<第156回国会 2003年6月12日 農林水産委員会 第17号>


平成十五年六月十二日(木曜日)
   午前九時三十分開会

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  本日の会議に付した案件
○主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○政府参考人の出席要求に関する件
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
  参考人の皆さん、本当に貴重なお時間、こうしておいでくださいまして、ありがとうございます。
 それで、私は最初に、直接生産にかかわっておられる参考人の皆さんからお聞きしたいと思います。
   〔委員長退席、理事田中直紀君着席〕
 それで、白石参考人からお願いします。
 先ほど詳しい資料も非常に、我が家の実態ということで出していただきまして、いろいろお話がありました。それで、今度の米政策改革大綱ですね、この中で「米づくりの本来あるべき姿」ということで、その実現を目指すというふうになっているわけですけれども、例えばここで、北海道では二十一ヘクタール以上の効率的、安定的な経営体が耕地面積の九割を占めることを目指すというふうにしているんですね。先ほどもお話がありましたけれども、そういうことなんですけれども、農産物の価格がずっと下がってきていると。そういうことが大規模な経営にも大きな打撃になっていて、育成するというよりもむしろ離農したりとか、そういうやっぱり実態に追い込まれているという現状があるわけですけれども、この大綱の示した方向で、この後、担い手育成ということで果たして本当にこうなっていけるのだろうかと。それで、北海道は特に大規模とか専業というのが多いわけですけれども、そこに対しての影響ということではどのようにごらんになっているでしょうか。
参考人(白石淳一君) 今現状、確かにもう二十一ヘクタールという水準を超えている農家というのがたくさん水田地帯でおります。しかし、この二十一ヘクタール、これをやっても今本当に大変だというのが実態なんですね。土地の所有の仕方は賃貸とか買取りとかいろいろあって所有しておりますけれども、しかし、土地もそういうことで確保して、さらに二十一ヘクタールに見合う農機具、これを入れて、そして経営しなきゃならぬということになるわけですから、本当にコスト的にどうなのかと。突き詰めると、米価がどんどんどんどん下がれば、それだけの装備していますからかえって苦しくなるという現象が起きてしまうんですね。実態はそうだと。
 それでは、これから目指す姿の方向でいった場合にどうなるかということですけれども、今農家の人方、この水準がよく分からないということですよね。どの程度対策が、まで打たれるのかということがまだ明確になっておりませんから、二十一ヘクタールを作っても果たして経営をやれるかどうかというのは大変不安な目で皆さん見ております。
 そういう意味では、まだまだ、そういう目指す姿の形の中でも経営が続けられるかどうかというのはまだまだ不透明だし、すべての対策を使っても、措置されたとしてもまだまだ分からないところがたくさんあるということを申し上げておきたいと思います。
○紙智子君 非常に、これから先については未知数的なお話だったかと思います。
 それで、そういう大変厳しい中でも、生産者の皆さんは、やっぱり安全、安心な今食料に対する関心も高まっている中でも、そういう安全、安心なお米を作って届けるということでは本当に様々な努力をされていると思うんです。
 それで、是非そういう努力というのは継続していただきたいわけですけれども、それを進めるためにも、今度の法改正とのかかわりで、いろいろ詳しくお話もされたんですけれども、更に言っておきたいことというか、そういうことがありましたら是非お願いします。
○参考人(白石淳一君) 私の方でも今盛んに、やはり消費者の人方が米離れという問題もありますから、どう日本の米の生産を理解してもらうかということで非常に大事だと思っています。
 それで、実は資料も出したわけですけれども、右下の資料で食糧モニター調査というのが私の資料の中にあります。これは食糧庁の数字から表にしたものですけれども、この中で、やはり輸入米についていろいろ国民、消費者の方々が述べているわけですね、考えているわけですね。特に、外国産米を購入したいと思うかというのは、九一%の方が買いたくないと言っていますし、安全性に不安だという方が六二%もおられるわけですね。やはりこの声にこたえるべきだというふうに私は考えております。
   〔理事田中直紀君退席、委員長着席〕
 これを保障すると、こういう願いを保障するという意味では国産を残さなきゃならないわけですね。という意味では、やはり国内農業、国内の稲作、これを守ることが大前提だということを申し上げておきたいと思います。
○紙智子君 それでは、次、高根沢参考人にお願いいたします。
 それで、生産者であるとともに農協の理事さんでもありますので、その立場からお願いしたいと思います。
 米政策改革大綱は、二〇〇八年までに農業者、農業団体が、先ほどもお話ありましたけれども、生産調整の主役という仕組みを実現するということです。それで、国の役割は助言、指導にとどめると。それで、このお米の需給、価格形成にJAがその意味では大きな負担を負うということになるわけですけれども、それについて率直な御意見をお聞かせいただきたいと思うんですね。
 私もいろいろ回ってくる中で、農協の方からも、所得補償もなくてメリットも低いと、こういう中で農協に押し付けられてもなという声も聞いてはいるんですけれども、今回の改革で、価格の維持ということになると、これはもう生産調整に懸かっているんだという話がされているわけで、実際に、実効性といいますか、これが本当に有効に機能するのかどうかということについて、農家との関係も恐らくいろいろ、接点というか、いろいろ説得しなきゃいけないところあると思うんですけれども、その辺りについて率直な御意見をお聞かせください。
○参考人(高根沢市夫君) まず最初に、個人的な意見から言いたいと思います。
 生産調整については、先ほども言ったように、これはまだまだやらなくちゃ、当然米の安定価格は得られぬのは十分承知でございます。その中で、先ほど言われたように、農協が主体となってやれと。今の農協は、確かに、何といいますか、信頼される部分もございますが、農民側からすれば、なければ困るんですが、やはり農協のいい部分を食べて、そしてまた別なところへ行って有利に生きていこうという農民が多くございます。
 そういった中で、実際、それが農協で中心となってやれと言われましたらば、実際、半分以上は自由に作るでしょう。今までは、お上がこれだけしなくちゃ駄目だよと言ってるから、こう何とか。もう農協では締め付けはできません、現状では。だから恐らく、その部分が一番私も不安に思っていますが、あらゆる形でやはり生産者の防波堤になり、農民がいかに有利に生きていくかということでいろいろアドバイスはいたしますが、やはり最後は自由ということが組合員は出してきますから、そんな形で恐らく、そういうふうになった場合は本当に混乱が起きるんではないかと、こんなふうに考えております。
 農協としてもできるだけその辺は努力をしようといたしますが、努力をしても、今言うように自由に作って自由に売りなさいという法律でしょう、それをお上が管理監督しなくちゃできないでしょう。それがあるから今何とかこれやっている。分かってはいても、価格が生産調整をやんなくちゃ下がるんだということが分かっていても、おれだけが作って高く売ろうということで乱れてきます。そんな感じはいたします。
 以上です。
○紙智子君 それじゃ、担い手経営安定対策というのが出されていて、この要件についてなんですけれども、規模要件について、農協の管内で実際対象になるということになると、どの程度あるでしょうか。そして、負担の割合とか所得の水準とか規模の要件について、もし御意見がありましたらお聞かせいただきたいと思います。
○参考人(高根沢市夫君) 規模についてはこのぐらいでいいんじゃないですか。
 ただ、要件が、先ほども何度も言われますように、財布は一つじゃ駄目だと。これは栃木県の場合ですと、幾つも当てはまる集団は現在ございません。しかし、そういうふうに改正をするならばやはり考えざるを得ないと思いますが、恐らく今の段階ではそういうことは、我々農協としても進めても、実際、末端の農家自身がその部分は絶対無理であると、こんなふうに私は考えます。
 ですから、本当にそんな形で残すならば、やはり段階を踏んで、作業、出荷、そのぐらいから進んでいって、やはり本当に協同でなければ、集落型営農でなければ駄目だということが分かればこれは可能でしょうけれども、絶対、今までの進んできた道を考えますと、これは無理だと思います。
○紙智子君 端的にお二人に、白石さんと、それから高根沢さんにお聞きしたいんですけれども、今度の米政策の内容というのは、周りの方々見て、生産者の納得と理解ということでは、これは得られていると思いますか。どうでしょうか。お二人、それぞれお答え願います。
○参考人(高根沢市夫君) 納得は得られないと思います。
○参考人(白石淳一君) まだほとんど説明がされておりません、現場では。農水省のパンフレット、色刷りのパンフレットがありますが、あれが回ってきた程度です。もちろん農協の職員などが中心になって説明しなきゃならないんですけれども、職員自体も説明できません。ですから、理解はできないというのが今現状ですね。
 ただ、本当に不安な目で、果たして自分の経営がどうなるんだろうかという目で今見守っているというのが現状だというふうに思います。納得は、今の提起されているような水準では、なかなか得られないというふうに思います。
 もう少し突っ込んでお話ししますと、いろいろ、農村集落の話合いの中でいろいろ聞いていますと、もしも自分が担い手対策から漏れるんであれば、これはもう政府の言うことを聞いているわけにいかないと、自分の身は自分で守らざるを得ないじゃないかという声がかなり強く出ます。現状もそういうことだということを申し上げておきたいと思います。
○紙智子君 それでは、次に生源寺参考人にお聞きしたいと思います。
 米政策について書かれたものを私も読ませていただきましたけれども、その中で、来年度からスタートをする新たな生産調整の仕組みと、生産者が納得の上で参加する方式となるというふうに言っておられます。そして、参加者にはっきりとメリット措置があることを前提として参加する仕組みと、それを目指していると。逆に、リスクがあると承知の上で参加しない農業者もそれは出てくるかもしれないけれども、それも認めようということも書かれています。
 今回の改革で、この価格の維持ということになると、これは生産調整の成否に懸かっているということで言われているわけですけれども、ということは、この生産調整に参加しない人が増えると需給のバランスが崩れていくという事態も避けられないということになるんじゃないかと思うんですね。
 しかし、今法案が実際出されている今の時点でも、産地づくり交付金ですとか、それから過剰米の融資の単価ですね、この水準というのは明らかにされていないわけですし、いろいろ農水省が示した過剰米の三千円の問題ですとか、批判もずっと出てきているわけですけれども、参考人が言われるはっきりとしたメリットの措置と、それぞれの経営判断の結果として多くの農業者がこの生産調整に参加する、参加が有利であるという、そういう助成措置の体系ということで、そうなんだというお考えなのかどうか。
○委員長(三浦一水君) 生源寺参考人、答弁は簡潔に願います。
○参考人(生源寺眞一君) 今おっしゃったのは、私の書いたものを引用をされておりますので、そのとおりでございます。
 少し付け加えさせていただきますと、これは最初の意見陳述のところでも申し上げましたけれども、もちろん農家の皆さんからいえば不十分ということになるのかもしれませんけれども、現在の生産調整に対して投入されている額というのは結構な額になっているということがあるわけでございます。ただ、それは全国一律で不効率というようなこともありますので、そこを組み直すことによってもっと、何といいますか、効果的なものにするということが一つあるわけでございます。
 もう一つは、これは今の高根沢参考人からの御発言とも絡みますけれども、やはり一度その地域の中での相談の広いテーブルに農業者の方に着いていただくということが非常に大事だと、こういうふうに思っております。大変な不信感があるということは私も十分承知しております。十五年間を完全に準備の期間にしたということの意味も、いったんそのテーブルに着いていただいて、ルールを作っていくプロセスでおかしいということがあればそれもきちんと議論していただこうと、こういう趣旨からでございます。
○紙智子君 もう一点お聞きしたいんですけれども、WTO交渉の中でも多面的機能という問題や、それから多様な農業の共存ということを我が国としては強く強調してきているわけですけれども、これ、国内政策の中でも生かされていく必要があると思うわけですけれども、研究会の中でも恐らく議論があったと思うんですが、今回の生産調整研究会の報告には反映されていないんじゃないかと思うんですね。それ、どんな議論があったのか、なぜなのかということについて、お願いします。
○参考人(生源寺眞一君) 中山間地域の問題あるいは環境の問題、多面的機能の問題、この重要性を指摘する議論はかなりございました。ただ、私ども、かなり広く政策の洗い直しをしたつもりではございますけれども、そこにはある程度限界があるということでございまして、環境なり、多少その糸口を付けたところもございますけれども、中山間地域の問題はある意味では研究会の議論では残されていると、こう申し上げた方がよろしいかと思います。残されているということは、今後の課題として議論する必要があるだろうと、こういうことでございます。
 ただ、一点だけ付け加えさせていただきますと、研究会を通じての議論の中で、これまでの政策の反省ということもあるんですけれども、いろんな政策の目的を一つの政策手段の中にごった煮のように盛り込むことは、結局いずれも中途半端になってしまうと。したがって、今の議論の文脈で言いますと、中山間地域の政策はやはり中山間地域固有の観点から政策を組み立てていく必要があり、環境政策はやはりそうだろうと。その間で当然調整の問題が出てきますけれども、最初から一緒に議論をするとなかなか整理できないんだと、こういう議論が研究会の中でも随分強くございまして、できなかったことはできなかったと率直に、残していると、こういうふうに言ってよろしいかと思います。
紙智子君 ありがとうございました。
 それじゃ、最後に矢口参考人にお聞きします。
 最初のお話の中でも、現場の生産者のサイドから見るならば、やっぱりこの経営の再生産の所得を確保するということで、そのことがちゃんと担保されているかどうかというと、そこがやっぱりあやふやじゃないかという御指摘があって、私もそういうふうに思うわけですけれども、今回の改正で所得補償については、これは質問でも実はやっているんですけれども、構造改革を阻害すると、支障になるということが言われているわけなんですけれども、そういうことで否定されているわけなんですけれども、その点について最後にお聞きしたいと思います。
○参考人(矢口芳生君) やはり所得を実現させるということが、担い手をこれから作るという点では非常に重要なことだと思います。それで、もう既に我が国に残っているその担い手というのは、もう本当に限られた段階まで来ていると。この現実は現実としてきちっと認めないとやっぱりいけないと思うんですね。この問題に対して、どのように政策的な意思を政策の中で反映するのか、あるいはまた政治的な意思を政策にどう反映させるのかということを国民にメッセージとしてやっぱり政策の中で出していくということが何よりも私は大事だろうと思います。その点だけ強調をしておきたいと思います。