構造展望を踏まえまして、おおむね二分の一ということでやっております。
 私ども、この担い手の育成ということでは、そういったやっぱり目標に向かって改善努力をされる方、そういうものを対象にしていきたいということでございます。そういう基本的な考え方に立って、そういう要件を決めていくということでございます。これも、最終的には予算編成の、十六年度予算編成の中で最終的な決定をしたいと思いますが、そういうことでございます。
 それから、集落型につきましては、正にそういった小規模の方もそういう集落型に参加をすることによって、その地域の農業を支えていきたい、いっていただきたいということで、正にこういう集落型経営体という概念を新たに作りまして、そこでまず取り組んでいただきたいということがあるわけでございます。
 また、この集落型の規模につきましても、もちろんよく実態を勉強させていただきますけれども、やはり経営、これは集落をすべて救うということではなくて、これは集落型については中山間の支払等、そういう措置もございますし、また生産対策もございますので、単純に切り捨てるということではなくて、私どもとして、経営体として今後育つべき集落型の営農と、そういうものをどう位置付けをし、そして育てていくかと、こういう観点で要件を設定していきたいと、こういうことでございます。
○紙智子君 生源寺さんもこの前言われていたんですけれども、水田農業はいろいろなケースがある、集落といっても熟度が違う、全国一律は無理で、地域の条件に合ったやり方が一番いいということも言っています。
 やっぱり、二十ヘクタール以上とか法人化とか、いろいろ厳しい条件を付けて、そして線引きをして選別するというやり方は、全くそれを否定することにもなりますし、今まで本当に優れた集落の機能も逆に失わせることになってしまうと。だから、結果的には、米作りができない環境にしてしまうというふうになりかねないというふうに思います。
 前回の参考人質疑で四人の方が来られていて、生源寺氏以外の三人がこの法案については反対ないし重大な問題があるということを指摘をしました。生産者の二人は、この法律がもし成立したらどうなるかということの問いに対して、農家の半分以上が倒産するというふうに言いましたし、米作りの農家は激減すると。それから、矢口参考人は、担い手がいなくなるおそれがあるということを指摘したわけです。
 それをこのまま通せば、私は、本当に将来取り返しの付かない禍根を残すことになるということを最後に指摘をいたしまして、時間ですので終わらせていただきます。